日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ハイアールこそシャープ救済の本命と思う理由

2015-06-18 | 経営
東洋経済オンラインに、中国の家電メーカーであるハイアールが非常に元気だと言う記事が掲載されていました。
http://toyokeizai.net/articles/-/73298

ハイアールと言えば、11年に旧三洋電機の白モノ家電部門を買収。AQUAのブランドを引き継いでその後どうしてしたのかと思っておりましたが、買収当時どん詰まり状態にあった三洋の家電事業の再生を着々進めてきていたようであります。

実は同社、この3月に我が地元の熊谷市駅近にどでかいビル(都内では珍しくない規模ですが、熊谷界隈では1社占有のビルとしては圧倒的に大きいです)を建て研究開発拠点を作ったことから、「おー、がんばっているんだ」という認識はありました。また最近時は携帯洗濯機はじめその製品のユニークさ故、メディアに取り上げられることも多く、改めてちょっと注目したい存在になりつつあった、そんな状況でありました。
http://news.mynavi.jp/news/2015/01/14/418/

東洋経済オンラインの記事にもあるように、6月上旬に開かれた新製品発表会ではさらなるユニークな製品が続々登場しました。液晶パネル搭載型冷蔵庫やらスケルトンタイプの洗濯機やら水を使わずに服を除菌・消臭できる衣類エアウォッシャー等々、従来の家電イメージを打ち破る製品の数々に、同社のなみなみならぬ努力と発想力の素晴らしさに感心させられたところでもありました。

これらの製品を見て私が感じたのは、単におもしろいという感情だけでなく、どこかで同じようなモノを見てきたことがあるという記憶でした。それはシャープ。古くはダブルカセットデッキあたりにはじまり、目ざまし時計付テレビやらプラズマクラスター付コピー機とか…。製品の良し悪しや当たり外れは確かにあったものの、「目のつけどころがシャープでしょ」というシャープペンシル開発以来の同社独自の企業コンセプトの下、数々のアイデア製品と言いますか、ニッチなニーズに応える製品を次々と生み出していたそれでした。
http://matome.naver.jp/odai/2138268998652262601

今回登場したハイアールの製品は、非常にコンセプトが近いのです。冷蔵庫の全面扉が液晶画面で録画画像を再生して家族間のメッセージ交換ができるとか、スケルトンの洗濯機で洗っている中身が見えますとか、一見便利なようでいてそれって本当に必要ですか的な微妙な感覚が、まさに「目のつけどころがシャープでしょ」路線そのものなのです。

昭和の高度成長期のように、黙っていても皆がこぞって三種の神器と言われた白モノ家電を購入していた拡大志向のマーケットを抱えた状況下では、どのメーカーも同じような製品ラインアップを並べるだけで十分な食いぶちを確保できていました。しかし低成長期に移り、どう考えても超大手家電メーカーと同じ製品で戦うには分が悪いシャープは、独自路線でニッチ・マーケットを開拓したからこそ、がんばってこれていたわけなのです。どの家庭にもニーズがある家電業界ほどの市場規模であるなら、ニッチ・マーケットもそれなりの規模で存在するわけで、そこを狙ったシャープの戦略はランチェスター弱者戦略的成功であったのです。

ところが同社は、たまたま優れていた液晶技術に自信過剰気味になり、王道路線で超大手や海外の巨大企業相手の真っ向勝負を始めてしまいます。これがもとで勝てるハズのないトータル技術競争や価格競争に巻き込まれ没落の一途をたどってしまったと言う、成功に導いた空き家狙いのランチェスター弱者戦略の放棄こそが、自らの首を絞めたと言える戦略的誤りであったと思うのです。

シャープ再生への道は、ニッチ・マーケットへの回帰、すなわち「目のつけどころがシャープでしょ」路線への原点回帰以外にないのではないかと思っております。となると、今回のハイアール登場は最大のライバルか?いやむしろ、ハイアールのニッチ戦略は超後発ゆえの生き残り策に他ならず、シャープの過去の成功戦略を研究し尽くした上での決断であったのではないでしょうか。もっと言うなら、債権整理が進んだ段階でニッチ戦略の本家シャープの買収までも視野に入れた長期戦略なのではないか、と思えてくるのです。ズバリ、自力では原点回帰さえままならないどん詰まりシャープ最後の救世主はホンハイでもサムスンでもなく、ハイアールに収まるのではないかと感じさせられるところです。

こう考えてきますと、第三分野家電とも言える白モノ家電ニッチ・マーケットをめぐって、暑い熊谷を舞台に熱い熱い家電業界再編の駆け引きが展開されるのではないかと、シャープ再生を軸になにやらおもしろくなりそうな予感がした次第であります。

