まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

猟奇的な熟女

2022-02-01 | フランス、ベルギー映画
 「地獄の貴婦人」
 1930年代のフランス。主が病死し失職した女中のフィロメーヌは、妹のカトリーヌともども悪徳弁護士サレの愛人となり、3人で保険金詐欺を成功させる。共謀者の男から脅迫された3人は、恐るべき手段で男とその妻を…
 以前からすごく気になっていたフランス映画。一部マニアの間ではカルト的な人気作なのだとか。主演は大女優ロミー・シュナイダー。数々の美しく気高いヒロインを演じてきた銀幕の名花ロミーが、何と!愛人と共謀し、財産を乗っ取るため金持ちを騙して殺して、死体を硫酸でドロドロに溶かして遺棄するという毒婦役!あのロミーが、なぜそんな映画、そんな役を?!にわかには信じがたく、ゆえにずっと観たいと思っていた作品を、ようやく。うう~ん、確かにロミーのファンならショッキングな映画かも。強欲、残虐。血まみれ金まみれな凄絶な邪悪さ、かつ凄艶なロミーの美しさに圧倒されます。目を背けたくなるような、かなりエグいことやってるロミーですが、決して醜悪にも下品にもならないところが驚異です。

 卑劣な詐欺や冷酷で残忍な殺人を次々と決行するロミーですが、金目的であそこまで忌まわしいことができるものでしょうか。どこか殺人快楽者のような、サイコっぽいロミーが怖かったです。殺した男女の死体を硫酸で溶かす作業中、興奮して男と性行為を始めるとか異常すぎる。バスタブの死体を後で確かめるシーンの顔とか、完全に正常ではなくなってる女のもの。おぞましい、狂った話なのですが、驚くべきことにこの映画、コメディ調なんですよ。とにかく妙に明るいんです。演出も音楽(巨匠のエン二オ・モリコーネ!)も陽気で、内容とのギャップに狼狽してしまうほど。ロミーも、サレ役の名優ミシェル・ピコリも、すごく楽しそう。笑っちゃいけない、けどついプっと吹いてしまうシーンも多々あり。かなりキツいブラックコメディ、ロミーもそういうテイストを気に入って出演したのではないでしょうか。私も悪趣味で不埒で不謹慎な笑い、嫌いじゃないです。毒にも薬にもならんポリコレ映画にうんざりしてるので、余計そう思えます。70年代はこういうトンデモ映画がフツーに製作できた、いい時代だったんですね。

 悲劇的なヒロインを演じても、決して運命に泣く女、男に守られる女ではないところが、ロミーの魅力でもあります。見た目からして、嫋々とした手弱女じゃないですもん。すごく逞しい。詐欺も殺人も、男に発破かけながら率先して行うロミーが、毅然と颯爽としていてカッコいい。ドイツ女性らしく剛健そうだけど、同時に優雅で華やかなところもロミーの魅力。彼女のとっかえひっかえなブルジョアファッションが、とにかくゴージャスで艶やかで目に楽しい。貴婦人風ベールが世界一に似合う女優かも。カジノでのマリリン・モンロー風なロミーもチャーミングでした。

 悪魔のような毒婦ですが、たまに優しい聖女の顔も見せるロミー。汽車の中で、居眠りしてる貧しい少女の本に、そっと大金をはせて立ち去るシーンのロミーは、まさに菩薩の後光が。それにしても。詐欺も殺人もうまくいきすぎ。誰も疑わない、発覚しないとかありえん。驚くべきことに、この映画ってフランスで実際に起きた事件をモチーフにしてるとか。あんな身代わり殺人や公文書偽造、現代では通用しませんよ。ユルくてアバウトな時代だったんですね~。
 ミシェル・ピコリもロミーに勝るとも劣らぬ、ノリノリすぎる楽しそうな怪演。日本の大女優、名優と呼ばれてる人たちには、ぜったい不可能な悪ノリぶりが圧巻です。死体を硫酸で溶かしたり、溶かしたドロドロ死体(完全に溶けてない部分があったり)をバケツにくんで運んだり、ウゲゲなゲロゲロ(死語)シーンがあるので、そういうのが苦手な人は観ないほうがいいかも。どうでもいいけど、あんな大量の硫酸、どこでどうやって手に入れたんだろ?
コメント
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