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2013初夏・北欧バルト海紀行 #012:タルトゥ→タリン ソ連製の列車で行く、エストニア鉄道の旅

2013-05-25 | 鉄道

#011:エストニア・タルトゥ街歩き 文化首都タルトゥ、大学のある街からの続き

タルトゥの街に別れを告げ、街外れの鉄道駅へと向かいます。


駅へと続く道沿いで見かけた、くすんだ灰色の建物。何となく陰気で薄気味悪い感じがしませんか?
実はこの建物、その名も「灰色の家」と呼ばれて長年タルトゥの人々から恐れられた、
ソ連邦時代のKGB(カーゲーべー:ソ連国家保安委員会)本部が入っていたビルなのです。

この国がエストニア・ソビエト社会主義共和国としてソ連に支配されていた時代、タルトゥにはソ連空軍の基地が置かれ、街全体が閉鎖されて厳重な監視体制下にありました。エストニアの文化首都にも、恐怖と苦難の時代があったのです。
閉鎖都市タルトゥの市民を監視して政治犯を弾圧したソ連の情報部・秘密警察の本拠地だった灰色のビルは現在、その名もKGB監獄博物館としてエストニアの暗黒時代の恐怖の歴史を伝え続けています…
監獄博物館、恐いけどちょっと見てみたい…
この次にタルトゥに来た時は、思い切って行ってみることにしましょう。

監獄博物館を通り過ぎて、昨日も歩いた道を進み、再びタルトゥ駅にやって来ました。



これから乗るのは、17:14発のタリン行き列車。昨日見送った列車より1本早い時間の列車です。

窓口でタリンまでの乗車券を買おうとすると、座って編み物をしていたおばちゃんはどうやら駅員ではなくてキオスクの売り子さんだったようで、
「きっぷは列車の中か、自動販売機で買ってね。自動販売機でクレジットカードで買うと、10%安く買えるからそうしなさい」と流暢な英語で教えてくれます。

そして、例によってIT立国“eストニア”らしく、きっぷの自動販売機は日本のJR等の券売機顔負けの高機能なもの。
オンラインでシートマップを見ながら座席指定まで出来てしまいます。
タルトゥからタリンまで1等車利用で13ユーロ、自販機割引で11.7ユーロでした。高速バスだと10.8ユーロでしたから、少しだけ列車の方が割高になりますね。
もっとも、2等車なら9ユーロ(自販機割引で8.1ユーロ)ですから列車の方が安くなります。


無事に割引きっぷも買えたので、おばちゃんにお礼を言ってプラットホームに出ます。


プラットホームに出た途端、目の前をタンク車を連ねた貨物列車がかなりの高速で通過。
いきなりやって来たので後追い写真しか撮れませんでしたが、数十両ものタンク車の長大編成に日本のJR貨物EH500型機関車のような2車体連結の大型ディーゼル機関車が先頭に立ち牽引する、実に立派なタンカー列車です。
エストニアの鉄道は旧ソ連圏規格の1520mmの広軌なので列車の車体も大きく、迫力があります。


そしてこれが、僕がこれから乗車する首都タリン行き列車。
昨日見送った列車と同じ、ラトビアの鉄道工場で作られた旧ソ連製の車輌が使われています。
同じソ連の遺産とは言え、恐ろしい「灰色の家」とは違って今でもエストニアの人々のために頑張る頼もしいソ連製の列車です。

早速乗り込んで、1等車の車内を見てみましょう。



これが僕の乗る1等車の車内。テーブルを挟んで向かい合わせの2人がけ座席が並んでいます。
座席は一見リクライニングシートのようですが固定式です。枕カバーではなく、座席全体をカバーで覆っているのが特徴的ですね。


1等車の車内にはビュッフェのカウンターもあります。


僕の席には、「予約席」の札とビュッフェのメニュー表が用意されていました。
ついさっき駅の自動券売機で座席指定してきっぷを発行したばかりなのに、仕事が素早いですね。きっとモバイル端末等で座席指定の状況を逐一チェックしていると思われます。
さすが“eストニア”!


