ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

風よ万里を翔けよ 田中芳樹

2018-09-28 11:56:00 | 

涼しい夜こそ読書に相応しい。

宵の口を過ぎても昼間の熱波がおさまらない暑すぎる8月が過ぎて、残暑に苦しむのかと思いきや、9月半ばにして涼しい夜が楽しめるのはありがたい。

私は昔から、涼しくなると読書量が増える傾向にある。本棚を整理していたら、奥から出てきたのが表題の書。ちょっとライトノベルチックな表紙のハードカバーだが、田中芳樹らしく軽妙に語られるので、私はライトノベルだと思っている。

実際、一晩で再読を終えた。翌日は少し寝不足気味であったのは、やはり体力が落ちているからだろう。

この書の主人公は、花木蘭。といっても分からない方の方が多いと思う。十数年前にディズニーが製作したアニメ「ムーラン」の方が良く知られているかもしれない。

実在の女性ではなく、シナの南北朝時代に書かれた民間説話が元ネタとされている。現在でもシナの京劇などで演じられる人気の演目なので、そちらで観た方もいるかもしれない。

ムーランは想像上の女性だが、シナの歴史には実在した女性将軍は幾人もいる。平陽公主、秦良玉、梁紅玉あたりが有名であり、女性で構成される娘子(じょうし)軍のみならず、男性兵士をも率いて実際に戦場に出て功績を挙げている。

日本でも巴御前をはじめとして数人、女性でありながら武器をもって戦場で活躍した女傑はいるが、指揮官として戦場を駆けた人はほとんどいない。

これは古今東西、どこでもそうなのだが、女性を兵士として活用する国家は少ない。別に女性差別という訳ではない。ただ単純に戦闘能力の低さが原因であろう。

古来から武器は重いため、どうしても上半身の筋力が重要となる。そして女性は筋肉量が男性よりも少ない。必然的に武器を扱う技量が低くなる。だから、女性は兵士として活用しずらかった。

でも、それも過去のこと。

日本に限らず先進国では、少子化が社会的な悩みである。当然、兵士として活用できる人材不足が生じる。特にハイテク兵器を数多く備えた軍ほど、人員不足に悩んでいる。

ハイテク兵器は、その操作方法習熟が難しく、高卒レベルでは十分対応しきれない。だから大卒以上、出来るならIT技術者としての実務経験が望ましいほどだ。しかし、従来の軍隊は、高卒で体力があれば十分であったため、ハイテク兵器を使いこなせないことが問題となっている。

だからこそ、PMC(民間軍事会社)を活用しているのだが、軍首脳としては、やはり自前の兵士で対応したいのが本音(コストが違う)だ。そこで注目されるのが女性である。ハイテク兵器のなかでも、今後主流となるのは無人兵器である。

既に実戦投入されている無人航空兵器であるプレデターを始めとして、遠隔地から操作することで戦えることは、人的ロス、すなわち戦死者を出さない。それゆえに、無人兵器は今後大きく展開される予定である。

これらの無人兵器の操作に強い筋力は不要である。つまり精強な男性兵士である必要はない。頭の柔らかい知性あふれる女性兵士を操作員として活用することは、今後増えていくと思われる。

ただし、実際に敵地を制圧するためには、兵士の投入は不可欠であり、すべてが無人兵器で代替できる訳ではない。だから屈強な男性兵士は今後も必要ではある。それでも今まで以上に女性兵士が軍隊に採用されるケースは増えると予想される。

花木蘭が細身の剣を振るって戦場を駆け抜ける場面なんて、完全に過去のものとなったのかもしれません。京劇でも人気の演目なので、エンターテイメントとして面白いのは確かですから興味があったら是非どうぞ。

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トランプの貿易戦争

2018-09-27 12:16:00 | 経済・金融・税制

トランプ大統領が始めた貿易戦争に着地点はあるのだろうか。

元を質せば、この30年以上、アメリカの投資家、株主たちが自らの利益(配当)の向上のため、アメリカの製造工場を人件費の低い海外に移転させたからだ。その結果、アメリカの中産階級は没落し、貧困階級に落ちた。

