ジャスダック上場大塚家具経営陣の父娘喧嘩が、泥沼の様相を呈してきたようです。
昨年7月、創業者である現会長大塚勝久氏の長女で当時社長だったの久美子氏が解任され、勝久会長がいったん社長職を兼務。しかし今年1月には、再び久美子氏が社長に復帰するというドタバタ劇を演じてきました。
そして今月13日には勝久会長が今年3月で取締役から外れ経営から退くことを発表し、とりあえずは一件落着かと思われていました。しかし昨日になって、今度は勝久氏自身が株主提案として3月の株主総会に向けて勝久氏自身を含む「取締役10人選任」の件と「監査役2人選任」の件を会社側に提出していることと、それを会社として正式に反対することを取締役会で決議したと発表したのです。まさしく泥仕合状態です。
なぜこんな自体に陥ってしまったのか。そもそも勝久氏から社長の座を譲り受けた久美子氏が、従来の会員制ショールーム販売(受付を済ませた来店者にアドバイザリー・スタッフが付いて販売をする)方式を改め、オープンな店舗で会員登録なく自由に入店、買い物ができる大衆的な販売方式に変更します。自分が築き上げた独自のお得意様方式のビジネスモデルを勝手に変更したことに腹を立てた勝久氏が、久美子氏を社長の座から引きずりおろしたことに端を発しています。
勝久氏は社長を兼務し、以前の会員制販売に戻したものの売上が低迷したことで久美子氏が再び復権して、逆に勝久氏を追い出す形になったのでした。そして今回、役員を降ろされるはずの勝久氏が起こした大株主として久美子氏を再退任させようという反撃を、株主総会の場で久美子社長が退けられるか否かに注目というのが、目下の状況ということのようです。
似たような親子間でのトップの座をめぐる事件は、伊勢の老舗菓子店「赤福」でも昨年起きたことが記憶に新しいです。先代が一度は息子に社長の座を譲ったものの、デパートなどへの出店攻勢により売上こそ増加基調にはありながら老舗としての伝統が失われどこにでもある和菓子屋になり下がることを懸念し、社長を解任し自身の妻を社長の座に座られたという一件。大塚のケースも赤福のケースも、「名門」や「老舗」の旧世代経営者の伝統的販売スタイルと新世代経営者の今風経営スタイルとの正面衝突が、両社の共通した表面上の事件事象であります。
どちらのケースも、よくよく聞けば新旧双方の主張それぞれに一理ありではあるのです。マネジメント的観点からの関心事はどちらの主張が正しいかということではなく、なぜ社長解任というようなぶっそうな事態に至ったのかです。思い当たる一番の懸念は、自社の今後のあるべき経営の方向性について親子間で十分話し合われたのか、というところでしょう。なぜなら、この手の親子新旧経営者のもめ事は中小企業でもよくある話なのですが、その原因は私が知る限りほぼ100%親子経営者間におけるコミュニケーション不足、しかも事業承継以前からのコミュニケーション不足にあるからです。
事業継承のバトンタッチ前の段階からちゃんとした形でのコミュニケーションが成り立っていないからこそ、新世代経営者は「オヤジうるさいよ!僕のやり方に口出しするな。社長は僕だ!」で突っ走ってしまう。そうなると、今度はオヤジが黙っていない。「会社もお前も誰がここまで育ててきたと思っているんだ。株主は私だ。お前は社長クビだ!」。我が子に経営者としての三行半を叩きつけてしまう、そんなケースを複数見てまいりました。
言い分の正しい正しくないは別にして、責任の大半は事業承継を決めながらコミュニケーション不足に目をつぶってきた先代経営者にあります。「コミュニケーションは量が質をつくる」は、コミュニケーションの大原則です。「話すばかりでなく聞くコミュニケーションは不足していないか」、それも含めて「現経営者と次期経営者として十分なコミュニケーションが取れていないなら、事業承継は時期尚早」、二代目、三代目へのバトンタッチを考えている経営者の方々には必ず申し上げることです。
我が子が小さい頃から、オヤジは仕事一筋で家庭を顧みることなく働いて働いて今の会社を作ってきた。親子間のコミュニケーションは決定的に不足してきたにもかかわらず、自身の引退が見えてきたことでほぼ無条件に子供へのバトンタッチを考える。自分のつくってきた会社だから、自分の子供だから自分の言うことを聞くはず、言うことをきかない場面すら想像できないほどに親子間コミュニケーションが不足してきたなら、事業継承のリスクは格段に上昇します。それでも、他人に任せるよりは血縁に後を委ねるのが安心と子供への事業承継をおこなう。悲劇はそんな会社に起きるのです。
上場企業である大塚家具は、もはやかなり危機的状況にあると言えるでしょう。昨日の発表を受け、このままでは来たるべき株主総会に向けて父娘間で委任状の争奪戦が繰り広げられるという、最悪の事態に突っ走ることになるからです。こうなる前に何とかならなかったものでしょうか。同社のイメージダウンは必至。あるいはこの一件が企業存続に向けた致命傷になりかねないかもしれません。どちらが勝とうとも、このいざこざを乗り越えて企業としての存続が仮に果たせようとも、名門たる同社の歴史に禍根を残すことは間違いありません。
親子は血が通っているから大丈夫、そう考える経営者も間々いらっしゃるのですが、私は逆であるように思っています。親子は血が通っているからと油断するから危ない。新旧経営者としての親子間でのコミュニケーション不足が決定的な壁を作ってしまった場合に、他人間とは違う親子間の遠慮のなさは思わぬ火を吹いて、致命傷を与えかねないほどの殴り合いをも引き起こしかねないのです。
大塚家具の収束が見えない父娘間泥仕合を耳にするに、事業承継における準備段階からの親子間コミュニケーションの大切さを改めて痛感させられるばかりです。