日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

リアルCDショップを淘汰したもう一方の「雄」

2010-08-26 | マーケティング
音楽ソフト販売大手のHMV渋谷店の閉店に関連して、前回のコメントを補足します。

前回のコメントでは、HMVはじめとしたリアルの音楽ソフト販売店の「ジリ貧状況→閉店」を作った要因を、アップル社のipodを皮切りとした音楽データ・ダウンロードという新しいビジネスモデルの急激な浸透によるというやや偏った書き方をしましたので、少々補足しておきます。従来のリアル店舗に対してリアルとそん色のないバーチャル店舗を登場させたと言う意味からは、データダウンロード浸透以前の状況としてアマゾン・ドットコム(以下アマゾン)の大躍進を忘れてはならないと思います。バーチャル通販書店として95年にアメリカで開設され、あっという間に全米規模で成功した同社は2000年に日本店を“開店”。当初は書籍販売に特化していたものの、音楽ソフト、ゲーム、雑貨から日用品に至るまで徐々に取扱商品をの幅をひろげつつ、着実に購買層を拡大してきたのです。

当初は私も商品の並んだ陳列棚を実際に見渡すことのできないバーチャル・ショップなど、何を買おうか確実に決まっている時以外は使い勝手が悪く、ウインドー・ショッピング的な楽しみ方もできそうもなく、一般層に広がるのには難しいのではないかと思っていました。アマゾンのアメリカ本土での90年代後半の成功は知っていましたが、これはアメリカ人の合理的な考え方に合致したビジネスモデルであり、日本での浸透にはかなり時間が必要であろうと考えていたのです。ところがどっこい、アマゾンは日本進出とともに予想以上にハイスピードで成長を遂げ、書籍だけでなく音楽ソフトに関しても、あっという間にリアルショップを脅かす存在にまでのし上がったのでした。その最大の要因は、最新IT技術を駆使した徹底したCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)戦略の展開のあったのです。

具体的に言えば、何か探していると似たようなカテゴリーのモノや、探しているモノを購入した人が買っている他のアイテムなどを自動的に抽出して次から次へと購買者の目の前に並べてくれるのです。最初は少々ウザったいと思ったこのシステムも、慣れるとなかなか勘どころがよくて、すっかりバーチャル店員に乗せられいろいろなモノを買わされていたりする訳です。実際の人間が勧めてくる訳ではないので、無視しようが文句の一つもつぶやこうがこっちの勝手なので、リアルよりもよほど気がねなく買い回りができます。さらに検索機能でウインドウ・ショッピングも自由自在。リアル以上に在庫は豊富なので、音楽ソフトに関して言うなら断然マニアの満足度はバーチャルが上な訳です。

ネット販売による人件費の大幅削減で、リアル店舗以上の値引きも可能になっていますし、懸案だった配送料の問題も人件費をはじめ諸経費の圧縮により、1500円以上を送料無料にするというサービスを早々に定着をさせたのです。品揃えが良く、いろいろ好みの商品を気兼ねの要らない形で提示し、価格も安くて送料は不要、これではリアルが勝てる訳がありません。さらにネット音楽ソフト販売の大躍進の陰では、音楽ソフトが持つ特性が一層後押ししたように思います。それは、色合いや質感、サイズなどを実際に確かめる必要がない商品であるということです。たいていの音楽ソフト商品はネットショップで1曲30秒~1分程度にしろ試聴ができますから、むしろリアル店舗よりもサービスがいいと思えるほどなのです。こうして、音楽ソフトはマーケティング戦略に長けたアマゾンが中心となってリアル店舗購入からバーチャル店舗購入へ移行の流れを作り、その流れに乗ってアップルを中心としたデータダウンロード・ビジネスも大躍進したという事であると思うのです。アマゾンが切り開きアップルが開拓した、そんな新しいビジネスモデルの流れで、音楽ソフト販売ビジネスにおけるリアル店舗は淘汰を余儀なくされたと言っていいかと思います。

そうやって考えると、書籍も音楽ソフトと同じく色合いや質感、サイズなどを実際に確かめる必要がない商品な訳で、書籍ネット購入は既に条件的には受け入れられた状況にあると言えます。アマゾンは書籍電子化ビジネスではアップルに先を越された音楽ソフトの同じ轍は踏むまいと、いち早くキンドルというブックリーダーを開発し書籍電子化販売の主導権を握るべく先手先手で来ています。しかしながら、アップルも負けてはいません。ipodの登場時と同じかあるいはそれ以上のインパクトを持ってipadなる強力な武器をもって、この市場への本格参入を開始した訳です。こうやって見てくると、音楽ソフト販売はあくまで前哨戦に過ぎずより市場規模の大きな書籍こそが電子データダウンロード・ビジネスの本丸であるようにも思えてきます。この始まったばかりの激しい攻防の中、書籍のリアル販売店(=本屋さん)が今後生き残るには、リアルでなければ味わえないサービスをいかに生み出すか、その一点にかかっていると言っていいででしょう。ただし、ネットの世界の動きは早いので、この戦いは時間との勝負でもあると思うのです。

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