ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

DSRC路側機設置の愚

2010年02月28日 | ITS
スマートウェイは250億円をかけてDSRC路側機を高速道路1000カ所に設置する。それを受けて、三菱電機とパナソニックは対応するETC車載器を発売した。

昨年9月のエントリーでこれは全くの無駄金になるだろう、と書いたが、2010年予算で実行される。

DSRCは単に現在のビーコン方式VICSよりも圧倒的に通信速度の速い=情報量の多い次世代システムなのだから無駄使いではない、という意見もある。
しかし、これには以下の2つの理由で同意できない。

1.現行のVICSビーコンは言うほど役に立っているのか?
ビーコン式のVICS自体知らない人の方が多い。受信機もさして売れていない。出費に見合う情報が得られないからだ。
次世代が必要か、という議論はされたのか?

2.情報量の増加に意味があるのか?
そもそも運転中に理解できる画面情報は限られる。内容的にビーコンと大差ない程度のものしか容認できない。大容量化のメリットは議論されたのか?
音声情報に対応できる、というメリットはあるが、それだけだろう。

DSRC路側機は「車の進行方向で起きている事故や渋滞の情報をドライバーに向けて発信し注意を促す」ことを最大の目的としているが、仮にそれが本当に素晴らしいことなら、なぜVICSビーコンでいますぐに実施しないのだろう。
たいして普及しないないとはいえビーコン受信機は乗用車の10%に装着されている。これからITS車載器を普及させるよりもはるかに賢い。

私には「官民の事情により」DSRCの公共投資をしたいだけ、としか思えない。

長崎のITS実験

2010年02月28日 | ITS
長崎県は国土交通省、観光庁などと連携し、五島列島でEV(三菱アイミーブ)を使ったレンタカーによる実証実験を行う。

これらレンタカーにはDSRCのITS車載器が搭載され、地元の観光案内などを入手しながらドライブが楽しめるという。

五島の未来、EV&ITS

上記のプレゼンテーションを見て大いに納得させられることは、五島列島内ではガソリンが高いからEVが良いのだ、ということと、帰りの船や飛行機の時間が変更になったら積極的に情報を車側に送れる、ということぐらい。

観光案内情報って、通常のナビの画面表示や路側案内では駄目なのだろうか。観光案内情報っていっても、そもそも走行中は運転の妨げにならないように音声しか出せない。
観光の場合は同行者がガイドブックなりをみるのが普通だろう。走行中は情報を画面に出せない機器は却って使い勝手が悪い。

まあ、そうはいってもリアルタイムな情報を適時に案内するわけだから、ないよりはいいかもしれない。また、実験なんだから少々非現実的なことでもやってみれば良い。
私が言いたいのは、この程度の利便にたいしてDSRC路側機とITS車載器は費用的に割に合わない、ということだ。
ユーザーが追加費用を払うほどでもないし、事業者が広告効果を期待して費用負担するほどのものでもない。
絶対にビジネスモデルには成りえない。

DSRCの可能性といわれているものは沢山あるが、全部そうなのだ。
キラーコンテンツは結局ETCしかない。
残る手立ては公共投資だが、消費者が対価を支払わないものに税金を投入する必要はないだろう。

パナソニック DSRC車載器を発売

2010年02月23日 | ITS
パナソニックはETCの有料道路料金支払い機能に加え、高速道路上での広域な道路交通情報や安全運転支援情報等のDSRCサ―ビスに対応したDSRC車載器を発売する。
ニュースリリース

今回、高速道路1000か所にDSRC路側機を設置する予算250億円が、民主党の仕訳をすりぬけ実行される。
(話題にもならなかったようですが。一方警察のDSSSはカットされたようです)

しかし、現時点ではそれに対応するETCはほとんど存在しない。レクサスにオプションで用意されている程度。
つまりは、DSRC路側機の250億円はこのままでは全く無駄金になる。

従って、DSRCの路側機を納入しているパナソニックとしては、DSRC車載器を発売しないわけにはいかないのだ。これはすでに発売している三菱電機も同様。国交省への義理というものもあるだろうね。

