曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

有栖川有栖「江神二郎の洞察」の感想

2023-02-26 12:35:00 | 




学生アリスシリーズ再読ブーム最後の作品は、現状唯一の短編集。アリス1年生春のEMC(英都大推理研)入部から、翌年春のマリア入部までの1年間に起きた事件が、時系列順に収録されている。

各作品が長編とリンクしているのが特徴。アリス1年夏の伊吹山キャンプ場連続殺人事件(月光ゲーム)の話がちょいちょい挿入される。キャンプに行く準備をしてるとか。特にアリスはあの恋愛をずっと引きずっていて、思い出すたびに落ち込んだり、先輩たちに気を遣われたりしている。

では順番に感想などを書く。

瑠璃荘事件

タイトルが黄金時代の欧米本格ミステリーぽい、と作中でも語られているが、何のことはない日常の謎系である。モチ(望月周平)の下宿「瑠璃荘」で講義ノートが盗まれたのを江神さんが解決する。日常の謎とはいえ、タイムラインを作って各人の可能・不可能を検討し、最後は発想の転換でフィニッシュする本格的な謎。EMCメンバーが初めて江神さんの推理力を目の当たりにした、いわば「江神二郎最初の事件」

ハードロック・ラバーズ・オンリー

タイトルはなんのこっちゃって感じだが、何のことはない、ハードロックを大音量で店内に流す喫茶店が舞台。アリスがハードロック好きだというのがこれで判明。事件でもなんでもなく、この喫茶店で知り合った女性が、アリスの呼びかけに返事しなかったのはなぜか、という純粋な日常の謎。江神さんの謎解きも、まあこんなかんじやろ、と理由を捻り出しただけって感じ。だが、この解決は後の「除夜を歩く」で正解だったと判明する。

やけた線路の上の死体

作者が世に出るきっかけになった作品らしい。有栖川有栖が同志社大学推理小説研究会の機関誌に発表したこの短編が、鮎川哲也の目に留まってプロデビューを果たしている。時期はアリス1年生の7月で、伊吹山キャンプの前に南紀白浜のモチ実家にみんなで遊びに行く話。日常の謎ではなく、ちゃんとした殺人事件である。シャーロック・ホームズの「ブルース・パティントン設計書」に似ていて、個人的には、その発想はなかったわ的に驚けなかった。モチのお母さんが美人なのが意外。

長編はクローズドサークル内の事件のみで警察がいないため、留年しまくり大学生に過ぎない江神さんでも捜査できるのだが、この短編集の事件は全部オープンスペースなので、彼に捜査権がない。記者に訊いたり、嘘ついたり演技したりして情報を集めなければならず、若干苦しい場面も。この事件でも、無関係な大学生がそれやっていいのかよって手段で解決(実験)する。

桜川のオフィーリア

長編「女王国の城」で唐突に初登場したEMC創設メンバー・石黒操が持ち込んだ過去の事件。「ハムレット」で川で死んだオフィーリアにかけているのだが、僕は「ツインピークス」のローラ・パーマーみたいだなと思った。川に浮かんだ美少女の美しい死体と、その写真の謎を推理する。雑誌に載った写真が奇跡の一枚になった理由を考えれば、割と簡単。場所が神倉近くで、被害者の両親が人類協会の会員だったりして、そこでも「女王国の城」とリンクしている。

四分間では短すぎる

ケメルマンの記念碑的短編「9マイルは遠すぎる」に挑戦した作品。アリスが聞いた「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。いや、Aから先です」というセリフだけを頼りに、EMCが推論を重ねて大事件との関連を突き止める。「9マイル」に挑戦と言えば、米澤穂信の古典部シリーズ「心あたりのある者は」が思い浮かぶが、真正面から挑んだ米澤版と違い、こちらはひねり倒しており、終盤二転三転して結局何だったんだという感じになる。途中、モチと信長の松本清張「点と線」論が挿入され、先人達の9マイル系に比べてかなり長い。9マイル系推論法については、いつか当ブログでも書いてみたいと思っている。と自分にプレッシャーをかけておく。

