オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

コインマシンやギャンブルゲームやカジノの歴史的エピソードとか、時々カジノ旅行記とか、たまにスポーツやマンガとか。

謎のピンボール「Fathom (Bally, 1981)」

2023年01月29日 18時32分37秒 | ピンボール・メカ

本日29日の未明、拙ブログではおなじみのカナダのCaitlynから、「今、ピンボールトーナメントに参加している。その風景を見せたくて」とのメッセージとともに2枚の画像が届きました。どうやら個人のピンボールコレクターが自宅の屋根裏部屋にマシンルームを作って、仲間を招いてプライベートのピンボール大会を行っているようです。画像には全部で10台のピンボール機が写っており、このような環境が持てることに大変羨望を感じるのですが、これらのコレクションのうち、1台だけ見たことも聞いたこともないマシンがありました。

Caitlynから送られてきた画像の中にあった、ワタシが見たことも聞いたこともない1台。まだCaitlynから画像の掲載許可を得ていないため、部分のみ切り出している。

スペインとかフランスとかベルギーなど欧州産の機械なら知らない機種があってもさして驚きませんが、このフロントドアはBallyが1972年以来使い続けているものです。ワタシは、米国の三大ピンボールメーカー(Bally、Gottlieb、Williams)の1960年台半ば以降の機械は殆ど把握しているつもりだったので、大変に当惑しました。そもそも、バックグラス部分を拡大してもタイトルの読み方すらわかりません。

バックグラス部分の拡大図。画質があまり良くない上に隠れている部分があり、詳細がよくわからない。隣は「Bobby Orr Power Play (Bally, 1978)」。FATHOMと同じフロントドアを持っている。

思い当たる可能性で検索を繰り返して、タイトルには「FATHOM」と書いてあることはわかりました。オンライン辞書で調べると、名詞的用法として「主に海で用いる長さの単位(6フィート)」、動詞として「(海などの)深さを測る」と言う意味で、その比喩的な用法として「推し測る」、あるいは「探る」などの意味があるようです。改めてバックグラスを見ると、ヘビか竜のような体の長い生物と、深海魚のような魚が描かれているように思えます。

メーカーとタイトルが判明すれば、IPDBで調べることができます。さっそく調べると、Ballyが1981年にリリースしたもので、3500台しか生産されていないことがわかりました。IPDBにはバックグラスの詳細がわかる画像やプレイフィールドの画像などもありますので、ぜひ上記ハイパーリンクから参照してみていただければと思います。

IPDBにはFATHOMのフライヤーも掲載されていました。その内容は、マンガでこの機械のストーリーを語る、ちょっと変わった形式のものでした。

FATHOMのフライヤーのおもて面(上)と裏面の冒頭(下)。このゲームのストーリーが、裏面の冒頭まで続くマンガで描かれている。画像はIPDBより拝借。

せっかくなのでマンガも読んでみようと、四苦八苦しながら超訳してみました。

********* 以下、フライヤーのマンガの超訳 ***********

FATHOMの謎 バミューダの沖合のどこかで
作・Greg Freres 画・Kevin O'connor

男:奴はなんだってこんなところに一人で潜ったりしたんだろう。奴は俺たちを待ってるだろうから行ってくるよ。
女:救助隊を待った方がいいと思うの。まだ酸素も残ってるだろうし。
男:心配ないよ。たぶん海底洞窟で迷っているんだろう。5分で戻るよ。救助隊が到着するのはその後さ。
女:胸騒ぎがする。ゆうべ土地の老人が海の妖精や人魚の話をしなければ良かったのに。
女:あんなのただの作り話よね。訪れるダイバーを楽しませるための・・・ え? あれは? あれは何?
女:何なのこの泡! 彼に何かあったんだわ! 救助隊はまだ? 助けて! 誰か助けて!
(次ページ)
女:たすけてええええ!!

救助隊は間に合うのか? 老人の話はただの作り話? FATHOMを遊んで謎を解明せよ!

