ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

ETC2.0普及策に対する疑問

2015年07月29日 | ITS

ETC2.0による高速道路渋滞回避割引については昨日のエントリーでYOMIURI-ONLINEを引用したけど、このResponseの記事のほうがより詳しいので再度紹介。

『ETC 2.0』普及へ前進、経路別の料金優遇などサービス具体化へ


ポイントは以下の通り。

・ETC2.0普及策の目玉は経路別の料金優遇

・ETC2.0でないとそれは受けることができない。

引用
従来の車載器の場合、個別車両の経路情報はETCの料金所単位でのみ把握しているため、流入した料金所から流出した料金所までの間に複数のルートがある場合には、どこを通ったかわからないのが現状だった。

・ETC2.0は車載器にGPSと連動した経路記録が残りそれをアップリンクできる。また途中経路に設置されるITSスポットでもID情報がアップリンクされるため、どこを通ったがが把握できるということ。

・現行のETCの場合でも料金所の出入りは把握可能。しかし意図された経路誘導以外のケースでも割引が適用されてしまうからETC2.0に限定して割引を行う。(とは書かれていないが、そうとしか読み取れない)

しかし、果たして途中経路が異なる車両を割引対象外にすることにどれだけの意味があるのだろうか。
この目的は渋滞緩和だといっている。現在、従来型ETCは5000万台。一方でこれまでに販売されたETC2.0対応車載器は67万台。本当に渋滞緩和が目的であれば、料金所出入りの管理だけで割引をするほうが効果ははるかに高い。

さらに言えば、高速道路だけを走行する場合の経路誘導による割引も、途中に首都高出口のような路側通信機を設けることで通常のETCでも対応可能なはず。

もう一つのメリットとして謳われているプローブ情報の収集だが、これは民間の通信ナビのプローブ情報が既に存在する。それを活用する方が安上がりなのではないか?いまさらのように感じる。

2009年に「ITSスポット対応車載器」という名前でスタートし、250億円をかけて全国高速道路にITSスポットを設置、サービスエリアや道の駅にも情報スポットを設置したが全く普及せず、その後何回もモニターと称するキャッシュバックキャンペーンを打っても認知は上がらず、名称をETC2.0に変更したがいまだに67万台。それもほとんどは高級車のメーカーオプションだったりするような状況。

我が国のITS施策の目玉ではじめたもので、250億円投資してITSスポットを設置しちゃった以上投げ出すわけにもいかず、かといってこのままではこれ以上の普及は期待できないので、苦肉の策で「ETC2.0なら料金割引適用になります」と言っているようにしか見えない。でも、渋滞緩和のための交通流調整という重要な目的があるなら通常ETCでも適用となるように考えるべきだ。
(蛇足だけど、渋滞回避で一般道に誘導したら一般道が渋滞するよね。実際に有効な運用につながるのかな)

国交省は、渋滞軽減のための経路誘導割引をなぜ通常ETCに適用しないのか、明確な説明をするべきだろう。

 

http://response.jp/article/2015/07/28/256641.html


次世代ETC(ETC2.0) で渋滞回避割引、本当に検討しているらしい

2015年07月28日 | ITS

読売オンライン 「次世代ETCで割引へ 渋滞回避した場合に

このETC2.0装着車にたいして「高速渋滞回避ルート走行時に割引」をするという話は非常にわかりにくい。わたしもコメント欄で識者の方から色々と話を聞いてある程度理解した。まだ間違っているかもしれないので、できればコメント欄でご教示願いたい。

まず、なぜ現行のETCではそれができないか、ということ。

実際にはやる気になればできると思う。現行のETCでも料金所では車の情報をアップリンク(路側機側に情報を送る)している。そのなかには少なくともその車載器が特定できる機器ID番号が含まれている。したがって、「A料金所をでてB料金所からまた入った車は割り引く」ということは今のETCでもできる。しかし、A料金所からB料金所までどのような経路をたどったかは現行ETCではできないので、単にAとBの間に用事があったのでそのようなルートをとったユーザーも割引対象になってしまう。

