オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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【衝撃】セガ製Mills機、実は海賊版だった!?

2024年07月07日 19時46分39秒 | 歴史

拙ブログではこれまでセガの古い歴史について何度も言及しています。過去記事「セガのスロットマシンに関する思いつき話」では、セガの前身である「Service Games Japan」はマーティン・ブロムリーという人物によってアジア・太平洋地域の米軍基地にスロットマシンを売るために設立された」と述べ、さらに「(Service Gamesは)米国ミルズ(Mills)社の、アジア太平洋地区のディストリビューターとなり、ほどなくして自社でミルズ製品のコピーを製造するようになった」と述べています。

また、「セガ60周年記念・1960年以前のプレセガ期(3) セガのスロットマシンその1」では、「ブロムリーは米国の大手スロットマシンメーカーだった米国Mills社から金型と権利を買い取ってコピーした」とも述べ、この部分は風営機オリンピアの誕生の経緯を想像して創作したストーリー「オリンピア・たぶんこうだったんじゃないか劇場(4):第4幕/第5幕」で、ストーリー上の重要なキーポイントとして反映させています。

しかし最近、上記二つの赤文字で記した部分ついて、その認識を怪しまなければならない新資料を発掘してしまいました。

特に衝撃だったのは、「セガがMillsから金型と権利を買い取った」が虚偽である可能性が濃厚となったことです。ワタシはその根拠とした資料を探しましたが、なにぶんにも昔の事で長い間見返すこともなく、その後に次々と追加されていった資料に埋もれてしまい、どうにも見つけることができません。そこで今回は単純に、拙ブログがかつて事実として流布していた言説の反証となる資料をご紹介するに留めておきます。

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今回発掘した資料は、米国のエンターテインメント業界誌「Cash Box」1958年6月21日号の「Part II」の65ページです。(「Part I」は音楽業界関連、「Part II」がコインマシン関連であるようだ)ここにMills社はこんな広告を掲載しました。


Mills社がCashBox1958年6月21日号に掲載した広告。推奨サイズでなるべく大きく表示するために上下二分割してある。

セガの前身である「Service Games (Japan)」は、1956年9月の時点で、自らを「Millsのスロットマシンの太平洋エリアにおける排他的ディストリビューター」と名乗って、Mills製スロットマシンのマニュアルを頒布しています。

Service Games (Japan)が1956年に頒布していたMills製スロットマシンのマニュアルの表紙。Mills社の商標であるフクロウのマークとともに、最下段に「Exclusive Distributor - PACIFIC OCEAN AREA」とある。

しかし、Millsのこの広告は、これを否定しています。あまりの衝撃に手が震えていますが、詳しく見ていくことにします。

まず冒頭に

あなたはMillsの純正品とただのニセモノのどちらを取りますか?

と大書し、続いて

以下の広告を使用している Service Games (Japan) Inc. もしくは Westlee は、新品の純正Mills Bell-O-Maticマシンの販売代理店ではありません

と、「Service Games」他一社を名指しで否定しています。そして、これら二社「Service Games (Japan)」と「Westlee」の広告を左右に置き、その中央に

これらの広告の機械は、新品ではなく、Mills Bell-O-Maticの純正品ではありません。これらは左の写真に見られる純正品のただのニセモノです

と述べています。

あげつらわれているService Games (Japan)の広告はこう延べています。

90%以上...
世界に供給されているMills Bellモデルは、経験豊富な技術者と職人であるベルマシンエンジニアの中でも最も優れたスタッフの監督の下、我々の東京の工場で製造されています。

業界の歴史上最高級のMills製品は、世界に向けて販売されている機械の90%が日本で製造されています

もちろん、我々のMillsの品質、デザイン、それにプレイヤーへのアピールは、Service GamesのMills Bellマシンを導入することが良いビジネスであることを地球上のコインマシン業者を納得させています。


Millsはこうしてけしからん二社の広告を挙げた上で、

純正のMills Bellを主張する機械は米国ネバダ州リノで、Mills Bell-O-Matic社のみが製造し、公式のディストリビューターのみが販売します。それ以外の日本やその他で製造された機械は、Millsの50年前のデザインと製造経験に基づく古いものです。

過去何年にもわたって、Millsは100%純正のMills Bellマシンを製造し続け、世界中に販売しています。品質への評価は米国Mills Bell-O-Maticの純正品によってのみ築かれてきたことは明らかです。あなたは本物を手に入れることができる時に、なぜ保証のないニセモノに賭けるのですか?

とたたみかけています。この広告には他にもいろいろ書いてありますが、とにかく純正品はMillsのみ、それ以外はニセモノ、ベストな商いは純正品であってこそ、と言うようなことがしつこいくらいに書かれています。

そう言えばService Gamesは、「Mad Money」と言う機種で、米国の人気雑誌「MAD」のキャラクターを無断で使用したこともありました(関連記事:【小ネタ】セガ・マッドマネーとアルフレッド・E・ニューマン(Alfred E. Neuman))。現在のように世界が狭くなかった当時、一般的な米国企業の目はService Gamesが商圏とした極東・アジア地域まで届いておらず、それを良いことにService Gamesは好き勝手をしていたのかもしれません。

そして時期的に考えて、Service Gamesがオリジナル筐体「スターシリーズ」(関連記事:セガ60周年記念・1960年以前のプレセガ期(3) セガのスロットマシンその1)を作ったのも、外観を変えてMills製品とは無関係の振りをして、Millsからの表立った批判を回避する目的があったものと考えることもできそうです。

「segaがMillsからライセンスを得ていた」とする資料は引き続き探しますが、現時点ではその説は分が悪そうに思われます。