米国Bally社が1964年に払い出し機構にホッパーを導入してスロットマシンに革命を起こす以前の、まだ19世紀末にチャールズ・フェイが発明した3リールのスロットマシン「リバティ・ベル」の基本原理をほとんどそのまま模倣して作られていたスロットマシンの多くは、現金(硬貨)の他に「トレード・チェック (Trade Check)」も併せて使用することができました。トレード・チェックとは、換金はできないがそこに書かれている額面の商品と交換することができるトークンのことで、つまりは金券の一種です。
チャールズ・フェイの孫、マーシャル・フェイの著書「SLOT MACHINES A Pictorial History of the First 100 Years」第5版のP.45より、払い出しの仕組みの図解。この説明の中に、現金とトレード・チェックの識別の方法も含まれている。
この図が説明している、現金とトレード・チェックの識別の方法をごく簡単に解説しておくと、5セント硬貨(現金)はコインシュート内でピンに押し出されキャッシュボックスに運ばれるが、トレード・チェックは真ん中に穴が開いているためピンに押し出されることなくコインシュート内に残り、ペイアウト機構に送られる仕組みになっています。
このページの右下には、硬貨が入っていくキャッシュボックス(ここでは「キャッシュ・カン」と言っている)を模した囲みが描かれ、そこには「リバティ・ベルは、サンフランシスコではトレード・チェックの払い出しが違法とみなされる1902年までは、トークンを払い出す機械として稼働できた」と書かれており、トレード・チェックは法律に対応するための方便として使用されていたことが窺われます。
さて、実は今回はここまでが前置きです。先日、なんとある方から、セガのスロットマシンで使われていたと思われるトレード・チェックを2種類、いただいてしまいました。
いただいた2枚のトレード・チェックの表と裏。
1枚は径が19.5mmで、片面に「SEGA 3d」、もう片面には「VALUE IN KIND ONLY」と刻印されています。
もう一つの方は、径が19.0mmとやや小さく、両面とも同じく「SEGA NO CASH VALUE」と刻印されています。
セガのスロットマシンは英国にもたくさん輸出されているので(関連記事:【小ネタ】セガ・マッドマネーとアルフレッド・E・ニューマン(Alfred E. Neuman))、このうちのひとつはおそらく英国で使用された額面3ペンスのトレード・チェックで、もう一つの方は額面が書かれていないので価値はわかりませんが、穴あきであることからトレード・チェックと同様に機械に投入し、当たれば払い出し機構から払い出される性格のトークンであろうと思われます。
やや大きい方に刻印されている「VALUE IN KIND ONLY」とは、少しわかりにくいのですが、「現物に限る」と言う意味だそうです。つまり、3ペンス相当の商品と交換はできるが、換金はできないということなのでしょう。昨今、ポイ活勢に注目されるポイントみたいなものと理解すればよいのでしょうか。英国にはこの種のトークンが多く残っていて、「3d uk token」のキーワードで検索すると似たような画像がいくつもヒットするところから、60年代の英国ではこのようなトークンを使った運営が日常的に行われていたものと思われます。
ネットで検索するとヒットする、3dトレード・チェックの画像の一例。一部のトークンに見られる「PE」の刻印は、英国の大手ディストリビューター「Phonographic Equipment」(関連記事:セガ60周年記念・1960年以前のプレセガ期(4) セガのスロットマシンその2)を意味しているもの思われる。
このトレード・チェックをくださった「ある方」には、何とお礼を申し上げれば良いのか言葉が見つかりません。大事に保管させていただきます。