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セガのマスビンゴゲーム(3) ビンゴサーカス(Bingo Circus, 1989)とその後継機種

2018年03月04日 17時48分37秒 | スロットマシン/メダルゲーム

日本で初のマスメダルビンゴであるグループビンゴが発売されたのは1975年ですが、それから「ビンゴサーカス(Bingo Circus)」が発売される1989年までの14年の間に世に出たマスメダルビンゴ機は、前々回で言及したセガの「ワールドビンゴ(1986)」と、タイトーの「カラービンゴ(1977)」しかありませんでした(「カラービンゴ」は少しだけ思い出深い機械なので、いずれ機会を改めて述べてみたいと思います)。つまり、ビンゴサーカス発売時点では、ビンゴはまだマスメダルゲームを支えるジャンルとは言えない状況でした。


ビンゴサーカスのフライヤー。


「ビンゴサーカス」の抽選機構は、前回詳しく述べた「グループビンゴ」を手本として、円形の浅いすり鉢状のプレイフィールドにボールを投入して番号を決定していますが、グループビンゴのプレイフィールドは固定されていたのに対し、ビンゴサーカスでは反時計回りに回転するように変化しました。そして「ビンゴサーカス」の名は、この円形のプレイフィールドをサーカスが演じられる「リング」に見立てて命名されたものです。フライヤーの筐体画像では見えませんが、屋根の下にあるジャックポット表示の短辺側の反対面には、リングリングサーカスの惹句をもじった「The Greatest GAME On Earth」の文言が描かれていました。

「ビンゴサーカス」は25穴のインラインタイプで、キーフィーチャーには「マジックスクウェア」が採用されていました。「マジックスクウェア」とは、縦5×横5のビンゴカード上の、四隅の四つの数字をローテートできるフィーチャーです(下図参照)。


マジックスクウェアの説明図。A~Dに示される四つのスポットごとに数字を回転させることができる。このフィーチャーの元ネタであるバーリー社のビンゴ・ピンボールでは、4つのマジックスクウェアをカードの左上に固めて、最も右の縦ラインを固定、最も下の横ラインをマジックラインとしたタイプもある。

「マジックスクウェア」自体は、バーリーのビンゴピンボールでは1950年代半ばから見られるキーフィーチャーですが、ビンゴサーカスが画期的だったのは、これをすべてのゲーム参加者が無条件に使えるようにしたところにあります。従来のビンゴ機のキーフィーチャーは、ベットするたびに行われる内部抽選に当選しなければ使えないのがお約束のルールだったので、これはコペルニクス的転回とも言うべき大改革でした。これにより、メダルを豊富に持つハイローラーでないと十分に楽しめないゲームだったビンゴが、それほどメダルを持っていない人でも楽しめるゲームになりました。

しかし、抽選によって有効となるキーフィーチャーは、よりたくさんのメダルをベットさせるための仕掛けでもありました。ビンゴサーカスはその仕掛けを放棄したので、このままでは高いインカムが望めない懸念が出てきます。そこでビンゴサーカスでは、ビンゴカードに設定される縦5本、横5本、斜め2本の合計12本のペイラインを、メダルが1枚ベットされるたびに1本ずつ有効にしていくという、スロットマシン(リールマシン)では既にポピュラーだった「マルチペイライン」の概念を導入しました。これにより、全てのペイラインを有効とするのに必要なメダル10枚を、事実上のミニマムベットとしました。

ラインは12本あるのにメダル10枚で全てのペイラインが有効になることには若干の説明を要するかもしれません。マジックスクウェアのビンゴカードでは、縦横それぞれの中央のラインはマジックスクウェアに絡まず、番号の並びを変えることができません。そこで、メダル8枚目まではマジックスクウェアに絡むラインを1本ずつ有効にして、9枚目で右下がりと縦中央の2本のラインを有効に、10枚目では右上がりと横中央の2本のラインを有効にすることで、メダル10枚で全ラインを有効にしていました。


マルチペイラインの説明図。メダルを1枚ベットするたびに、矢印1、矢印2・・・ の順に有効となる。9ベット目では、右下がりと縦中央ラインの2本が有効となり、メダル10ベット目では右上がりと横中央ラインの2本が有効となる。右上がりのラインは「スーパーライン」で、他のラインと異なる赤色で示されていた。

