前回のあらすじ:セガは、「ファロ」、「ファロ II」、「ニューファロ」に続き、1983年に「ファロ III」を、1985年に「ファロキング」を発売した。しかし「ファロキング」は、「ファロ III」と同年に発売された「ルーレットキング」の筐体に「ファロ III」を入れただけのもので、筐体の目新しさ以外に新しいものは何もなかった。
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「ファロ」のように円盤を回して何かを決める抽選方法は、紀元前からすでに存在したとの言説があります。生まれては消えていったゲームがいくらもある中でその手堅さは歴史によって証明されているわけですから、セガが「ファロ」を何度もリニューアルしながら続けるのも理解できます。1988年にはファロシリーズ6作目となる6人用の「ファロジャック (FARO JACK)」を発売しました。


「ファロジャック」のフライヤーの表と裏。
「前作が『キング』なのに新作が『ジャック』では格下げではないか」という議論があったかどうかはともかくとして、「ファロジャック」の抽選装置は電光式ではなく「ニューファロ」以来となる機械式で、さらに大小二つの円盤がそれぞれ独立して回転しました。小さい方の円盤には6色に色分けされた「JOKER」の目が1個ずつ配されています。
二つの抽選結果を組み合わせる手法は「ファロ III」(と、「ファロキング」)」でも採られていましたが、「ファロジャック」は大小の円盤のセグメントを64個とするほか、大円盤に配される8種類の当たり目にはそれぞれ1個ずつ緑色の特別な目を持たせたり、サテライトも6色に色分けして小円盤の「JOKER」の色に対応させたりするなどして、ゲーム結果の組み合わ数をけた違いに大きくしています。こうして当選時の配当が5倍、あるいは10倍となるフィーチャーやプログレッシブ・ジャックポットまで提供できる余地を作り出しました。
従来のシリーズにはない高配当の魅力ばかりでなく、カラフルでイルミネーション効果の高い筐体でありながら低価格がセールスポイントの「ファロジャック」でしたが、しかしヒットはしませんでした。その原因として、円盤の停止位置がずれてゲーム結果の表示が曖昧になる問題もあったと思いますが、それ以上にゲームバランスが良くなかったと思います。
「ファロ」というゲームの妙味の一つは、「本命で手堅く行くか、少し欲を出して対抗で行くか、それとも夢を見て穴を狙うか」と葛藤するところにあると思います。過去の「ファロ」シリーズの賭け目の構成はそのような感情を引き出すに、まあ妥当と言えるものでした。
「ファロジャック」の賭け目の構成は「2、3、4、5、7、10、14、20」の8種類です。これを見ると、「本命」の「2」に対して、一桁配当の「対抗」が「3、4、5、7」と4種類もあります。「対抗」に複数の選択肢があれば、「本命寄りで堅さを優先するか、穴寄りで欲を優先するか」の葛藤を生みますが、「ファロジャック」は「本命寄り/穴寄り」の段階が小刻みにたくさんあって、落としどころを決めにくいのです。
比較対象として、カジノで馴染み深い「ビッグシックス」の、ラスベガスでの典型的な例を見てみると、賭け目は「2、3、6、11、21、41、41(41は異なる2種類がある)」の7種類です。「対抗」は「3」と「6」の2種類のみで、こちらは葛藤の落としどころが明快です。
なぜ「ファロジャック」は優柔不断を誘うような賭け目構成にしたのか。ほかにやりようはなかったのか。ゲームのマス(数学)を調べればこの謎に迫れるかもしれないと思い、ペイアウト率を計算してみました。

