ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

日本と中国、うさぎとかめ

2017年07月31日 | 中国生活
すでに5年以上中国にいるが、この5年間の中国の変化はものすごい物がある。
最近日本のニュースでも報じられているが、スマホを使った決済とその周辺サービスに象徴されるITビジネスのスピード感には驚くばかりだ。
例えばシェア自転車。本格的に登場したのは去年の5月頃だっと思う。それが一年足らずでものすごい台数となり、すでに大手の海外進出も始まった。

2大大手のひとつofoはもともと北京大学の構内で学生が始めたもの。個人の自転車を供出すれば無料で会員になれ、構内どこでもシャア自転車にのれるというものだったが、学生起業からあっという間に中国では知らないものはないブランドになった。

スマホにしても、華為(ファーウェイ)やOPPO,VIVOといったブランドがSONYはおろか、中国ではiPhoneを凌駕しつつある。
(iPhoneは見た目の新モデル投入をしなかったのが痛い。依然としてiPhoneブランドは中国では強いので8が十分良ければまた盛り返すだろう)
私が中国に来た時点では、華為は移動体通信機器では相当な力を持っていたものの携帯電話ではまだ中華スマホの一つという程度の認識だった。それが数年で品質、性能ともトップレベルに達している。

一方、日本での一般的な認識はどうだろうか?
中国の携帯?爆発しない?個人情報を抜かれるんじゃない?という程度の話から先に進んでいない。
SONYのEXPERIAほぼ事実上中国市場から撤退となったのも、安い中華スマホに負けたとか、反日で売れなくなった程度の認識で思考で止まってしまっているように思う。

私は非常に強い危機感を持っている。
中国製品が日本製品より品質レベルで優れているとは思っていない。一般的に言えば、まだ全然追いついていない。
シェア自転車だって、最初のうちはアプリのバグやサーバーエラーで使えないことがしょっちゅうあった。
しかし、新ビジネスに対する発想ではすでに負けている部分が多いし、一部の企業は品質レベルもかなりのところに来ている。

そうした中で、一般的な日本人の感覚では未だに10年前の中国製品を引き合いに出して中国なんか敵じゃない、ということで危機感が感じられない。
実際まだ中国製品にはトンデモな物はあるんだけど、すごいものも有る。トンデモだけがことさらに報道されSNSで拡散するから、全部がそうだと思ってしまっても不思議ではない。

いや、日本の技術者にも企画者にもそうした危機感を持っている人は少なくないんだとおもう。
しかし、日本と中国で決定的に差がある事がある。
それはリスク管理だ。日本は失敗を許さないリスク管理をする。中国はリスク管理に対する認識が甘い。
80点ならGOだ、とよく言われたが、今の日本はなんだか不寛容になってきていて、99点でも残り1点取れない理由をとことん説明しないと通らない、という感じ。

中国は五分五分ならやってみるか、的な考えを持つ人が多い。当然失敗もあるし不良も多発するけど、ヒットもでる。
これは金が余っているかどうかということにも関係するので一概に国民性とは言えないかもしれないが、今の日本で画期的な新商品や新サービスはなかなか出てこないだろう。

おとぎ話のうさぎは亀を甘く見て昼寝をして負けてしまった。
日本は昼寝はしていない。むしろ残業しているんだけど、亀がシェア自転車をスイスイ漕いでいる間も100点取るために立ち止まっているように見える。

続 NEXCO中日本、駐車場でのETCカード決済を試行

2017年07月28日 | ITS
昨日の記事に関して、ちょっと調べてわかったこと。
2017年7月27日記事
NEXCO中日本、駐車場でのETCカード決済を試行

ETCの高速道路料金外利用については、2006年から「利用車番号サービス」が開始されている。これは車載器の固有番号(利用車番号)を使って利用情報を事業者に送る仕組みだ。この仕組であれば車載器と事業者の読取機、読取機とデータセンター間は利用車番号だけが送られ、クレカの決済情報は通信されないのでセキュリティは万全。データセンターで支払い情報とマッチングさせる。

しかし、いちいち登録しなくてはいけない、また車載器を手放した際に解約をわすれると他人に使われる、というようなデメリットが有り、ほとんど普及していない。

今回の駐車場ETCカード決済は、データセンターまでETCカードの決済情報をそのまま流す。そのままと言ってももちろん暗号化されいて、きっちりセキュリティが確保されたデータセンターで解読し決済につなぐことになる。事業者の読取機ではデータ解読は勿論、蓄積もせずスルーするだけにしてセキュリティを確保するようだ。

これを聞いて思ったのは、なんで最初からそうしなかったのか?ということ。
その説明として以下の文章がITS-TEA(旧ORSE)のサイトにあった。

「ETC開始当時と比べ、インターネットを始めとしたICT技術の進展によって、ネットワークの通信速度やシステムの処理能力及び自由度は大幅に向上しており、高速で大容量のネットワークが広範囲な地域で安価に利用できるようになってきた」

本当だろうか?少なくとも利用車番号サービスの2006年時点ならネットのスピード、容量は十分だったろうし、システム処理能力も十分だったと思う。144モデムでネットをやってた時代のことを言っているのか??