ETC2.0は車載器側にGPSによる自車の経路情報が蓄積されるので、「A料金所からC国道を通ってB料金所からまた入った」ことが把握できる。さらにETC2.0は今後設置が進むとされている一般道の路側機とも通信をするので、高速を降りてからの経路がきちんと把握できるから割引対象であることが明確に特定できる。

注)プライバシーへの世論配慮からETC2.0路側機には電源投入時にランダム生成される番号しかアップロードされないという話も聞いたことがあり、その辺の関係がまだ良く理解できていません。間違いがあればご指摘ください。

本当に渋滞回避が狙いだったらもっと単純に「次の料金所で降りてXXで再入場した場合は割引」などの路側表示をし、通常のETCでも割引を行えばいいと思う。偶々別の理由でその経路を通ったユーザーが割引になることを気にする必要なんてないだろう。そこまで完璧を求める理由はない。

やはりこれは普及がさっぱり進まないETC2.0を無理やり普及させたいがための施策にしか思えない。


次世代ETC, ITSスポット情報を活用したサービスは「ETC2.0」へ

2015年07月19日 | ITS

このサイト、知らなかったがTwitterで情報を頂いた。

Motorcars.jp 次世代ETC, ITSスポット情報を活用したサービスは「ETC2.0」へ

内容は極めて正確で、ETC導入からITSスポット対応、VICSとの関係、名称をETC2.0に変更した経緯など現在に至る過程が分かりやすくまとめられているので参照されたい。

しかし、これだけきちんと調べておられる記事でも国交省関係団体の発表を元にしている部分が多いのか、私がこのブログで指摘してきた欺瞞がそのまま掲載されている。記事の結びも「そのためにもETC2.0の認知を向上させ、利用を進めていくことは大きな課題である。」と基本的に肯定的な書き方となっており、「こんなものさっさと諦めたどうか」というこのブログの主張とは相容れない。

ETC2.0推進勢力が主張している欺瞞はいろいろあるが、おもには以下の3点。

1.首都高参宮橋で行った実験の結果事故低減効果が証明されたとしているが、実は路面の段差補修によるものであった。

2.DSRCの民間活用は今後も駐車場、ドライブスルーなどで期待できるとあるが、すでにIBAが展開した駐車場は全部なくなりほぼ事業は頓挫。今後も全くめどが立っていない。(なのでIBAのサービスは2.0の機器には対応しない、というまるで冗談のような状態)

3.ETC2.0でないと渋滞回避経路を通行した時の割引ができないようなことを言っているが、これは現行ETCでも可能なはず。

また、FM音声多重方式のVICSを「通信量が小さく、また山間部などで受信が不安定」としているが、これは次世代化が終わり通信量が拡大したはず。それ以上に矛盾しているのは、ITSスポットは高価な路側機を設置したその場所だけしか受信できず、山間部などで不安定になるとはいえFM音声多重のほうがはるかにましだろう。

ETC2.0が普及しない理由が車載器を買い替えなくてはならないことにあり、その費用が問題であるというのは正しいが、それ以上にその付加価値に対して消費者がメリットを全く感じていないことにある。宣伝不足というような問題ではなく、根本的に「いらない」装備だということが問題。もしこれが安全、便利にとって実際に有効なものであればある程度口コミでも広まる。1%以下とはいえ、装着ユーザーからそういった声が広がっていかないというところですでにダメなことが証明されている。

経路誘導による割引は現行のETCでも技術的にはできるはずだが、(経路誘導の情報提供データ量は2.0のほうが多いが、現行ETCでも割引は可能)それを2.0に限定する理由は普及させたいがためだろう。この施策が本当に渋滞解消に役立つなら、現行ETCですぐ実施する方法をまず考えるべきなのではないか?