ファロジャックの各賭け目のペイアウト率計算結果。すべての目の出現率が見た目通りの1/64であることが前提。各目のペイアウト率の平均は62.1%と低いが、これは倍率が5倍、10倍となるフィーチャーによる払い出し分が考慮されていないため。
この結果を見て、ワタシは「ファロジャック」が一桁配当の目の種類を増やさざるを得なかった事情を察しました。開発者の意図としては、ベースでの払い出しを60%強程度に抑え、フィーチャーによって20%程度を払い出し、トータルで80%半ばくらいのペイアウト率となるようにしたかったようです。しかし、円盤の64個のセグメントに払い出しを60%強とする設定で賭け目を配分しようとすると、一桁配当の目の種類を増やさないとセグメントが埋まりきらなくなってしまうのです。
この説明ではわかりにくいと思うので、カジノのルーレットを例に少し具体的に説明します。ルーレットには、38個のセグメントの中に、2倍配当である赤と黒の目がそれぞれ18個ずつと、ハズレの目2個があります。この状態での赤または黒のペイアウト率は(18個×2倍÷38=94.7%)です。これを、オッズはそのままでペイアウト率を60%強に下げるなら、個数を18個から12個に減らす必要があります(12個×2倍÷38=63.2%)。しかしそうすると、削減された元赤と元黒だった12個の目が空白になってしまうので、これを埋める第三の賭け目を設定する必要が出てきます。その場合、新たな賭け目は低配当でないと、空白を埋め切るほどの個数が出せません。「ファロジャック」の一桁配当の目はこのような理屈で増えていったのでしょう。空白となる目をそのまま「ハズレ」とする手も考えられますが、そうするとハズレの出現頻度が非常に高いゲームとなり、別の意味でバランスが悪くなりそうです。
「ファロジャック」は、高配当を提供するという目的に囚われ、ゲームの妙味には意識が及んでいなかったのではないかと推理します。今であれば、当時は普及していなかった、もしくは考案されていなかった新たな方法で高配当フィーチャーも考えられるかもしれませんが、後の祭りです。
セガは「ファロジャック」の在庫部材を処理するため、1990年に同じ筐体を流用した「ベガス・ストリート(Vegas Street)」を売り出しました。ワタシはロケでこの機械をほとんど見ておらず、「ファロ」の後継機とは呼び難いゲームであったことくらいしか覚えていません。何か情報はないかと当時のゲームマシン紙を見ても、90年のAOUショウの特集記事に一度名前が記載されているのを発見しただけで、「話題のマシン」ページにも採り上げられず、セガも広告を打つわけでもなく、極めて不遇な扱いを受けていました。

不遇なベガス・ストリート。1990年に頒布されたセガのメダルゲーム総合カタログより。単独のフライヤーが作成されたかどうかは不明。
以降現在まで、セガはファロの後継機を作っていません。大量のベットが要求される現在のメダルゲームビジネスの潮流が変わらない限り、今後も復活することはないでしょう。ファロシリーズは事実上絶滅したと言えそうです。
歴代ファロシリーズのまとめ:
1974 FARO 5人用
1977 FARO II 6人用/3人用
1980 NEW FARO 3人用
1983 FARO III 5人用
1985 FARO KING 4人用 (ゲーム自体はFARO IIIと同じ)
1988 FARO JACK 6人用
1990 Vegas Street 6人用 (ファロシリーズと言えるのか?)
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最後にかなりどうでもいい、トリビアとも言えないマメ。
「ファロジャック」には、そんなもの無くても全然困らない、謎のCRTモニターが取り付けられています。

「ファロジャック」に設置されているCRTモニター。
これは、「ファロジャック」をビデオゲームと言い張るために設置されたものです。そうすることで何がどうなるのか、以前業界の方から聞いたことがあり、たしか減価償却とか耐用年数とかに関係していたような話だった気もするのですが、詳細を忘れてしまいました。どなたかビデオゲームであることのメリットをご存じの方はいらっしゃいませんか? 2023年6月14日追記:HKさんよりコメント欄にて「CRTモニタは電安法適用外とするために取り付けたのだと思われる」とのご指摘をいただきました。HKさん、どうもありがとうございました。
(このシリーズ・おわり)