実際にDSRC路側機から発信される情報を車で受け取るためには、それに対応したナビゲーションが必要となる。これでは普及に向けてますますハードルが高い。
したがって、このパナソニックの車載機は機器に発声機能を設け、単体でもなんとか音声で情報を提供する仕様になっている。

まあ、29800円じゃほとんど売れないだろうし、正直メーカーとしても売れることはあまり期待していないんだろうけど、気になるのはいまだに
「有料駐車場やドライブスルーなどでのICクレジットカードによる決済等」というメリットが記載されている件。

有料駐車場はITS事業企画さんが一生懸命やってこられ、今は撤退のタイミングを見計らっているんじゃないかな、と思える状況。同社HPの新着情報をみれば、「誠に残念でございますが、XXXXのIBAサービスを終了させていただきます。」というような記事ばっかりだ。
駐車場のTIMESが三菱商事から株式を取得したようだが、状況は好転していない。

ドライブスルーという言葉は10年まえからDSRCの可能性といえば合言葉のように出てくるが、いまだかつて実現したことはない。
DSRCなら「XXXができる」という発想だけしか持ち合わせていない連中が考えているからいけない。「ドライブスルーの決済」が便利になることに対して誰が出費をするだろうか。

DSRCの商業利用は「あり得ないビジネス」だった、と認めるべきではないのか?

リンクアップフリー・ホンダの無料通信サービス

2010年02月20日 | ITS
ホンダは、自社のテレマティクスサービスである「インターナビプレミアムクラブ」に、リンクアップフリーという通信料無料サービスを設定し、近日発売の「CR-Z」より開始する。
車種は今後拡大していくという。

詳細はリンク先のホンダプレスリリースを参照頂きたい。WILCOMの端末を使うというのはなんとも悪いタイミングだったが、これはしかたがない。

それよも興味深いのは、おそらくこれはITSビジネスにとって一つの大きなターニングポイントになるだろう、ということだ。

インターナビプレミアムクラブは我が国最大のテレマティクスサービスであり、ビジネスの体をなしていないトヨタG-BOOKや日産のCAR WINGSに比べれば唯一「上手くいっている」と考えられていたのだが、これで完全に「テレマティクスにおけるユーザー課金モデルは成立しない」ことが確定した、といえよう。

やはり、ユーザーは「車+通信」に対価を払うほどの価値を感じていないのだ。

今回ホンダは無料にする分をいかに回収するのだろうか。
そのヒントはつぎの下りにある。
”また、車検時にHonda販売店で更新手続きをすることで、ご購入いただいた車両を所有している間は通信費無料でサービスの利用が可能となる”

つまり、これをユーザー囲い込み策として活用するのだ。
販売会社での車検ビジネス獲得と、車検でのつながりを維持することでのカスタマーロイヤリティ・リテンション確保。
国内の自動車市場は今後一貫して右肩下がりとなる。カーメーカーにとって、新規顧客獲得よりも顧客囲い込みの方が重要課題なのだ。

さらに、以下に注目してほしい。
”「リンクアップフリー」が実現するサービスとして、メーカーから直接、カーナビへカーライフに役立つ情報を配信するONE to ONEダイレクトメッセージ「Hondaからのお知らせ」(を提供)”

要は、通信料無料にするんだから「役立つ情報」という名前の広告を受け取れ、ということだ。これによるサービス、部品、用品の販売拡大も見込んでいるのだろう。

これらの効果を総合的に分析し、無料にした方が良いと判断したと思われる。

まとめよう。
キラーコンテンツはVICSよりも精度の高い渋滞情報をリアルタイムに提供すること。でも、顧客はお金を払うほどの価値を感じないから無料にする。
その効果は、顧客囲い込みによる車検、部品、用品販売拡大と次回買い替え時にむけてのロイヤリティーアップ。

車と通信。つながりたいのはユーザーではなく、カーメーカーなのだ。