開かずの間の怪

信長(織田光次郎)主催の幽霊病院探検ツアーで、まさかの本物?みたいな事件。裏で必死に頑張っている信長がかわいい。伏線やヒントがちりばめられた謎解きではなく、ホラー短編という風情。方向性というかオチが前述の「四分間~」に近いので、またか、と若干なった。

二十世紀的誘拐

モチと信長のゼミの先生の弟が仕掛けた事件。意外になかったモチ・信長だけのシーンというのが多くて新鮮。短編なので謎解きは1つ解ければ全部解決という規模だが、伏線やヒントはきちんと配置されていて、かつ最後の詰めは発想の転換が必要。有栖川有栖っぽい理詰め+思考のジャンプを要求する作品だった。犯人に振り回されるところが、ささやかながらもダーティーハリー1作目やダイハード3作目のようで、それをEMCでやってるのが少年探偵団ぽくて楽しい。

除夜を歩く

タイトルはカー&横溝正史の「夜歩く」から来ているのだろう。好きだね「夜歩く」。アリスと江神さんが大みそかの京都を歩きながら、望月周平著「仰天荘殺人事件」の謎解きをする。書いたのがモチという設定なので、素人っぽいミスや設定の穴を込みで推理しなければならないのがちょっと面白い。推理小説についての哲学的考察やら、京都の大みそか文化みたいなのの紹介もあり、考えさせられたりためになったりする作品。

蕩尽に関する一考察

ついにマリア(有馬麻里亜)が登場。長編「孤島パズル」で語られた通りの経緯でEMCと知り合いになる。他の短編もそうだが、まず長編があって、長編に出てきたEMCにまつわるエピソードを補完するために短編を書いたという感じもする。ので、先に長編を全部順番通りに読みましょう。

タイトル通り、人がお金を無駄に使うとき、どういう意図が考えられるのかを、あらゆるパターンで江神さんが考察する。アリバイとかより、まずその謎がメインで、それが分かれば全部分かるしくみになってる。そういうの有栖川有栖は多い。

伊吹山のことを引きずっているので、アリスはマリアに対してまだぎこちない。マリアもまだ「有栖川君」と呼んでいる。男に比べると、女の子の背中ってこれしか面積がないんだな、という一節が、異性についての若者らしい発見のさりげない描写で上手いなと思った。文章講座開いてるだけある。

名探偵は悲劇の幕を引くだけでなく、悲劇を未然に防ぐこともできるということを江神さんが証明し、半信半疑だったマリアも感動してEMCに入部する。そのとき、マリアの黒い瞳が炯炯と輝き、というのがマリアらしいというか、物思いに沈んでいると思えば名推理に興奮したり、魅力的な個性だと思った。こういう女子大生と知り合えていれば、僕の大学生活はもっと面白かったのだろう。


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セブンイレブンの赤坂四川飯店監修「麻婆麺」

2023-02-24 12:41:00 | グルメ
セブンイレブンの中華フェアで、また赤坂四川飯店監修モノを見つけた。今度は麻婆麺である。



辛味による刺激が大変強いので、と警告文がついているが、麻婆炒飯に比べるとそうでもない。

麻婆炒飯のような、苦味すら感じる複雑な辛さとは違い、シンプルな辛さだった。わずかに酸味もあるかも。





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オンラインゲーム、あるいは近未来における鎮魂の儀

2023-02-21 21:45:00 | デジタル関係



2月21日は「Final Fantasy XIV 光のお父さん」テレビ版で、光のお父さんこと稲葉博太郎/インディを演じた大杉漣の命日。エオルゼアパートの監督が、インディさんを思い出の場所に立たせているとの情報を得て、サブ子は急遽グングニルサーバーに飛んだ。

本来ならそういう業務は、グングニル駐在員のサードキャラ・レン子さんでやるべきだが、ブログの記事にするなら、読者様にはおなじみサブ子の方が絵的によかろうと考えて、ワールド間テレポしたのだった。

