ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

逆説のユーラシア史 杉山正明

2024-05-31 12:03:55 | 

第一次世界大戦は旧ユーゴスラヴィアで起こった一発の銃撃が引き金だった。第二次世界大戦はポーランドへのドイツの進軍がきっかけだった。

両者の共通点は、いずれもユーラシア大陸の外周部分で発生した政治的軋轢が原因であることだ。

おそらく日本の学校教育で歴史を学んだ方には理解しづらいと思う。大雑把に説明すると、人類の歴史はユーラシア大陸が中心であり、その周辺部に政治的圧力がかかると大規模な紛争になりやすいことは歴史が証明している。

妙に思う日本人が多いはずなのは、日本の学校教育で教わる世界史がユーラシア大陸西部の周辺地域である西欧の歴史と、ユーラシア大陸東部の周辺地域であるシナの歴史を合わせたものであるからだ。

改めて確認するが、氷河期の最中に現生人類は登場し、旧人類たるネアンデルタール人らを駆逐して地上の覇権を握った。この時の人類は間違いなく遊牧を中心として各地域、各民族ごとにユーラシア大陸全域に活動していたと考えらえる。

しかし、氷河期が緩み暖かくなると、河が海に流れ込むユーラシア大陸周辺部に定着して農業を営むことを始めた。もちろん長年の慣習である遊牧生活を捨てた訳ではない。まだ農業が十分の生産量を上げることが難しかったからだ。

皮肉なことに、人類の生息域の外れであるはずの北アフリカ及びオリエントと呼ばれる肥沃な三角地帯に於いて灌漑技術が発達し、農産物が蓄積され都市国家が生まれた。だいたい今から7千年くらい前のことだと思われる。

この頃から大河周辺において農業を中心に栄える国家と、相変わらずユーラシア大陸を東西に疾駆する遊牧民族との間で戦いが恒常化した。言うまでもないが、現在の私たちの文明は定着化した農業国家が母体である。歴史も当然にユーラシア大陸周辺部を中心に語られる。それはそれで意義のあることではある。

しかし、17世紀までは遊牧民族が人類の歴史に於いて大きな役割を果たしてきたことには変わりはない。ところが、従来の世界史の本では、遊牧民族の扱いが不当に低い。この問題が顕在化したのは19世紀も末のことであり、地政学の泰斗マッキンゼーは、ユーラシア大陸内部すなわち遊牧民族の生息域をハートランド、農耕民族の生息域であるユーラシア大陸の周辺部をリムランドと呼び問題を二分化してみせた。

我々日本も含めて西欧はリムランドで繁栄した国家群である。それゆえにハートランドを支配した遊牧民族を軽く見る傾向が強い。産業革命以前、人類を主導したのはこのハートランドで興亡を繰り返した遊牧民族である。違和感を感じるとしたら、それは認識を改めるべきだ。

例えば車輪を生み出したのは、おそらく騎馬を使う遊牧民族だし、それを活用して古代社会を席巻したのは歴史上の事実だ。また鉄器の精製もまたハートランドで産み出され、遊牧民族により広まった。その外にも小麦粉の利用法、馬具の発達、火薬の製法などもハートランドで起き、騎馬を用いて東西に拡散した。

なお、西欧をリムランドだと定義するのに違和感を覚える方は多いと思うが、バルト海の海岸からポーランド、ベラルーシ、ウクライナ、黒海までがハートランドでそこから西側がリムランドだと理解して欲しい。実際、地図をみれば西欧がユーラシア大陸の西端に突き出た半島部分だと看做せるはずだ。

現在のウクライナ戦争も、ハートランドとリムランドの境界線を巡る戦いだと理解できると思う。人類の歴史を大きく動かしてきたのは、実は遊牧民族であり、彼らこそがユーラシア大陸の東西をつなげ、人類の活動域を広げてきた主役であった。