一方こちらは2等車の車内。
基本的には1等車とあまり変わらない構造ですが、向かい合わせになっている区画が限られていて、座席も簡素で少しくたびれた感じがしますね。
ちなみに1等車は全席指定ですが2等車は自由席です。


そしてこれが、先頭車のエンジン搭載室の隣にある半車の客室。
この車輌も2等車扱いだと思うのですが、座席は昔の病院の待合室のようなビニール張りのベンチシートで随分と居住性が劣ります。
いわゆる「ハズレ席」で、通常はここに好き好んで座る人は居ないでしょう
(エンジン音を堪能したい鉄道ファンは別ですが…轟々たるエンジン音が荘重なオーケストラの演奏や妙なるオペラのアリアに聴こえるという“音鉄”なる人種もいますからね。そう言えば、エストニアには鉄道趣味は存在するのかな?)

車内を一通り見て廻りましたが、まだ列車は発車しません。
タルトゥ近郊の町からやって来る区間運行の対向列車が到着するのを待ってからの出発のようです。
先頭車の横のプラットホームに立って対向列車の到着を待ちます。

やって来ました!









短い編成の対向列車が隣のプラットホームにすべり込んだら、我がタリン行き列車は出発準備完了です。
定刻にタルトゥ駅を後にして発車します。




タルトゥ駅の構内には広大な貨物操車場があり、さっき通過していったタンカー貨物列車と似た編成の貨物列車が待機中。
青い車体の連結式機関車はどうやらF級(動輪6軸)を2つ連ねた12軸、L級!日本式に言うと「DL500型」といったところでしょうか。とんでもない超大型マンモス機関車です。

タルトゥを出発した列車は、平原と田園と森林のエストニアの大地を駆け抜けていきます。



大きな川も渡ります。タルトゥの街を流れていたエマユギ川でしょうか。
それにしても雪解け水のせいか水量が豊かですね。岸の木々は水没してしまっているような…


エストニアは平原の国です。山は見当たらず、なだらかな土地に森が広がる風景がどこまでも続いています。
美しいのですが単調な景色の車窓です。

列車は平坦な路線を時速100キロ程の案外速いスピードで走ります。
かなり使い込まれた古い車輌ですが、さすがはソ連製。まるで戦車のように頑丈に造られていて老体での高速走行も問題ないようです。エンジンが先頭車にしか搭載されていないおかげで走行音も静かで、車内は快適です。

1等車にはビュッフェがあるので、どんなものを売っているのかメニュー表を見てみましょう。

サンドイッチのセットが3ユーロ、コーヒーは0.7ユーロ…
物価が安いエストニアならではのお手頃価格ですね!日本円だと90円程度で買えるコーヒーを飲んでくつろぐことにしましょう。


単品の食事メニューもありますが、こちらもほとんどのメニューが2ユーロ以下です。

1等車の乗客にはスナックのサービスもあります。



女性車掌さんが手かごで配っていたのは、鉄道会社オリジナルのパッケージに入った小さなチョコレートでした。

列車は時々、小さな街の駅に停車しながら首都タリンを目指します。


エストニアにはソ連から独立した後も多数のロシア系住民が住んでいるせいか、ロシア正教会の寺院もよく見かけます。


途中駅の構内に、蒸気機関車が静態保存されていました。
動輪が5軸の、日本のデゴイチ(D51)より一回り以上大きな貨物用機関車です。
かつてはソ連邦のバルト海沿岸地方を結ぶ貨物列車を牽引して大活躍したのでしょうね。

タリンが近付くにつれて、空模様が怪しくなり、
一昨日泊まった空港ホテルのすぐ裏にあるタリン郊外の駅に到着する頃には小雨が降り始めました。

タルトゥを出発してから2時間と少し。
午後7時半に、列車はほぼ定刻通りにタリン駅に到着しました。




タリン駅には、電化されている近郊線を走る電車の姿もあります。


タリン駅と列車たちをじっくり見たかったのですが、段々と雨脚が強くなってきました。
早々に駅を出て、今夜泊まるホテルに向かうことにします。


#013:タリン旧市街、雨の夕暮れに続く