ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

閨閥 本所次郎

2010-12-06 12:25:00 | 

誰だって身内には甘くなる。

だから、どうしても同族経営には批判が出る。これは致し方ないと思うが、その反面、同族経営こそ最も手堅い経営手法だとも考えている。

これは日本に限らず、世界中多くの企業経営が家族を主体に営まれている。起業が容易で、個人事業主が多いアメリカなどの西側先進国でさえ、同族経営企業は少なくない。

まして資本と経営の分離どころか、公私の別でさえ明白ではない第三世界の国々では、同族経営こそが主流となる。なぜなら家族こそが最も信用できるからであり、逆に言えば家族以外の他人を信用しきれないが故でもある。

あまりピンとこない方も少なくないと思うが、経営者の立場になってみると痛いほど良く分る。経営者が困った時、助けの手を差し伸べてくれるのは、まず間違いなく家族だ。銀行は論外だが、長年働いてくれた従業員だって、金を貸してくれることは稀だ。やはり家族だけが頼りになる。

家族が支えあってくれたからこそ、今の自分の会社がある。そう考えている経営者は非常に多い。だからこそ、後継者には身内を選ぶ。それは一概に非難できないと思う。

だが、企業が大きく育ち、社会的責任を担うほどの存在になった場合、同族経営は危うさを露にする。その一例が表題のモデルとされたフジ・産経グループの鹿内一族だろう。

もともと、このグループは戦後の左派一色に染まったマスメディアに危機感をもった財界の支援で作り上げられた。財界四天王をはじめ、経団連などの大物たちが手を貸して育ったマスメディアではあるが、その番頭役を担ったのが鹿内信隆であった。

この人の強烈なリーダーシップあってこそのフジ・産経グループであったことは、私も否定しない。旧・ソ連や共産シナにべったりだった朝日新聞や毎日新聞らに対する産経新聞の報道姿勢は、祖父母の代からの朝日愛読者であった私にとって、たいへん分りやすいものであった。

だが、ここで鹿内氏の身内意識が燃え上がった。たしかに財界の支援は受けた。しかし、先頭に立って実務をこなしたのは、他の誰でもない自分だ。だからこそ、このフジ・産経グループは息子(春雄)に継がせたい。

この強烈な熱望が、鹿内氏を独裁者に仕立て上げた。そして息子はその意思に応えた。フジTVは娯楽路線を強烈に推し進め、視聴率3冠を達成した。この業績は息子である春雄氏の強引な経営手腕による部分が大きい。

鹿内氏は、これで安心して引退できるはずであった。しかし、春雄氏はあまりに早く亡くなった。野望を挫かれた鹿内氏は止む無く娘婿(宏明)を立てて、孫へ継承させる繋ぎとした。

だが、宏明氏はあまりに性急に権力基盤を確立させようとしたため、社内クーデターによりその地位を追われた。鹿内一族によるグループ支配の野望は潰えたはずだが、遺恨が残ったのは間違いない。この遺恨が、後の村上ファンドやホリエモンによるニッポン放送株の取得による乗っ取り事件の呼び水となった。

創業社長が絶対的な独裁者であった企業は、その継続が難しい。その典型例がフジ・産経グループであったと思う。表題の書は、そのあたりの事情を分りやすく小説風に書いている。ただ、鹿内が鹿野であったりと微妙に名を変えているので、少し分りづらい。

粗筋を書くのは好きではないが、実名が分ったほうが理解しやすいと思うし、なにより著者の覚悟が不徹底だと思う。その意味で、この本は高くは評価できない。まだ関係者が生存中なので、名誉毀損等を恐れての作為であることは分るが、ここまで書いたら8割がた分ってしまう。

だが、事情を知らない人には入門としていいかもしれないので、敢えて取り上げた次第です。興味がありましたら、どうぞ。

コメント (2)
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