貧困階級に落ちるのを避けるため、夫婦共稼ぎ、昼の仕事、夜の仕事と掛持ちは珍しくなくなった。その結果、家族の団欒は途絶え、外国人家政婦に家庭を任せた。必然、親子の会話は減り、夫婦の関係はぎくしゃくして離婚が増加した。

家庭が落ち着かないと、子供の教育に影響は避けられない。アメリカの教育水準は、高所得者のための私立学校では高い水準が維持されたが、貧困階級の通う公立学校では、大きく水準を下げてしまった。

その結果、企業は教育水準の高い海外からの留学組を積極的に雇用し、アメリカの貧困階級の子弟が給与水準の高い企業に採用されることが減った。幸い、アメリカ社会は常に流動的であり、製造業が衰退しても、サービス分野では常に新しい企業が勃興していたから、失業率はあまり高くならなかった。

それでも気が付けば、アメリカの富の7割を超富裕層が握り、大半の国民は残りのパイを分け合う悲惨な状況が続いた。それを、共和党も民主党も是認するだけでなく、積極的に推し進めてきた。

私は一概にそれを間違った政策とは言わない。なぜならば、アメリカの生産拠点を発展途上国へ移転した結果、途上国の経済が活性化し、それが世界経済をも活性化させたことも確かだと思うからだ。

しかし、アメリカ国民は不満を抱え込んだ。その不満の吐き出し口として登場したのが、トランプであった。これまで政治からも、企業からも、そしてマスコミからも無視されてきたアメリカの貧困層の不満を背景に、トランプ大統領が誕生したのである。

アメリカの投資家や既存の政治家、大企業がトランプに否定的なのは当然である。彼らを広告主としてきたアメリカのマスコミも同様であろう。

だが、アメリカに再び雇用を戻そうとして、最大の貿易赤字国である中国に対する高負担の関税政策、つまり貿易戦争は果たして有効な政策だと云えるだろうか。

私にはあまり有効には思えない。日本の大企業などは、アメリカに工場を移転しての関税逃れを既に始めている。でも、これは一部に過ぎない。厄介なのは、現代の物つくりは、多国籍化していることだ。

自動車、一つとっても全て一国で部品を賄っている企業はほとんどない。下請け、孫請けのみならず、海外から部品調達は今や当然であり、業務提携により相互に部品を作り融通することもある。

一例を挙げれば、欠陥エアバックの件でアメリカで大問題になった日本の部品メーカーであるタカタは、その部品を世界中の企業から調達していたため、事故の原因究明に手間取っている。そのくらい、物つくりの現場では多国籍化が進んでいる。

今更アメリカ一国で、すべての部品を賄うことは非現実的に過ぎる。トランプ大統領のやり方では、アメリカの雇用は戻らないと思う。もっといえば、あのやり方は、世界一のマーケットを持つアメリカだからこそ出来る傲慢な政策。

一世紀前ならば、ブロック経済化することで、ある程度輸出入に頼らずに自国の経済を支えるやり方もできた。しかし、あまりにグローバル化が進み、国際間での分業が当たり前になった現代では、実効性は薄い。

アメリカ国内のトランプ支持者は、長年富裕階級により虐げられた経済的弱者だけに、マスコミが宣伝するほどにはトランプ支持を減じてはいないと思う。しかし、いつまでも自分たちの生活が変わらなければ、いずれ見切りをつける。

アメリカが本気で国内に働き口を増やしたいと思うのならば、今のやり方ではダメだと思う。特に製造業にとってアメリカは鬼門に近い。PL法に代表されるように、弁護士や投資家などを優遇し過ぎて、地道に働く労働者を冷遇してきた従来のやり方を変えていかなければ、いつまでたっても国内に働き口は増えないと思います。

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箱根駅伝の弊害

2018-09-26 12:11:00 | スポーツ

少し旧聞になるが、ジャカルタで開催されたアジア大会の男子マラソンで、久々に日本の男子選手が優勝した。

公式の国際大会における男子日本人選手の優勝は、あの中山選手以来である。瀬古や中山の全盛期を見てきたせいもあるが、何故にこれほど日本男子マラソンは低迷したのか。

その一因として挙げられるのが、あの正月の人気番組、箱根駅伝である。

駅伝という競技自体は、もともとマラソンを強化する目的で設けられた競技であった。実際、駅伝出身の選手がマラソンで活躍してきた過去の実績はある。

しかし、あまりに箱根駅伝に人気が集中した結果、選手の強化が歪んでしまった。

箱根駅伝自体は、関東の大学から選抜された選手が出場する。お正月の大人気番組として名が知れた箱根駅伝に出場することを夢見る若者たちは、こぞって関東の大学陸上部に集まった。

