半世紀前に稼働していたコインマシンを、1975年11月に刊行された「'76 遊戯機械名鑑」(以下、76年名鑑)から見て行こうという趣旨の本シリーズ、今回は「メダルゲームその2」です。76年名鑑は全体を五部で構成し、第二部となる「メダルマシン」は、さらに「スロットマシン他」、「グループゲーム機」、「その他のメダルマシン」の3章に分けられています。
76年名鑑の目次部分より、第二部「メダルマシン」の部分。
前回はこのうち「スロットマシン他」の章をご紹介しました。順番通りに行くなら次は「グループゲーム機」になるのですが、ちょっと個人的に面倒に感じる「その他のメダルマシン」を先に述べておこうと思います。
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「その他のメダルマシン」の何が面倒かと言うと、一般に「ダービーゲーム」と呼ばれていた電光ルーレット機がここにまとめられているのです。「ダービーゲーム」の元ネタは、米国H.C.エヴァンス社の「Winter Book(1939)」と言うゲーム機ですが、これがなぜか1970年前後に日本のアングラ市場で流行し(関連記事:大阪レゲエ紀行(6) DAY 2・その1:tさんとGマシンなどの話で盛り上がるの巻)、国内の小規模メーカーがこぞってこの模倣機種を作り、しかも厄介なことに同一と思しき機種が異なるいくつもの会社から売り出されていて、何が何だかよくわかりません。これがまず面倒と感じる理由の一つです。
もうひとつ、「ダービーゲーム」は、メダルゲームとして使われるケースも確かにありましたが、むしろゲーム場以外の場所に設置される、いわゆる「Gマシン」として多用されました。この当時のゲーム業界には必ずしも健全な産業とは言い難い陰の部分があり、業界の裏街道に通じているメーカーやディストリビューター、オペレーターが少なからず存在していたのです。ワタシ自身は賭博には寛容ですが、Gマシンとして普及したゲーム機を無邪気に「メダルゲーム」と紹介してしまうことに抵抗を感じてしまうのが、面倒と感じる二つ目の理由です。
「その他のメダルマシン」は全部で10ページあり、そのうち7ページに、少なくとも20機種の「ダービーゲーム」が掲載されています。まずは「ダービーゲーム」のページから見ていきます。
この3ページの全12機種はいずれもいわゆる「ダービーゲーム」。日本の市場に向けて小型化している。提供しているメーカーには、後にパチスロ業界で活躍するようになったところも多い。
「ニュー・ロータリー・パルス」と「バニー・ガール」はいわゆる「ダービーゲーム」。「クォーター・ホース」は国産の模倣品ではなさそうだが、「ボナンザ・エンタープライゼス」がディストリビュートしているところから、用途としては同じだったのではなかろうか。「ゴールド・ラッシュ」は画質が悪くてよくわからないが、プッシャーの一種?
「サーカスタイム」も「ダービーゲーム」の一種だが、抽選機構が電光ルーレットではなく、回転する人型の針を使用している。「ジャンボール」はアレンジボールの一種に見え、「ダービーゲーム」とは無関係。「ラッキー・コンチネンタル」は、おそらくプロジェクターによるスロットマシン。発売者が「コナミ工業」とあるが、米国Raven社の同様の機械を日本に展開しようとしていたことがあり(関連記事:ワタクシ的ビデオポーカーの変遷(3) 米国内の動き)、この機械はそれを「ダービーゲーム」市場に合わせて改造したのかもしれない。
「スーパー・ロンド」はやはり70年前後頃に流行ったG機「ロタミント」(関連記事: ロタミント」の記憶)の模倣品だが、風俗営業の認可を受けており、パチンコ店で稼働できた。パチンコ業界はこのジャンルに期待を寄せたが、ほとんど普及せず短期間で消えて行った。「ファニー・ベンチャー」もロタミントの模倣品に見えるが、画質が悪くよくわからない。「マニックス」は、バーなどの飲み屋に置かれたカウンタートップのG機。「アンクル」はダービーゲームの一種。
「ハイ・ドロ」はよくわからない。他の3機種はダービーゲームで、「レーサーマシン」や「ゴールデン・ジャック」のコンソールタイプの筐体はオリジナルの「ウィンター・ブック」を思い出させる。
「セガ・マッチ・マップ」(関連記事:初期の国産メダルゲーム機(1) マッチマップ(Match'em Up, SEGA, 1975)と「ダブルアップ」及び「スピナ・コイン」(関連記事:初期の国産メダルゲーム機(2) ダブルアップ / スピナコイン)はセガの純然たるメダルゲーム。「ミニ・カスケード」は英国製の、フィールドが横に動く小型プッシャー。
このページの4機種はいずれも「米国マーマティック社製」とあり、後に「ポーカーゲーム」(関連記事:ワタクシ的ビデオポーカーの変遷(4) 80年代の日本におけるビデオポーカーの暗黒時代)で悪い意味で一世を風靡した「ボナンザ・エンタープライゼス」のディストリビュートとしているが、「米国マーマティック社」は販社ではないか。「フレイミング・アロー」と「マウンテン・クライマー」はJ.H.Keeney社製のプロジェクターを使ったスロットマシン。「マーマティック・ルーレット」はよくわからない。「ハイ・アライ」は米国Performance Enterprises社製だが、これはメダルゲームではない。
「プラザ・セブン」はメーカー名が記載されておらず、よくわからない。電光式のスロットマシンと思われ、これによく似た機械は1950年代から米国に存在するが、これはおそらく日本で「ダービーゲーム」と同じ市場に向けて作られた模倣品だと思う。「リーブン・コンチネンタル」もよくわからないが、米国Raven社(「REVEN」とあるのはおそらく誤り)のプロジェクターを使ったスロットマシンだと思われる。「スーパー・スナップ」と「ペニー・ボール」は英国ストリート社製で、ジャパン・オーバーシーズ・ビジネス社はこの頃英国製のゲーム機を多く輸入していた。
(つづく)