ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

ソニー・ホンダモビリティ 新EV「アフィーラ」の危うさ

2023年02月13日 | 自動運転

1月のアメリカCESで発表され、2年後の発売に向けて先行予約の開始がアナウンスされたソニーのEV。
先日ラジオを聞いていたら、車に詳しいITライターの人が単純に「これはすごいことになるでしょう」とお話しされてましたが、私は非常に悲観的。

番組ではまず、「クルマはスマホになるといわれており、ソニーとホンダの協業の未来は明るい」的な話から始まりました。
いやいや、ソニーのXperiaって世界的に見たら決して成功してないよね?という突っ込みはおいといて。

この「クルマはスマホになる」、耳にタコができるくらい聞く言葉ですが私はならないと思います。なぜなら、車に乗るときスマホはすでにポケットに入っているから。
ネットに繋がり、ソフトのインストールでカスタムができ、エンターテイメントを楽しめる、というのがどうやらクルマはスマホになる、の根拠らしいけど、そんなこと言ったらデスクトップパソコンはすでにスマホだよね。でもデスクトップパソコンはスマホだ、とはだれも言わない。

なぜか

持ち歩けないからです。家でしか使えないものはスマホではない。

一方、クルマは移動時につかえるからデスクトップパソコンよりはモバイル性があるかもしかもしれないけど、でも目的地に着いたら駐車場に置いておかなくてはならない。
「クルマでの移動時にしか使えない」スマホなんて要ります?私は要りません。ポケットに入ってるiPhoneで十分です。

さて、この方のお話、後半は車内エンターテイメントが中心になりました。クルマは自動運転になる、すると人は運転業務から解放される。すると何をするか?ゲームだ。ソニーはゲームの世界でPSという非常に大きな資産を持っており、これが大きなビジネスチャンスにつながる。ということのようです。

この、自動運転で運転から解放されることで生まれる市場ってのも、特にテック系の人たちから過大評価されてますね。
有料エンターテイメントやら、ショッピングやらで莫大な市場が生まれる、とか。

本当かね。

まずはこの車、おそらく1000万円くらいする。裕福層しか買わない。クルマの中でちょっと時間ができたらすぐゲームしたい層とは多分マッチングしないでしょう。
そもそも運転業務から解放されたらみんな嬉々としてゲームをするのか?という疑問があります。例えばいまでも助手席の人は運転業務から解放されてる。なんで助手席専用ゲーム機がないんでしょうか?
タクシーに乗っているときは運転しなくていい。じゃみんなゲームしてますか?飛行機も運転しなくていいし、目の前にモニターがある。どれだけの人がゲームしてます?

移動時間中のエンタメなんて、ポケットに入ってるスマホでSNSチェック、で十分なんじゃないでしょうかね。
もちろん、運転しなくてよくなったからっていきなりネットショッピングをはじめる人もそんなにはいないでしょう。

ソニーとホンダが組んだら誰もが想像すらできなかったすごいことが起きる、という論調もあるけど、この分野はもう10年以上騒がれているから、もう「誰も想像すらできないすごいこと」なんてないんだ、と考える方が自然です。

ソニーが展示したこの車、じっさいかなり苦悩されたとおもいます。フロントグリルにフロントバーと称するインフォメーションディスプレイが付いていますが、ソニーっぽさを出すにはこれくらいしかなかったんでしょう。クルマのフロントグリルに情報表示するなんてまったく使い道がないってことは百も承知で、でもそれくらいしか思いつかなかった、というのが正直なところじゃないのかな?

もちろんソニーの強みである各種センサーで自動運転方面ではいろいろなことができるでしょうが、それ自身がキラーコンテンツとなるものではありません。
ソニー+ホンダという往年の日本ブランドの協業というクールジャパン的ブランドパワーでそこそこの台数は売れるとは思うけど、私はそれ以上の物にはならないと思います。

 

蛇足だけど、クルマとゲームの融合で唯一優れていること。それはドライブ系ゲームです。

シート、ハンドル、ブレーキ、アクセルが付いているから、ハンドルコントローラーが要らない。これ、シートや大画面液晶の本格的シミュレーター買おうとすると数十万円かかりますからね。

以上です。


燃費グッズ「アドパワー」他1社に措置命令

2023年02月11日 | インチキ・疑似科学

怪しい燃費グッズについては過去に何回か書いている。
2021年8月のエントリー「また出てきた燃費グッズ」

この記事では直接商品名を表示せず”直訳すれば「広告の力」”と表現したが、このたび消費者庁から措置命令がでたのでもう隠す必要はないだろう。
AdPowerだ。
『同庁が表示の根拠となる資料の提出を求めたところ、両社からデータの提出はあったが、車の状態など試験環境が同一ではなかったとして、「合理的根拠が認められない」と判断した。』
要するに提出された試験結果は製品の効果か測定誤差かが不明である、ということ。

これに対し同社は
「深くおわびし、再発防止に努めたい」とコメントした。

現在同社のHPにおける表現は「静電気抑制放電効果により、エンジンへ吸入される空気の流れを変化させます。」と変更されており、燃費や馬力が改善するという表現が削除された。
実際に効果がある商品を開発するとか、販売を中止するということではなく、表現を変えることが再発防止策らしい。

この商品、21年8月のエントリーにある通り疑似科学でおなじみのゲルマニウムを含むテープをエアクリーナーボックス内に貼ることで静電気抑制し、空気の流れを良くすることでエンジンの燃焼効率を上げる、という仕組みになっている。
東海大学で試験を行い、静電気除去による空気の流れの改善が確認された、としている。

この試験結果が製品の効果なのか測定誤差なのかは筆者は判断できない。
しかし、それ以前の問題がこの製品にはあるのだ。

それは「エアクリーナーボックス内の空気の流れを良くすることで燃焼効率が上がる」という部分。
エンジンが回るとエンジンはエアクリーナーを経由して掃除機のように勢いよく空気を吸い込む。
エアクリーナーはエンジン内に入る空気のごみをとるフィルターで、当然ながらそれ自身が空気の流れを阻害している。その阻害量(圧力損失)は静電気による空気流量阻害とはけた違いに大きい。

カーメーカーのエンジン設計はそれを計算してエンジン内に必要十分な空気が送り込まれるように吸気システムを設計する。ある程度エアクリーナーが詰まったところで性能には影響しない程度のマージンを取っていることは言うまでもない。もし空気の流れをさらに良くすれば燃費が向上するなら、カーメーカーはもっと大きな吸気ダクトやエアクリーナーをつけるだろう。

そうしないのはすでに十分な空気流入が確保されているということに他ならない。
カーメーカーが燃費改善に費やすリソース(時間、人、金)は厖大なものがあり、かつてカーメーカーにいた身としては「そんなに間抜けじゃないぜ」といいたい。

しかしこの商品、アマゾンなどの評価は結構高い。その仕組みは上記のブログエントリーに詳しく書いた。
「パワーが上がるので軽くアクセル踏んだだけで加速する」というおまじないが実際に燃費を向上させているだけなのだが、この効果があるからオカルト燃費グッズが後を絶たずに現れることになる。

最近の車にはACC=アダプティブクルーズコントロールが付いている。これはドライバーがアクセル操作をしない。
アドパワーさんが製品に自信をもっているなら是非ACC使用下での燃費比較試験を実施してほしい。