ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

15兆円追加経済対策とITS

2009年05月30日 | ITS
村上春樹の新刊「1Q84」が発売と同時に大量に売れている。ファンの数と作家の寡作を考えれば別になんら不思議なことではない。
「ノルウェイ」あたりから読み始めた連中と同じに見られるのも癪、という自分でもいやらしい感情もあって書店へ行くのをためらっているが、それ以上に以前のような熱意を持てていないのかもしれない。人はいつまでも若くない。

政府の15兆円補正予算はITSをも潤わすことになるらしい。詳細決定は不明だが、ETCの通信(5.8Ghz DSRC)を使って高速道路の交通情報をナビ画面に表示するスマートウェイ構想の実用化に向けて、首都高速に相当な数の路側機を設置するようだ。それを受けてナビメーカーは対応したナビゲーション+ETCを発売することになる。

カーブ先の渋滞や合流に関する注意をナビ画面に表示するだけ、というこの仕組みの実効性についてずっと批判してきた。路側表示版の警告内容をナビ画面と音声で伝えるだけであり、「ないよりはあったほうが良い」レベルのものでしかない。

安全に関して「ないよりはあったほうが良い」ものについて、好意的な市場調査結果を作ることは極めて容易だ。にもかかわらず、2007年の実証実験後のアンケート調査では「どちらかと言えば役立った」を含めて肯定的な意見は6割にとどまっている。
それを、「過半数の被験者が肯定的」と結論付けているが、正しくは「微妙」以外の何物でもない。

国が路側機を設置するとなれば、この構想に与してきた電機メーカーは対応ナビを発売せざる得ないが、そのコストアップはどのくらいになるのだろうか。
ユーザー価格での評価は1000円程度、という話も聞いたが、その程度の売価アップで商品化ができるとは到底思えない。まず成立しないだろう。
この施策は路側機メーカーを潤すだけに終わる。

あと、5.8Ghz DSRC(国交省)とアナログTV波空き地である700Mhz(総務省)を使ったITSとの関係をどう整理するつもりなのだろう?
700MhzをITSに使う、と決めたんだから、DSRCはETC専用にしてもうこれ以上の公共投資はやめるべきだと思うが、違うのだろうか。

ITS無線システム 市場規模のまやかし

2009年05月24日 | ITS
アナログTV地上波の空き地となる700Mhz帯をITSのために割り振ることが決定され、それに対する研究会「ITS無線システムの高度化に関する研究会」が総務省のもとで進められている。以下はその4月8日の作業班活動のリリース。
総務省リリース

私は、どう考えてもこの施策は無理筋だと思っている。
それに対して、先日のエントリーに「てらぼう」氏から、「そんなの関係者はみんな分かってやってるのよ」というコメントをいただいた。たぶん、多かれ少なかれそうなんだろう。

しかし、この研究会報告を見るに、少なくとも無理筋だろうがなんだろうか「決めたことはやる」んだろう。
普及のためにはカーメーカーが標準装備を進める必要がある、という結論にして、カーメーカーに尻を持っていくというあたりが落とし所かとも見える。
この内容に対して言いたいことはいっぱいあるが、まずどうしても許せないことを指摘しておこう。

リンク先にある「ITS無線システムの高度化に関する研究会報告書(案)」の67ページに次の記載がある。
「ITS無線システム(車載器)の市場規模は2021年(導入開始10年目)に単年で6,685億円」

しかし、その前段でITS無線システムに対する消費者評価は4000円なので、その価格をカーナビに上乗せした車載器全体の価格を算出した、とある。

つまり、この市場規模はカーナビの価格+ITS分の台あたり4000円の合計、ということなのだ。

普通に考えれば、ITS無線システムの市場規模として検討に値する金額はあくまで+4000円の部分だけだろう。
ITSがあろうが無かろうがナビの市場は存在するんだから。
それをベースに計算すると、おそらく2021年単年で100~200億円にしかならない。

