オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

コインマシンやギャンブルゲームやカジノの歴史的エピソードとか、時々カジノ旅行記とか、たまにスポーツやマンガとか。

TV報道番組に見る1978年のAM業界(1)メダルゲーム

2020年02月23日 22時01分22秒 | 歴史
昨年末、さる方から、1978年にTVで放映された「ビジネスナウ! 大流行・ゲームマシン(以下、「番組」とする)」という20分間の報道番組のビデオをいただきました。番組放映時はインベーダーブームが発生する直前の時期でしたが、ビデオゲームの発達とメダルゲームのブームにより、ゲーセン業界がようやく一般社会からそれなりの注目を浴びるようになった頃です。今回はこのビデオをネタに、今後何回かに分けて1978年当時のAM業界の様子を振り返ってみたいと思います。

番組は、キャスターに斉藤精一郎氏、リポーターにきうち玲子氏、ゲストとして「レジャー施設評論家」という肩書で中藤保則氏が出演されています。

中藤氏は、業界誌「アミューズメント産業」の編集長を務める傍ら多くのAM関連の記事を執筆され、また余暇と健康に関する研究を行い、後年は日体大、フェリス女学院、実践女子短大、信州短大などで教鞭を執っていらっしゃいました。氏は2017年3月に、74歳という、世を去るにはまだ少し早いと思われる年齢で物故されてしまっています。貴重な語り部を失ってしまうことは、実に全く残念なことです。

番組は、1978年の10月18日~20日に晴海で行われた第16回AMショウの様子を、中藤氏の案内できうち氏がレポートするところから始まります。その冒頭では、当時の全日本遊園協会(JAA)の会長で、前年に産業功労者としての叙勲や、100歳を超えてなお社長として活躍していることなどで有名となる日本娯楽機(現・ニチゴ)の遠藤嘉一氏の開会のスピーチや、ATARIの創始者であるノーラン・ブッシュネル氏の参列シーンがあり、「バイヤーとして海外からの来場者も多い」と紹介されています。


番組冒頭のシーン。左上:きうち玲子氏(左)と斉藤精一郎氏(右)。 右上:中藤保則氏。 左下:遠藤嘉一氏。 右下:ノーラン・ブッシュネル氏。下段、遠藤氏とブッシュネル氏は18回AMショウの模様の冒頭の様子より。番組ではAMショウを「世界三大アミューズメントマシンショーの一つ」と紹介し、出展社は60社としている。

きうち、中藤両氏がショウ会場に入ったところのシーンで、斉藤氏から、「ゲームマシンにはどういった種類があるのか」という質問があり、これに対して中藤氏が、「大雑把に分けてメダルを使うメダルゲームと、お金を使うアーケードゲームがある」と説明しています。そして画面では、スロットマシンに興じるきうち氏が映し出され、その後しばらくメダルゲームの紹介が続きます。


左上:メダルゲームの例としてスロットマシンとビンゴを挙げている背後でスロットマシンに興じるきうち氏。 右上:続いてクロンプトンのプッシャー「スプラッシュダウン」(関連記事:プッシャーに関する思いつき話(2):日本におけるクロンプトン )が紹介されている。 左下:ジャトレから出展されていた「TV21」(関連記事:メダルゲーム「TV21」(ジャトレ・1977)の謎)右下:セガの「グランプリ・フォー(関連記事:ヘンなゲーム機「GRAND PRIX FOUR」(SEGA, 1977-8?)の記憶(1)

この画像の左上できうち氏が試遊しているのは、ユニバーサルの「コンチネンタルマークV」です。発売時期はまさに1978年の10月で、そのフライヤーには「マイクロコンピュータ制御システム」とか「電磁ソレノイド方式によるリール回転停止機構(特許出願中)」などの文字が見えますが、具体的にどんな機械制御が行われているのかはわかりません。そしてワタシは、ユニバーサルのコンチネンタルをゲーセンで見た覚えがほとんどありません。1978年と言えば、この元ネタである米国Bally社の「スーパーコンチネンタル」はもう十分市場に普及しまくっているので、今更同じ内容のゲーム機を出してもさほど売れなかったのではないかと想像しています。


ユニバーサル「CONTINENTAL MARK・V」のフライヤー。「S58.10.10」の日付が見える。

(つづく)