その結果、関西の大学や、社会人陸上部は若く有望な男子選手を集めることが難しくなってしまった。それほどまでに、箱根駅伝の人気は凄まじかった。

人気が集中した結果、箱根駅伝は勝つための強化方法自体が、独特なものとなってしまった。ついには箱根駅伝に全力を投じてしまい、大学を卒業した後には、故障だらけで走れなくなった男子選手が続出した。

特に人気の地区を走る選手たちは、余りの練習し過ぎで、4年持たずに引退することも珍しくなくなる始末である。当然に男子陸上競技の世界では、箱根駅伝に対する非難の声が上がっていた。

しかし、多くのスポンサーをひきつけ高視聴率を稼ぐ箱根駅伝は、独占放送する日本TVだけでなく、それを報じる他社のマスコミにとっても他に替わるもののない最高の商売道具であった。

だから陸上競技界からの不満の声は押し潰された。その結果、有望な若手選手は箱根駅伝で才能を使い果たして終い、マラソンへ転向した時には故障だらけとなり、これが日本から男子マラソンのメダル獲得の機会を奪ってきた。

ここ数年、男子マラソンで活躍している日本人選手は、いずれも箱根駅伝とは無縁であった人ばかりである。箱根の山の神と呼ばれた期待の若手は、10位内に入ることさえ出来なかった。もう、長距離を走れる身体ではなくなっていた。

箱根駅伝は、たしかに多くの若い男子を陸上競技に惹きつけた。しかし、あまりに特殊化してしまった箱根駅伝に専念した結果、将来の可能性を潰してしまった。これが箱根駅伝が日本の陸上界にもたらした功罪である。

陸上競技にさほど詳しくない私でさえ、この程度のことは知っている。しかし、大手の新聞・TVは箱根駅伝をまっとうに評価することを避けてきた。その結果が日本のマラソンの低迷であったことは、是非とも知って置いて頂きたいと思います。

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日本女子体操界の闇

2018-09-25 12:00:00 | スポーツ

人気のあるアマチュア・スポーツほど闇が深い。

その典型が体操であり、マラソンではないかと思っている。かつては日本のお家撃ニ云われた体操だが、少し前までの低迷ぶりはひどいものだった。幸い、男子体操が復活し、メダルを連覇したりと結果を出していたが、女子は残念ながら低迷が続いている。

その女子体操界を近年裏で牛耳りながらも実績を出せず、それでいて権力を手放さなかったのが朝日生命の塚原夫妻である。ボイコット事件などがありながら、塚原夫妻との関係を重視した新聞、TVが見て見ぬフリをしていた。

ボイコット事件自体は1990年代だというから、日本の体操界の低迷には、マスコミも一役買っていたと私は言いたい。宮原選手のコーチの暴力的指導(これは、これで事実として問題ではある)に端を発した、宮原選手の必死の訴えにより、ようやくマスコミが隠し続けてきた塚原夫妻の横暴ぶりが暴露された。

これだって、今さらの話である。マスコミが知らなかったはずがない。知っていて、見て見ぬフリをしていただけだ。

これは新聞、TVを問わず、スメ[ツ担当の記者はその競技出身の選手上がりが多い。体操ならば、記者自身が体操選手であったことが望ましい。競技が違っても、出身大学、出身高校が同じならば良しだ。

学生運動部出身の方なら分かると思うが、上下関係の厳しい運動部では先輩・同期・後輩の付き合いが深いことが多い。この人脈こそが、体育競技を取材する秘訣である。

同じ大学では弱いが、同じクラブの先輩後輩の関係を出して取材に来られると、本来迷惑な取材といえども選手は無下にできない。スポーツの強い大学ほど、マスコミ業界に人材を送り込んでいる。

