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「ファロ(FARO)」シリーズの記録(3) NEW FARO後のFAROその2

2023年06月11日 16時23分35秒 | スロットマシン/メダルゲーム

前回のあらすじ:セガは、「ファロ」、「ファロ II」、「ニューファロ」に続き、1983年に「ファロ III」を、1985年に「ファロキング」を発売した。しかし「ファロキング」は、「ファロ III」と同年に発売された「ルーレットキング」の筐体に「ファロ III」を入れただけのもので、筐体の目新しさ以外に新しいものは何もなかった。

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「ファロ」のように円盤を回して何かを決める抽選方法は、紀元前からすでに存在したとの言説があります。生まれては消えていったゲームがいくらもある中でその手堅さは歴史によって証明されているわけですから、セガが「ファロ」を何度もリニューアルしながら続けるのも理解できます。1988年にはファロシリーズ6作目となる6人用の「ファロジャック (FARO JACK)」を発売しました。

「ファロジャック」のフライヤーの表と裏。

「前作が『キング』なのに新作が『ジャック』では格下げではないか」という議論があったかどうかはともかくとして、「ファロジャック」の抽選装置は電光式ではなく「ニューファロ」以来となる機械式で、さらに大小二つの円盤がそれぞれ独立して回転しました。小さい方の円盤には6色に色分けされた「JOKER」の目が1個ずつ配されています。

二つの抽選結果を組み合わせる手法は「ファロ III」(と、「ファロキング」)」でも採られていましたが、「ファロジャック」は大小の円盤のセグメントを64個とするほか、大円盤に配される8種類の当たり目にはそれぞれ1個ずつ緑色の特別な目を持たせたり、サテライトも6色に色分けして小円盤の「JOKER」の色に対応させたりするなどして、ゲーム結果の組み合わ数をけた違いに大きくしています。こうして当選時の配当が5倍、あるいは10倍となるフィーチャーやプログレッシブ・ジャックポットまで提供できる余地を作り出しました。

従来のシリーズにはない高配当の魅力ばかりでなく、カラフルでイルミネーション効果の高い筐体でありながら低価格がセールスポイントの「ファロジャック」でしたが、しかしヒットはしませんでした。その原因として、円盤の停止位置がずれてゲーム結果の表示が曖昧になる問題もあったと思いますが、それ以上にゲームバランスが良くなかったと思います。

「ファロ」というゲームの妙味の一つは、「本命で手堅く行くか、少し欲を出して対抗で行くか、それとも夢を見てを狙うか」と葛藤するところにあると思います。過去の「ファロ」シリーズの賭け目の構成はそのような感情を引き出すに、まあ妥当と言えるものでした。

「ファロジャック」の賭け目の構成は「2、3、4、5、7、10、14、20」の8種類です。これを見ると、「本命」の「2」に対して、一桁配当の「対抗」が「3、4、5、7」と4種類もあります。「対抗」に複数の選択肢があれば、「本命寄りで堅さを優先するか、穴寄りで欲を優先するか」の葛藤を生みますが、「ファロジャック」は「本命寄り/穴寄り」の段階が小刻みにたくさんあって、落としどころを決めにくいのです。

比較対象として、カジノで馴染み深い「ビッグシックス」の、ラスベガスでの典型的な例を見てみると、賭け目は「2、3、6、11、21、41、41(41は異なる2種類がある)」の7種類です。「対抗」は「3」と「6」の2種類のみで、こちらは葛藤の落としどころが明快です。

なぜ「ファロジャック」は優柔不断を誘うような賭け目構成にしたのか。ほかにやりようはなかったのか。ゲームのマス(数学)を調べればこの謎に迫れるかもしれないと思い、ペイアウト率を計算してみました。

ファロジャックの各賭け目のペイアウト率計算結果。すべての目の出現率が見た目通りの1/64であることが前提。各目のペイアウト率の平均は62.1%と低いが、これは倍率が5倍、10倍となるフィーチャーによる払い出し分が考慮されていないため。

この結果を見て、ワタシは「ファロジャック」が一桁配当の目の種類を増やさざるを得なかった事情を察しました。開発者の意図としては、ベースでの払い出しを60%強程度に抑え、フィーチャーによって20%程度を払い出し、トータルで80%半ばくらいのペイアウト率となるようにしたかったようです。しかし、円盤の64個のセグメントに払い出しを60%強とする設定で賭け目を配分しようとすると、一桁配当の目の種類を増やさないとセグメントが埋まりきらなくなってしまうのです。

