まらずもう10周年となる節目の令和元年名古屋場所。
この10年で39名の力士が土俵を彩ってきたが、その中で最初の力士、玉椿は今なお大関として土俵に上がり続けている。
ちょうど10年前、幕内付け出しのデビュー場所は初日から14連敗。千秋楽に勝って全敗を逃すという中途半端な相撲は、その後の半端土俵を予見していたかのような展開だったが、この連敗記録は以後10年間、茸の山、蒼狼らの挑戦を退け、いまなお燦然と輝き続けている。最古参大関として優勝7回、カド番11回と目まぐるしい記録を残してきたがこのところ衰えも顕著。優勝から遠ざかること過去最長の10場所。ことに7月は大の苦手で6年連続で負け越し中。前場所勝ち越して番付上の心配もないだけに、負け越すのはまず間違いない。ではこの玉椿の衰えの歩みを確認してみよう。1月から5月にかけての3場所はめっぽう強く、大関にふさわしい成績を挙げている玉椿。その成績も平成27年から40勝、34勝、37勝、37勝ときていたのが今年は32勝。ついに一般的な大関昇進基準(33勝)をも割り込む成績となった。そしてこの7月は平成27年から7勝、6勝、6勝、3勝と、これまた成績を落としている。これは10周年の節目に、連敗記録の更新という事態にもなりかねない。ちなみに10年前は平幕であり、大関としての連敗記録としては大相撲・照ノ富士の1場所13連敗が最多。負け越しても6勝すれば幕内600勝の節目を迎えるが、連敗記録の更新も通算600勝も、どちらも達成せず半端な負けっぷりで場所を終える、というこの大関らしい結末も十分考えられる。針がどちらに振れるにしても、話題の少ない場所を盛り上げるために、どうにか体を張ってほしいところ。
そんな今場所の大本命はやはり毛呂乃。2週間では暴れたりない、とばかり場所前から全国を揺さぶり、降らせ大暴れ。大相撲の大関・貴景勝は土俵に上がらずして大関陥落決定、大関復帰したばかりの栃ノ心、横綱の鶴竜をも負傷させており、初日を前にもはや勝負は決まったようなもの。生まれ月でもある7月はいつにもまして元気で、復帰後毎年7月は一度たりとも優勝を逃したことがない。場所前インタビューでもひたすらしごきつづけており、体調も万全。毛呂乃の人間離れした強さ、玉椿の弱さを同時に楽しむ、というのが10周年場所の観戦方法かもしれない。
玉椿では全く相手にならないが、今場所いくら毛呂乃が強くても、独走展開は考えにくい。夏男・全裸王子の大関金精山は、毛呂乃が強ければ強いほど興奮するはず。酷暑が続き、一般力士が必ず成績を落とす中、金精山はまさに夏男。3年前の7月に十両昇進を決め、2年前は新入幕、昨年は大関昇進を決めた。ここ2場所、14勝、12勝といよいよ大関としても成績安定、先場所は毛呂乃に阻まれたものの大相撲なら優勝できていた成績であり、「ひとつ上の男」を目指すに足る充実ぶり。稽古も万全、自分で出したモノに興奮しさらに出せるという永久機関を開発しており、2度目の優勝も視界に入る。
今場所の展開予想としては毛呂乃と金精山の一騎打ち必至だが、勝負の分かれ道はむしろ自分との闘い、不戦敗だろう。実力では毛呂乃がいまだ一枚上だろうが、この2年で不戦敗を8つ記録している。不戦敗で星を落とす可能性は決して低くなく、付け入る隙は十分にある。が、一方の金精山もこの2年で不戦敗3。こちらもうっかりすると星を落としかねず、先場所も2日目の不戦敗がちょうど響いて毛呂乃に星1つ及ばなかった。逆に金精山が優勝した30年春場所では、金精山が不戦敗1を記録するも、毛呂乃が不戦敗2となり、この1差がそのまま優勝を決めた。両者にとって、最大の落とし穴は不戦敗。とくに毛呂乃は不戦敗で舐めプにかかることが多いため、それが命取りになりかねない。
10周年となるまらずもう名古屋場所、新鮮味は少ないかもしれないが、各力士の持ち味が十分楽しめそうだ。毛呂乃と金精山の強さ、玉椿の弱さが存分に味わえるはず。節目となる10年目、あと欲しいのは新鮮味のみ。ちょうど区切りとなる40人目の新弟子は、どこかにいないものか。場所中参加も随時受付中なので、まだまだ間に合う。節目の場所に、節目の新弟子になろうという方、まらずもうはいつでも門戸を全開に開いている。40本目のまらを待ちながら、初日を待ちたい。