持ちつ、持たれつが、スポーツ業界とマスコミとの関係であり、この腐れ縁がスメ[ツ業界の醜聞を押し隠していただけだ。

ちなみに、今回の宮原選手の告発だが、これには裏があると私は思っている。何故なら宮原選手も、告発された塚原夫妻も同じ日体大である。ただし塚原夫妻は朝日生命クラブを牛耳るが故に、日体大OB人脈との関係は、いささか複雑だと聞いている。

想像だけど、おそらくは日体大OBの派閥争いや、他の有力スポーツ大学が日本体操協会の舞台裏で暗躍しているのではないか。マスコミの報道の仕方も、妙に限定的というか、対象を絞った記事になっているのが、私には不自然に思えて仕方ない。

私は日体大が日本のスポーツ業界に多くの優秀な選手を送り込んできた実績を軽んじるつもりはないし、朝日生命がバブル後の厳しい時期も、体操業界を支援してきたことも評価している。

しかし、その一方で必ずしも日本体操界のためにならないこと、つまり役員人事とか後援するスポンサー選定とかで妙な動きをして、却って混乱と衰退を招いてきたことも知っている。大手の新聞、TVが報じないからといって、皆が知らないと思ったら大間違い。

私自身、大学運動部の出身なので、詳細を書くことは避けざる得ない事情は分かっているつもり。でも、長年隠し続けたが故に、却って闇は深くなり、醜聞は取り返しのつかないレベルまでになっている。

体操業界のスキャンダルを賢しげに報じている新聞、TVですけど、私からすれば彼らも共犯者です。知っていて、見て見ぬフリをしてきた結果が、これですから。でも、記事を読む限り、そこに羞恥心とか報道者の矜持のようなものは一切感じられませんね。

追記 本当はマラソンについても書きたかったのですが、また別の記事にまとめます。

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黒子のバスケ 藤巻忠俊

2018-09-21 11:59:00 | 

傑作の後に続くのは厳しい。

バスケットボールを題材にした漫画として、空前の大ヒットとなった「SLUM DUNK」は、名作揃いのスポーツ漫画の中でも突出して傑作であると断言できる。

だからバスケットボール自体が子供たちに人気のスポーツとなった後でも、週刊少年ジャンプ誌はなかなかバスケ漫画を出しずらかったはずだ。だが、遂に登場したのが表題の作品であった。

遠くからでも目立つ長身のヤンキーを主人公に据えたスラダンと異なり、この作品の主人公黒子テツヤは小柄で、身体能力は並以下。なによりも影が薄いという主人公らしからぬ設定である。

だが、この目立たないという資質を、パス回しに活かしたことで、黒子は主役に躍り出た。チームに黒子が入ると、相手チームはこの影の薄い少年から繰り出されるパスに対応できずに困惑するばかり。

中学バスケでは無敵のチームには、奇跡の世代と呼ばれた飛び抜けた5人がいたが、その傲慢不遜な天才5人からも認められた幻の6人目、それが黒子という設定も面白い。

物語が進むにつれ、この5人が高校を別々にした理由、黒子が5人から離れた理由も分かってくる。影の薄い温和な少年ではあるが、内に秘めたるバスケへの熱い想いは誰にも負けない。

ただし、パス回しは凄いが、ドリブルもシュートも平均以下。でも、他のメンバーを活かす能力だけは飛び抜けていた。そんな主人公だからこそ、子供たちから絶大な支持を受けた。

誰だってヒーローになりたいけど、誰もがスーパーな能力を持っているはずもない。でも、チームとして助け合っていけば、持てる能力以上の力を発揮できる。そんな夢をバスケ少年たちに与えた漫画だから、人気が出ない訳がない。

ちなみに連載が終了し、アニメも放送を終えて数年経つが、未だに人気は途絶えることがない。私は知っている。人気が続いている理由の一つは、イケメンの登場人物が多いからだということを。このせいで、少年漫画に連載されていたにもかかわらず、女性のファンが非常に多い。


そのせいで、あまり積極的に読む気になれなかった漫画でもある。なのだが、この夏の暑さにめげて、休日にクーラーの良く効いた漫画喫茶で時間潰しに読むのを再開したら、やっぱり面白かった。

スラダンの後にバスケ漫画としてジャンプに登場できたのも当然の傑作だと思いますね。

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