今入ったニュース。ポール・マッカートニーの全来日公演が、本人の体調不良により中止になったそうです。理由がアーティストの健康上の問題では、チケットを購入して公演を楽しみにしていた皆さまにはお気の毒としか言いようがないのですが、さらに泣くに泣けないのはネット・オークションなどでプレミア・チケットを買った人たちでしょう。
買った人がお気の毒か否かは別議論に譲るところですが、大損になることは間違いなし。ちょっと前にヤフオクを覗いていた感じでは、国立競技場のアリーナ前方席17,500円のS席が普通に50,000円以上で取引されていました。仮に落札価格50,000円として、中止の場合の払い戻しは当然定価ですから1枚あたり32,500円の損失となります。ペアで購入していたなら65,000円の損失です。有価証券じゃなから塩漬けしても紙切れになるだけですしね。当事者が気の毒か否かではなくこういうことがまかり通る現実は、ネット・オークションでのプレミア・チケット売買そのものに問題があるような気がして参ります。
現実はこうです。プレミア・チケットを売るダフ屋からチケットを購入するのは違法で、ネット・オークションでプレミア・チケットを買っても違法ではありません。ダフ屋からチケット購入は暴力団への資金供給になるので、暴対法違反になるのでこれは完全アウト。ネット・オークションはどうかと言うと、相手が一般人であるなら買う側が法令違反に問われる心配は一切ありません。しかし、実は売る側には法令違反の懸念が存在しているのです。
どういうことかと言うと、販売枚数や個数に限りのある商品を転売目的で購入することは違法であるという考え方です。法律的には独禁法違反的な考え方が根底を支えているのでしょうが、極端な例をあげれば、チケット配給会社が一旦すべてのチケットを関連の会社に販売してその会社が一定のプレミアを乗せてチケットを販売するなら、定価は有名無実化して善意の第三者であるチケット購入者は不当に高いチケットを買わされることになるので、それはいかんと。
この「販売枚数や個数に限りのある商品を転売目的で購入する行為」は具体的には条例違反で、国立競技場のチケットの場合、東京都の迷惑防止条例がそれにあたるようです。そんなわけで、個人であろうとも転売目的でチケットを購入する行為は高く売ろうが売るまいが、その時点で違法になり御用なわけなのです。実際に、ネット・オークションにおいて明らかな転売目的でのチケット販売と思われる個人や団体は、頻繁に摘発されてもいるそうです。ご存じない方、転売目的で複数のチケットを購入して手が後ろに回らないようご注意ください。
この条例を踏まえて、ネット・オークションのチケット販売は本来何のために利用されるべきなのかと考えてみると、純粋に「自分が見に行くつもりで買ったけれども、所用で行けなくなった」という人向けの救済の場としての利用に限定されるのが本筋ということになるのではないでしょうか。であるなら、定価以上の価格でチケットを買ってもらおうというのは、そもそもおかしい訳でして、「買い手がつけば御の字、定価で買ってもらうなんて奇跡」ぐらいの考えで利用するのが本来のネット・オークションにおける個人チケット売買のあるべき姿勢なのではないでしょうか。結論としては、ネット・オークションでの定価を超える金額でのチケット売買は合理的な理由が存在せず不要。悪弊を考慮すれば禁止すべき、ということになるのです。
当然この措置は、迷惑防止条例違反を起こさせないとうことが名目上の目的にはなりますが、ネット・オークションでの定価を超える金額でのチケット売買の禁止には、利用者にとって付随的にもっと大きなメリットがあると考えます。それはチケット高騰化の波を抑えるという効果です。昨今、外タレを中心とした公演チケットはデフレかつ円高だった時代も含めて高騰の一途をたどっています。例えばイーグルスは04年S席9,800円が11年は12,000円、ポール・マッカートニーは02年のS席チケット代14,000円が17,500円と、軒並み20~25%アップなのです。
チケット高騰の理由は何か。ネット・オークションでのプレミア・チケットの落札額高騰が呼び屋さんのチケット価格設定に影響を与えていることは間違いありません。すなわち、人気アーティストのチケットに関しては、個人の“投資家”が転売目的で人気チケットを購入することにより大量のプレミア・チケットがネット・オークション上に発生することになり、それが最終的には他の人気アーティストのチケット定価設定に影響を及ぼしているのです。この悪循環を断つには、ネット・オークションにおけるの定価を超える金額でのチケット売買の禁止以外にありません。
ネット・オークションにおける定価を超える金額でのチケット売買の禁止は、本来の健全なチケット流通と価格設定を守る上からは、誰も困る人がいないどころかむしろそうあるべき流れであるのです。ネット・オークション管理会社は早急にルール変更をすべきであると、今回のポール・マッカートニーの公演中止騒動から考えさせられた次第です。