中国外務省から流出したという2050年の国家戦略地図

2015年07月16日 | インチキ・疑似科学

去年の暮のライブドアニュース。東海省と日本民族自治区50年には日本占領統治!

出元は日刊大衆。

まあ、週刊誌のヨタ記事に目くじら立てるつもりはないけど、常識的に考えてこんなものが中国外務省から流出するわけがない。これは中国の2chみたいなところで出回ったもの。ネット民が作った遊びでしかない。それも2010年ころの話。

嫌中記事は受けがいいから週刊誌メディアは検証もせずに記事にする。で、この手のデマ話がどんどん拡散する。結構信じちゃう人が多い。少しは疑ったらどうかとおもうんだけどね。

 


自動運転と3D地図データ

2015年07月16日 | 自動運転

欧州最大手のデジタル地図メーカーhere(旧navteq)は、欧米での3D地図データ作成に乗り出した。

自動運転を実現するため には、通常の2DのマップとGPSでは不十分であり、3Dのデータが必要。実際の建物や標識の3D画像データとカメラ映像をマッチングさせて自車位置をセ ンチメートル単位で割り出さないと完全自動運転はできない。さらに、道路、建物や標識は変化するので、常に最新状況へのアップデートが必要になる。道路の 陥没とか一時的な車線封鎖などは車両のカメラで判定することになるが、事前に分かっていたほうがより安全な走行が可能になる。

こうしたリアルタイムに近い情報を自社の計測車両で常時アップデートしていくことは現実的ではなく、ユーザー車両のカメラを使った最新情報をクラウドにアップロードしていく方向になるのだろう。そしてその最新情報はすべての自動走行車で共用することになる。

3Dの地図データはとてつもなく大きい。これら膨大なデータがすべての自動運転車とクラウドの間でやり取りされるといなると、そのトラフィックは想像を絶するものになる。この技術がすでに確立しているかは私は専門外なのでわからないが、いずれ実現するのだろう。

hereを所有するNOKIAはこの事業を売却しようとしており、ドイツ車メーカー連合(メルセデス、BMW、アウディ)が買収に名乗りを上げている。自動運転車に対していま最も真剣に取り組んでいるこれらドイツメーカーとしては、当然の動きだといえよう。

そ もそもドライビングパフォーマンス、走る喜びを売り物にしているドイツのプレミアム系メーカーにとって、加速、コーナリングに運転者が関与しない自動運転 車は悪夢以外の何物でもない。かといって看過すると自らの存在自体が危うくなる。彼らはこの市場に先に乗り込んでそれなりの居場所を確保する方向に動いて いるのではないか、と私は見ている。


高速道路、完全ETC化で3千億円のコスト削減可能

2015年07月14日 | ITS

この話についてはもう2回書いていてくどいけどまた書く。

高速道路、完全ETC化で3千億円のコスト削減可能 国交省が試算 非搭載車はわずか1割 産経新聞

「わずか1割の現金車がもたらす「不公平感」を数値化することで、そうした施策への理解を得たい考えだ」というが、ETC利用者は不公平感を感じているのか?ETC非利用者は不当に受益していると感じるのか?そんなことないよ。

もともと高速道路は有人収受であり、そこへ有料の機械の装着を前提にETCを導入したのは高速道路会社(アンド国交省)であり、それを付けなかったユーザーになんの落ち度もない。

大体、最初にETCを義務化しなかった時点でこうなることは明白だったはずだ。年に数回しか高速を使わないユーザーはETCをつけるわけがない。いまさらこんなこと言うのはどうかしている。

固定費が存在する以上、有人収受の実数が減少すれば単価コストは上昇するのは当たり前のこと。相対的にコストが上昇したことにETC非装着ユーザーにはなんの責任もないし、ETC非装着ユーザーは有人収受サービスからなにも受益していない。もともとそういうサービスで、それを前提に価格設定されていたはずだ。

