ヌマンタの書斎

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医療大崩壊 藤田紘一郎

2010-12-27 13:47:00 | 

なるべく薬は飲まないようにしている。

とはいえ、私は毎日10錠を超える薬を服用している。これらの薬は、20代の頃の難病治療のために大量服用した強い薬の副作用に対処するためのものだ。

薬と毒は紙一重であることは、我が身に刻み込まれている。だからこそ、薬はなるべく飲みたくない。だが、免疫力が若干衰えた私の身体は、いささか感染症に弱い。だから風邪を引きやすい。

人の身体は、風邪のウィルスに感染すると、発熱するように出来ている。なぜなら、熱に弱いウィルスを自ら発熱して弱めさせ、免疫システムがウィルスを退治するのを手伝おうとするからだ。

だから、風邪を引いて熱を出した時に、解熱剤を服用するのは、むしろ逆効果なのだ。むしろ暖かくして身体を休めて、発熱により風邪を治すほうが早く治る。後は水分補給を十分に採ることで事足りる。

でも、体温が39度を超すような状態では、身体を休めることもままならないし、むしろ危険でさえある。分っている医者は、そのような場合にだけ解熱剤を処方する。

にもかかわらず、患者の求めに応じて、安易に解熱剤を処方する医者が後を絶たないと表題の著者は嘆く。求める患者も悪いが、知っていて処方する医者がより悪い。

ここ30年、日本の医療は危機を迎えている。その一つの原因に、受験教育の内容を挙げているのが興味深い。とりわけマークシートのように画一的な回答を求める試験で、高得点を挙げる受験生たちの医療への適性のなさに対する指摘が興味深い。

人間の身体は○か×かで区分けできるようなものではない。診断装置が弾きだす数値だけで、人の身体は分らない。医者には、なによりも問診力が求められると著者は力説する。患者に話をさせ、病状を語らせることで、適切な情報を得て、そこから患者を安心させる。それこそが医術の王道なのだろう。

だが、現在の医者の育成体制は、そのような教育をしていない。なにより医の心を育てる教育をしていないことが、医療の崩壊を招いていると、厳しく指弾する。

医者だけではない。厚生労働省のこの30年の指導もまた、医療の心を弁えぬ心無きものであった。中味を伴わぬ行政方針が、地方医療を崩壊させ、患者と医師の双方を不幸に追いやったとの指摘には、私も同意せざるえない。

病院が老人ホームと化し、健康保険が赤字に苦しむことに対処するため、小手先の改正を繰り返し、その対応で大きな出費を強いられた病院の厚生労働省への不信感は根強い。

これは優秀なはずのエリート官僚たちが、医療をまるで分っていないことに起因するのだろう。霞ヶ関のオフィスの中で作案した法令どおりに人が動けば、問題が解決するとの思い上がりが、今日の医療崩壊を招いた。

この医療崩壊は過去の話でもなく、現在も進行中の問題でもある。関心がおありでしたら、是非ご一読を。専門語を避けて、分りやすく書かれていると思います。

コメント
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