日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

旭化成建材の施工物件を知ることより、ザル管理の業界風土を正すことの方が重要と思う件

2015-10-24 | ニュース雑感
横浜市のマンション工事を巡って、関係企業の対応が大問題になっています。

マンションに傾きが出た原因が、下請け業者の基礎杭打ちの甘さにあったことが発覚し、かつこの業者の現場担当が虚偽の報告をしていたということが明るみに出て一気に問題は大きくなりました。しかも、この杭打ちを担当した業者が日本を代表するような大手企業旭化成の子会社であったと言う点が、さらに火に油を注いだように思います。

先日その渦中の業者、旭化成建材が過去10年間に同様の工事を担当した物件の県別件数と住宅、その他の内訳、当該担当者が担当した物件数などを公表し、記者会見しました。大方の評価傾向としては、具体的なマンション名をまでは公表しなかったということで、「中途半端」「かえって不安を煽っただけ」などと、手厳しいものが目立っています。

私自身もマンション所有者のはしくれでありますが、個人的には「知ったところでどうなるの」というのが率直な感想であります。もちろんこれが、マンションが完全に崩壊したとか、横倒しになった、とかいう話であれば穏やかではない感じはあるのですが、現段階ではその可能性は否定できないまでも、現実にはズレ発生とかのレベルです。

もちろん許されることではないですし、住民当事者から「どうしてくれる」「安全な形に修繕しろ」「建て替えろ」という要求が出されるのは、至極当然の流れではあると思います。しかし、現時点で何の問題も生じてなくこれまで何の疑問も持たずに自身のマンションに住んでいる人間が、たまたまニュースで耳にした欠陥マンションの存在を知ったからと言って、自分のマンションの施工が旭化成建材であるか否かを知って何の得があるのかと思うわけです。健康被害にすぐに直結するアスベスト使用の問題等とは状況が違うと思うのです。

少なくとも私個人はそれを知る必要はないと思っています。なぜなら、この問題は旭化成建材特有の問題だとは思っていないからです。ではどこの問題か。建設業界全体の文化の問題であると思うのです。もっとハッキリ申し上げるなら、旭化成建材が施工しているかいないかは大した問題じゃない。どの業者が基礎作業をしていようと、同じようなリスクはあると思うのです。

随分なことを言うじゃないかと思われるかもしれませんが、私は建設業界の業務モラルに関してはほとんど信用していないのです。なぜなら、若い頃の話ですが、某大手ゼネコンに就職した大学時代の先輩が酒の席で、「建設業界のザル管理」について就職してみて本当にビックリしたという具体的な話の数々を聞いているからです。それによって信じられないほどモラルに欠けた業界であると感じさせられて以来、下請け、孫請け丸投げが当たり前で元請けの管理に多くは期待できない、すなわち何があっても驚けないとアタマに刻み込まれて消えないからです。

もちろんその話は30年も前の大昔の話ではあります。もしかすると、多少盛られた話だったのかもしれません。しかし、銀行員としてその後も取引先である建設関連企業の仕事ぶりを見聞きさせていただく中で、「なるほど、あの時先輩が言っていたことはこういうことか」と妙に納得させられる場面にも何度も出くわし、その印象は一層強く刻み込まれてしまってもいるのです。もちろん、私が管理の権化とも言える銀行業界の出身であり、自身が属していた職場の管理の概念とのあまりの違いに驚いたと言うことが最大の要因でもあるのですが。

結論を申し上げれば、今回の件は、ザル管理を問題視してこなかった業界の風土にこそ問題があるように思うのです。すなわち施工業者に関わりなく起こり得る問題であると。銀行界には出来て、建設業界には出来ていない厳正な管理姿勢。その大元の責任は、この風土を長年見過ごしてきた監督官庁の指導にも落ち度があったのではないかと思うのです(銀行が古くから厳正な業務管理をしてこられた最大の理由は、旧大蔵省による厳しい行政指導、管理があったからに他なりません)。

今回の問題は、すべての関係業者の管理の甘さが度重なって起きた複数ザル管理の結果です。杭打ちを担当した旭化成建材、元請けの三井住友建設、発注主である三井不動産レジデンシャル、そのいずれかの管理が現場任せ、他人任せでなく、自らの責任と意思で管理を実行していたのなら、必ず防げた問題であると思うのです。少なくとも、相互けん制、初監をあてにしない複数チェック体制を基本とする銀行界の管理では絶対に起こり得ないことだと断言できます。

大手系企業が集まって行った工事がこの体たらくなのですから、他の事例は推して知るべしであることは間違いありません。監督官庁である国土交通省は国としての管理責任を認識して、業界風土を根本から正すような法的義務付けを伴う管理手法を導入する等、厳正な業者指導を早急に導入するべきであると思います。国交省は厳正管理の指導法が分からないのなら、金融庁に教えを請うてでもこの機会にしっかりとおこなわなくてはいけません。これをやらなければ、同じような事例は今後いくらでも発生しうるでしょうし、今でも既に見えないところで起きていることは確実なのですから。

最後に我々マンション所有者はどうするべきなのか。基本的にどうしても安心したいのならば、どの業者が施工しているかに関係なく、住民組合として施工主に調査の依頼をかけ調査・確認させるべきでしょう。がしかし、それをしたところでもし何か手抜き工事が分かってもどうすることもできないというケースの方が多いのだと思います。今回のようなすべて大手グループで施工をしたような物件を除いては、業者の体力からみて今さらどうにもできないというケースの方が圧倒的に多いでしょうから。だからこそ、知る必要はないのです。

友人の医師に「そろそろ良い歳だし、予防的見地から脳腫瘍の有無を調べてもらうような脳の検診をしようと思うのだが」と相談したところ、「やめたほうがいい」と言われました。その理由は、「仮に小さな脳腫瘍が見つかったとして、外科的手術でそれを取り除くにはリスクが大きすぎる。今生活をしていて慢性的に頭が痛いとかの自覚症状がないのなら、何か悪いものの存在が分かることで平穏な精神状態が乱され、余計な心配でかえって生活や体を壊すリスクの方が大きい」というものです。

マンションの欠陥も同じはないかと。業界的ザル管理が横行しているとするなら、調査により何かが見つかる可能性はかなりあり、ただ今住んでいて不具合を感じていないなら余計な心配事や揉め事を増やすだけで何の得もないのかもしれません。明日突然住んでいるマンションが崩壊したらどうするのだ、と言う方もいるかもしれませんが、その確率は野球で9人連続ホームランが出る確率よりも低いでしょう。大地震が来たら?それは運が悪かったとしか言いようがありません。

建設業界における監理不在と言う伝統的業界風土が改まらない限り、見掛け上健全そうなどのマンションにも同じような確率で悲劇は起こり得るのです。運が悪かったと思うしかない、現時点ではそうとしか言いようがないことだと思うのです。業界の風土改革、それが進まない限りにおいては。

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