COCOSの朝食ブッフェで分かったゼンショーHD組織風土のがんこさ加減

2015-06-08 | 経営
ステーキレストラン・チェーンCOCOSにモーニング・ブッフェを食べにいきました。私は週に1回程度、原稿の構想を練りの気分転換で、外にモーニングを食べに出るのが習慣になっています。この日は、前々から気になっていた我が街のCOCOSのモーニング・バイキングを初めてのぞいてみようと思ったわけなのです。

私が訪れたのは土曜日の朝。税込み842円也を先払いで支払い席を探します。私が店に入ったのは朝7時スタートのバイキングは1巡目の客が、メインを食べ終わってデザート&カフェに移りかけた9時過ぎごろで、およそ80~90席ほどの店内に空き席はわずかでした。

席を確保してブッフェコーナーの入口に向かうと、なんとトレイがない。これでは先に進めません。呼べど叫べど返事なし。そうこうするうちに私の後ろには行列が。若い女性スタッフがようやくこちらにやってきたのは、次の来店客が自動チャイムを鳴らして入って来たからでした。

受付業務終えたスタッフにトレイがない旨を伝えると、「少々お待ちください」と言ったままキッチンへ引っ込んで出てきません。待つことさらに2~3分。ようやく出てきた彼女はなんとトレイを布でふきながら登場しました。洗い物が間に合わずに間に合わせで洗い場にあったものをとりあえず人数分をお持ちしました、がアリアリ。この姿を見て、私は早々にかなりめげてしまいました。

その後の対応も推して知るべし。バイキングコーナーのメニューは品切れ状態のものが大半で、「ただいま調理中です」と言いつつもほとんどいつになるのかわからない状態。ドリンクコーナーもコーヒーカップ切れで、再び呼べど叫べど店員が来る気配はありません。仕方なく、かろうじて3個ばかり残っていたコップにジュースを注いで我慢する以外にありませんでした(結局、ホットドリンクは飲めませんでした)。

カスカスの残り物を寄せ集めたもの以外に食べたのは、かなりしてから追加で出てきた焼きそばみたいなメニューを少々、あとはジュースをお代わりしてジ・エンド。私と同じような目に会った人は複数いて、きっと二度と来店しないだろうなと思いました。

このサービス低下の原因はどこのあるのかと言えば、人手不足がすべてです。件のトレイの一件で人が来ないのはどうなっているのだ、と奥をのぞいてみれば、なんとそこにいたのは男性一人に女性一人。フロアにスタッフは全くいませんでしたので、この2人でブッフェ方式とはいえ80席以上がほぼ満員の店内オペレーションを回していたのです。男性スタッフが調理、女性スタッフがフロアと洗い物といった感じです。あちこちから呼ばれ、足りないモノを運んではまた呼ばれ、疲弊する女性スタッフに明るい返事も笑顔もなく、フロアにはよどんだ空気が流れていました。

この店舗はサイズから言って厨房一人、フロア一人という配置ではサービス低下は火を見るよりも明らかです。店内が混雑しないのならともかく、経験則的に満席に近い入りが予想される土曜日の朝にこれでは、客をなめているのかと言われても仕方のないところかと思います。この状況が続けば、確実に顧客離れは起きるでしょう。

で、このCOCOS、ご存じの方もかと思いますが、あの牛丼すき家を運営するゼンショーHDグループのステーキレストラン・チェーンなのです。実はCOCOSをのぞいてみたのには、別の理由がありました。今春の職場環境改善促進委員会の報告および改善案提示を受けながらも、すき家では日中時間帯での一人勤務ワンオペレーションは一部で継続する意向を示し物議をかもしていたので、ゼンショーのストア環境を、すき家以外のチェーン店でも見てみたいと思ったのです。

あれだけ社会批判を浴びながらも、一部でワンオペを継続するという宣言の裏には自信にも似た何かを感じたので、傘下の他のチェーンで少人数のローコスト・オペレーションでもうまくCSおよびESを一定以上に保てるノウハウがあるのかもしれないと思ったからです。しかし、結果は言わずもがな。これがゼンショーグループの文化であり限界点なのだと、あらためて実感しました。

今更ですが、この文化は明らかに以下の2つの大きな流れを生み出します。
① 行き過ぎたローコスト・オペレーション⇒顧客満足度の低下⇒顧客離れ⇒業績悪化
② 行き過ぎたローコスト・オペレーション⇒従業員疲弊による離職率上昇⇒人手不足⇒サービス低下⇒業績悪化
こんなことは、ゼンショーさんご自身が百も承知のはずなのですが…。

多少の値上げを覚悟してでも行き過ぎたローコスト・オペレーションを見直す以外に、この流れを食い止める手立てはないのですが、どうやらゼンショーグループにはそのような考えは毛頭ないように見受けられました。あれだけ社会問題化し自社を苦しめたローコスト・オペレーションでありながら、その実情に何の変化も起こさぬまま店舗運営を続けていくその姿には、組織における改善を阻む企業風土というもののおぞましさをまざまざと見せつけられる思いがしました。