表題の書は地政学者ではなく、正統な歴史学者である。以前から遊牧民族に注目し、地道な研究でその歴史を網羅して新しい世界史の構築に挑んでいる。日本の歴史教科書ではハートランドの歴史が十分に掲載されていないので、地政学を正しく理解できず、結果的に歴史も十分な理解に届かない。

広大なユーラシア大陸を東西に疾駆して人類の歴史を動かしてきた遊牧民族を理解する上でも必須の書だと思います。機会がありましたら是非ご一読を。

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緩衝地帯

2024-05-30 09:20:16 | 社会・政治・一般

I Shall Return と捨て台詞を残してフィリピンから逃げ出したダグラス・マッカーサーは意気揚々と日本列島の厚木基地に降り立った。

彼は邪悪な侵略者たる大日本帝国を完全に潰すつもりであった。政治、役所、学校と至る所にアメリカ式の民主主義の仮面を被った独善を刷り込むつもりであった。侍の国・ニッポンから闘争心という牙を抜き、大人しくアンクル・トムの指図に従う子羊を育成するつもりあった。

アメリカでは大統領が替われば政治も社会も大きく変わる。それが当然なので、その感覚で日本列島の新たな支配者として、あるいは歴史に名を遺す変革者として自信満々であった。ところが朝鮮半島の北部のソ連の衛星国家である北コリアが突如として南に侵略してきた。

マッカーサーは軍人である。すぐに朝鮮半島に敵性国家があると、自分が管理している日本列島が危うくなることに気が付いた。大急ぎで本国へ報告して朝鮮半島への出兵許可をもらったが、途中で気が付かざるを得なかった。

邪悪な侵略者たる大日本帝国が半島に侵略を図ったのも同じではないか、と。

マッカーサーは悩んだが、結局背に腹は代えられないと知り、極東軍事裁判で有罪にした戦争犯罪人のうち生存しているものを釈放して日本列島及び米軍基地を警備するための軍隊の創設を命じた。さすがに軍事裁判の有罪判決の取り消しまでは命じなかったあたりが、軍人たる彼の限界だろう。

その後、参戦してきた共産シナ軍の人海戦術に怯えたマッカーサーは、中国本土への核攻撃をアメリカ本国に上申して、それはやり過ぎだと断られた挙句に本国へ帰国させられた。だが、それ以降、アメリカ軍の日本弱体化計画は大幅に緩和され経済再建と並び日本軍の拡大に方針転換した。

ちなみに南北に分断された半島の南部は、軍事政権にする以外統治方法がなく、経済再建の土台もなく、自らの統治能力も著しく低かったため仕方なく過干渉を承知の上で大幅な支援をしてなんとか自立させた。

この北に親ソ連、新共産シナ政権を置き、南に西側の政権を置くことで極東地域を安定させることが出来たため、同じ民族でありながら統一されることなく、それぞれ別個の国家として分断されたままの悲劇の民族としてコリアは我慢を強いられた。

統一されたドイツとは異なり、冷戦構造が維持されたアジアでは朝鮮半島は両陣営の緩衝地帯として役立ったため、コリア以外は誰も統一を望まぬ哀れな状況が今も続いている。西側諸国の支援で大きく経済発展を遂げた南コリアが次第におかしくなってきた。

元々儒教の影響により身の丈に合わぬ中華思想に染まった半島人である。いくら自らの優秀さをアピールしても、誰もそれを真に受けてくれない。仕方ないので隣の経済大国をこき下ろして肥大した自尊心を満足させようとしているが、アメリカの下っ端扱いされるのは耐えがたい屈辱だ。

そこで思いついたのが世界のバランサーたる南コリアだ。アメリカ、シナ、ロシアといった大国の間で調整役を務める重要な国家、それが南コリアだと前任の大統領あたりが言い出した。言うのは自由だが、誰もそれを真に受けてくれない。