さて、今日の本題はここから。

現在日本で登録されている車は7500万台。この内ETCをつけていない車が何台あるかわからないが、農家の軽トラや特殊車両のように高速道路と無縁の車もあるだろうから、対象となるETC非装着車は500万台から1000万台の間くらいだろう。

多めに1000万台として、3000億円削減できるなら台あたり3万円。ETCをただでつけても十分お釣りが来る。いま通常の(2.0ではない)ETCなら製造コストは3000円くらいだろう。まあ、無料でつけるのはすでに有料で購入しているユーザーにそれこそ不公平だから、例えば3000円程度のデポジットで貸与でもいい。それなら財源はもっと少なくて済む。

いずれにしても、非装着車の料金を値上げする、なんていういつまでかかるかわからないイジメ作戦はやめて、さっさとETCを配っちゃったらどうなのか。すぐやって3000億円を浮かせば誰からも非難されずに新国立競技場が作れるのではないか?(これは冗談)


Apple Watch 中国での状況

2015年07月12日 | ITS

Appleが頑なにApple Watchの販売数量を公表しないのは、もちろん公表することでマーケットにネガティブなイメージを与えてしまうような実績だからに他ならない。そんな中、アメリカにおける日当たり販売数が最近になって急落しているというニュースが入ってきた。

私は最初からあれはかっこ悪いから欲しくないと言ってきた。かっこ良いか悪いかは個人的な問題だからこれ以上のコメントはしない。しかし、果たしてあの商品に「ポケットからiPhoneを取り出す手間をはぶく」以上の付加価値があるのか、ということが大きなポイントだろう。

iPhoneが日本で発売された時に「おサイフ携帯もワンセグもついてない携帯が売れるわけがない」と言っていた人がいた。でも、iPhoneにはそれにまさるユーザーエクスペリエンスがあったということだ。

ユーザーエクスペリエンス(消費者体験と無理して日本語にしてもピンと来ないのでそのまま使うが)は様々な側面がある。便利、愉快、楽しい、使いやすい、人に自慢できる、かっこ良い、などなど、全部の合計点でその商品の価値が決まる。

Apple Watchが発売された時に、「売れないわけがない」「iPodだってiPhoneだって最初は売れなかった」という論調を沢山見たけど、じゃあどこに5万円+に値する「ユーザーエクスペリエンス」があるのかを正確に指摘した記事はまだ見ていない。

私は、実はApple自身この商品の危うさを認識していたのではないかと思う。便利、愉快、楽しい、使いやすいという肝心の部分に自信がもてなかったのだろう。だから100万円以上するEditionという超高級モデルを出して、それを金持ちやセレブが買うことで憧れ商品としての価値を創造しようとしたのではないか。中国を最重要市場と見ているとの発言からもそれは伺うことができる。しかし、残念ながら少なくとも上海で生活していて今、Apple Watchが話題になっているとは感じられない。ここは本当に見栄っ張りの市場だから、あれがセレブの象徴だということになれば値段に関係なく羽が生えたように売れる。

どうも、そうはなっていないようだ。
まあ、いくら大金持ちの中国人でも一年で陳腐化する電子部品ガジェットに無駄金を使うことはしないということか。

なお、200元くらいでSIMカードも入る偽物が手に入るが、それも売れているようには思えない。


自動車メーカーはApple,Googleに制御系情報にアクセス許さず、って当たり前の話

2015年07月12日 | ITS

これは出典はマイナビニュースかな?

