今回は、久しぶりにオールドゲームに関係しない話です。
漫画読みであれば、誰でも生涯手元に置いておきたい漫画作品があると思います。もちろんワタシにもそういうものはたくさんありますが、そのほとんどは70年代以前のもので、80年代以降の作品となるとめっきり少なくなってしまいます。その数少ない中の一つに、「サルでも描けるまんが教室(通称サルまん)」があります。
非常にもどかしいことに、ワタシは「サルまん」の優れている点を的確に称賛する文章表現力を持ち合わせておりません。それでもなんとか努力を試みるならば、サルまんは、ギャグマンガの体裁を取りつつも、その歴史を含む漫画に対する深い知識と分析及び考察に立脚した現代漫画の鋭い評論が秀逸であったと思います。もちろん、その結論を最終的に漫画に落とし込む際の表現技法が卓越していることは言うまでもなく、作者である竹熊健太郎・相原コージ両氏の力量には舌を巻きます。
「サルまん」が発表されたのは、1989年の晩秋から1991年春までのことです。「ビッグコミック・スピリッツ」誌(小学館)に連載されました。漫画は基本的に非耐久消費財のようなもので、最盛期を過ぎればほとんどの場合忘れられるか、そうでなくともあくまでも過去の出来事として時々思い出されて終わるのが常ですが、「サルまん」は連載終了から30年もの時を経て、このたび演劇「舞台サルまん」として復活しました。
「舞台サルまん」のフライヤー
「舞台サルまん」は、今年の12月15日から12月19日というごく短い期間ではありますが、演劇の街下北沢の「下北沢小劇場B1」で上演されました。サルまんを高く評価するワタシとしては当然観逃すわけにはいかず、またあの漫画をどのように舞台劇にするのかと言う興味もあって、今日、観に行ってまいりました。
下北沢小劇場B1は、その名の通りキャパシティは小さく、なおかつ8畳程度のほぼ正方形の舞台の二辺はその裏が楽屋に続く壁に接しており、残る二辺の延長線上に観客席があるという変則的な作りになっています。ワタシは演劇には全く詳しくありませんが、今までに見たことがない形の中で、「舞台サルまん」は演じられました。
原作では漫画の技術論やストーリーテリング技法が詳しく述べられていますが、劇ではその辺りは最小限に留められ、劇中劇である「とんち番長」を軸に、本来は読者が意識しないはずの葛藤を中心に演じられています。これは、舞台劇とする上では当然あって然るべきまとめ方だと思われ、ワタシは総じて大いに楽しみました。ただ一つ、竹熊と相原が初めて編集者佐藤に原稿を見せたときに、原作では原稿に目を通した佐藤が良いとも悪いとも言わずに「メシ食いに行こうか」と言うシーンがあるのですが、そこが割愛されていたのが個人的に惜しまれた点でした。
何しろオリジナルは30年前の漫画ですから、観客の年齢層も高いのではないかと予想していたのですが案外そんなこともなく、また半数以上が女性客であったように思います。30年の時を超えて今なおナウなヤングへの訴求力を持つ「サルでも描けるまんが教室」の偉大な普遍性を見た思いがしました。また、この名作に着目し、舞台化してくださった関係者の皆さんに、最大限の感謝の意を表したいと思います。観劇後、twitterで「舞台サルまんを大いに楽しんだ。見事な舞台化だった」と呟いたら、一部の出演者の方々から「いいね」をいただき、少し舞い上がりました。