********* フライヤーのマンガの超訳ここまで ***********

マンガはなんともスリルとサスペンスに溢れるところで終わり、先を知りたければFATHOMを遊べ、と言うストーリーにしています。まあ、これもアイディアだとは思います。

さて、ここまで調べはついたものの、やはりワタシにはこの機械に思い当たる記憶はありません。遊戯機械総合年鑑の81年版、82年版、83年版も調べてみましたが、いずれにも記載はありませんでした。生産台数は3500台と比較的少なく、ひょっとすると日本には輸入されていないのかもしれません。もし、この実機を見たことがあるという方がいらっしゃいましたら、いつごろ、どこでご覧になったのか、コメント欄でお知らせいただけると嬉しいです。

最後に余計な蛇足。フライヤーのマンガに描かれる女性キャラは、黄色いビキニと髪の色が一致しているから同一人物と理解するものの、コマごとにずいぶん顔が違います。アメコミはキャラの顔の描き分けがずいぶんいい加減だとはかねがね感じていましたが、この辺の感覚が日本とは違うのでしょうね、たぶん。

フライヤーのマンガに描かれる女性キャラ。ストーリー上ではこれらは全部同一人物とされている。


高田馬場レゲエ紀行:ナツゲーミュージアムin白鳥会館

2023年01月22日 16時39分03秒 | ロケーション

ナツゲーミュージアムin白鳥会館(高田馬場)」はオープンから2年以上が経過しており、既に多くのレゲエファンにはとうに周知されていると思われるので、もはやワタシが改めてご紹介するまでもないロケかもしれません。しかし、まだご存じない少数の不幸なレゲエファンがいるかもしれず、また一人でも多くの方に行っていただきたいとの思いから、周回遅れを承知で採り上げ、宣伝しておきたいと思います。

「ナツゲーミュージアムin白鳥会館」は、JR高田馬場駅の改札を出てすぐに左に進むと、30秒以内程度で到着する角のビルの2階と地下1階に分かれます。2階はビデオゲーム、地階はピンボールのフロアとなっています。

2階への階段を上った突き当りには駄菓子の物販があり、そこから左を向くと、ビデオゲームフロアの入り口になります。入り口の右側には無料で遊べる「ギャラガ(ナムコ、1981)」がありますが、ワタシが行ったときは調整中となっていました。

ビデオゲームフロアの様子。フロアの中央部にはテーブル筐体とキャバレー筐体、壁沿いにはアップライト筐体とミディ筐体が置かれている。

フロアは目測で5m四方くらいで、広いとは言えません。この中に、コックピット筐体2台アップライト筐体10台キャバレー筐体(ミニアップライト)5台テーブル筐体8台ミディ筐体4台に、山のぼりゲームなどのプライズ機7台が効率よく設置されています。ミディ筐体のアルカノイド(タイトー、1986)は、アニメ「ドラえもん」の声だけでなくアルカノイドの熱狂的なファンとして知られている大山のぶ代さんから譲っていただいたものなのだそうです。

これらのビデオゲームは、ワタシも往事は熱心にやり込んだもののはずですが、今遊ぶとまるでヘタになっていました。730万点まで記録したはずのゼビウスは、ソルやスペシャルフラッグの出現位置をすっかり忘れているのみならず2回目のアンドアジェネシスが出てくる前に全滅するし、クレイジークライマー(日本物産、1980)に至っては1面クリアすらできません。これは再び修行をやり直す必要があります。

地下はピンボールコーナーで、EM機3台、SS機8台が、2Fとおそらく同じ広さの中に設置されています。アップライトのビデオゲームも数台あり、そのうちの一つが「パンチアウト!!」(任天堂、1980)であることは全く感涙ものです。

地下のピンボールコーナー。

ワタシはランプレーンと多階層バリバリの機械よりもフラットなプレイフィールドを好む傾向が強いのですが、EM機だけでなくSS機でもそのような台がいくらかあるのがうれしいです。規模としては大阪のシルバーボールプラネットとは比ぶべくもありませんが、自宅から少し電車を乗り継げば行けるところにこのようなピンボールスポットがあるというだけでも、今の時代では奇跡的なことです。