黒衣の森は狭いけど地形が複雑だ。見つからなかったらどうしよう。9時頃までって話だから、探すのに手間取ったら間に合わないかもしれない。

だがそれは杞憂だった。Indyでサーチしたら弓術士レベル13だ。弱い。絡まれない場所なら限られている。と思ってちょっとマウントで飛んだらすぐ分かった。すごい人だかりだったから。これは見逃すわけないわ。


大勢が遠巻きに取り囲んでおり、インディさんとツーショットとか撮る勇気が出なかった。ので、とりあえず彼が得意だった筋肉美ポーズ。向こうのヒューラン男子がインディさんだ。


一応本物の証拠として他人ネームプレート表示で撮影。本物と言っても、撮影で使ったインディさんであって、光のお父さん本人のキャラではない(はず)。本人は詩人カンストしてるだろうし、多分キャラ名はインディではない。

近づきにくいし、これ以上どうすれば、と見回すと、マイディーさんのコスプレをした人が何人かいた。負けてらんねえ。

ということでメイン子にチェンジ。DCトラベルでグングニルに移動。モンクに着替えて現場へ。



マイディーさんのコスプレ勢は、エモート「演武壱」のまま静止していた。マイディーさんがよくやってたポーズだ。なるほど、そういうことか。



ちょうど良き位置で演武壱。演武買っておいてよかった。奮発してピュアホワイトで染色しておいてよかった。ちなみにモンクのレベルは現在72まで上がっている。



前から見るとこうなる。他のコスプレ勢が静止してるので僕もしばらくこのままにしておいた。撮影したい人がいるかもしれんので。



逆側に移動したら、そのまんまなマイディーさんがいた!! が、名前を見たら別人だった。でも多分キャラクリデータ的には同じだ。マイディー立ちしてるし、もうこれは後継者でしょう。



誰かがシャウトで主題歌「the other end of globe」を歌い出した。「マイディーさんまでw」という声が聞こえた。なんとインディさんの横に「ジャージ」姿のマイディーさんが!!!

この頃になると人が多すぎてネームプレートが一部非表示になっていた。苦労してカーソルを合わせたら、よく分からん名前だった。撮影で使われたマイディーさんなのか? お父さん以外は本人のデータを使ったと思うのだが…。エモとか装備とかマクロとかの仕込み大変じゃん。

亡くなったあとも、同じデータのその人に会うことができて、追悼することができる。リアルではなかなかできないことだが、美空ひばりのCGとかもあったし、人工知能がやばいことになってきてるし、未来の弔いはこうなるのかもしれない。生前のその人と同一の姿で、同じ思考回路で語りかけてくる故人に会うという形に。






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セブンイレブンの「赤坂四川飯店監修 麻婆チャーハン」

2023-02-15 12:34:00 | グルメ



セブンイレブンの中華フェアとやらの「赤坂四川飯店監修 麻婆チャーハン」を見つけて速攻で購入。

赤坂四川飯店監修ということは、あの幻の麻婆豆腐と同じ味なんだろうか。

幻の真・麻婆豆腐 - 曖昧批評

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何度か書いているが、僕は昔、東京競馬場東口から歩いて5分のところに住んでいた。その頃から通っている中華料理店が最近閉店してしまった。東府中で1番高いビルの最上階に...

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見た目からちょっと違う。菜根香の陳麻婆豆腐は、もっと鮮やかな赤だった。透明感すらある真紅のタレ?だった。

結構辛い。舌と唇が痺れる。でも陳麻婆豆腐ほど辛くはない。見た目通り、陳麻婆豆腐よりコクがあるというか、ボディがあるというか重いというか。キレの陳麻婆豆腐と、コクのこれって感じ。



チャーハンと一緒なのがどうなのかと。チャーハンにも味があるので、多少混ざる。白飯でよかったのに。赤坂四川飯店の炒飯を食べられるんだから、これはこれでいいっちゃいいのだが、麻婆豆腐がパンチありすぎなので、チャーハンの存在感は薄い。

