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初期の国産メダルゲーム機(4) 競馬ゲームその2・1975年の競馬ゲーム

2018年04月01日 14時34分40秒 | 初期の国産メダルゲーム機
1975年とは、日本で初の国産メダルゲーム機が発売された年の翌年です。この年に発売された国産競馬ゲーム機は、ワタシが把握している限りでは6機種があります。

◆ケンタッキーダービー(Kentucky Derby, UNIVERSAL,1975)
ケンタッキーダービーは、業界誌「アミューズメント産業」の75年3月号にその広告が掲載されています(これが初出かどうかは不明)。筐体の画像を見ればわかるとおり、馬は「ハーネスレース」のような模型ではなく、ランプの点灯で表現されていました。


「アミューズメント産業」75年3月号に掲載されたケンタッキーダービーの広告。

ゲームは5頭立ての連複のみで、1か所にメダル3枚までベットできました。オッズはゲームの結果が決まった後に、5種の中から一つがランダムに決定されます。このような形式は、日本でGマシンとして人気を博した「ウィンターブック」(関連記事:セガのスロットマシンに関する思いつき話)やその国産模倣品が採っていたやり方です。ワタシは詳しいオッズを覚えておらず、持っている画像も不鮮明ですが、最低が2倍、次が4倍というところまでは見えます。

ケンタッキーダービーは、払い出し機構にホッパーを採用していました。もしかすると、国産メダルゲーム機でのホッパー使用メダルゲーム機第一号かもしれません。

◆ダークホース(Dark Horse, TAITO, 1975)
同じ1975年、タイトーが発売した「ダークホース」の外見は、ユニバーサルのケンタッキーダービーと驚くほどよく似ています。


「ダークホース」のフライヤー。

広告の文面もそっくりです。

・ケンタッキーダービーの広告の文面
「1-2着の連勝馬が一致した時ODDSの表示された配当が出ます」

・ダークホースのフライヤーの文面
「1着馬と2着馬が一致した時、オッズに示された枚数だけメダルがペイアウトされます」


さらに、オッズを決定するシステムもケンタッキーダービーと同じように、5種類のオッズのうち最終的に点灯したオッズが配当となります。

ただ、一つ異なる点として、ケンタッキーダービーが5頭立てだったのに対し、ダークホースは6頭立てでした。そのため連複の組み合わせは15通りとなり、その分オッズの設定もケンタッキーダービーよりも高く、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍のいずれか一つがレース後に点灯しました。

ワタシはこのダークホースを、都立大学駅にあった「キャメル」というゲームセンター(関連記事:柿の木坂トーヨーボール & キャメル)で何度か遊んでいます。しかし、当時のワタシはメダル1枚を惜しみながらベットするようなプレイヤーだったので、1レースに何か所にもベットするような度胸はなく、当たった記憶はありません。

◆EVRレース(EVR RACE, Nintendo, 1975)
EVRレースは、日本初のビデオ競馬ゲームです。「EVR」とは、「Electronic Video Recording」のことで、ビデオデッキにまだVHSやベータなどという規格がなかった時代のビデオ規格です。任天堂レジャーシステムはこのEVRを使用したゲームとして、「ワイルドガンマン」とこの「EVRレース」を、1975年に発売しました(関連記事:任天堂@ゲームセンター)。


任天堂レジャーシステムのEVRレース。

EVRレースは殆どのメダルゲーム場に設置され、セガの「ハーネスレース」と同等かそれ以上の大ヒットとなったように思います。そして、あの「ハーネスレース」のコピーと思しき機械を作ってきた「フジ・エンタープライズ」社は、今度も「ビデオレース(VIDEO RACE, 1976)という類似品を出してきました。


業界誌「アミューズメント産業」1976年7月号に掲載されたフジ・エンタープライズ社の「ビデオレース」の広告。

任天堂レジャーシステムはその後も「EVRベースボール」(1976)や実写版の「EVRレース」、またメダルゲームではない「スカイホーク」(1976)でEVRシステムを使い倒していました。まだビデオゲームの表現力がお粗末だった時代ならではの、懐かしいシステムです。

◆「ザ・ダービー」(The Derby, sigma 1975)
1975年7月、sigmaはのちに同社の看板ともなる「ザ・ダービー」シリーズの第一号機「V0(ブイゼロ)」を自社ロケで稼働させました。

競馬ゲーム機の変遷を特集した業界誌「コインジャーナル」96年11月号の記事によると、sigmaが競馬ゲームの開発に着手したのが1972年だそうです。sigmaの創設者である真鍋勝紀(敬称略・以下同)が思い描く、メダルゲーム場の目指すべき姿を実現するため、開発費に糸目をつけず、制御には横河ヒューレットパッカードのミニコンピューターを搭載していました。その結果、「ザ・ダービーV0」の価格は5千万円と言われるまでになりましたが、実際にはsigmaのロケに設置された2台しか生産されず、販売されることはありませんでした。当時のハリウッドのSF映画に出てきても違和感がないような洗練された筐体デザインとなったV0は、遊戯機械年鑑1976版(日本アミューズメント出版社刊)で、「世界で最も大きな、最も高価なゲームの最高峰」と謳われました。


