オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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Ballyの蹉跌:WINNERS CIRCLE

2022年11月13日 21時32分20秒 | ピンボール・メカ

拙ブログではお馴染みの、カナダのCaitlynから、Ballyの「WINNERS CIRCLE」というとても興味深いゲーム機の画像をいくつかいただきました。

画像1:「WINNERS CIRCLE」を正面から見たところ。元の画像を正面アングルとなるように補正しているので、縮尺が若干狂っているかもしれない。

画像2:盤面の部分のアップ。下段中央に近い2カ所の緑のポケットの上に、釘を抜いたと思しき跡が見える。

 

画像3:盤面右上と、コインカップ前面に見える「Bally」のロゴ。

画像4:赤、黄、緑に色分けされた電光競馬ゲームのような表示板。

画像5:ハンドル部分。日本の手動式パチンコのハンドルを真似たと思われるが、形状がずいぶん異なる。

画像6:ゲームのインストラクションプレート。超訳すると、

1. トークンを投入する。
2. 「WIN」と「PLACE」の馬が自動的に選択される。
3. WINの馬がまず1着となり、続いてPLACEの馬が2着となるように球を打ち出し、入ったポケットと同色の馬が進む。
4. 馬は、入ったポケットの数字分だけ進む。銀または金のポケットは、全ての馬が進む。
5. 3頭すべての馬がフィニッシュラインに達するとボーナスが与えられる。
6. 最大のスコアを目指して、ペイアウトボタンを押す前に全てのボールを打ち出す。
7. すべてのボールを打ちだしたらゲームオーバー。
8. もし勝利条件を満たしていたら、ペイアウトボタンを押して獲得する。
注意 台を叩いたり揺すったりすると負けとなる場合がある。

と書いてある。

何だこれはと思われた方は、ぜひCaitlynのブログ「Winners Circle! A Bally prototype arrangeball derby game, probably from 1974」をご一読ください。英語表記ですが、それほど難しくはありません。いざとなれば機械翻訳を使う手もあります。内容は、このゲームの説明にとどまらず、部品からこの機械が作られていた時期を推測したり、パチンコタイプの競馬テーマのゲームなど様々な考察があり、読みごたえがあります。

しかし、Caitlynのブログに全振りするのは拙ブログをご高覧くださる皆様に対してあまりにも不親切であるので、ワタシからも多少述べておきます。

この、一見アレンジボール関連記事:シリーズ絶滅種:アレンジボールを記憶に留めておこう)のバリエーションに見える機械は、Caitlynの推測によれば、おそらく1974年に組み上げられたもので、日本のゲームを米国に移植しようとする当時としては稀な試みであったようです。ちなみに、日本がゲーム機の輸出国となるのはインベーダー以降のことで、それ以前は、日本が欧米のゲーム機を真似ることはあっても、その逆の例は殆どありませんでした。

ゲーム内容は、三色に分けられた馬を指定通りの着順でフィニッシュさせることでコインが払い出されるというものです。球を打ち出して入った穴によって駒が進むゲーム性は、セガが1970年前後にリリースしたプライズ機「ダービーデー」(関連記事:1970年の第九回アミューズメントマシンショウ(3)出展機種画像2)に通じるところがあります。着順の指定は、筐体左下の馬の頭のプレートに配されているランプで行います。

画像7:着順を指定するランプ。ゲームごとに、WINから1色、PLACEから1色が自動的に点灯する。「WIN」は1着、「PLACE」は2着を意味する。

1ゲームの球数はアレンジボールと同じ16発で、球が入った穴と同じ色の馬が、ポケットに書かれている数字の数だけ進みました。しかし、16発を打ち終えても、一つもフィニッシュラインに達することができないゲームも多いです。

1ゲームで払い出すコイン数も、やはり当時のアレンジボールと同じ5枚が限度でした。

盤面の中央に近いふたつの緑のポケットの上には釘を抜いた跡があり、まだ釘構成を検討している段階であるらしいことが推察できます。また、機械の内部には役によって払い出すコイン数を設定するスイッチが付いており、この個体が開発のためのプロトタイプであることがわかります。

画像8:ペイアウト数を設定するスイッチ。量産の際にはおそらく削除されるはずの機能。

この非常に意欲的な機械は、残念ながら製品化されることはなかったようです。盤面下段に配されたポケットは14個しかなく、3種類の色に均等に分けることができません。また、盤面上・中のチャッカ―も、各色均等ではありません。これにより、点灯するWINとPLACEの状況によって勝ちやすいゲームととそうでないゲームができたと思われますが、Ballyはどういうつもりでこのような設計としたのでしょうか。