この説明ではわかりにくいと思うので、カジノのルーレットを例に少し具体的に説明します。ルーレットには、38個のセグメントの中に、2倍配当である赤と黒の目がそれぞれ18個ずつと、ハズレの目2個があります。この状態での赤または黒のペイアウト率は(18個×2倍÷38=94.7%)です。これを、オッズはそのままでペイアウト率を60%強に下げるなら、個数を18個から12個に減らす必要があります(12個×2倍÷38=63.2%)。しかしそうすると、削減された元赤と黒だった12個の目が空白になってしまうので、これを埋める第三の賭け目を設定する必要が出てきます。その場合、新たな賭け目は低配当でないと、空白を埋め切るほどの個数が出せません。「ファロジャック」の一桁配当の目はこのような理屈で増えていったのでしょう。空白となる目をそのまま「ハズレ」とする手も考えられますが、そうするとハズレの出現頻度が非常に高いゲームとなり、別の意味でバランスが悪くなりそうです。

「ファロジャック」は、高配当を提供するという目的に囚われ、ゲームの妙味には意識が及んでいなかったのではないかと推理します。今であれば、当時は普及していなかった、もしくは考案されていなかった新たな方法で高配当フィーチャーも考えられるかもしれませんが、後の祭りです。

セガは「ファロジャック」の在庫部材を処理するため、1990年に同じ筐体を流用した「ベガス・ストリート(Vegas Street)」を売り出しました。ワタシはロケでこの機械をほとんど見ておらず、「ファロ」の後継機とは呼び難いゲームであったことくらいしか覚えていません。何か情報はないかと当時のゲームマシン紙を見ても、90年のAOUショウの特集記事に一度名前が記載されているのを発見しただけで、「話題のマシン」ページにも採り上げられず、セガも広告を打つわけでもなく、極めて不遇な扱いを受けていました。

不遇なベガス・ストリート。1990年に頒布されたセガのメダルゲーム総合カタログより。単独のフライヤーが作成されたかどうかは不明。

以降現在まで、セガはファロの後継機を作っていません。大量のベットが要求される現在のメダルゲームビジネスの潮流が変わらない限り、今後も復活することはないでしょう。ファロシリーズは事実上絶滅したと言えそうです。

歴代ファロシリーズのまとめ:
1974 FARO 5人用
1977 FARO II 6人用/3人用
1980 NEW FARO 3人用
1983 FARO III 5人用
1985 FARO KING 4人用 (ゲーム自体はFARO IIIと同じ)
1988 FARO JACK 6人用
1990 Vegas Street 6人用 (ファロシリーズと言えるのか?)

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最後にかなりどうでもいい、トリビアとも言えないマメ。
「ファロジャック」には、そんなもの無くても全然困らない、謎のCRTモニターが取り付けられています。

「ファロジャック」に設置されているCRTモニター。

これは、「ファロジャック」をビデオゲームと言い張るために設置されたものです。そうすることで何がどうなるのか、以前業界の方から聞いたことがあり、たしか減価償却とか耐用年数とかに関係していたような話だった気もするのですが、詳細を忘れてしまいました。どなたかビデオゲームであることのメリットをご存じの方はいらっしゃいませんか? 2023年6月14日追記:HKさんよりコメント欄にて「CRTモニタは電安法適用外とするために取り付けたのだと思われる」とのご指摘をいただきました。HKさん、どうもありがとうございました。

(このシリーズ・おわり)


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8 コメント

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Unknown (AJK.)
2023-06-11 18:56:11
こんにちは。いつも楽しく拝見させていただいています。

ベガスストリートですが、ベット対象はチェリーから7までのスロットマシンによくある絵柄で倍率はチェリーが2倍、7が確か50倍だったはずです。二重のリールに各絵柄が並んでいます。
ベット終了後、まず外側のリールが停止し中央とその前後の三つの絵柄が当選候補になります。
そして内側のリールが停止して、外側と内側で同じ絵柄が止まったらその絵柄が当選です。
例えば外側が7 チェリー BARと並び、内側がBAR チェリー 7なら同じ場所に止まったチェリーが当選です。
内側にはJOKER絵柄もあり、その場合は外側の絵柄が無条件に当選です。
当選の場合に配当を上げるフィーチャーは一切無かったはずです。

このルールでは最大3個まで当選の可能性があるんですがリールの並び上3つ当選がありえるかはちょっと覚えてないです。
逆に全てハズレの時もありました。

FARO JACKは可能性が低いながらも高額配当もありえ、緑色の数字を引いた時のアナウンスに少し興奮したりしていたのでそういうのが無かったベガスストリートはあまり惹かれませんでした。

それでは失礼いたします。
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Unknown (ビンゴサーカス)
2023-06-11 22:43:27
youtubeの『有馬ヘルスセンター (1989年)』 という動画にちょっとだけファロ、ファロジャックが映ってます。
EVRレース、スーパーダービー、オリンピアのスロットマシンなども映ってます。

参考までに。
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Unknown (nazox2016)
2023-06-12 21:05:26
まとめレスで失礼します。