2006年当時に利用車番号を使ったのは過剰なセキュリティ対策だったんだろう。
それに無理があり普及しなかったからカード情報を通信に乗せることにした、というだけのことに思える。

やっぱり最初からそうしておけばよかったという感想しかでてこない。

しかし、それでもこれが普及するとは思えない。
事前登録もなく利用できるので利用者側には制約がなくなったが、はたしてどれほどの事業者が設備投資するだろうか?

余談だが、ETC2.0の説明にいろいろな場面で決済に使える、というのがあるが、このサービスはETC2.0である必要はない。

NEXCO中日本、駐車場でのETCカード決済を試行

2017年07月27日 | ITS
NEXCO中日本WEBページ
駐車場におけるETCカード決済のモニター募集

かなり昔から、このブログではETCの高速道路外利用(駐車場、ドライブスルー、ガソリンスタンド等)には無理があると言い続けてきた。
その中で、唯一可能性があるのは駐車場だが、それも課題があると言ってきた。

駐車場にノンストップで出入りできカードで決済されるなら私も使う。利用者側に障害はない。
課題は設備業者側にあると考えている。
まず、その設備投資。これを備えたから収益が上がる保証はない。駐車場は立地で選ぶもので、料金支払い方法で選ぶものではない。一方で100%ETC決済になるまでは係員をなくすわけにも行かず、コスト低減にもならない。
次に、商業施設との提携割引処理。利用割引をするためにはETCカードを抜き取って精算時に処理をする必要がある。またそのネットワークにも費用がかかる。専用事前精算機を作る方法もあるが、ノンストップでなくなる。

しかし、ETC2.0普及促進研究会という企業研究会が未だに諦めずに高速道路外利用を進めているようだ。

ETC2.0普及促進研究会という名前だが、今回の実験は通常ETCも対象。なぜならすでに10年前から「利用車番号サービス」(者ではない)という仕組みが出来上がっていて、ETC車載器の固有番号とクレカの紐付け、決済を可能にしてETCの商業利用を促進しようとしていたからだ。
7月27日追記:レスポンスによれば、今回の実験は利用者番号を使わず、ETCカードのクレカ情報を直接読み込むとのこと。
しかし、このサービスに乗り出す企業はなく、事実上お蔵入りになっていた。
ETC2.0でなくてはできないサービスではないのだ。

ETCの駐車場利用はかつて三菱商事系のITS事業企画(IBA)という会社が手がけていたが、会社は消滅(タイムズの一部として引き継がれている)、事業もフェリーのチェックインと箱根ターンパイク料金収受程度しか残っていない。

IBAの駐車場事業がなぜうまく行かなかったかきちんと分析できているのだろうか?今回の実験は運用面だけのように見えるが、果たしてビジネスの将来性に関する目処はついているのだろうか?

東京オリンピックで外国人観光客は増えるのか(改)

2017年07月27日 | 雑記
2018年7月 内容を見直し

報道やその他の論調では2020年の東京オリンピックには沢山の外国人観光客が来ることが既成事実のように語られているが、私はどうもピンとこない。
自分の感覚でいえば、40インチの液晶画面で自宅のソファにすわって見ることができるイベントをわざわざ混雑した会場まで出向いて観たいとおもわない。
本当にわんさか海外から観光客が来るのだろうか、疑問に感じて調べてみた。

国交省が3年ほど前に東京オリンピックの日当たり来場者を92万人と発表しこの数字が独り歩きしているが、これは来場者でありおそらく大半は日本人、それも首都圏の人だろう。
しかしこの数字を来日観光客数だと錯覚してる人(メディアすら)も多い。

実際のオリンピック来日観光客予想数に関しては、ある銀行系総研の予想では80万人程度だという。その根拠はチケット総数1000万枚、重複観戦があるので観戦者数を半分と見て500万人、ロンドンオリンピックでは観戦者に占める外国人比率が16%だったのでそれを引用し、80万人。

一方、2017年の来日観光客数は2700万人。これをざっくりオリンピック期間の15日で割れば、110万人。
つまり、いま来ている海外からの観光客とほぼ同じ人数の外国人が日本にやってくることになる。これはやはりスゴイことだ。