自動車メーカーはApple、Googleを警戒、制御系情報にアクセス許さず

いままでもAppleのCarplayやGoogleのAndroid AutoがIT業界による自動車OSへの進出であるという的はずれな論調があったが、あれはあくまでインカーエンタメだけの世界であり、たいした物ではない。この記事が言うとおり車の制御系へのアクセスは絶対ありえない。

車の制御系へのアクセス(要するにCANバスへの侵入をいっているのだろうが)を自動車メーカーが許すはずがない。それはAppleやGoogleを警戒するっていう以前の問題で特に驚くような話ではない。

制御系は安全に直接 影響する。ハンドルやアクセル制御に問題が発生したら人が死ぬ。その責任はカーメーカーにある。カーメーカーは権益を守りたくて制御させないのではなく、それはカーメーカーしか触ってはいけないものなのだ。

カーメーカーがこれら制御系を囲い込んでいるのは結果的には事実だし、だからこそカーメーカーが自動運転の研究を自社で始めている。
今後カーメーカーの判断でGoogleやAppleの技術を使いたければ使うかもしれないし、そこでIT系がどれだけビジネスに関与できるかという問題であり、自動車というハードウエアの制御をカーメーカーとIT企業で競い合うという話ではない。


中国のスマホ普及率が高い理由

2015年07月12日 | モバイル・ウエアラブル

中国のスマホ普及率は74%。都市部に限定すればほぼ100%に近い。これは上海の地下鉄等で観察しても事実だとわかる。
一方で日本は50%程度。日本との比較をするなら中国の都市部との比較が妥当なので、ほぼ2倍の差がある。

一つには廉価なアンドロイド端末があり、最近は売り場にもスマホしかないという事情はあるものの、それ以上にいま中国の都市部ではスマホがないと便利な生活がおくれない状況になっている、ということがある。

中国にはネットの3大勢力、アリババ、テンセント、百度があり、各社決済機能をもつソフトで顧客の囲い込みを進めている。

たとえばレストラン。 中国では食べログ的ソフトとして「大衆点評」が圧倒的シェアをもっているが、ここに「微信」(中国版LINE)のテンセントが出資し、大衆点評の画面から微信のお財布機能でクーポンを決済できる。たいていのレストランは「100元券を88元」というようなクーポンを発行している。実際は事前にクーポンを購入するということはせず、会計時に金額を聞いてからスマホ画面でクーポンを購入して支払うことになる。つまり、スマホがないと損をするのだ。

アリババはネットワレットでは中国最大手の「支付宝」を運営していて、大抵の支払いはこれでできる。二次元バーコードを読み取り、iPhoneの指紋認証で支払い完了するパターンなら数秒で完了する。最近流行している弁当配達の「餓了マ」を使えば、近隣数十軒の食堂から300円程度の弁当をスマホで注文し配達してくれるが、これもネット決済可能。ネット決済だと割引がある。

同様の仕組みがタクシーや飛行機等各種チケット購入、旅行、公共料金支払い、ネット販売など生活のほとんどの場面に入り込んでいて、スマホのあるなしで利便性は大きく変わる。

当然、スマホが普及しているからこうしたビジネスが出来るのだというニワトリタマゴの問題でもあるが、いずれにしても中国都市部では日本人の想像をはるかに超えたスマホによるエコシステムが構築されている。

特に驚かされるのはそのスピードだ。タクシー呼び出しや弁当配達等はあっという間に広まった。このスピード感はアメリカに似ている。正直、これらのソフトは往々にして完成度が低いのだが、頻繁にアップデートされまさに走りながら考えるという感じ。

ゼロリスクにこだわって何も決められない日本は、気がついたら相当取り残されているということになりかねない。


ZMPのロボットタクシー構想

2015年07月08日 | 自動運転

DeNAと提携したZMPのロボットタクシー構想についてはすでにかなりメディアに露出して話題となっている。日本初の自動運転ビジネスということで頑張ってほしいと思っているが、ここにあるような(そしてまあ、典型的な)メディアの記事をみるとちょっと違和感がある。

疾走するロボットタクシーの風雲児「ZMP」はどこまで突き進むのか ニュースイッチ

自動運転は国際的にその定義としてレベルが定められており、自動ブレーキはレベル1、自動操舵が加わるとレベル2、運転手がなにもしなくても自動運転できるが運転手はいつでも運転再開できるものがレベル3、運転手が不要な、いわゆる完全自動運転をレベル4としている。

