今回は、2007年の2月に開催されたAOUショウに出展された「ビンゴ・バケーション (Bingo Vacation)」の話です。
少し新し過ぎる話である上に普及もしていない機械なので、今までテーマに採り上げることを躊躇していたのですが、歳のせいか物忘れが多くなってきた自覚があり、このままではこの極めて特殊な機械を思い出すこともなくなってしまうかもしれないという懸念を感じるので、半ば自分の備忘録として記録しておきたいと思います。
ビンゴ・バケーションは、アールエス(旧リバーサービス)というディストリビューターのブースで出展されていました。アールエスは1990年、福岡県で「リバーサービス」として設立され、2006年にアールエスと商号変更しています。AM機のディストリビューションだけでなく、周辺部品などの開発製造もおこなうなど、一時は有力なディストリビューターの一つでしたが、スマホ以降のAM業界の規模縮小で苦戦を強いられるようになり、さらにコロナ禍の追い打ちを受けて、昨年、残念ながら破産申請をするに至ってしまいました。
アールエスはディストリビューターとして、AOUショウやJAMMAショウではかねてより中小メーカーの比較的小型の機器を出展していましたが、2007年のAOUショウでは「ビンゴ・バケーション」というビンゴ・ピンボール機を大々的に出展しました。
2007年のAOUショウでのアールエスのブースに設置されたビンゴ・バケーション。ブース中央のカウンターを取り囲む壁の2辺に沿って、10数台が展示されていた。
ビンゴ・バケーションは、25穴タイプのビンゴ・ピンボール機(関連記事:sigmaのフリーペーパー「ビンゴゲーム入門」(1985))です。ビンゴ・ピンボールは、1951年の米国で初めて発売されて以降、しばしばギャンブル機との指弾を受けながらも1981年まで生産が続けられていたコインマシンです。日本でもsigmaが専門店「ビンゴ・イン」を展開して常連客が根強く付いていましたが、現在では埼玉県のBAYONというゲーセンで国内で唯一(おそらく)稼働しているロケになっています(関連記事:埼玉レゲエ紀行(2):BAYONの記録その2 + パチンコ博物館(さいたま市))。
ビンゴ・ピンボールが衰退した理由は、よくわかりません。いろいろ理屈をつけることはできるとは思いますが、sigma以外に積極的に手を出すロケーションが殆どなかったことからも、オペレーションが難しいゲームだったらしいことも一因だったのではないかと思われます。
ベルギーやスペインなどでは、2000年代でもまだいくらかビンゴ・ピンボール機の生産は行われていましたが、それらは日本には入って来ていません。そんなわけで、発祥国である米国はもとより、日本においても過去のゲーム機となっていたビンゴ・ピンボールが、2007年になってAM市場に再び顔を出してきたことは、全く青天の霹靂でありました。
ビンゴ・バケーションを作ったのは台湾の「KEAON」というメーカーでした。台湾と言えばセガが1989年に発売したビンゴサーカス(関連記事:セガのマスビンゴゲーム(3) ビンゴサーカス(Bingo Circus, 1989)とその後継機種)が爆発的にヒットし、2000年代においてもまだ稼働が続いていた地域です。おそらくは、これだけ人気があるビンゴを、もう日米では生産されていないピンボールの形で復活させれば商機があると踏んだのでしょう。
ビンゴ・バケーションのバックグラス。セガのマスビンゴの影響が随所に見える。周辺の赤色LEDは意味がわからなかった。
プレイフィールド。しかしこのフィールドには致命的な「足りないもの」がある。詳細は後述。
ロックダウンバー上のコントロールパネル。A-B-C-Dボタンはビンゴサーカスそのものに見える。以下、左よりメダル払い出しボタン、レジスト(テイクスコア)ボタン、ダブルアップボタン、エキストラボールベットボタン、100ベットボタン、10ベットボタン。
バックボックス上に設置されたインストラクションカード。
勝利条件がわからないが、プログレッシブジャックポットも用意されていたらしい。
古いビンゴファンとしては良くぞやってくれたと喝采したいところではあったのですが、しかし、試遊してみたところ、すぐにこの機械には致命的な足りないものがあることに気づいてしまいました。それは、プレイフィールドの外枠に沿って張り巡らされているロープ状のスプリングです。ピンボール・ビンゴの元祖であるBallyがこれを何と呼んでいたのかはわからないのですが、sigmaのICビンゴのパーツリストでは「パネル・スプリング(Panel Spring)」と呼んでいる部品です。
上がビンゴバケーション、下がsigmaのチェロキーローズ。ビンゴバケーションの外枠沿い(ピンクの帯部分)には何もないが、チェロキーローズの同じ部分(黄色の帯部分)には太さが波打つように変化するパネル・スプリングが張り巡らされている。
チェロキーローズのパネル・スプリング部分を拡大したところ。このスプリングに当たったボールが微妙な跳ね方をして、23~25の穴への入り方にサスペンスを与える。
パネル・スプリングは、ボールの動き、特に最下段の23-24-25の穴への入賞に関して最大のサスペンスを生み出す重要な部品なのですが、ビンゴ・バケーションにはそれがありません。これは、ビンゴプレイヤーとしては「仏作って魂入れず」のことわざを以て問い詰めたい、致命的な欠陥です。
そのせいかどうかはわかりませんが、少なくとも日本国内において「ビンゴ・バケーション」が広く普及することはなく、以降のJAMMAショウやAOUショウに再び出展されることもありませんでした。メーカーのKEAEON社は現存していないようで、公式ウェブサイトだった「www.keaon.com」を検索すると、「is for sale」と出てくるサイトがヒットします。