米国のEVメーカーテスラが中国で振るわない。
これは中国に進出してからずっと言われているが、その状況に変わりはない。
わたしは基本的な市場調査に問題があったと思っている。
ご存じの通り、テスラは10万ドル以上する高級車で、アメリカでは金持ちしか乗っていない趣味のスーパーカーのような車。
中国はこうしたプレミアム車の世界最大市場であり、テスラがここを本国の次に重要な市場だと考えたとしても不思議はない。
確かに中国の大都市はフェラーリやランボルギーニが路上に駐車されている光景を目にできる世界唯一の場所なのだ。
しかし、ここに問題がある。それは誰もがわかることだが、充電インフラだ。
テスラという車は日本のリーフやi-MiEVに比べると航続走行距離が長い。それはテスラの技術が優れているわけではなく、沢山電池を積んでいるからだ。電池は高いので沢山積むと車両価格が高くなる。この問題に対して価格弾性が低い超プレミアム車にしてしまうというのは確かに一つの解だし、実際アメリカではある程度その読みは当たった。特に環境意識が高いインテリ系のお金持ちに受けているのだろう。
電池が大きい分、充電に時間がかかる。
中国で売れないのは専用の急速充電インフラがないから、という記事はよく見かけるが、しかしもっと根源的な問題がある。
まず第一に中国の住宅事情。
中国では都市部で一軒家に暮らしている人はほとんどいない。一般人はアパート、金持ちは高層マンション。金持ち向けの高層マンションは通常30階程度のノッポビルで、ワンフロアを占領していたり、ワンフロアに2-3世帯というケースが多い。
アパートといっても、その区画(小区と呼ぶ)はクローズドなので車を持つ人たちは敷地内に路上駐車。マンションは地下に駐車場を持つケースが多い。いずれにしても、自分の車庫はない。つまり、自宅充電ができないのだ。
中国にも金持ち向け高級一戸建てはある。別シュウ(野の下に土、別荘の意)とよばれ、緑豊かな郊外にあることが多くそこに住んで通勤する人は少ない。別荘地の周辺には商業施設も学校もないから家族が不便であり、日常の住居には使えないのだ。
次に、プレミアム車としての位置づけ
金持ちだからと言ってガソリンをガバガバ使う大排気量車やスーパーカーに乗るのは、ちょっと頭悪そう、と感じるスノッブな人種がアメリカには多いのだろう。そうしたちょっと違うお金持ちにテスラは受けたのだと思う。
でも、中国にそのスノッブを理解する人は少ない。頭悪そうで結構なのだ。要は威張りが効けばいいわけで、ブラバスでもアストンマーチンでもベントレーでもポルシェカイエンでも何でもいい。わざわざ使い勝手が悪いテスラを買う人はいないだろう。
この辺の読み違いはApple WatchのEditionバージョンとちょっと似ている。中国人の金持ちは値札に無関心と思える爆買いをするが、費用対効果はきっちりおさえているのだ。
中国を第二のメイン市場と位置付けていたテスラは販売計画の大幅な見直しを余儀なくされている。最近家庭用充電池を発表したが、これは電池の調達コミットメントを達成するための苦肉の策のように見える。自動運転でUBERと組むなど華々しい話が多いが、その実情はかなり苦しいのではないか。
近々SUVタイプを投入するので最近SUVブームとなっている中国で巻き返しができる、という発表もあったが、ブームとはいえ全乗用車の20%。飛躍的に販売量が増えるとは到底思えない。