一般にレベル3とレベル4の間にはとても大きな壁があるといわれており、それは技術の壁ではなく法整備とメーカーとしての責任の問題となる。レベル3は最終的な責任はあくまで運転者にあるが、レベル4の場合はカーメーカーもしくはシステムを運営する運営者がすべての責任を負わなければならない。

もちろんロボットタクシーはレベル4になるが、これが普通の道路を2020年までに走るようになるとは到底思えない。おそらく法律上無理だろうが、それ以上にインフラが整わない。最初の完全自動運転は専用道で、かつ道路側に誘導装置が設置された特定区間でしか実現しないだろう。歩行者、自転車、およびどんな運転をするかわからないその他の車と混交するトラフィックでロボットカーを走らせ、メーカーとして事故の責任を100%引き受けるというのはあまりに大胆な話だ。

さらに言えば、もし仮に2020年に実現すると仮定しても、この記事に書かれているロボットタクシーの姿はちょっと私には意味が分からない。いわく

「選手村や東京駅、羽田空港などでロボタクが観光客らを迎える。さらに車内のディスプレーで国内観光地を紹介し、選択すれば交通手段やホテルを表示して旅行もできるといった具合だ。」

これがロボットタクシーでなくてはいけない理由はなんなんだろう。普通のタクシーにディスプレイを備えて観光案内し、興味のあるところをドライバーに伝えることと有意な差はない。

「無人運転は高齢者が年齢によって奪われる喜びを取り返すことができる」という側面は否定しないが、これだって有人タクシーを使うという手がある。

これらがロボットタクシーに置き換わる理由はただ一つ。有人タクシーより料金が安いということしかない。もちろん運転手の人件費がない分安いが、おそらくZMP社が立ち上げる初期の3000台というレベルでは車両のコストが高く、有人タクシーより運用コストが下がるかどうかは不透明だ。
もし有人タクシーより料金が高いとしたら、ロボットタクシーに乗る理由は「物珍しいから」くらいしか思い浮かばない。

すべての車が完全自動運転になれば、落石等のイレギュラーなケースを除き交通事故は無くなる。そこまでいけば車は衝突安全装備を取り去ることができる。さらに規格が統一され大量生産されれば相当なコストダウンができ、人件費がかからないロボットタクシーはビジネスとして成立する、というか人類の基本的な運輸機器になるだろう。でもそれは2020年どころではなく、もっとずっと先のことなのではないか。


自動運転がカーメーカーにもたらす脅威

2015年07月05日 | 自動運転

前のエントリーで、自動運転はひいてはカーシェアにつながり、それは自動車産業に破滅的な構造変化をもたらすだろうと書いた。

同じ趣旨のレポートが英国バークレイ銀行のアナリストにより提示されているので、内容的には繰り返しになるが参考に上げておこう。

Bloomingberg 記事

曰く、将来自動運転が実現し通常家庭の車両が自動運転車になるだけで、家人の間で車を共有できるので車の複数保有が減少しデトロイトスリーの需要は40%近く減ることになるとしている。

さらにカーシェアになると1台の車が現在の9台分、最終的にカーシェアでかつ同じ方向の旅客を拾って運行する「Poolタイプ」になると1台で18台に匹敵するという。

自動運転に関しては、その将来出現するであろう新市場に対する希望的な見方がある(実際に株式市場では自動運転関連株、というのがすでに囃されている)が、実際はカーメーカーにとって極めて深刻な事態が起こりうるのだ。

このレポートにも、ロボットカーの時代にはカーメーカーは低コストメーカーが選ばれるということが書かれている。それは当然で、車はロボットカー事業者が選定するわけだからブランドだのニッチマーケットだのはもはや意味をなさない。