そんないら立ちを唯一理解したふりをしてくれたのがシナだ。シナへの輸出や工場進出により大きな経済的利益を獲得できた。だが狡猾なシナはその間に技術を盗み、市場を分捕り、気が付いたら対シナ貿易は赤字となっていた。それでも笑顔で友好国家だと持ち上げてくれるシナとの関係は切りたくない。

米中の対立が顕在化した以上、本来南コリアのとるべき立場はアメリカ側なのだが、冷戦の最前線であった時期とは異なり、もはや二流国家としての扱いでしかない。それに比してシナはまだまだ南コリアのプライドをくすぐってくれる。

ここで再び大国の間で活躍する調整役(バランサー)としての南コリアという幻想が脳裏を占めてしまった。私の知る限り、コリアが大国間で調整役として認められて実績を残したことはないのですが、夢の世界で舞い上がる彼らには事実なんて知ったことではないのでしょう。

まぁ我が国にも日本は中立国家たるべしと本気で憂うる平和馬鹿ちゃんがいますから、あまり他人のことは笑えません。

ただ最近の南コリアの醜態をみていると、真の意味で緩衝役となっているのは、むしろ北コリアの方ではないかと思えるほどです。アメリカは本質的に独裁国家を嫌うので、北コリアとの親善は期待薄です。もちろんサウジのように資源や金を持っていれば別ですが、核ミサイルだけでは役不足。

それでもロシアであろうとシナであろうと他国からの干渉は断固として跳ね除けたい覚悟は、南コリアの比ではない。私には大陸との緩衝役は北で十分ではないかと、ついつい考えてしまいます。南は同じ西側先進国側といっても、それでは満足できない夢見がちな幼稚なところがあるので、まったく信用できません。

もちろん北も信用なんて出来ませんが、大陸との間で無言の抵抗者役を演じてくれるのは確かだと思うのです。まぁアメリカは絶対認めない気がしますけどね。

 

 

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教師を守るは我々ぞ

2024-05-29 13:15:34 | 社会・政治・一般

先生は聖職なんだぁ~との叫び声が聞こえてきそうだ。

横浜のある裁判所で教師と生徒との間での性わいせつ行為に関する裁判が行われた。現在までの計11回の裁判が行われたのだが、驚くべきはその裁判の傍聴席が、横浜市教育委員会のメンバー及び教職員で占められていたことだ。

この件に関して横浜市教育委員会は、理由について「不特定多数の人が傍聴することでプライバシーが守られないことが懸念される。被害者の保護者や弁護士から『不特定多数の人に聞かれないよう多くの職員に席を埋めてほしい』という趣旨の要請があり、思いをくみ取った」としています。

馬鹿なの?本当におバカなの?

では、教職員以外の人が加害者でわいせつ事件を起こした場合の裁判はどうなるの。馬鹿言うのもいい加減にして欲しい。通常この手の被害者のプライバシーが傷つけられるような裁判では、裁判所側も配慮しているのは常識。特に今回のような未成年の場合、顔などが特定されないように特別な配慮をすることが普通だ。

つまり、横浜市教育委員会としては加害者たる教職員を守るために、敢えて50人を超すメンバーを動員して傍聴席に一般の方を入れたくなかっただけだろう。なにせ傍聴した教職員には出張手当が支払われる始末。また第三者には教職員同志だと分からないよう、互いに声をかけないなどの指示が文章で配布されていたことも判明している。

このことを異常に思わない人たちが学校で教鞭を取っているというのだから恐ろしい。教育員会にとって守るべきは教師であって、その教師の性欲の毒牙にかかった児童ではないことがよく分る。私からすると教師は聖職ではなく性食にしか思えませんけどね。