「ザ・ダービーV0」の筐体。

V0の詳細は過去記事「NASAが発明したゲーム機「ウィナーズ・サークル」を参照していただくとして、これに端を発するsigmaの「ザ・ダービー」シリーズは、「マークII」、「マークIII」、「マークIV」とモデルチェンジを重ねて、sigmaの顔となります。

このうち「マークIII」は海外のカジノにも設置され、ラスベガスではワタシが見た限りでも、The D(旧フィッツジェラルド)、ストラトスフィア、サハラ(現SLS)、ラスベガスヒルトン(現ウェストゲート)、ニューフロンティア(現存せず)、ニューヨーク・ニューヨーク、MGMグランド、エクスカリバーに設置されているところを見ています。The DとMGMグランドでは現在もなお稼働中で、特にThe Dでは、通常は写真撮影が禁じられているカジノ内に、画像とメッセージをFacebookに投稿できる端末を「マークIII」の傍ら設置して、そのアピールに努めています。


ラスベガスのダウンタウンにあるカジノホテル「The D」に設置されている、facebook投稿用端末で撮影した「マークIII」の画像。カジノで遊んでいるプレイヤーまでばっちり写る。

◆ニューウィンターブック(New Winter Book, Universal, 1974)
「ウィンターブック」(Winter Book)とは、米国のH. C. EVANS & Co.が1946年から1950年代にかけて製造したギャンブルゲーム機で、その後も「BANG TAILS」などいくつものバリエーションが作られ続けました。競馬をテーマとしてはいますが、ゲーム性はどちらかと言えばルーレットに近く、1から7までの任意の数字にベットしてスタートレバーを引くと電光ルーレットが回り、停止した番号とベットした番号が一致すると当たりとなります。的中時のオッズは、各番号のオッズが描かれたリールが回転し、停止した時の表示に従います。前述の「ケンタッキーダービー」や「ダークホース」は、このシステムを踏襲・アレンジしたものと言えます。

sigmaの真鍋勝紀(敬称略・以下同)はウィンターブックを「最高傑作」とべた褒めしたほどで、日本初の本格的なメダルゲーム場である「ゲームファンタジア・ミラノ」が開業した際にも複数のウィンターブックが設置されている様子が、当時のアミューズメント産業誌の記事にも見えます。


ゲームファンタジア・ミラノの開店を報じるアミューズメント産業1973年2月号の記事に掲載された画像。3台のウィンターブックが見える。

真鍋はアンティークのスロットマシンをいくつもコレクションしており、WINTER BOOKが現役を引退した後も、そのコレクションに加えられて長く保管されていました。


真鍋コレクションのウィンターブック(BANG TAILSバージョン)。


ワタシはその実態を知りませんが、ウィンターブックは日本のアンダーグラウンド市場で人気を博したらしく、国内の複数のゲーム機メーカーが模倣品を作りました。ユニバーサルにはその時の記憶が強く残っていたらしく、1975年に「ニューウィンターブック」(New Winter Book)を発売しました。


アミューズメント産業1975年3月号に掲載されたニューウィンターブックの広告。オリジナルとよく似た雰囲気を再現しているのは、日本国内でオリジナルが普及したことを証明するものだろうか。

「ニューウィンターブック」がアンダーグラウンド市場に設置されたのかどうか、ワタシは知りません。70年代のダイエー碑文谷店のゲームコーナーには2台も設置されていました(関連記事:さよならダイエー碑文谷店)が、ほかのロケーションではあまり見た記憶もなく、本当に真鍋が言うような傑作なのか、また多くの模倣品を生むほどの優れたヒットゲームだったのか、今でも疑問を強く感じています。しかし、状況証拠を見る限り、それはワタシが単に寡聞だというだけのことなのでしょう。

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (EM好きおじさん)
2022-09-14 12:26:02
こんにちは。

数々の模倣品を発生させた"WINTER BOOK"とはいったいどの様なマシンだったのか興味が湧いて、youtube上で動画を探してみました。いくつかの動画で実際の動作を見る事が出来たのですが、メカ音が良いですね。ルーレット部でランプをトップパネル下で物理的に回している所が最高です。
ルーレット部は21区画中1~7の当たり区画が1箇所ずつという厳しい抽選ですがオッズをその分高くしてあるので、当たり区画が多くて低いoddsであるよりもギャンブラーを熱くさせたのではないかと思います。
BANGTAILS版ではないのですが、WINTER BOOKに関する解説記事を見つけました。oddsは10,15,20,25,30で、odds=30で当たりの時トップパネル手前の小ルーレットの数字も一致していると30コインに加えて特殊コイン(その価値はオペレーターがペイアウト率を考えて任意に決める。例えばそれを90コイン相当にすればペイアウト率は72%)が出るそうです。ペイアウト率調整法として面白いやり方だと思います。
なお写真のBANGTAILS版はodds窓の1番の所に"0"が見えているので上記とoddsは異なりますが、odds=0は悲しいですね。