確かに表題は「ITS車載器の市場規模」であり、新規に創出される市場規模だとはどこにも書かれていないが、私にはでかい金額の市場規模を提示して計画を正当化しようとしているとしか思えない。

こんな「まやかしの市場規模」が独り歩きすることがないようにしてもらいたい。

高速道路千円は2年たったらどうするんだろう

2009年05月17日 | 高速道路
探偵ファイル(を愛読しているとおもわれるのも困るんだけど)が街角で高速道路1000円乗り放題は2年限定施策だということを知っているかどうかインタビューしたところ、30人中26人が知らなかったという。

インタビュー対象が車保有者かどうかも判らないので調査としての妥当性は不明だが、確かに2年限定であることを知らない人は少なくないと思う。

実際、2年後にきっぱりとやめることなんかできないんじゃないかと思う。
今のうちは「お得感」があるだろうが、2年もすれば慣れてしまう。

期間終了後は半額程度で週末限定割引を継続する、というあたりが着地点だと思うが、いずれにしても従来の「世界一高い」高速道路通行料へ後戻りできないことは間違いないと思う。

ところで。
首都高速の距離別料金制度移行はどうなっちゃったんでしょうね。
お国の指示により当面延期、っていっていたけど、もはや無理?

クルマ同士の通信によるITS 続き

2009年05月11日 | ITS
昨日のエントリーで、クルマ同士の通信(車車間通信という)による事故防止というITS構想に対して、その実効性と普及の実現性について疑問を提示した。

車車間通信にはそれ以外にも大きな課題があると私は思う。
仮に通信機器を装着したクルマ同士が、警報が出なかったために衝突事故を起こしたとした場合、これは非常に厄介なことになる。どちらかのクルマの通信装置の故障なのか、それとも通信エラーか、その原因の特定は非常に難しい。特に大きな事故で機器が損傷していたらなおさらだ。
こうしたケースの保険調停はとても厄介な仕事になるだろう。

さらにいえば、警報をどのレベルで出すか、ということも課題だろう。
事故になった場合の責任などを考えれば、かなり安全に振った設定となる。しかし、そうすると脇道にクルマがいるたびに警報がなる、という「狼少年」のようなものになってしまう恐れがある。
この辺の折り合いをうまくつけるのは至難の業だと思うのだが。

総務省 ITSの本格導入で交通事故3割減と試算

2009年05月02日 | ITS
毎日新聞によれば、総務省はITSの普及により、交通事故が3割削減できると発表したようだ。
新聞社のWEB記事はそのうち消えてしまうので、以下に引用させてもらう。

----------ここから-----------
ITS:本格導入、交通事故3割減 渋滞も解消効果--総務省試算

 交通事故は約3割減り、渋滞による時間のロスも年間3億7000万時間削減できる--。車同士が無線で情報をやり取りすることで交通事故を回避するITS(高度道路交通システム)が本格導入された際の効果について、総務省がこんな試算をまとめた。

システムは、通信機を搭載した車同士が、位置や進行方向などの情報を相互に無線で交換する仕組み。さらに、交差点やカーブに設置したセンサーが車や歩行者を感知して、事故の危険性がある場合に運転手に警告する仕組みも想定されている。無線には11年7月に停止するアナログ放送の周波数の一部を活用し、政府は12年からの本格実用化を目指している。

 総務省は実証実験の結果などから、システム導入で追突や出合い頭の事故が減り、普及の進んだ20年には交通事故件数が3割減ると試算。車の修理や通院費などの金銭的損失額も、現在の年間4・4兆円(04年度推定額)から3兆円程度に抑えられると見ている。また事故渋滞や無理な運転が減る効果で渋滞の解消効果もあり、渋滞による時間の損失(台数×時間)は、現在の年間37億時間から1割削減できると見込む。

 ただ実用化には課題も多い。通信機同士や周波数帯の近い地上デジタル放送との電波干渉を回避するなどの技術面や、通信機を車や道路に設置するための法整備などで、総務省や国土交通省、経済団体などが官民合同で解決に向けて取り組んでいる。
--------ここまで------------

総務省は何かと批判の多い地デジ化=アナログ停波に対して、それによって割り当てられる周波数帯をクルマに割り振り交通安全に寄与するという、誰も否定できない効果を謳うことで矛先をかわそうとしているように感じる。

しかし、本当にこれが実用に足るものになるのだろうか?

