-畑沢通信-

 尾花沢市「畑沢」地区について、情報の発信と収集を行います。思い出話、現況、自然、歴史、行事、今後の希望等々です。

「暖中 寒あり」が思わぬ発明をもたらしました。

2020-03-10 15:43:57 | 歴史

 今年は極めて顕著な暖冬です。私が住んでいる山形市は積雪ゼロで、尾花沢市内も同様な日が続いていました。一体、冬はどうなったのでしょう。ところが、たった一日、寒い日がありました。今から約一か月前の令和2年2月8日です。前日にうっすら(10cm程度)と雪が積もりました。別に雪が降った日を選んだわけではありませんが、車が空いていたので、その日に畑沢へ出かけました。暖冬によって石仏が雪に埋もれていないので、石仏調査をすることができるかもしれないと期待したからです。

 再調査しなければならない石仏は多数ありました。その中に上畑沢の「大乗妙典一部一字一石一禮」があります。この石仏は、硬い火山岩(おそらく安山岩か)でできています。凝灰岩などと比べると風化されにくく、刻んだ文字が綺麗に残るのが普通です。ところが、表側は何とかある程度まで読み取ることができましたが、裏側は全く歯が立ちません。

 

 そこで、これまでは私の師匠が読んだ文字と畑沢の大先輩が記録した文字を参考にしていましたが、両者は異なる形に読み取っていました。それでどうしても確かめる必要がありました。

 しかし、この日も全く手掛かりはありません。せめて、光が斜めから差し込めば、凹部が暗くなって文字が浮かび上がるのですが、あいにくの曇天でしかも杉の下になっていますので、光はただ漠然と石仏の表面に当たっています。何も見えません。がっかりです。こんな状態でも熟練している方なら読み取ることができるのかもしれませんが、私には無理です。ならば拓本と言う方法もあるのでしょうが、不精者の私には全くやる気が起こりません。何しろ、生物の授業で顕微鏡の画像をスケッチしなければならないのに、「今の時代なら写真を撮ればいいではないか。スケッチなどは時間の無駄だ」と先生に言い放った人間です。恥ずかしい過去があります。スケッチの意味を解さないただの馬鹿でした。私のこの手の愚行(暴言)には、枚挙にいとまがありません。

 

 諦めかけて下を見た時、ふと雪が目に入りました。今冬では極めて貴重です。しかも粉雪です。咄嗟(とっさ)に思いついたのが、「何もしないよりは、この粉雪をかけると少しは見えやすくなるかもしれない」という事です。粉雪なら石仏を損傷しないだろうし、手で掬い易いと思いました。すると効果はてき面に現れました。裏面の全体に文字が現れました。師匠と大先輩が解読した文字を遥かに凌いでいます。こんなにも文字かあったとは想像だにできなかったことです。施主の名前の外に何やら短歌らしきものがあります。歌には草書体と変体仮名が多用されているようです。文字が浮き上がってきたお陰で、私はさらに課題が増えてしまいました。私の嫌いな草書体を読み解く作業です。ああ、頭痛が、腹痛が……。でもここには、施主から約二百年後の私たちへ伝えようとしたメッセージが記されています。いつの日にか必ず読み解く責任があります。

 ところで、「草書体を解読するソフト」をネットで試してみましたが、私には使いこなすことができませんでした。例えば,明らかに分かる草書体の画像を入れても、関係ない文字の候補が数多く現れるだけで、役に立ちません。私はソフトにも見放されました。また、一文字ずつ解読用の本に照らし合わせなければなりません。ああ、だから頭痛…。

 この「粉雪拓本」が可能になるには、次の沢山の条件があります。

1 石仏が埋もれるほどの積雪がないこと。

  多量の積雪は、石仏が見えなくなるのは勿論のこと、石仏の表面を凍らせて粉雪が凹部に入りません。

2 粉雪が積もっていること。

  粉雪は肌理が細かいので、繊細な部分も露わにします。ザラメ雪は粒が粗くて細かいところが分かりませんし、透明感があるので石面とのコントラストがつきにくいです。綿雪は塊になりやすいので繊細さがありませんし、不要な部分にも付着してしまいます。

3 晴れていないこと。

  天気が良いと日陰でも反射光によって粉雪が直ぐに溶け出して、コントラストがなくなります。

4 柔らかい刷毛を用いること。

  不要な部分についた雪を払います。硬いブラシのようなものは、石仏表面を傷つける恐れがあります。あくまでもそーっと。


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