Google等が進めている自動運転車に関するIT系メディアの論調には、おおむね以下のようなものが多い。
・Googleが自動運転の世界を独占すれば、カーメーカーは単なる輸送機メーカーになる。
・車は究極のモバイルデバイスであり、このOSを牛耳ることでGoogleは自動車関連ビジネスを独占することもできる。
・自動運転車はユーザーが目的地をインプットする。したがってそれに応じた目的地周辺の広告を車内ディスプレイに表示することでビジネス可能。
・このビジネスモデルなら、自動運転車(ロボットタクシー)を無料にすることも可能かもしれない。
・さらにユーザーがどこに行き、何をしたかというビッグデータを分析し個人別マーケティングも可能になる。
しかし、これは現実的にみてどうなのかな、と思う。車は本当に究極のモバイルデバイスなのか?車は基本的には移動用の機器でしかない。マニュアル運転であれば操縦する楽しみという部分が存在するが、自動運転となるとまったく移動用の生活機器となる。
車内にモニターを設けてそこに目的地周辺の広告を流すといっても、どれほどの効果があるのだろう。そもそもすでにどこに行って何をするかを決めた人が使うのがタクシーだ。ついで買いとかレストラン関連の情報が意味をなさないとは言わないが、タクシー代を無料にするほどのビジネスモデルは構築できないだろう。そもそも無料になったら需要の大部分は通勤になる。会社や自宅周辺の情報なんていらない。
運転から解放され、車内での自由な時間が生まれるので車内モニター等によるビジネスチャンスがある、という見方もあるが、それがあるなら今ある有人タクシーでもできる話だ。実際上海のタクシーはヘッドレストモニターで広告流しているけど、普通の人は自分のスマホをいじっている。
ユーザー個人の行動・購買パターンをビッグデータで解析、という話は個人情報保護からまず実現しない。どこへ行って何をしたかを企業の販売活動のために公開するユーザーがどれほどいるのか?アマゾン等の購入履歴に基づくおすすめを家人にみられるのは嫌なものだ。まして家人と一緒にのったタクシーが変なおすすめをしてきたら非常に困る人も多いのではないか?
車内におけるe-コマースが自動運転になったらなにかが革命的に変化する、とは思えない。運転者が運転業務から解放され、自分のモバイルデバイスをいじくる時間が増える、という程度のことだと考えたたほうがいいと思う。
むしろ、前から言っているように車の「商品価値」に対する消費者の考えかたが根本から変わってしまうことの方が重大だ。そしてそれは今ある自動車産業に劇的な変化を強要することになる。