「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

麻酔銃撃たれし如く合歓の花 鈴木要一 「滝」7月号<滝集>

2014-07-26 04:38:50 | 日記
 夜の合歓の木が詠まれた句。小さな葉の表面を合わせるよ
うに葉を閉じ、垂れて眠っている。「麻酔銃に撃たれし如く」
という感受は、時が来れば何事もなかったように、「象潟や
雨に西施がねぶの花 松尾芭蕉」と美女の象徴となる淡紅の
刷毛のような美しい花へ繋がって行く。就眠の合歓が羨まし
かったのかもしれない。帰路ではあるが家に持ちかえる仕事
にまだ眠れない作者かも知れず・・・。(H)

牡丹の音なく崩れ子の生るる 鈴木弘子 「滝」7月号<滝集>

2014-07-24 03:25:30 | 日記
 桜は散る、梅はこぼれる、朝顔はしぼむ、椿は落ちるなど
と、散り方の表現は花によって様々。「牡丹が崩れるように
散る」も決して新奇ではないのだが「音なく」に、その瞬間
に立ち会った強さを感じる。緊張の糸が切れたように牡丹が
散り、その花の在った空間が途端に大きく意識される。「生
るる」という神や天皇など、神聖な存在が出現する場合にの
み用いる古語が、人類の、いえ、地球の、宇宙の、新たな救
世主の誕生を思わされる。牡丹の花の終焉は、牡丹なればこ
そ、作者に美しい未来を思い描かせたようです。(H)

靴脱ぎて五月の風となりにけり 鈴木清子 「滝」7月号<滝集>

2014-07-23 04:08:17 | 日記
 一読、裸足だった頃の人間になったつもりで、五月の風の
気持ち良さの堪能しているのかと思ったが、風を感じている
のではなく、風に同化している。上五の素足が先ず目を引か
れた事であったとすれば、そこに「意外」を感じて詠むに至
ったとも思える。少々強引だが新緑の中を走る裸足のマラソ
ンランナーを思ってみた。軽快な走りを五月の爽やかな風に
なぞらえた作品かと・・・。「裸足ラン全日本選手権」とい
うのがあるのですね。(H)

太陽の黒点蛇の交むなり 赤間学 「滝」7月号<滝集>

2014-07-22 04:17:07 | 日記
 太陽の活力が溢れる時にこそ出現する黒点と、交む蛇。天
地に満ちる命の輝きが見事に詠まれた句だと思います。昼行
性の爬虫類である蛇は日光浴で体温を高めた上で活動を始め
ます。餌も捕らずに恋の相手を探す雄蛇。胴内の卵のために
いつもより長い日光浴の雌蛇。黒点によってその関係がクロ
ーズアップされ、種を繋ぐ刻を迎えた今が感動的である。と、
私は蛇好きなのでそう思うが、不気味さで呼応する句と読む
人もありそうだ。(H)