この世界が実現する(総務省は2020年にはそうなる、というが)ためには、すべてのクルマに通信モジュールが搭載されなければならない。
1%でも搭載していない車が走っているうちはその情報を信頼することはできない。
たとえばバックミラーに映らないクルマが(1%でも)存在するとしたら、ミラーに頼った運転はできない。

携帯キャリアにしてみれば、クルマに通信モジュールが搭載されることになれば一気に数千万回線の市場が出現するわけで、こんなにいい話はないだろうが、消費者としてみれば相応のメリットがなければ出費はしないだろう。
昨年来の経済状況の中で、一般ユーザーにとってみれば車に通信料金を払うなんて想像外だ。
初期費用や通信料がどうなるか分からないが、結論からいえば純粋な経済原則で考えれば普及はありえない。
100%搭載のためには法制化による強制が必要になる。

さらに言えば、交差点の出会い頭事故を防ぐということであれば、二輪車や自転車も感知しなければならない。
自転車にまで通信装置を装着させるというのだろうか?

そこまでして実現する安全がどの程度のものか。本当に交通事故死の低減に効果があるなら、強制でもなんでもするべきだろう。
そして、それが先頃のお台場での大規模実証実験「ITS-SAFETY 2010」で披露された。多くのマスコミが参加をしたが、報道内容を見る限り各社の反応は「微妙」というところが正直なところだろう。

記事の最後にある「課題」は全くずれている。電波干渉や法整備以前の問題として、これが本当にリアリティーのある施策なのかどうかをきちんと検討するべきだ。

パイオニアの苦悩

2009年05月01日 | ITS
このブログでもパイオニアの動向、とくに通信タイプのPND「AVIC-T10」に関していろいろと書いてきた。
要約すれば、お手軽タイプのPNDに対して年額1~2万円の通信料を支払う消費者がいるとは思えない、パイオニアにとっては失敗の許されないコアビジネスで通信タイプで勝負をかけることに危惧を感じる、ということだ。

そして同社の現状はご存じのとおり。
はたして通信型ナビで勝負をかけたことが裏目に出たのかどうかまではわからないが、コアであるナビ事業がふるわないことは確かだ。

私も国内でPNDがここまで販売を拡大するとは思っていなかった。
新車販売、特に普通車の販売が不振で、軽自動車や大衆車ばがりが売れる中、車両本体価格の20%にもなるインダッシュナビが売れないのも仕方がない。

国内のナビゲーションメーカーにとってPNDはパソコンメーカーにとってのUMPCに似ている。低付加価値商品だから参入はしたくないが、看過すればどんどんシェアを侵食されてしまう。

ソニーはVAIOタイプPで独自の答えを出し、成功した。
一方でNECはLaVie Lightという、あえて古臭い筐体デザインで自社の高価格商品とのカニバリを防ごうとしたと思われる商品を発売したが、あまりぱっとしない。そりゃそうだろう。

ナビに関していえば、インダッシュの市販から撤退しているソニー・三洋以外は同じように苦悩している。
パイオニアが自社の資産であるスマートループで付加価値をつけたPNDを発売したのは自然の流れなのかもしれないが、思った結果は出ていないということだろう。

高額な市販のインダッシュナビが売れない市場環境の中で、パイオニアが事業を伸ばしていくためにはカーメーカーへのOEM拡大しかない。
そういう意味でホンダの支援や三菱電機との提携は残されたチャンスを生かす正しい方向だと思う。