ゲーセンと法律の話(3)新概念「特定遊興飲食店」をゲーム業界に活かせないものか

2020年02月16日 19時00分01秒 | その他・一般
前回まで
・2016年、風適法に少し大きな改正があり、風俗営業は第8号営業までの8種類から、第5号営業までの5種類に減少した。
・第5号営業の許可を要する遊技設備は、下位法令の「風適法施行規則」で、5種が定められている。
・風俗営業とされた業種は、深夜の営業ができない、営業できる地域に制限がかかるなどの制約がある。


******** これより今回の話 ********

2016年の風適法改正により、風俗営業は第5号営業までの5種類に減少しました。これは既存の風俗営業の定義を整理・統合したことによるものですが、たった1つだけ、風俗営業の対象から外された業種がありました。それが、クラブやディスコなど客にダンスをさせる営業である「旧第4号営業」でした。

この旧第4号営業は、古くは「ダンスホール」という業態が存在し、そこでは売春を媒介するなど風俗上の問題が生じる実態があったことが風俗営業とされる理由となったと聞いています。しかし、当初は社交ダンス教室まで含んでいたなど一般的な社会通念に照らしておかしいと思う点がもともとありました。

とは言うものの、一方では確かに、ゲーセンと同じく少年非行の温床となりうる環境を提供する営業が行われていた事実もありました(関連記事:ゲーセンと法律の話(1):まずは風適法の解説から)。それがなぜ風俗営業から外されたのか、ワタシはよく理解していません。

ただ、ダンスをさせる営業は風俗営業でこそなくなりましたが、この法改正により、全く新しい概念である「特定遊興飲食店」というジャンルが風適法内に新たに設けられ、ダンスをさせる営業はここに加えられました。「特定遊興飲食店」は、所轄の警察署の許可を要するという点は風俗営業と変わりません。しかし、風俗営業ではないので深夜でも営業ができます。「特定遊興飲食店」とは、「遊興」、「酒」、「深夜」の三要素すべてを備えている業種です。これに該当する業態には、ダンス施設のほか、ライブハウス、カラオケパブ、ショーパブ、スポーツバーなどがあります。

ところで、かつては2万軒以上あった第5号営業も現在は4000軒余りにまで減少しています。これには、大規模店舗が増加し、多数の中小規模店舗が閉業したという事情もあるので、軒数の比較だけで一概に衰退しているとは言えないところもありますが、昨今はその大規模店舗の閉業も目立つようになってきており、ゲーセン業界は虫の息と言ってよい状況になっていると思います。このようなゲーム業界の再活性化のためには、新たな客層を取り込むことが可能な新しい業態の出現が望まれますが、風適法の縛りがある限り、そのような飛躍は非常に難しいです。

ゲーセンが風俗営業に組み込まれた理由には、ゲーム機による賭博営業と、少年非行の温床となることへの警戒があったからですが、「少年非行の温床」については各都道府県の条例で対応できる範囲のものであり、残るゲーム機による賭博営業については、現在はその実態はほぼ認められない状況にまでなっています。このような営業は、もはやダンス営業と同様、一部の制約を残すことはやむを得ないとしても、もう風俗営業としておく必要はないのではないかと思います。

ここで思い出していただきたいのが、過去記事「ゲーセンと法律の話(2)風俗第5号営業(ゲーセン)の要件と制約」で述べた、「風俗第5号営業の許可を要する設備」の件です。風適法施行規則では5種類の遊戯設備を風適法の対象に定めており、「エレクトリックダーツ」はこのうちの4番目である「遊技結果が表示されるゲーム機」に含まれていたのですが、一昨年(2018年)の9月に、シミュレーションゴルフとともに対象から外されることとなりました。

もともと「遊技結果が表示されるゲーム機」には該当要件のみが記されているだけで、具体的な機種をいちいち挙げるようなことはしていませんでしたが、警察庁が各地方警察に対して「デジタルダーツとシミュレーションゴルフは、遊技結果が表示されるゲーム機として規制する機械の対象とはしないことにしたからみんな適正な許可事務をしてね」との通達を出すことにより、それらが非対象機種であることが明文化されたことになりました。

