ヌマンタの書斎

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「大いなる完」 本宮ひろ志

2008-03-26 13:43:46 | 
金権政治家との評は、正しいと思う。闇将軍との揶揄も、相応なものだと思う。故・竹下や鈴木宗男といった悪い意味での、追随者を産み出したと言われても、仕方ないと思う。

それでも、私は田中角栄という政治家を、大物だと認めている。生で演説を聴いたのは一度きりだが、子供の私でさえ胸に響く言葉を伝えてくれたことは、今も忘れずにいるくらいだ。

現在、論争の的となっている特定道路財源という仕組みを作り上げた政治家の一人が、田中角栄だと言われている。地方に公共事業という名の税金をばらまき、地方の活性化を目指した絶妙な仕組みであった。

この仕組みは、予算を牛耳る官僚や、うま味の大きい公共事業で肥え太る建築業者の利益に適うものであった。なによりも、たいした産業のない地方の寒村に立派な道路や橋を作り、選挙民の懐とプライドを満足させる仕組みでもあった。

霞ヶ関の官僚主導ではなく、永田町の政治家主導の仕組みであったが故に、どうしたって、そこには政治家への不透明な金の流れが出来るのは必然だったといっていい。この仕組みが、自民党の長期政権の秘訣でもあった。

田中角栄を贈賄政治業者だと罵るのは容易い。しかし、後の金目当ての追随者とは異なり、角栄には熱い思いがあった。地方の貧しい暮らしを肌で知っていたがゆえに、地方を豊かにしたいと願う気持ちに嘘偽りはなかった。単に願うだけでなく、それを実現するための尽力を惜しまなかった。だからこそ、今でも新潟の有権者は角栄を忘れない。

角栄の真似をして、道路利権に食い込んだ政治家は数多居るが、誰も角栄ほどの熱い想いを抱くことはなかった。クソ真面目な官僚でさえ、自分たちの利権としか捉えなくなっていた。中間搾取が酷すぎて、もはや末端までにその効力は及ばなくなっているのが、今の実情だ。

もし、田中角栄が今の政界に居たのなら、もはや地方を豊かにしない仕組みなど廃止したかもしれない。彼は誰よりも、貧しい地方の暮らしを心配していた。美化しすぎだとは思うが、今の政局の混迷ぶりを見ていると、あの金権政治業者の親玉さえもが素晴らしく思えてしまう。

その角栄をモデルにして描かれたのが、表題の漫画だ。作者の本宮ひろ志は、あまり好きな漫画家ではないが、この漫画で描いた主人公は、誰よりも政治家、田中角栄の本質に迫っていると思う。外面は似てないが、なにより角栄の熱い想いを見事に伝えていると思う。

間違っても伝記として角栄自身の姿を伝えるものではないが、その内面に秘めた熱い想いが、希代の大金権政治家を生み出したのだと分る漫画だった。あまりメジャーな作品ではないが、もし見かけましたらご一読ください。
コメント (7)
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