これは、番号が固定されているラインを他のラインと等価に扱うことを不合理と考えたということもあるでしょうが、それ以上に、ワンアクションでメダル10枚をベットすることになる「10ベットボタン」を1回押すだけでミニマムベットを満たすことができるようになる利点の方がより大きな理由でしょう。いずれにしても、優れた工夫だと思います。

また、メダル10枚目で有効となる右上がりのラインは、3インラインや4インラインの配当が2倍となり、5インラインが完成すると筐体の屋根の下に7セグで表示されているジャックポットが獲得できる「スーパーライン」とすることで、メダルを10枚ベットする動機を強めていました(正確には、表示されているジャックポットと、その時の5インラインのスコアの合計が獲得できました)。

こうして最低限のインカムを稼ぐ仕掛けを作りはしたものの、まだキーフィーチャーを抽選で有効にするタイプに比べると弱いのではないかと思われます。しかし実際に稼働してみると、ミニマムベットで遊ぶプレイヤーはむしろ少なく、1回のゲームに相当量のメダルをベットするプレイヤーが続出しました。もともとハイローラーは、より強い刺激を求めて高いスコアを得るためにたくさんのメダルをベットする気が満々ですし、それほど豊富にメダルを持っていない人でも、毎回10枚ものメダルをベットしているうちに金銭感覚が麻痺してくる上、キーフィーチャーは保証されているので多少のメダルの節約を考えるよりもスコアを上げたいという気持ちも働いたように思われます。


ビンゴサーカスのペイテーブル。10段階あり、前半の5段階までは上がり幅が小さいため、ミニマムベットの範囲でもたいてい3~4段階は進んだ。

キーフィーチャーこそ無償化したビンゴサーカスにも、ベットによる抽選で有効となるフィーチャーが3種類用意されていました。カードの四つの角をすべて点灯させると200枚または500枚の大量メダルが獲得できる「4コーナー」は、四隅がマジックスクウェアで動かせるこのゲームではそれなりに期待が高まるフィーチャーでした。また、特定の二つの番号の組み合わせのどちらかが点灯すればばもう一つの番号も有効となる「ツインナンバー」は、1番と25番、7番と13番の組み合わせがありました。ビンゴカード上の番号は毎回ランダムに決定されていましたが、ツインナンバーのこの4つの数字だけは、常にカード上の決まった位置にありました。


フライヤーより、ビンゴサーカスのサテライト部分のアップ。左上側にフィーチャーの表示がある。

もう一つの有料フィーチャーである「エキストラスポット」は、動かすことができない縦横の両中央ライン上に設定された5個のスポットのいずれかが、ボールが入らなくても有効となるフィーチャーです。ビンゴサーカスでは、4コーナーを除けば、必ず一つはこのライン上のどこかが点灯する必要があるので、一つでも有効となればチャンスは大きく膨らみます。とりわけセンタースポットの威力は強力でした。エキストラスポットは複数が有効になることもあり、エキストラスポットだけでもう3インラインが完成することもありました。ただ、エキストラスポットが点灯するとスコアが上がりにくくなりました。また、せっかく有効となったエキストラスポットの番号にボールが入ってしまうという不運もしょっちゅうありました。


エキストラスポットの説明図。縦と横の中央のラインの★のスポットが抽選により有効になる。

機械動作部分が多い機器の宿命とも言えることですが、ビンゴサーカスは故障が多く、オペレーターにとっては厄介な機械だったとの声もありました。しかしプレイヤーの支持は強く、ロケの運営に欠かせない機器の座を得て、続編の「ビンゴプラネット」が発売される1997年まで8年を要するロングラン機ともなりました。

 
ビンゴプラネットのフライヤー。「超ロングランの『ビンゴサーカス』がパワーアップ!」の文字が見える。

ビンゴプラネットは、宇宙空間をテーマとして、ブラックライトと蛍光色を多用したファンタスティックなルックスになり、有料のキーフィーチャーも大きく変わりましたが、ゲームの基本である抽選機構と無料で使える「マジックスクウェア」はそのまま受け継がれました。