ゲーム機はしばしば入れ替わりがあるようです。また、仮に入れ替わりが無かったとしても、それはそれで遊ぶ価値はあります。この貴重なレゲエスポット存続に僅かなりとも役に立つために、ワタシは今後も機会を作ってリピートしていく所存です。

【ナツゲーミュージアムin白鳥会館メモ】
・所在地:東京都新宿区高田馬場1丁目35-2

道を挟んだ右隣り(地図上の赤破線)はGIGOのゲーセンなので間違いのありませんように。

・営業時間:12:00開店、23:00閉店
 ただし、イベントなどで変更されることがあるので、Twitterのアカウントをフォローしておくことをお勧めします。

・線路沿いに新宿方面に少し進むと、右手に姉妹店でこちらもレゲエの設置が多い「ゲーセンミカド」があります。


パチンコ台の釘打ち工程の謎が解けた話

2023年01月15日 16時31分05秒 | 風営機

パチンコ台には何百本もの釘が打たれていますが、その釘打ち作業はロボットによって自動化されています。まず1985年に刊行された「パチンコ台図鑑(リブロポート刊)」の96ページには、機械が釘を打っている画像が掲載されており、キャプションで「コンピューターによる自動釘打ち機。300本以上の釘を4分で打つことができる。」と説明されています。

「パチンコ台図鑑」P.96に掲載されている画像。釘を機械で打っている。

1台分の釘を打つのに4分と言うことは、1000台の釘を打つには約67時間、24時間操業したとしても3日弱かかることになります。売れる台となれば数万台は生産されるので、その延べ工数は、ロボットを使ったとしても数か月にも及ぶことになります。

現在のロボットはさらに進歩しており、1分間に130本以上の釘を打ち込めます。更に、昨今のパチンコ台の釘は200本前後くらいに減少しているので、1台の釘打ちに要する時間はおよそ1分~1分半程度に短縮されます。

現在の釘打ちロボット。宮山技術研究所のウェブサイトで公開されている動画より。

このように自動化される以前は、どうやって釘を打っていたのでしょうか。ワタシは一昨年の8月の記事「PPフェア2002より昭和のパチンコ(3):終戦直後(昭和20年代)のパチンコ」で、「かねがね不思議なのですが、手作業でパチンコ台を作っていたころ、あの釘も一本一本手で打ち込んでいたのでしょうか。だとすると、打ち込む角度や深さを均等に揃えるのはけっこう熟練を要すると思うのですが、実際のところ、どうなんでしょうか」と述べています。

昭和20年代のパチンコ台製造風景。何人もの女性たちが手にハンマーを持ち、釘を打っているように見える。

これはワタシにとって長年の謎だったのですが、昨年、拙ブログをご高覧くださっている方からお誘いを受けて「パチンコ誕生博物館」(関連記事:【特報】パチンコ誕生博物館オープン(1))を再訪した際、館長の杉山さんにお尋ねしたところ、一つの工具を取り出して見せてくれました。


釘を手で打つための工具とその底面。一見したところ、ヘンなピンセットのよう。

工具先端の内側には、釘を掴むための溝がいくらかの角度をもって刻まれている。

溝で釘を掴んだところ。

工具で挟んだ釘をハンマーでたたき込めば、一定の角度と深さで釘が打ち込めるという仕組み。

なるほど。当然と言えば当然ですが、「オートメーション」なんて概念がまだなかった時代でも、作業を効率化させる専用の工具が開発されていたのでした。それでも1台分の釘を打つのに要する時間は、どんなに熟練した工員であっても1985年当時の機械にすら及ばないことは明らかでしょう。市場規模がまだまだ小さかった時代とは言え、たくさんの人手が必要であったことと思います。

それにしても、釘打ちロボットなんて他の産業への転用もそうそうできないだろうに、ただパチンコだけのためにこれだけ高精度で大規模な機械を作ってしまうのも、よく考えれば驚くべきことです。パチンコが巨大産業に成長した陰には、こんな技術革新があったことに今さらながら気づかされました。