なぜ、ことさらエレクトリックダーツ(と、シミュレーションゴルフ)だけが除外されたのでしょうか。第一の理由とされたのは、「ダーツはプロもいるスポーツである」という理屈です。これは、ボウリングがスポーツであるとの理由から風俗営業の対象となっていない(ただし、各都道府県が独自に定める地方条例による制約は受けている)ことから見ても、整合性が感じられます。

しかし、業界の識者から話を聞くと、エレクトリックダーツを風俗営業の対象から外す真の目的は、「ナイトエコノミー」と「インバウンド」にあるようです。つまり、今後観光立国を目指したい日本としては、外国人観光客が深夜も遊べるスポットを増やしたいという思惑があり、エレクトリックダーツを設置する「ダーツバー」はその目的に合致すると判断されたということです。

賭博に流用されうるという理由で設けたはずの制約を、一部に限るとは言えなかったことにするのは、最初からそんな制約は必要なかったのではないかとも思えます。「ダーツにはスポーツとしての実態が認められる」なんて理屈は、おそらくそんな批判をかわすための言い訳ではと疑っていますが、まあ、ともあれ、制約は少ないに越したことはないので、そこには目をつぶりましょう。

ゴルフでは「ニギリ」と称して賭けが行われていることは公然の秘密であるにもかかわらず、シミュレーションゴルフが風適法の対象から外れるなら、そのほかの「遊技結果が表示されるゲーム機」だって対象から外れても良いはずで、そして実際エレクトリックダーツは外されました。

ならばこの解釈をもう一歩進めて、まずは賭けに使われている実態がほとんど認められないフリッパー・ピンボール機を風俗営業の対象から外しても良いのではないでしょうか。「フリッパーゲーム」は、風適法施行規則では3番目に特に名指しされている機種で、4番目の「遊技結果が表示されるゲーム機」とは事情が若干異なりますが、この不条理については前出「ゲーセンと法律の話(2)風俗第5号営業(ゲーセン)の要件と制約」で述べています。

「フリッパーゲーム」は、今なお世界中で多くの愛好家を引き付けていますが、メンテナンスなどオペレーション上の問題が多いため、その運営には独特のスキルを要し、普及しにくいゲーム機です。それだけに、多くのフリッパーゲーム機を設置しているところは世界的な見地で聖地と目され、わざわざそのために外国から人がやってくるというロケもたくさんあります。日本の行政が本当に日本を観光立国化したいのであれば、フリッパーゲームは、インバウンドやナイトマーケットの視点からも非常に有力なコンテンツだと思います。

ゆくゆくは、フリッパーゲームに限定せず、ビデオゲームも風俗営業の対象から外して、「特定遊興飲食店」として夜通し営業できる「ゲームバー」が実現すれば、ゲーム業界にとっても新しい市場となり、活性化につながると思うのですが、そのような構想があるという話はワタシの耳にはまだ入ってきていません。残念なことです。

(このシリーズ・おわり)

【予定変更】JAEPOショウ2020メモ

2020年02月09日 12時53分45秒 | メーカー・関連企業
【おことわり】今回は「ゲーセンと法律の話(3) 『新概念「特定遊興飲食店」の誕生』」を掲載する予定でしたが、急遽変更して、2月7日・8日に開催された「JAEPOショウ2020」の様子をお伝えいたします。

JAEPOショウとは、アーケードゲーム機メーカーや周辺機器業者などが集まって年に一度開催される日本のAM業界のトレーディングショウです。このようなトレーディングショウは、かつてはメーカー団体であるJAMMAが主催するJAMMAショウと、オぺレーター団体であるAOUが主催する「AOUショウ」の二つがそれぞれ年に1回ずつ行われていましたが、業界規模の縮小によりこの二つをJAEPOショウに統合する形で、年に一度の開催になりました。

今年のJAEPOショウは、例年通り幕張メッセで行われはしたのですが、今回は初めてメインとなる展示場1ホールから8ホールではなく、「離れ」となる9ホールで行われました。会場の規模としては妥当だったと思いますが、これも業界の規模の縮小に関係しているのかもと想像すると、業界の前途が心配になります。なお、メインの展示場ホールは別のコンベンション会社が主催するビジネス関連のショウに使われていました。

今回のショウでは、ホットトイズ・ジャパン社が昨年に引き続いて米国Stern社のフリッパー・ピンボールを出展してくれました。全6機種中新作は「ジュラシック・パーク」1機種のみでしたが、まだまだ灯が消えていないことを期待させてくれます。