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続・体調不良

2024-05-28 15:36:23 | 日記

参りました。先週以来の体調不良がむしろ悪化しています。でも、もう月末。明日には出勤しなければ。

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ステルス戦闘機の限界

2024-05-24 08:57:06 | 社会・政治・一般

ステルス戦闘機は必要か。

現在、アメリカを筆頭にステルス戦闘機を保有する西側諸国が頭を悩ませているのが、このステルス戦闘機の有効性である。なかでもアメリカの悩みは深刻だ。

湾岸戦争でイラクを圧倒できたのは、ステルス戦闘機の活躍あってこそだ。イラクのレーダー網を掻い潜り、レーダー基地を攻撃し、対空ミサイル基地を潰し、制空権を握ったことでイラクを撃破できたのは歴史的事実である。

だがこの勝利の裏側でステルス戦闘機の弱点が見つかってしまったことは、最近まで知られていなかった。いや、空軍関係者は知っていたらしい。ただ、その対策が十分に見いだせず、そのために水面下での議論となっていたのが真相だ。

平和馬鹿が横行する日本では、戦闘とは武器を撃ち合うことだと誤認している人が多い。しかし、武器を撃たなくても戦闘は出来る。それが領空侵犯だ。冷戦時代からソ連は日本領空を頻繁に侵犯してきた。目的は在日米軍基地のレーダーの性能判定と、日本の戦闘機の疲弊だ。

日本の領空にソ連機が侵犯して来れば、航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させる。いわゆるスクランブル発進であるが、これは戦闘機のエンジンに多大な無理を強いる。一般に戦闘機の寿命は、エンジンの使用可能年数である。多発するスクランブル発進は、自衛隊機の寿命を大幅に短くさせた。

一言で云えば、敵を疲弊させる効果が領空侵犯にはある。おかげで日本の防衛産業はエンジンのメンテナンスに追われ、意図せずに技術力を向上させた。この苦労が今のF3用のエンジン開発に活きたが、多大な被害を受けていたことも確かだ。

何故だか日本のマスコミ様は、この敵性国家の領空侵犯による被害には冷淡である。軍事知識の幼稚さ故に知らないのかもしれないが、おそらく反米反日には役立たない情報は、日本国民どもには知らせる必要がないとお考えてあらせるのかもしれない。

ところでイラクを巡って支援するロシア軍機が盛んにサウジ領空を侵犯し、そのたびにアメリカ空軍がスクランブル発進をしていた。かなり際どい接近もあったらしく、米露ともに神経をすり減らす戦場であった。ところが、ここで判明したのがアメリカ軍の最新戦闘機のステルス機能が無意味であったことだ。

すなわち領空侵犯するロシア機に対して「出ていけ」と威圧するスクランブル出撃では、相手に機体を見せねば意味がない。撃ち落とすならば相手がアメリカ軍戦闘機を認識する前にステルス機の最大の特徴である隠密性を活用してミサイル攻撃が出来る。

しかし相手を領空から追い出すためのスクランブル発進では、むしろステルス機能は邪魔でさえある。近接しないと、相手を威圧できない。そして戦闘機の出撃の過半はこのスクランブル発進なのだ。

それだけではない。ステルス戦闘機は、相手のレーダー波を無効化するために特殊な塗料を使用している。出撃を繰り返すことはエンジンの疲弊だけでなく、塗装のやり直しまでも必要とされる。この出費が馬鹿に出来ないほどの巨額であるらしい。

税金の無駄遣いにうるさいアメリカ議会からの指摘もさることながら、アメリカ国防省もこのステルス機のメンテナンス費用の増大に根を上げた。2024年、既に世界最強のステルス戦闘機であるF22が30機近く退役する。表向きは電子装備の老朽化だが、実際にはメンテナンス費用削減の一環であるらしい。

ステルス戦闘機は非常に強大な戦力ではあるが、決して万能兵器ではないことが明らかになってしまった。現在、日本の防衛省もそのことを踏まえて空軍戦力の整備を検討中だそうだ。高額な兵器のなかでも戦闘機はかなりの金食い虫である以上、今少し一般国民も税金の使途について関心を持つべきだと思いますよ。

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