ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

大塚家具、中国ビジネスモデルが見えない

2019年03月31日 | 中国生活

中国の家具大手居然之家(イージーホーム)が大塚家具への投資を行い、大塚家具は中国とのビジネスで活路を見出すというが、これはどうしてもピンと来ない。実際は居然之家の上場前という事情からまずは同社が中国系の出資先を紹介したということだが、これもなにかそれ以上の事情があるように感じる。

大塚久美子社長は中国市場に対して「いままで日本の家具の中国への輸出はほとんどされていない。このチャンスをいかす」、また居然之家側は「裕福層への日本製高級家具の販売(含むEC)を狙う」ということだが、そんなマーケットは本当にあるのか?
マーケットがあればすでに誰かがやっているだろう。

1.「大塚の家具」を買う中国人がいるのか?
そもそも日本においてすら高級家具といえば欧州ブランドであり、日本製ではない。高級家具ブランドといって思い浮かぶのはカッシーナとかアルフレックスとかであり日本ブランド名は思い浮かばない。

中国裕福層がもとめるのは高価な木材を使用した中国伝統家具か、日本と同じようにやはり欧州の家具ということになるだろう。

さらに言えば、中国にも欧州の数百万するようなリビングセットを買う超裕福層はいるが、決して多くない。リビングセットは車と違い超高級品かどうかは見た目ではわからない。さらに、街を乗り回すものではない。富を誇示するお金の使い方としては効率が悪いので、「普通の」お金持ちは見た目が豪華な中国製の家具を選ぶだろう。相当な粋人でなければ輸入家具にお金をかけない。

そもそも大塚家具にはほとんどPB商品はなく、要するに「大きな街の家具屋」だ。自社プライベート商品がない小売商が海外に出ていって成功するためには「海外にも通用する小売ブランド」がなくてはならない。例えば百貨店ブランドなど。しかし大塚ブランドは海外では無名だ。

2.中国のインテリア関連市場
もう一つの懸念は、中国の内装市場の特殊性。
提携先の居然之家は内装関連の総合ワンストップショッピングを標榜する大型小売店。中国で新たに家を買うと内装工事がまったくされてないマンションの部屋を買うということになる。床材も厨房器具もトイレもついてない。それをターゲットにしてる業態だ。

自分で住む場合は予算内で自分の好みの内装に仕上げるが、すべての内装工事をしなくてはいけないので家具への支出は制限される。
投資用に購入する場合でも賃貸するためやはりすべての内装、家具をそろえることになる。中国ではマンション賃貸は家具付きが普通。当然、特に高額な家具セットを導入することはない。
したがって、高額なリビングセットというものはこれらを超越した一軒家をもつ超裕福層しかターゲットにならない。

3.ニトリの状況
現在中国で日本の家具としてはニトリが店舗を展開しているが出店ペースは落ち、売上公表もなくかなり苦戦しているように見える。とくに家具が売れているというイメージはなく、売れるのはその他雑貨関連だろう。

筆者が中国のニトリを訪問した時に気になったことは、日本で売られてるものをそのまま販売していたこと。ソファやダイニングセットなどは中国人からすると小さすぎ、奇妙にすら感じる。また中国人にとっては日本のダイニングの椅子は低すぎる。こうした部分のローカライズができなければ海外市場に参入する資格はない。
大塚家具も、日本の家具をそのまま中国に売ろうとしたら確実に失敗する。

4.残された可能性
どうにも将来の絵が描けない居然之家とのコラボレーション。唯一筆者が考えられる可能性は裕福層向け和室内装およびその家具販売だと思う。
最近結構和風インテリアが流行っている。ニッチなマーケットではあるが、その程度しか思い浮かばない。

大塚家具+中国市場はマーケティング的に導き出された生き残り戦略ではなく、単にいま投資に意欲的なのは中国しかいない、という事情からのもの。前途は多難だ。


道の駅の活用について

2019年03月28日 | ITS

レスポンス、会田肇氏の記事。「道の駅」を自動運転やMaaSの中核に…実証実験に見る、その可能性

前半の、道の駅を地域の拠点として過疎/高齢化のモビリティに活用するという部分については異論はない。
もちろん個々の地理的ケースについて検討する必要はあるだろうが、過疎・高齢化集落のモビリティ確保は解決しなければならない問題だ。

しかしその解決策で一足飛びに自動運転やMaaS(モビリティ アズ ア サービス。Wikiリンク)に行くということには若干異論がある。こうしたテクノロジーを活用するまでもなく、退職後まだ元気な6-70代は多く、こうした人とその自家用車をライドシェアに活用し、そのなかで道の駅をステーションにするというような方向からまずは始めたらどうなのか?
過疎地におけるライドシェアの特例認可が行われてることは聞いているが、これをまずは拡大するべきだろう。

とはいえ、将来自動運転・MaaSが実用化されれば、当然地域のトランスポーテーション基地のようなものが必要となり、特に高齢者を意識すればそこを買い物やデイサービスのようなコミュニティーとすることは有意義だと思う。

しかしこの記事、後段の部分がいただけない。おなじみETC2.0翼賛の内容になっている。
ETC2.0の道の駅立ち寄りサービスについて書かれているが、これを「ETC2.0がドライブの新たな楽しさを提供してくれる」と表現している。

実際は全く違う。ETC2.0はプライバシー保護でエンジンを切るとその前後の走行履歴は消去されるので、道の駅立ち寄りの記録は残らない。なので入り口に設置したDSRCポストで判定をしており、これは当然通常のETCでも使える。