米国Stern社のフリッパー・ピンボールを展示するホットトイズ・ジャパン社。このブースは、拙ブログを始めてからお知り合いになった方々と最も多く出会う場所だった。

それに比べて。昨年、やはりフリッパー・ピンボールを出展していたバンダイナムコテクニカ社は、今年はピンボールの展示がありませんでした。風のうわさでは昨年の出展ではバイヤーからの引き合いがほとんどなかったと聞いていますが、そこを我慢してもうひと踏ん張り頑張ってみようという意思は働かなかったのでしょうか。海外のエレメカ機を積極的に展開しようとしてくれている同社ですが、すぐに爆発的なヒットが期待できるような機種なんてないのだから、何をするにしても我慢が大事なのではないかと思うのですが。

コナミからは、久々に新しい抽選機構を備えたビンゴゲーム「DUEL DREAM」が出展されていました。数字が書かれているボールを風で吹き上げ、受け皿の穴に入ったボールが有効になるという抽選機構は「ワールドビンゴ(SEGA, 1986)」に通じます。筐体は撮影禁止とのことだったので、ブースの外に設置してあった遊び方説明の画像を上げておきます(筐体画像はこちらで見られます)。


DUEL DREAMの遊び方。同時に3種類のゲームができる。

複数のゲームが同時にできるというシステムは、コナミが「トリオ・デ・ビンゴ(1995)」以来よく取る手法ですが、これはつまりピンで勝負できるゲームではないとも考えられ、ワタシは否定的でした。しかし、メダル単価が下がってプッシャー並みのコインインを求められるようになってしまった今は、同じ時間内でインを稼ぐ一つの手法として認めざるを得なくなってきています。

コナミはほかに、昨年出展していた「MARBLE DROP」と、昔そこそこ普及したシングル機「DELTA MAGIC」を、海外向けのリデンプション仕様として出展していました。このような粘り強さもまたコナミの強みであると思います。

タイトーは、ドラクエの世界をメダルゲームにしたと謳う4Pプッシャー「星のドラゴンクエスト キングスプラッシュ」を出展していました。タイトーはメダルから撤退したと聞いていたのでこれ自体は喜ばしいことですが、でもやっぱりプッシャーなんですね。もうプッシャー以外は作っても売れない感があるので仕方がないとは思うも、少しガッカリです。フィールドから落とすボールが、中にモンスターが入ったガチャのカプセルのようになっているところがミソなんでしょうか(筐体の全体画像はこちら)。


「星のドラゴンクエスト キングスプラッシュ」。スライム好きには興味を惹かされる。

ナムコはまたもやプッシャーの海物語シリーズのニューバージョン「ラッキーマリンツアーズ」を、セガは「レッ釣りGO」と「バベルのメダルタワー」を出展していましたが、旧作みたいなものなので省略。

最後に、一昨年のJAEPOショウで発表され話題をさらったメカ式の「PONG」が、4Pプレイに進化していました。これを見て、4Pプレイのパドル&ボールゲームでやはりATARIが1980年に発売した「WARLORDS」というゲームを想起したオールドゲーマーも多かったのではないでしょうか。



4PのPONG(上)と、セガが頒布したウォーロードのフライヤー(下)。

しかし、「ゲーセンの未来を体感しよう」と謳って今年もいろいろなAM機が展示されたJAEPOショウですが、ここに展示された機械たちはこれからいったいどこに設置されるのでしょうか。以前はどこにでもあったゲームセンターが今では残っている地域の方が珍しくなってしまっている現実にあっては、AM業界はゲーセンという旧来の枠を打ち破る新しいビジネスモデルを開拓していく必要があると思います。その前には風適法という厚い壁もあるでしょうが、そこを何とかしなければ、ゲーセンに明るい未来を創造することは難しいです。来年もJAEPOショウが無事に開催されますように。

ゲーセンと法律の話(2)風俗第5号営業(ゲーセン)の要件と制約

2020年02月02日 16時26分29秒 | その他・一般

前回まで
・ゲーセンは「風俗営業」である。
・一般に「フーゾクエーギョー」と言われる業態は「性風俗関連特殊営業」である。
・ビデオゲーム機による賭博事犯が1981年より爆発的に増加し大きな社会問題となった。
・1984年、ビデオゲームを扱うゲームセンターを警察の監督下に置くことを主眼として「風営法」は「風適法」に改正され、ゲームセンターは新たな「風俗営業」となった。
・これによりゲーセンは、営業には警察の許可を要するようになり、また深夜の営業ができなくなった。