..と思ったら大間違いなのだ。

計算の前提として、ロンドンの16%をそのまま引用してもいいのか、というのがある。ヨーロッパの主要都市からロンドンまで飛行機で2~3時間程度。ヨーロッパは案外狭い。
日本の場合手軽に飛んでこれる国は韓国、中国、台湾くらいしかない。多分、16%には届かないだろう。

さらに、オリンピック期間は航空券、ホテルともに値上がりする。オリンピックのために来日する人は日程が固定されているので、完全に売り手市場になるからだ。
オリンピックを生で観戦することに興味がない観光客はどうするか?考えるまでもなくその時期ははずすことになる。
また、企業もイベントや会議を控えることは間違いない。

ということで、期間中一般来日外国人は激減すると思ったほうがいい。
そもそも空港や航空便のキャパシティの関係から、80万人の純増はありえないのだが、まあそれでも総数は増えるだろうと思ったら甘い。
ロンドンオリンピックではロンドンの海外観光客数はオリンピック期間中なんと純減している。

さらに厄介なことに、オリンピックに来場する観光客はオリンピックが目的なのでその他の観光はあまりしない、という調査結果がロンドンオリンピックででており、むしろ日本の観光全体としてはマイナスになる可能性すら有る。

出場選手とその関係者や家族等で5万人程度が来日することは間違いないし、実際に生で観戦したいというコアなファンもいるのでオリンピックで来日する外国人の総数はそれなりの数字になるだろう。リオでも40万人が海外から来ている。しかし決して外国人観光客で日本があふれかえるわけではないということをしっかりと認識したほうがいい。むしろ、一般の観光客は減る。
これを見誤るとビジネスは失敗する。

自動運転とカーシェアリング

2017年07月15日 | ITS
今までのエントリーで、将来完全自動運転の世界になったらだれも自分で車を保有しなくなるだろうと書いた。

しかし、これには解決しなければならない問題がある。
朝晩の通勤や週末の行楽はトラフィックが一方通行になる。このピーク対応が可能な台数をカーシェアが確保できるのか、もしくは確保してビジネス的に割に合うのか、ということ。オフピークでは相当数の車両が稼働しないことになる。特に大半の人が車で通勤、通学する北米ではそれが顕著になるだろう。

しかし、全てが個人所有の場合に比べれば車の稼働率は(地域差は有るにせよ)間違いなく高くなる。
保有を放棄するか否かについては、通勤時に車を呼んでもなかなか来ないというような状況ではもちろん無理がある。すべての需要を満足した上で個人所有とシェアの負担費用差がどの程度になるのか、ということがポイントになるだろう。
それに加え、もう一つ考えられる要素はたとえ個人所有であっても使わないときはシェアリングに貸し出せる、ということ。オーナーには何ら手間がかからないので広く普及する可能性がある。これで車両保有費用のいくらかを回収できるのであれば、個人所有は無くならないかもしれない。

おそらく通勤通学に関してはライドシェアがなければ対応できない。
車両にある程度のプライバシーを確保できる工夫を行う必要があるが、ビッグデータ管理で最適な同乗者、経路が選択されることで途中の寄り道についてはさほどストレスない運用ができるのではないかと思う。通勤用ライドシェア専用車両もでてくるかもしれない、

いずれにしてもこうした世界の実現には相当の年月が必要。テクノロジー的にはもう実現可能だが、社会インフラが変わるのには時間がかかる。私が目にすることはない未来だろう。

なぜ日本人は現金払いが好きなのか

2017年07月11日 | モバイル・ウエアラブル
中国の都市部で生活していると、スマホによるキャッシュレス決済(ALIPAY、WeChatPAY)が普通になってしまい現金を使うことがほとんどない。この話題は最近になって中国のシェア自転車とセットで日本のニュースでも目にすることが多くなってきた。
さらに最近見たニュースでは、日本のキャッシュレス決済比率は対中国だけでなく、欧米等世界的に見てもかなり低いようだ。

その理由として、日本では偽札がない、お札がきれいだから現金に嫌悪感がない、店員が優秀だからすぐお釣りが帰ってくる、などと言う人もいるが、これは全く当たらない。なぜなら私が中国で現金を使わない理由としては一つも該当しないからだ。また、お札の綺麗さや偽札ということであればユーロ圏より低いことの説明がつかない。

私の考える理由は以下の通り。
まず、日本のクレジットカードの利用率が先進国の中では飛び抜けて低いということ。
各種調査によると、クレカを使わない最大の理由は金銭管理、次にセキュリティへの心配だそうだ。
クレカは与信されているので貯金額以上の支出が可能だから、金銭管理で不安というのはわかる。それはクレカのせいではなく金銭管理の問題だろうが、たしかにそれはある。ならば、デビットカードにすればいいと思うのだが、日本では普及はおろか、一般にデビットカードとはなにかすら知られていないのではないか。デビットカードは銀行口座から直接引き落としで残高不足だと使えない。以前は銀行口座と店舗レジが直結していなかったので出現したのは最近のことだが、海外では普通に使われている。(ちなみに私は本当はクレカなんかいらない。預金残高以上の買い物をしたことがない。たいていの人はそうなんじゃないかと思う)
次にセキュリティでいえば、これは得体の知れないリスクへの過剰反応としか言いようがない。全世界的にクレカ取引の総数は膨大なもので、よく報道されるようなクレカ詐欺に遭遇する確率は極めて低いし、しかもその損害は通常はカード会社が補填してくれる。