では、なぜETC2.0なのか?それはETC2.0普及のためのインセンティブにほかならない。わざとETC2.0に限定しているのだ。

「ETC2.0がドライブの新たな楽しさを提供してくれる」のではなく、「国交省はドライブの新たな楽しさをわざとETC2.0に限定している」。
いや、これは楽しさだけではない。疲労運転防止のための安全対策でもあり、道の駅の経営にも貢献する。できる限り多くのドライバーに提供してしかるべきだ。
これはもっと周知され、ドライバーは声を上げるべきではないか。


IBAサービス終了のお知らせ

2019年03月06日 | ITS
タイトルはツイッターの煽りみたいだけど本当の話。こことかここ
リンク先にあるように、IBAサービスは2019年3月を持って終了し、現在残っていたターンパイクとジャンボフェリーのサービスも終了となる。まあ、実数の公表はないからわからないけどおそらくIBAサービス会員はせいぜい数千人というところだろうから大きな問題はないのかもしれない。
(余談だけど、今ターンパイクはアネスト岩田ターンパイクという名前なんですね。この会社はコンプレッサ製造等のグローバル企業だそうですが、何を狙って命名権購入したのかな?)

IBAサービスといっても知ってる方はほとんどいないだろう。三菱商事系の「ITS事業企画」として駐車場、ガソリンスタンド、ドライブスルーなどのETC決済を目的に2004年に設立されたが、上記2つのサービスと数カ所の駐車場(これも途中で無くなった)以外には一貫して事業は拡大せず、駐車場のTIMESに事業譲渡された。15年前、このIBAサービスが発足したときこんなサービスは絶対成功しないとこのブログで書いた。
私のような部外者でもそう思うことをなぜ三菱商事のような立派な企業にわからなかったんだろう。

IBAサービスは会員登録が必要で、立ち上がり時には会費もかかり、専用車載器も必要だった。
それが普及のネックだという考え方もあるかもしれない。
現在のETC2.0はそれを考慮した設計になっておりハードルは下がっているし、民間決済利用については研究会等があり推進しようとしているらしい。

しかし私はそれでも普及しないと思う。ETCの利便はノンストップ決済であり、所詮停車するガソリンスタンドやドライブスルーではさほどの意味はない。
駐車場はユーザーニーズはあるもののこれの前のエントリーでも言及したとおり、設備投資と集客効果が見合わないのと施設利用割引方法が確立していないというネックがある。

ETCは高速道路料金支払器だと考えたほうが良い。

駐車場のETC決済はどうなったのかな?

2019年03月05日 | ITS
いまから一年くらい前、駐車場の料金をETCでノンストップ決済する実験が行われていて、ある程度メディアにも掲載された。このブログでも何本か記事を上げている。(もちろん、否定的なやつね)。
その後どうなったか。少なくともネットで検索する限りではETC決済の駐車場は以前からやってるTIMESの2箇所を除いては存在しないようだ。

なんでだめかはさんざん書いたけど、簡単に言えば導入コストと集客効果が見合わないことと、施設利用割引の方法が確立してないこと。

一方で、私の暮らす中国ではものすごい勢いで駐車場のスマホ決済によるノンストップ利用が普及している。大型商業施設にとどまらず、通常の駐車場でもチケット発券→出口で精算というのはほぼなくなった。

そのシステムは以下の通り。

入り口はナンバー読み取り。
精算はスマホで駐車場内に表示されてるQRコードを読み取り、出てくる画面にナンバーを入力(二回目以降は自動表示)し、支払いボタンをおしてWeChat PayやAliPayで支払う。施設利用の場合は会計時に示されるQRコード読み取りで割引。
出口はノンストップ。スマホ決済できない/したくない場合は専用窓口で精算。

これの優れている点は導入の容易さだろう。通信インフラはすべてスマホ、料金収受プラットフォームはサードパーティ、ナンバープレート画像認識のカメラとソフトも相当出回っているのでコストはやすく駐車場の設備投資はさほどかからない。

日本では、中国のQRコードスマホ決済に対して「Felicaのほうが優れている」「所詮偽札対策」「セキュリティが甘い」などとDISる声をよく聞くが、ポイントはそこではない。
特に「Felicaのほうが(読み取り速度、精度、セキュリティで)優れている」というのは本当に意味のない議論だ。そこに陥って使い勝手やコストの問題で日本がグローバル標準を取れなかった技術はたくさんある。このブロクの本題である日本式ETC(DSRC)もその一つ。もう世界中にETCは普及しているが日本仕様はベトナム他数カ所にしか採用されていない。
この駐車場QRコード方式にしても「スマホで読み取り支払う手間がかかる」と批判する人がいるだろうが、論点はそこじゃない。

Felicaの最大の弱点は読み取り機と対応レジがないと使えないというところにある。一方QRコード決済はQRコードが表示できればどこでも使える。プリントした紙でもいいし、液晶画面上でもいい。液晶画面にQRコードを表示することでPCやスマートTVからのキャッシュレス決済もスムースに行える。

この、いたるところで使えるというメリットから中国のスマホQRコード決済は単なる小売店、レストランのレジで使うだけのものではなくなっている。
シェア自転車、カーシェア、駐車場、自動販売機などそのアプリケーションはとどまることを知らない。さらに料金収受プラットフォームであるWeChat PayとAliPayはQRコード以外でもありとあらゆる決済、例えば通販、出前、公共料金、携帯チャージ、交通違反罰金支払いに使うことができる。完全にスマホと同化し生活の一部となり、さらにそれによる広告、販促などと連携し、また商店の省人化を助けることでエコシステムが成立している。だからこそキャッシュレスが進んだのだ。
商店の支払いでしか使えないのであればこんなに普及はない。

しかし今日本がしようとしているキャッシュレスは基本コンビニ等の支払いだけ。
そこに対して「FelicaはQRコードより早くて安全」とか言ってるわけで、全く次元の違う話をしていることを認識するべきだ。