******** これより今回の話 ********
風適法は1985年2月から施行されました。これに伴い、ゲームセンターは「風俗第8号営業」となりました。それ以前の風俗営業は第7号営業が最後の項目で、それはパチンコ、パチスロ、雀荘などの遊技業だったので、風俗営業の中に二種類の遊技業カテゴリーができたことになります。業界では、このふたつの遊技業を、「7号」と「8号」と呼び分けることで区別をつけていました。

その風適法も、2016年にやや大きな改正があり、その際に風俗営業のカテゴリーは5種類(関連記事:ゲーセンと法律の話(1):まずは風適法の解説から)に減少したのですが、それまでの2種類の遊技業は、「4号営業」と「5号営業」にそれぞれ変更になっただけで、ゲームセンターが風俗営業から外されたわけではありませんでした。

さて、ところで、5号営業の許可を要する要件とは何でしょうか。実はこれ、設置される設備によって判断されます。どんな設備を設置して行う営業が第5号営業の許可を要するかは、風適法の下位法令である「風適法施行規則」の第3条で定められており、そこでは以下の5種類を挙げています。

【風俗第5号営業の許可を要する設備】
(1)メダルゲーム機
(2)テレビゲーム機
(3)フリッパーゲーム機
(4)遊技結果が表示されるゲーム機
(5)カジノゲームの設備

(1)の「メダルゲーム機」は、理解は難しくありません。もともとメダルゲーム機は海外のカジノで稼働するゲーム機を由来とするもので、これまでもさんざん違法な賭博営業に使われてきた実績もありますので、賭博犯罪を防止する意図からすれば筆頭に挙げられるのも然るべきものと思います。

(2)の「テレビゲーム機(「ビデオゲーム」としないのは、条文の記述に倣っているため)」は、少し難しいです。国会で、テレビゲームを稼働させるゲームセンターを風俗営業とすべしという議論が行われた時にも、「インベーダーゲームと賭博に使用されるポーカーゲームが全く異質なものであることは明白ではないか」という反論もされましたが、「インベーダーゲーム機も基板の交換で簡単にポーカーゲーム機にすることができる」、つまりやろうと思えば偽装は容易であるという理由で却下されています。sigmaの創業者である故・真鍋勝紀氏は、この検討の際に業界にとって不利な証言をしたとして、一時業界内で猛烈に批判されたこともありました。真鍋氏は別にゲーセンの風俗営業としたかったのではなく、単に事実をフェアに述べただけだと思うので、気の毒なことでありました。

(3)の「フリッパーゲーム機」については、テレビゲーム以上の疑問を感じます。確かに本家の米国でも70年代までフリッパー・ピンボールを禁止する地域が残っていましたが、風営法が改正されようとするころには解禁されています。ゲーム結果に対する褒章として与えられるクレジットが問題視される場合もありますが、フリッパーゲームはそこまで問題視されなければならないほど大量のクレジットを払い出す、射幸心を煽るようなゲームではありません。ビンゴ・ピンボール機(関連記事:埼玉レゲエ紀行(1):BAYONの記録その1)であれば、確かに大量のクレジットを払い出す可能性のあるゲーム性であるため、かつて日本でもGマシンとして使用されていたことは警察も把握していますが、ビンゴ・ピンボール機をフリッパーゲーム機に偽装することは現実的には不可能です。

強いて言うならば、次に挙げられている「遊技結果が表示されるゲーム機」に準じる理由であればまだわからないこともありませんが、それでもわざわざ独立した項目として名指ししておく必要はないと思います。「ゲームマシン」紙も、風適法施行直前の85年2月1日号のフロントページで「まったく釈然としない」と論評しています。

(4)の「遊技結果が表示されるゲーム機」は説明が必要です。施行規則では、「遊技の結果が数字、文字その他の記号又は物品により表示される遊技の用に供する遊技設備」としています。つまり、ゲームの結果を何らかの形で残す機能を持つものはギャンブルに流用され得るという解釈なのだと思います。このことから、例えば「ダーツ」というゲームの場合、スコアを手計算で行う昔ながらのハードダーツは対象とはなりませんが、スコアを自動的に計算して表示するエレクトリックダーツは対象となります(ダーツについては後々重要な話に絡んでくるので、この部分は覚えておいていただければと思います)。