日本ではすでにFeliCaによるキャッシュレスが随分前から立ち上がっているというのも一因かもしれない。しかしこれの利用率も特に高くない。プリペイドなんて面倒でやってられないから通常の利便を考えたらオートチャージかクレカ引き落としでないと意味がない。
しかしその為には専用クレカを作れだの、オートチャージは改札通らなきゃできないだの制約が多い。スマホで支払うにしても結構手続きは煩雑だ。
またFeliCaは現金と同じで落としたらおしまい。

中国でスマホ決済がある時期を境にあっという間に広がったのは、手続きの簡単さとバーコード読み取り機だけですむ店舗側の投資の低さに有る。スマホに専用アプリを入れて、銀行デビットカードを紐付けするのに大した手間はなくすぐ使える。使用時は暗証か指紋を入れる必要があるので落としても使われる心配はない。(併せてALIPAYとWeChatPayのインセンティブ合戦、及び多様なアプリケーション(タクシー配車、レストラン割引等)への拡大の影響も大きい)

しかし、日本でバーコード読み取り式のスマホキャッシュレス決済を広めることは難しいだろう。すでにFeliCa対応レジを導入しているし、ユーザーもオートチャージならFelicaから乗り換えるインセンティブはあまりない。
しかしそのFeliCaにしても、NFC規格が日本独自で海外の非接触ICカードと互換性がないという。これは将来スマホNFC決済がもっと一般的になったとして、海外に行っても使えない、海外観光客も使えないという、2G携帯規格のようなよくあるパターンに陥ることになる。

ということで、私は日本のキャッシュレス決済比率が低いのは国民性として現金が好きなわけではなく、仕組み・環境の悪さにあるとしか思えない。

余談だが、クレカは使わないという人は通販の支払いをどうしているのだろうか?銀行振込とかコンビニ払い、着払にしている?

官民 ITS 構想・ロードマップ 2017 消えたETC2.0

2017年07月05日 | ITS
5月末、国交省は官民 ITS 構想・ロードマップ 2017を公表した。かなりボリュームのあるPDF。

ITSと銘うっているものの、サブタイトルも「多様な高度自動運転システムの社会実装に向けて」となっており現時点における国の自動運転に関する考え方が書いてある書類だと思えばいい。
以前に宣言した「2020年までに世界一安全な道路交通社会を構築」という旗印はおろしていないものの、当時のITS政策の目玉であったETC2.0による安全運転支援はほぼ影も形もなくなっている。ETC2.0はこのロードマップにも(この膨大な資料中)数か所登場するが、あくまで交通関連データ収集方法の一つとしての位置づけでしかない。

交通関連データとは、車から位置、挙動情報を収集しビッグデータとして処理を行うことで事故防止、渋滞緩和、自動運転支援につなげることだが、道路上に高額なポストを設置し、そこを通過したときしかデータのやり取りができないETC2.0と移動体通信でリアルタイムにデータのやり取りができる民間のシステムを比較すれば、どちらが優れているかなんて考えるまでもない。

しかしロードマップでは「ETC2.0の普及促進」は依然として謳われており、釈然としないものがある。推進している部署への配慮なのかもしれないが、もう税金の無駄使いでしかないのだから本当にやめたらどうかと思う。

自動運転に関しては、このロードマップの立ち位置はなかなか微妙なものがある。
自動運転は精密3Dマップと自動車に装備された各種センサー、制御機器が中心となり、インフラに頼る部分は実はあまり多くない。ロードマップでもその辺はわかっているようで、多くはカーメーカーを始めとする民間に委ねられ官はそれを補助していくような記載になっている。それはそれで正しい方向だと私は思う。官は自動運転過渡期に必要となる専用レーンとか、センサー判定がしやすいような車線、交差点表示などでのインフラ整備とそれに加えて法整備で協力していくべきだろう。

いずれにしてもETC2.0による安全運転支援は完全に国のロードマップから消滅した。
これはこのブログで10年以上前からそんなものに実効はないと散々指摘してきたことだが、首都高速道路でインチキ実証実験をやったり、なりふり構わず250億円の税金をつかって高速道路にポストを設置した責任は結局誰も取らないのだろうか。