陳麻婆豆腐と完全に同じ味ではないが、コンビニなどで手に入る麻婆豆腐としては最高峰だとは思う。期間限定だろうから、無くなるまで食べ続けそう。既に2日連続で食べてる。


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有栖川有栖「女王国の城」の感想

2023-02-12 21:30:00 | 


学生アリスシリーズの再読も、ついに第4作、「女王国の城」である。

第3作「双頭の悪魔」が発表されたのが1992年で、本作は2007年。なんと15年も間隔が空いた。作品の舞台は変わらず1990年頃なので、携帯電話やインターネットは存在しない。例によって舞台はクローズドサークルで、電話を外部にかける、かけないで揉めるシーンが多く、2007年当時でも、これ携帯電話で解決するのに、ともどかしかった記憶がある。

今回の舞台は長野の山奥にある新興宗教の町。宇宙人が啓示を授けにやって来るのを待つ団体「人類協会」の本部にEMC(英都大推理研)のメンバーが軟禁され、中で連続殺人事件が起こる。

登場メンバーの構成が目まぐるしく変わる。まず江神さんが行方不明になり、残りの四人で探しにいく。江神さんと一時的に合流した後、信長とマリアという意外なコンビ、モチとアリスのコンビに別れる。その後、江神・アリス、モチ・信長・マリアに別れる。

今までなかったマリア、モチ、信長というのが新鮮。長編ではマリアはモチ、信長と一緒にいたことがほとんどないのだ。孤島パズルで置いてきぼりを食らったモチ・信長への埋め合わせと、新味を出すためにそうなったんだろうか。

アリスがいない場面はマリアが語り手になる。マリアパートは白抜き項番でそれとわかるようになっている。いろんなメンバーと組むので、マリアが他のメンバーをどう思っているのかが、今まで以上に分かる。

アリスと再会したときは身体が震えていた。ついでに無くしたイヤリングも見つかり、最後の再会シーンはちょっと感動した。

アリスに「俺に命を預けてくれるか」と訊かれて、最初は「少しだけなら」と言い、背後でモチと信長が歓声を上げる。最後に「全部」と言う。

これは車の運転のことを言ってるのだが、僕は邪推している。アリスとマリアは最終的にくっつくのではないかと。それを匂わせているのではないかと。本作が世に出てからそろそろ15年経つ。あの二人の関係に決着を付けるためにも、とっとと第5作を書いて頂きたい。

事件の方は、凶器の拳銃を取りに行くための時間帯を絞り込んで犯人確定。その他の推理もシンプルで、上下巻合わせて850ページの大作にしては謎解きの重みが足りなかったかも。300ページの長編くらいの謎解きなんだよな。イメージとして。

ダメではないんです。「このミス」3位は、前作の6位より上。論理はちゃんとしてる。犯人だけを相手に謎解きをする江神さんが、珍しく一同を集めてやるのも良い。でも謎に重苦しさや怖さはなかったかな。横溝正史「病院坂の首縊りの家」や、笠井潔「哲学者の密室」など、その作者の最大の長編には、それにふさわしい壮大な謎解きがあるもんだが、それはない。

その代わり、冒険フェーズあるいはアクションシーンが多くて長い。信長が盗んだバイクで走り出し、マリアが後ろに乗って背中にしがみついて大脱走とか、追ってくる協会員と「逃走中」ばりのかくれんぼとか。ほぼ本筋とは関係ない少年少女探偵団の冒険活劇が頻繁に挟まるため、ページが増え、ミステリーとしては薄くなったきらいはある。

でも冒険シーンも面白いから許す。威勢のいい言葉は何かという会話で、「バッケンレコード」「新幹線大爆破」と並んで挙げられた「暴れ太鼓」がポイントだった。なぜか外に出してくれない協会と対峙して、そろそろ暴れ太鼓か?みたいなやり取りが面白い。暴れ太鼓は、前作の雨中の合戦から始まってるので、どれから読んでも大丈夫といわれている学生アリスシリーズだが、やはり順番に読んだ方が笑えると思う。

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