Caitlynの調査によれば、銘板に記されている「E0-606」はプロジェクトナンバー、「1033-1-17」は、「1033」がモデルナンバー、「1」がバージョンナンバー、「17」がソリッドステートを使用した製品の17番目とのことだそうです。また、同じ時期にBallyは「Relay」という機械を開発していたそうですが、バーリーのパーツ カタログにあるゲーム リストには、このモデルが製造されたことを示すものはないとのことです。

画像9:筐体に取り付けられていた銘板。

どんなメーカーにも、製品化に至らずお蔵入りとなる機械はあるものです。しかし、そのプロトタイプが流出することは珍しく、ましてやあの大バーリーに日本のニッチな風営機を真似ようとしたことがあったという事実が知れたことは、オールドゲームファンにとっては実に興味深いことです。


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6 コメント

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Unknown (EM好きおじさん)
2022-11-14 22:38:17
nazox2016様、こんばんは。

私もCaitlynさんのサイトのこのゲームについては気付いておりました。BALLYがこんなゲームを試作していたとは驚きです。

SEGAの"DERBY DAY"面白いね→アメリカ競馬のWIN/PLACEを取り入れたゲームにするのはどうだ→安く作れないといかんよ→移動する模型馬を止めてランプ表示にしよう→盤面はどうする→日本のアレンジボールを知ってるか?…とBALLY内部の人が考えたかどうかは分かりませんが、パチンコ盤面の下部にずらっと水平に並んだチャッカーと来ればどう見てもアレンジボールからの流用ですね。

しかしチャッカーの色と値の配置が左右非対称というのはアメリカ的と言うか何と言うか…。実際の動画を見ると赤の馬の勝率が一番高く、次が黄色でした。これではプレイヤーにWINとPLACEの馬を選ばせる訳にはいきません。私ならば2色が左右対称で残る1色の勝つ割合が他2色とほぼ同じになる様に割り付けて(必要ならば釘を調整する)、プレイヤーに馬を選ばせる仕様にするでしょう。

ところで私はINSTRUCTIONS第5項の「3頭すべての馬がFINISH LINEを越えるとBONUSが与えられる」を読んでBONUSとは何なのか悩んだ結果、「3頭がFINISHしたらWIN/PLACEとは別にBONUSとして(おそらく)1枚のトークンが出る」と考えたのですが、いかがでしょうか。

ではまた。
Unknown (nazox2016)
2022-11-14 23:19:47
EM好きおじさん、コメントをありがとうございます。

このアレンジボールもどきが作られたのは1974年と推測されていますが、アレンジボールが風俗営業の許可を得たのが1972年、日本のAM事情を本国に報告していたバーリーの日本法人「バリー・ジャパン」ができたのが1974年ですから、おそらくバリー・ジャパンができるよりも早い時期からバーリーは日本(というかたぶん世界中)から様々な情報を得て、チャレンジを繰り返していたのかもしれません。だとしたらさすが大バーリーですね。ただ、このゲームに限って言えば、まだまだ練り方が足りないと思います。

「3頭すべてがフィニッシュしたらボーナス」はよくわからないのですが、1頭フィニッシュするだけでも大変なので、着順に関係なくとにかく3頭全部がフィニッシュしたら最高のコイン5枚が払い出されたのではないかと想像しています。
Unknown (EM好きおじさん)
2022-11-15 02:20:51
確かに3頭すべてがFINISHするという「かなり確率の低い」事象が生じたらBONUSで無条件に5コイン払い出すという仕様も有り得ますね。でもそうだとすると"WIN-PLACE-SHOW"が実現しても他の順位で3頭がFINISHした時と同じ配当になってしまいなんとなく寂しい感じがします。
Unknown (nazox2016)
2022-11-16 21:39:34
そうですね、割が合わないように思います。日本のアレンジボールのバリエーションでも似たような寂しさを感じさせるものがありましたが、1ゲームで最高でも5枚のコインしか払出せないので、スペシャル役といえども大盤振る舞いができないのでしょう。でも、日本の法律に縛られないのであれば他にもやりようは考えられると思うのですが、この点も含めてまだ練り方が足りない段階だと思います。
Unknown (EM好きおじさん)
2022-12-09 18:03:49
BONUSに関してCaitlynさんに尋ねてみたのですが、3頭がフィニッシュするとその時点でBONUSとして1枚のコインが自動的に支払われるとの事でした。日本国内向けではないので問題ないのでしょう。
Unknown (nazox2016)
2022-12-10 23:52:45
EM好きおじさん、Caitlynに直接お尋ねくださったのですか。おかげで謎が解けました。ありがとうございます。
彼女のオールドゲーム機にかける情熱にはいつも驚かされます。昨日は「外国人のためのエレメカアーケードゲームガイド」を更新して、ワタシが殆ど知らないさとみのエレメカ機の画像をたくさん上げていますので、よろしければご覧ください(既にご覧になってるかも?)
https://earlyarcadesjapan.blogspot.com/

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