曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

湊かなえ「Nのために」の感想

2022-02-11 21:27:00 | 



湊かなえの「Nのために」を読んだ。二度目だ。テレビドラマ版を久しぶりに見返して、映像では描かれない各人物の心情や設定を、原作でもう一度確認したくなったのだ。

テレビドラマ版は、僕が今まで見た中でもNo.1かもしれないというくらい出来が良かった。対して、原作は、湊かなえのワーストと言われるほど評価が低い。




高級タワーマンションで商社マンと妻が殺された。その場にいたイニシャルにNを持つ四人の若者の一人、西崎真人が、自分がやったと自供した。だが、四人にはそれぞれ密かに守りたい相手や葛藤があり、真相はもっと複雑で意外なものではないかと思われた。特に、同じ離島出身の杉下希美と成瀬慎司には、放火事件の現場に二人で居合わせて容疑をかけられるという過去があった。

このタワーマンション殺人事件の日に向かってそれぞれの物語が収束し、また別れていく。運命が悲劇的に交差してしまった四人の人生に、何とも言えない何かを深く考えてしまう。

ミステリーとしても、西崎の到着の遅れや、成瀬が安藤望のプロポーズを知ってしまうところ、その安藤が事件直前に杉下の本当の相手を知らされるなど、予定外の出来事が次々に起きて緊迫感が半端ない。良いミステリーは、大抵の場合、計画を乱す要素が盛り込まれている。

...という概略をすらすらと書けるのは、テレビドラマを先に見て、何度も見て、最近も見たからだ。原作である本書だけでは、この物語の全体図を把握するのは困難である。

ドラマでは、タワーマンション殺人事件に向かってカウントダウン的に話が進む。高校時代の放火事件、大学に入ってN作戦決行、「事件当日」、そしてその後の四人が順番に描かれる。緻密に、かつドラマチックに構成されている。

しかし原作は、四人それぞれの供述がアトランダムに現れる構成になっている。時系列がバラバラのように見え、話の流れがわからない。安藤の性別を隠した叙述トリックも、読者を無意味に混乱させる。重要な鍵となる放火事件が、さらっと流して書いてあったりもする。一番盛り上がらなくてはならない終盤が、謎解きというより単なるオチになっててずっこける。

前述のように、この原作は、湊かなえのワーストとも評されている。それを、僕のテレビドラマ視聴史上最高傑作にまで作り替えた、脚本の奥寺佐渡子の手腕には感服せざるを得ない。本書は、僕のように、まずテレビドラマ版を見て泣き、映像では分からない各人物の心情や設定を知るために読む、というのが正しいと思う。



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