>AJKさん
「ベガスストリート」の解説をありがとうございます。お話をうかがって、ほんのわずかですが断片的な記憶が蘇ってきました。ワタシが「ベガスストリート」を遊んで得た印象は、当たり目の表示が小さく遠いので見づらいことと、最初に停まる回転盤に自分が選んだシンボルが含まれていないと以降ゲーム終了まで退屈な時間を我慢させられることでした。

>ビンゴサーカスさん
貴重な情報をありがとうございます。さっそ閲覧して脳内タイムスリップしてまいりました。懐かしくて涙が出そうな風景でした。80年代も終わろうという時期に70年代の機械がたくさん残っているところは、さすが後にレトロゲームの宝庫となる温泉ホテルのゲームコーナーだと思います。そんな中で「ファロジャック」は期待の新製品だったかもしれませんね。
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Unknown (EM好きおじさん)
2023-06-13 13:01:48
こんにちは。

ファロジャック、私は全然知らないのですがキンキラキンと言うか何と言うか、いかにもバブル時代を感じさせるデザインですね。個人的にはホイール周囲をゴテゴテ飾るよりもホイールと表示を一回り大きくした方がカッコよかった感じがします。ホイールの停止位置がずれる事があったとの事ですが、中間で止まる事を防止する機構はなかったのでしょうか。
おっしゃる通り賭け目の構成がいまひとつだと思います。倍率の低い目を増やさざるを得ないのは仕方ないとしても、もう少しスッキリできないものかと自分勝手な"ファロ令和スペシャル"を考えて見ました。ビッグシックスの構成を参考にしています。
×2 21区画
×3 14区画
×4 10区画
×7 6区画
×10 4区画
×20 2区画
×40 1区画"JACK"
×40 1区画"QUEEN"
×40 1区画"KING"
計 60区画
とするとペイアウト率最大は×2,3,7の70.0%(他は66.7%)ですが、これに60分割の小円盤による"JOKER"ボーナスを付け加えます。小円盤上に6色が1箇所ずつあり、そのどれかが来るとペイアウトが2倍、自席カラーとマッチした席だけは5倍とすると
60回に5回は2倍になる→ペイアウト率は5/60増える
60回に1回は5倍になる→ペイアウト率は4/60増える
ので、ここまでのペイアウト率は70.0×(69/60) = 80.5%になります。
そしてペイアウト3%程度をプログレッシブジャックポット用に積み立てて使ったらどうかと考えましたが、どうやって当たりを出せば良いのかを思いつきません。ジャックポット無しにして自席カラーマッチ時のボーナスを5倍→8倍にするとペイアウト率が70.0×72/60 = 84.0%になるので、それも良いかなと思いました。
当時の開発担当の方には「勝手な事ばかり言って、こっちは遊びじゃなくて大変だったんだぞ!」と怒られそうですが…

それでは。
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Unknown (HK)
2023-06-13 22:24:46
いつも楽しく読ませていただいております。。。


CRTモニタは電安法適用外とするために取り付けたのだと思われます。
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Unknown (nazox2016)
2023-06-14 21:50:37
まとめレスで失礼いたします。
>EM好きおじさん、またもやコメントをありがとうございます。ファロ(というか、ビッグシックス)のペイアウト率計算は比較的単純なので、自分ならこうすると考えるのも楽しいですね。ワタシもやってみましたが、ワタシの結論は、ペイアウト率が悪いことで有名なラスベガスのビッグシックスをベースにしてボーナスなどでトータル85%程度のペイアウト率にする、というものでしたが、あまり大きなボーナスを出すだけの原資は捻出できませんでした。
ファロジャックの時代はまだウィンドウズがそれほど普及しておらず、エクセルなんて便利なものもありませんでしたから、計算作業は面倒だったことと思います。

>HKさん、貴重なコメントをありがとうございます。モニターは、減価償却ではなく電安法(当時は電取法)の問題でしたか。さっそく本文に反映させて訂正いたします。今後もお気づきの点がございましたらご教示いただければありがたく存じます。本当にどうもありがとうございました。
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Unknown (HK)
2023-06-18 10:49:53
こちらこそ貴サイトで勉強させている身なので恐縮です。

電安法逃れのために直流電源装置を取り付ける、すなわちACアダプタ、しかも100V IN、100V OUTという脱法行為があったそうですが、それはJAMMAで規制が入ったと聞いたことがあります。
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Unknown (nazox2016)
2023-06-18 23:18:54
HKさん、ご返信くださりありがとうございます。
ワタシは電気関係はからきしで、電取法も「そういうものがあった」程度の理解しかありません。試験にお金がかかると聞いたことがあるような気もしますが、JAMMAが規制したということはやはり結構悪質とみなせる行為だったのでしょうね。
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