さらに伝統的なカーメーカーにとっての逆風は、今まで培ってきたノウハウが無価値になるということ。

どういうことかといえば、完全自動運転車にはドライバビリティが要らない。加減速、コーナリグは決められたロジックで行うからドライバビリティは商品としての評価対象外となる。電車の加速やコーナリングに乗客が関心を持たないのと同じだ。実際この部分はカーメーカーのテストドライバーとエンジン、サスペンション制御技術によるノウハウの塊で、新興メーカーが真似できない分野だった。

あとは衝突安全。これもボティ構造やエアバック等についてカーメーカーに多大なノウハウの蓄積があるが、自動運転車は原則事故を起こさない。ノウハウばかりではなく、衝突安全を考えなくて良くなれば車のコストは劇的に下がる。新興メーカーや、場合によっては日立のような運輸車両を作っているメーカーでも車が作れる様になる。これらの要素をすべて勘案すれば、自動運転車のハードウエアは付加できる価値が少なくなることから今まで以上に厳しいコスト競争に晒され、結果世界で生き残るのは数社ということになるかもしれない。

私は、ドイツ車メーカーはここまで読んで自動運転に参入し、今のうちに出来る限り先手を打とうとしているのだと思う。


自動車のアルコール検知器とその普及について

2015年07月05日 | ITS

最近また飲酒による重大事故が発生していて、特に飲酒をごまかすために通報せずにひき逃げするという非常に良くない現状もある。福岡の事故以来飲酒運転への罰則が強化されそれは確かに効果があったが、やはり根源的に飲酒運転をなくすためにはアルコール検知器の装備しかない。

アルコール検知器についてはかなり研究が進んでいるが、普及する兆しはない。そんな中で、アメリカ運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)がシステム開発に着手したという記事を見つけた。FUTURUS記事

実際に、技術的にはアルコール検知による始動阻止はそれほど難しくない。すでに息を吹きかける方式のイモビライザーはずいぶん前に完成している。NHTSAがどこかと組んで開発することは簡単だと思う。

問題はどうやって普及させるか。NHTSAは、「標準装備を強制するつもりはない。メーカーの判断もしくはユーザーの選択にまかせる」というコメントをしたそうだが、それでは絶対に普及しない。

この装備はエアバックや衝突安全装置と根本的に異なる。飲酒運転をしない大多数の人にとっては無用の装備で、絶対にそれに対価を払わない。飲酒運転をしたい人には邪魔な装備であり、これまた絶対に対価を払わない。つまり行政による強制装備以外は絶対に普及しない。例外はフリートユーザーが自社ドライバー、社員に飲酒運転をさせないために装備するケースだろう。

ということで、NHTSAの現状のスタンスではどんなに優れたシステムを開発しても普及せず、飲酒運転による悲劇も無くならないということになる。

個人的な意見としては飲酒運転の検挙歴がある人は自費で装着しなければならない、というあたりでなんとか立ち上げてほしいと思うが、いずれにしても行政が動かないことには一歩も進まない話なのだ。


テレマティクス、レスポンスの記事からもう少し

2015年07月01日 | ITS

このエントリーは直前の「コネクティッドカーの将来展望」からの続き。

レスポンス記事「テレマティクスサービス国内ユーザー、5年後は1320万人に…フロスト&サリバン

これはもっとわかりにくい。

フロスト&サリバンによると

「テレマティクスサービスののべ国内ユーザー数は2014年の849万人から2020年には1320万人へと増加する」

いま849万人というが、本当に車の10台に一台はテレマティクスサービスを利用しているのだろうか?この数字はどこから出てきているのか?
想像するに、T-Connect、Carwings会員数と、アフターのAirナビ等通信対応ナビの総出荷数から割り出していると思われる。

しかし、実際にテレマティクスが使われているのかというと怪しい。これが「高速通信環境整備(LTEのことか)、スマートフォンの普及で急速に拡大する」といわれても本当かなと思う。

