本当の意味でお寿司を好きになったのは十代後半からだ。
今でこそ大好物のお寿司だが、年齢によりその好きの中身がだいぶ違っていた。幼い頃は、とにかくワサビがダメで、ワサビ抜きでないと食べられなかった。しかも、マグロよりも卵、あるいは稲荷鮨とか河童巻きが好きだった。
やがてワサビを醤油で洗い落とす知恵を覚えてからは、一通り食べるようになるが、やはり好きなのは卵である。それが変ったのは高校生になり酒の味を覚えてからだ。下北沢のパチンコ屋で大勝した時に、居酒屋で刺身の盛り合わせを頼み、酒を飲みながら食べるようになると、もうワサビがない鮨では満足できなかった。
ただ高校生の頃は、まだウニはあまり美味しいとは思わなかった。だが大学生になり父に寿司屋に連れていかれて食べたバフンウニには仰天した。鮮度が良かったせいもあるが、濃厚なチーズのような、それでいて磯の匂いが感じられるウニの軍艦巻きは別世界の味だった。
以来、時たまウニを食べたくてどうしようもない飢餓状態に陥ることが生じる羽目に陥った。ウニ、とにかくウニが食べたい。頭の中はウニのことで一杯である。それも回転ずしのお安い奴ではダメで、本格的なウニでないと満足できなかった。妙な舌の肥え方をしてしまったと後悔したが、感性の問題なので是正する気にもなれなかった。
でも、幸か不幸か20代前半で難病に罹患し、緩やかな塩分制限を受けるようになると熱烈なウニ食べたい病は影を潜めた。当時は無職だったので、これは財布に優しい結果となった。ただ、それでもウニを食べるなら、美味しい奴が良いとの想いは変わらない。
税理士として働くようになると、ウニにもいろいろあり、旬の時期、産地の違いによりだいぶ味わいが違うことを学んだ。私はバフンウニが一番だと思っていたが、銀座・寿司岩で食べた赤ウニも絶品であった。もちろん、エゾバフンウニだって美味しいが、春から夏にかけてのムラサキウニも美味しい。正直、どれが一番だと決めるのが辛いくらいだ。
だが、近年温暖化の影響か日本沿岸のサンゴ礁の磯焼け(白色化現象)が問題になってきた。関東近辺だとムラサキウニがサンゴを食い荒らすと言われている。ところが、このムラサキウニは捕まえても中身がスカスカで食用には適さない。
そこでキャベツを与えて実を増やす実験がされたが、キャベツだと磯の風味がない甘いだけの実になってしまうと判明した。やはり海藻を食べてこそらしい。ところが、ここで諦めないのが日本人の凄いところ。
以前から魚の養殖にシャワーヘッドを使ってファインバブル(微小な泡)を使うと、魚が大きく育つことは知られていたが、この技術をムラサキウニにも転用可能だと分かった。シャワーヘッドから出る微小な泡に含まれる酸素が、ウニの実を増やすことが某研究機関で判明したという。
まだ十分な量とはいえないが、痩せて廃棄処分しかないと思われていたサンゴ礁の敵でもあるムラサキウニの養殖の可能性が高まったことは嬉しいニュースである。
しかし、まぁ、日本人って食いしん坊だね。