【小ネタ】Nip-It(Bally, 1973)のメモ

2023年01月08日 22時25分01秒 | ピンボール・メカ

昨年12月18日、初めて「ナツゲーミュージアムin白鳥会館(高田馬場)」に行ってまいりました。事情があって1時間程度しかいられなかったためピンボールフロアしか見ておりませんので、ロケのご紹介は近日中に再訪した上で改めて行うこととして、今回はピンボールフロアの中でも特に気になった「Nip-It (Bally, 1973)」をメモしておこうと思います。

Nip-It(Bally,1973)。

ワタシは「Nip-It」を、新製品として世に出たばかりの頃から見ていたはずです。バックグラスに描かれている人物のタッチはその後も何機種かで描かれていたことも覚えています。しかし、右フリッパーボタンの隣に付いているもう一つボタンの用途がわからず、実は遊んだ記憶が全くないことに気づいてしまいました。

Nip-Itの筐体右側面についている2つのボタン。左側が通常のフリッパーボタン、右側が謎のボタン。

新しい機種であればとにかく一度は遊んでみるはずのワタシとしてはこれは全く奇妙なことで、内心激しく混乱をきたしました。まずはプレイフィールドをまじまじと見てみたのですが、2つ目のボタンに関係しそうな記述は見当たりません。さらにワタシを混乱させたのは、フリッパーが短い「2インチ」であることでした。ワタシの記憶では、Nip-Itは長い「3インチ」のフリッパーが主流となって以降の1970年代の機械だったはずです。

Nip-Itのプレイフィールド。フリッパーがこの時代には既に非主流となっていた短い「2インチ」が採用されている。

しかしそれは、中段中央の黄色いマッシュルームバンパーに「CLOSE FLIPPERS」と書いてあることで、「ジッパーフリッパー(Zipper Flippers)」フィーチャーが搭載されているためであることがわかりました。ジッパーフリッパーは1966年の「Bazzar」で初めて採用され、60年代のバーリー製マシンにはしばしば採用されたフィーチャーです。2インチの機械は、現在主流の3インチフリッパーが主流となる70年代の初頭まではいくらかは作られ続けてはいました。

とにかく遊んでみなければ話にならぬ思い、「往時であれば30円だったのになあ」などと思いながら100円硬貨を投入しました。機械が動き出し、ボールを打ち出してさっそく謎のボタンを押してみたところ、なんとプレイフィールド上段の右側にあるワニのプラスチックの下から、なんかヘンなものが出てきました。

プレイフィールド上段右のワニのプラスチック部分。

謎のボタンを押すと、ワニの口のあたりから「なんかヘンなもの」が出てくる。

なんかヘンなものをローアングルから見たところ。

何だこれは?

ボールを弾き飛ばすバンパーの類にも見えませんが、試しにボールがこの辺りに来た時にこのヘンなものを出してみたところ、ボールはヘンなものを押し上げてその内側に入って行き、そして謎のボタンを離すとボールはワニの口の中に掻き込まれていきました。ワニのプラスチックで隠されている中で何が起こるのかと思って見ていると、中段右のゲートからボールが出てくるだけでした。

何だこれは?

これで何か特別なアドバンスを得たようにも思えません。もやもやしたものを残して帰宅後にIPDBで調べてみると、このフィーチャーは「バリゲイター(Balligator)」と言って、Nip-Itの目玉フィーチャーのようです。フライヤーでは、バリゲイターによって「1000点とボーナス1000点を得る」とのことで、「今年最もトリッキーな新たなスキルデバイスは、長期間に渡るリピートプレイを保証します」と自画自賛していますが、なんだかセガがよくやる「何か一つヘンなこと」をやっているように思えました。

なお、このフィーチャーの名称である「バリゲイター」は、「ワニがボールを食べる」イメージから、「ボール(Ball)」と「ワニ(Alligator)」をうまく合成したつもりなのかもしれませんが、ひょっとすると自社名の「Bally」もかけているのかと深読みしてしまったりもします。

Nip-Itのフライヤーの表(上)と裏(下)。

なんだか文句ばかりに見えますが、では面白くないかと言うとそういうわけでもなく、次回行けばまた何百円かのお布施をしてしまうことになると思います。