日本では「緊急通話や遠隔車両診断が車両位置情報に基づくサービスの次に重要なものとして位置付けられている」という記載があるが、これは本当なのか?しっくりこない。特に遠隔車両診断(リモートダイアグ)は、遠隔で車が修理できるのならまだしも、故障原因が分かったところでどうしようもない。

「車両位置情報データが増加すれば、OEMやテレマティクスサービスプロバイダは信頼できる事業例を構築できる。これにより車載通信モジュールの装着標準化が進めば、このトレンドが加速することも期待できる。」は非常にわかりにくい文章だが、プローブのことを言っているのか?プローブ車両が増えれば交通情報などの正確さがまし、ユーザーがほしがるから標準化が進み、ドライブがかかる、といいたいのだろうか?

最後の文章、「今後は、高品質アプリの提供と併せたオープンアーキテクチャ戦略が、大規模なテレマティクス・ユーザーの基盤を構築するカギになるとみている」は、いいアプリが出てくればブレイクするかもね、といっているだけで具体的なことは何一つ示されていない。

テレマティクス、もしくはコネクティッドカー(車+通信)はすでに10年以上やり続けてもキラーコンテンツが見つからない「蜃気楼」のようなマーケットなのだと思う。


コネクティッドカーの将来展望 フロスト&サリバン報告

2015年07月01日 | ITS

6月4日に調査会社であるフロスト&サリバンジャパンが開催したGIL 2015: Japanにおけるコネクティッドカーに関する講演のレスポンスによるレポート。

顧客ニーズからとらえなおすコネクティッドテクノロジーの2020年

「ビッグデータを活用することによりOEMはクルマ1台あたり年間700から1500ドルを得る。データをモビリティとの関連で論じると、データはモビリティインテグレーションを実現するビジネスモデルを可能とするためのコネクテッドサービスのうちの75%を占める」

非常にわかりにくい文章だが、コネクティッドカーからの各種情報をビッグデータで処理し分析することでカーメーカーに価値をもたらす、ということか。もしくは車両に対するアフターセールスのプッシュで利益を得るということか。

いずれにしても、これは机上の空論に近いものでしかないと私は思う。

曲がりなりにも大手カーメーカーはもう10年以上テレマティクスを運営してきたが、こうしたビジネスは全く生まれていない。これから生まれるという理由がわからない。

また、ここで言っているコネクティッドカーのシェア(現在日本で18%、等)は何を指しているのだろうか?車両への通信デバイス埋め込みという前提であればここまでの数字にはなっていない。ユーザーが自分の通信機器をつなぐことができる車載器の普及率だと思われ、実際につないでいるかどうかは不明。

欧州はe-Callの法制化でコネクティッドカーは自動的に拡大するが、付加価値付与に対する法規制があるためいわゆるテレマティクスの拡大にはならない、というのはその通りかもしれない。また、緊急通報に関して「日本は欧州ほどには前向きな、積極的な施策がない」のも事実。しかしそれ以上に重要なことはコネクティッドカーがユーザーにとってどのような価値をもたらすかだろう。

これについても言及されているが、ここに書いてある内容だけを読むとほとんど自己矛盾のようなことしか書かれていない。いわく、ユーザーが求める機能にはコネクティッドは入っていない、車の中でスマホを使うのは通話や停車時のメールチェック、など。

これに対する回答が

「こういった需要が実態としてある。市場を踏まえて色々なサービスを提供する上では地域的セグメントや性別を考慮しながらきめ細かなサービスの提供が求められている」

というあいまいなものになっている以上、コネクティッドカーが本当にいうほど普及するのか、はなはだ怪しい。

テレマティクスからコネクティッドカーと名前は変わったものの、依然として明確なユーザーニーズが見えず、またキラーコンテンツも見つからない状況に変わりはない。

そうした中で2020年に向けて大きく普及率が向上するという理由が私にはわからなかった。