それでは。
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Unknown (nazox2016)
2022-09-14 21:43:09
EM好きおじさん、こんにちは。ウィンターブックは、ハズレ目がなく必ずどれかが当たりとなるバージョンもあります。ウィンターブックのゲームシステムは、国産の類似品以外でも応用されているものが結構ありました。なお、画像の1番のオッズは角度が悪くて10の位の1が隠れており、実際は「10」です。1/21の確率で当たったのに配当がゼロだと暴動が起きると思います
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Unknown (EM好きおじさん)
2022-09-15 19:01:15
nazox2016様、ありがとうございます。

odds=0は間違いでしたか。そりゃそうですよね…
21区画すべてが何番かの当たりならば当然oddsは低くなるはずですが、低いoddsばかりでは面白くないので時々高いoddsが出てきたのでしょう。21区画に1~7が3区画ずつではなくて、特定の番号が1区画だけでoddsが高い構成も有り得ますね。

それでは。
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Unknown (nazox2016)
2022-09-17 16:30:59
おっしゃる通り、ハズレ目が無いタイプは1/7の確率で当たりますから、1/21で当たるタイプよりもオッズは圧倒的に低く設定されています。
この画像の機種の場合、オッズは最低10、最高で30ですが、オッズが30で当たった時に、更に小さい方のルーレットの番号も当たり目と一致すると、特別なトークンが支払われました。
そのトークンにはデノミの100倍から500倍までの異なる価値を持つ何種類かがあり、コインとは別の払い出し機構にセットされていました。ただし、500倍のトークンが実際にセットされていたかどうかはオペレーター次第で、100倍のトークンしか入ってなかったこともあり得るようです。
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Unknown (ファン)
2024-07-06 19:00:40
nazox2016 さん
こんばんは、以前マッチ・マップなどでコメントさせていただいたファンと申します。大変ご無沙汰しております。今日はなぜだか◆ダークホース(Dark Horse, TAITO, 1975)のことを思い出し、ふと訪問いたしました。小学生の時、近所のデパートにあったダークホースをじっと見つめていると大学生らしきお兄さんが何やらノートにメモしていたのです。時折メダルを入れゲームをしている様子で、その時大当たりしていたような記憶があります。統計学的なものなのかどうかわかりませんが、何をしていたんだろうと、ふと思い出しました。
nazox2016さんはこれについて何かご存じでしょうか。当時ゲームセンターにあったファロやEVRレースやハーネスレースなどのクセ(というかメカ的なバグ)のようなものをまとめて記事にしていただけると結構おもしろいかなと思います。
ちょっと前ではセガのネットワークカジノのポーカーで万枚を出していた人がいたのを見たことがあります。CPU対戦すると何かそれが出るロジックがあるのでしょうか。
もし、本ブログの趣旨に反するようでしたらこのコメントは削除してください。
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Unknown (nazox2016)
2024-07-07 23:38:57
ファンさん、お久しぶりです。またご高覧いただけていてうれしいです。ありがとうございます。

さて、メダルゲームの必勝法についてですが、ワタシは実効性のある方法は殆ど知りません。

また、1970年代のメダルゲームがどのようにしてランダムナンバーを発生させていたのかもわかっておりません。これは今後調べてみたいテーマではありますが、内部文書かもしくは当時の関係者からのリークが必要で、なかなか難しそうです。

一つ、任天堂の「EVRベースボール」は、換気口を覗いて見える、基板上のLEDの点滅パターンから次のゲームの展開が予想できるというお話はありました。

セガネットワークカジノで万枚と言うお話も存じませんでした。今度セガの関係者にあった時に聞いてみたいと思いますが、おそらくは何かのバグではないかと思います。

ご要望に全然お答えできずに申し訳ありませんが、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
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Unknown (ファン)
2024-07-09 20:20:48
nazox2016 さん、こんばんは。お返事ありがとうございます。ダークホースでのことをふと思い出し必勝法があるのかなと思ったんです。
EVRレースとFAROについては「やましん」さんという方が書いておられました。小生も読ませて頂きました。セガネットワークカジノはP/Oが低くなっている時に起きていた現象のような感じでした。
話は変わるのですが、EVRレースの原理と構造について上村雅之氏が任天堂在籍中に書かれた論文が電子技術という雑誌に掲載されています。タイトルは「EVRを使用したテレビゲームの原理と構造」電子技術 19(7), p85-91, 1977-07 : 日刊工業新聞社です。ご興味ありましたら図書館などで探してみてはいかがでしょうか。EVRレース・EVRベースボールの製造工場の写真も掲載されていたと思います。
今後もぜひこちらの記事を読ませていただきますので、よろしくお願いいたします。
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Unknown (nazox2016)
2024-07-10 21:14:45
ファンさん、興味深い情報をありがとうございます。ご教示くださった資料は国会図書館にあることを確認しましたので、次回見てみようと思います。
任天堂のEVR系は、もともと民生品を流用していたとかで耐久性に難があり、故障が多かったと聞いています。それでも人気が高かったのでなんとか騙し騙し使い続けられていたそうです。
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