なお、この項目には「人の身体の力を表示する遊技の用に供するものその他射幸心をそそるおそれがある遊技の用に供されないことが明らかであるものを除く」という付け足しもあり、明らかにギャンブルに転用し得ないと判断される設備は除外されています。これには、打撃の強さを測る「パンチングボール」の類や、占い機などがその典型例として挙げられます。また、「モグラ叩き」も、経過を観察するとの留保は付いたものの、とりあえず風適法の対象機種からは外すとされ、こんにちまで見直しが行われたことはありません。

(5)の「カジノゲームの設備」が(1)のメダルゲームと分けてあるのは、このジャンルの設備がコインオペレーションではないからでしょう。このような設備が普通のゲームセンターに設置されるケースは(今は)少ないですが、「カジノバー」という業態で一般的です。つまり、「カジノバー」が風適法によって受ける制約は、通常のゲームセンターと全く同じということです。

よく、「カジノのゲームでパチンコみたいに景品(法律上は賞品)と交換するような営業をすればいいじゃん」と言う人がいますが、カジノバーはこのように5号営業に属することをご存知ないのでしょう(UFOキャッチャーなどのプライズ機についての説明はここでは省略します)。

以上5種類の遊技設備を設置して行う営業は、「風俗第5号営業」として所轄の警察署の許可を要します。ただし、若干の例外が認められていて、ホテルや旅館、大規模小売店、遊園地に設置されるゲームコーナーは、いくらかの要件を満たしていれば、許可を要しません。また、ゲームの専業店ではない、一般の店舗にゲーム機を設置する場合は、ゲーム機の設置面積の3倍が店舗面積(厳密には、店舗のうち客の用に供する部分の面積。つまりバックヤードやカウンター内などは含まれない)の10%以内であれば、許可の申請は省略できることになっています。ただし、その場合でも、稼働するゲーム機そのものについては風適法の制約を受けます。

「風俗営業になったからって、別に許可さえ受ければいいんでしょ?」と思う向きもあるかもしれませんが、風俗営業にはこれまでになかった制約がいろいろ発生します。

【風俗営業の制約(概略なので表現は不正確です)】
(1)営業時間:深夜営業ができない
(2)立地条件:住宅街、学校、病院などの近くでは開業できない
(3)人的要件:未成年者、犯歴があり一定の期間を経ていない者等には営業許可が降りない
(4)管理者の選任:資格の条件を満たす専任の常駐管理者を置かなければならない
(5)事業所の管理:従業員名簿の作成保存、施設の構造や設備の管理

風俗営業となる以前では、町中の商店がいきなりインベーダーハウスを始めることも簡単にできましたが、風俗営業となってからはそう言いうわけにはいかなくなり、警察の監督を受けるために業界にとっては負担が重くなる面倒ごとが増えました。

しかし、許可を与えるということは、そこで行われているビジネスが正当なものであることを行政が認めるということであり、それまで世間一般からは真っ当な産業と思ってもらえていなかったゲーム業界としては、営業許可というお上からの「お墨付き」を受けるのはむしろ良いことではないかという前向きな考え方も、ないこともなかったようです。余談になりますが、性風俗関連特殊営業は許可を要さず、届け出だけで営業できます。これはなぜかというと、中でナニが行われているのかチェックできない業種では、お墨付きを隠れ蓑として暴走する業者が現れても、当局による実態の把握のしようがないという事情があるからです。

◆風適法が施行された1985年の業界のできごと
 ・セガ、「UFOキャッチャー」発売(2月)、体感ゲームの走りとなる「ハングオン」発売(7月)。
 ・sigma、3フロア560坪の大型店舗「ゲームファンタジア・サンシャイン」オープン(7月)。
 ・オペレーターの業界団体AOU設立(10月)
 ・ビデオゲーム基板の端子の共通仕様JAMMA規格が制定される(11月)。




HANG ON(SEGA,1985)のフライヤー。二つ折りの表紙側(上)と中(下)。

(次回「新概念「特定遊興飲食店」の誕生」につづく)