そして「無料のマジックスクウェア」は、更なる続編である「ビンゴパレード」(2005)と「ビンゴギャラクシー」(2007)にも受け継がれています。これはセガが手を抜いたということではなく、マジックスクウェアは、無料で使えるキーフィーチャーとしては最も優れた究極の方法であったのだと思います。ビンゴパレードの開発者(ビンゴサーカスの開発者とは異なる)からじかに聞いた話では、ビンゴサーカスに対するリスペクトの思いを込めて、「ビンゴサーカス3代目」を意味する「BC3」の文字が、サテライトの隅に目立たない色でこっそりと描かれているそうです。

こうして連綿と続いてきた「ビンゴサーカスシリーズ」は、残念ながらビンゴギャラクシーを最後に出てきておりません。現時点で最も最後に発売されたマスビンゴ機は「ビンゴドロップ」(2012)ですが、これまでのビンゴサーカスシリーズとは抽選機構もフィーチャーも大きく異なる、全く別のビンゴゲームでした。しかし大型プッシャー機全盛という時流の変化もあるでしょうが、ビンゴサーカスシリーズの最後の機種である「ビンゴギャラクシー」はまだ稼働を続けているにもかかわらず、これは全く普及しないまま忘れ去られてしまいました。セガとしては、おそらくはマンネリを避けたいと考えたのだと思います。ゲーム内容は非常によく考えて作られていたとは思うのですが、20年以上に渡って続いていたビンゴサーカスシリーズのファンを切り捨てた決定には大いに疑問を感じます。

ちょっと余談ですが、ビンゴサーカスは台湾にも輸出され、日本以上の大ヒットとなりました。台湾はギャンブルは禁じられていますが、当時は日本のパチンコとメダルゲーム機によるギャンブル営業が大ブームとなっており、ビンゴサーカスは数百台が輸入され、さらに現地でその倍のコピー品が作られたとも聞いています。台湾では、店がゲームに独自のプレミアムを付けて営業するということがよく行われ、ビンゴサーカスの場合は、スコアが最高に上がった状態でスーパーラインに5並びが完成すると法外なボーナスを支払うということが行われていたとのことです。これにより、プレイヤーはみな10ベットボタンを叩きまくっていたそうです。また、台湾の人たちはプログレッシブジャックポットは自分が入れたカネを他人に奪われるようで嫌う気性があるとのことで、ビンゴサーカスの台湾版は、ジャックポットがプログレッシブにはなっていなかったそうです。

(おわり。次回は、セガのマスビンゴのもう一つの流れであるビンゴパーティーシリーズの予定)

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2018-03-04 19:31:04
いつも、楽しく拝見させていただいております。
台湾版について経験の記憶から・・・
台湾版は、JPがランダムで数値が決まって
毎回違う数値が表示されます。
また、店員が本体装置の一部を操作できて
エキストラスポット等を追加してくれます。※多分コピー版かも
一時期10台湾円を直接投入の店がありましたが、その後たばこ1カートン制(買い取りあり)としていた記憶があります。
シグマ社が台湾でフランチャイズしていたときも、BINGOサーカスを輸出していました。この時は、1コイン50クレジットで1BETキーは潰されていました。
フランチャイズ店では、景品等の交換不可だった記憶があります。
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Unknown (nazox2016)
2018-03-04 22:26:43
どちらさまかは存じませんが、ビンゴサーカスの台湾版の情報を教えてくださり、ありがとうございます。当時は、日本のパチンコ(ほとんどはいわゆるセブン機)のソフト部分を改造してギャンブル営業に供されていたそうなので、ビンゴサーカスでも同様のことが行われていたのかもしれませんね。
sigmaが台湾でフランチャイズしていたというお話は存じませんでした。当時の台湾では、sigmaのルーレット機(000の目があった)や、やはりsigmaの、白黒液晶を使用した大小も流行ったと聞いています。果ては、ビンゴサーカスのグラフィックを流用した筐体にsigmaのルーレットを載せた機械まで現れたと聞き、なんでもありなんだなあと感心したものでした。これからも面白いエピソードがありましたらご教示ください。
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