曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

幻の真・麻婆豆腐

2022-02-23 20:54:00 | グルメ
何度か書いているが、僕は昔、東京競馬場東口から歩いて5分のところに住んでいた。その頃から通っている中華料理店が最近閉店してしまった。

東府中で1番高いビルの最上階にその店、菜根香はあった。夜、1番高いフロアの窓からオレンジ色の灯りが見えて、おシャンティな店なんだろうなと思って見上げていた。ジャズバーかなんかだろうか。

ある土曜日、なんとなくそこのビルに行ってみたら、中華料理店だった。エレベーターを上がり切って、エレベーターから出るともう店内で、逃げようがなかった。そのままランチメニューの定食を食べた。

菜根香は、マスターと奥さんの二人でやってる店だった。四川料理は辛くて赤いイメージがあったのだが、菜根香の料理は淡い色彩が多く、上品で優しい味だった。いつも空いていて、俺が行かないと潰れると思い、月に二、三回のペースで土曜のランチを食べに行った。日曜は休みだし、夜は高いので、行くのは常に土曜の昼だった。




どの定食も美味しかったのだが、暑い夏の日に食べた胡瓜と中華ハムと鶏肉その他の冷製スープみたいなのが今でも忘れられない。果物は入ってないのにフルーティな爽やかさがあまりにも美味しくて、ぼーっとしてしまい、気づいたら一階だった。料理の名前を覚えておくのを忘れた。

基本的に月替わりの定食を食べていたのだが、ある月は通いすぎて今月のメニューを制覇してしまっていた。それで、今まで食べてなかった固定メニュー「陳麻婆豆腐」定食を頼んでみた。メニューには麻婆豆腐が二種類あって、辛い方だった。

一口食べて一瞬で分かった。今まで麻婆豆腐だと思っていた料理とは違うと。俺は偽物を食べていたんだと。同じく辛くて舌が痺れるのだが、非常に複雑な味で、何かが決定的に違う。あるいは全部が違う。



それ以来、僕は陳麻婆豆腐定食しか食べなくなった。考えてみれば、ここのマスターは赤坂四川飯店にいた人なのだった。店内に陳建民の写真や記念品が飾られていた。エビチリを発明した四川料理の神様・陳建民の弟子だったのだろうか。そうなると、中華の鉄人・陳健一の兄弟弟子ということに。なるほど。とんでもない店が近所にあったものだ。

結婚して引っ越してからは、年に数回しか行けなくなったが、行けば必ず陳麻婆豆腐定食だった。ある時、何の気なしに食べログを検索していたら、菜根香は首都圏の中華で一位になっていた。ヤバい。知られた。口コミでは、赤坂四川飯店と同じ味の麻婆豆腐がリーズナブルな価格で食べられると書かれていた。その頃から、土曜の昼に行ってもランチ売り切れで退散することが多くなった。

櫻井翔と有吉弘行が、長年一緒に番組をやってるのに、ご飯食べに行ったことないから行こう、という企画をたまたま見たことがあった。二人が行ったことがない店に行こうということで、赤坂四川飯店に行った。麻婆豆腐を一口食べた有吉が、何これ別物じゃんと言ってゲラゲラ笑い出した。櫻井翔も、美味いとか言う前に驚いていた。分かるわその感覚。

そんな感じで、僕にとっての唯一無二の麻婆豆腐を食べに定期的に通っていたのだが、コロナ禍の中、菜根香はいつのまにか閉店していた。これからどうすりゃいいんだ。陳健一がYouTubeに赤坂四川飯店のレシピと調理法を上げてるので、真似してみるか。いや無理だな。手に入らない材料がたくさんありそう。ああ困った。もうあれが食べられないなんて。


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