映画の豆

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「関心領域」

2024年05月26日 | 淡々と暗い系


アウシュヴィッツ強制収容所、初代所長
ルドルフ・フェルディナント・ヘスが
強制収容所に隣接する美しい邸宅で
妻子と仲睦まじく暮らす様子を描いた映画。
写真や証言から
かなり正確に当時の様子を再現しているとのこと。
ジョナサン・グレイザー監督。
念のための注意ですが
精神状態のあまりよくないときに見る映画ではありません。

親子そろってのピクニックから映画は始まります。
そこから彼らの暮らしぶりが描写され、
幼い子を抱いて、花や虫を見せてやる母親や
温室やプールのある庭、大きな犬、
裕福ではなかった夫婦が共に築き上げた豊かな生活、
まるで物語のような理想的な家族の映像が流れます。
しかし少しずつ違和感が現れ、徐々に増えていきます。
使用人が主人のブーツを洗うと血が流れたり、
遠くから人の大声が聞こえたり。
その音は常に聞こえるようになります。

ラストまでばれ
寝室で夫妻がむかし行ったイタリアの話をして、
夫が2人だけに分かる笑い話で妻を笑わせるシーンとかすごく…
「ナチスは悪」で「ユダヤ人はかわいそうな被害者」、
「戦争は恐ろしい」「繰り返される悲劇」
とかそういうことではないのが分かる。
たとえば職を失って、家族や友人を悲しませ、
たった一人で皆と違う意見を言える人はどのくらいいるだろう。
何千人、何万人が一丸となって動いているシステムに
「それはおかしい」と言える人がどれだけいるだろうか。

自分より裕福だった民族が危険な思想集団とされ、
その資産を自分のものにしてよいとなったら?
自分より優秀だった職業の人間が検挙され始め
密告すれば称賛されるとなったら?
たとえば片方の性別に財産を所有する権利がなくなり
自分がその資産を自由にしてよいとなったら?

歯磨きチューブの中に宝石を隠すユダヤ人を
「かしこい」と評した女性の褒め方は、
犬や猫に対するそれだった。
この映画を見るのにはほんの少しだけ知識が要る。
子供が夜にベッドで眺めていた小さな銀色のものはなにか、
兄が温室に弟を閉じ込めたのは何の遊びか、
川遊びのときに流れてきた灰をどうしてあんなに必死に洗ったのか、
(あとご主人が夜中にこっそり何かを洗って拭いてたり)
かくいう私も、自転車で来てりんごを隠している少女のシーンは分からなかった。
レジスタンス活動をしていた実在のポーランドの少女なのか。
(ルドルフ・フェルディナント・ヘスは終戦後に絞首刑になったとのこと)

人間は妬み深く、金が好き。
金儲けをしたい頭のよい人が、常にどの国にもいる。
男は格好いい武器を持って同性と共闘するのが好き。
女は男が命がけで自分を守ってくれるのが好き。
なので人間はうっすらと戦争が好き。
本気の本気で戦争を恥じて根絶したいなら
もうとっくにそういうシステムが出来上がっている筈。
とりあえず球技に点差コールドゲームがあるように、
全人口割合において戦死者数に
規定以上の差が発生したら強制停止にしなよ…。

監督が意図したわけではないだろうけど、
まさに今私たちは虐殺をインターネット上で見せつけられながら
無関心に生活を続けている。
監督はアカデミー賞授賞式のスピーチでガザ侵攻に言及したが、
そのスピーチを非難する書簡に、著名人450名以上の署名が集まった。




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