SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画「大いなる休暇」

2005年12月29日 | 映画(ア行)
 コメディタッチで大人の童話のような味わいのあるカナダ映画。起承転結の定石どおりにストーリーが展開するので大変分かりやすいし面白い。

 現代の物語なのだが、携帯は通じないし、インターネットや衛星放送受信などがまったく普及していない浮世離れした島の物語。工場誘致の条件である「島内に医者がいること」を実現させるための悪戦苦闘が本筋となっている。

 カナダは英語とフランス語が公用語だが、本作は全編フランス語で語られている。だからかどうか分からないが、フランス映画のような味わいがある。「言葉は文化である」ということかも知れない。

 こんなのどかな島に工場を誘致して環境問題は大丈夫なのか気にかかるが、それはまた別のジャンルの映画で考えてもらおう。

映画「男たちの大和」 ~ 獅童の「士道」

2005年12月28日 | 映画(ア行)
 圧巻。戦闘シーンの迫力とボリュームはこれまでのどんな日本映画にもなかった。

 大和艦上のみでもこの有様だから実際の沖縄戦の現場は悲惨を極めたことだろうと思われる。「玉砕」という言葉のみの精神論で多くの命が奪われたことになる。

 劇中、長島一茂の台詞の中で「武士道」と「士道」の違いが解かれる。だから獅童?というわけではないだろうが、この映画のテーマが託された重要な台詞である。大災害や大惨事で生き残ってしまったことの苦悩を語られる生存者の方のことなどが思い出された。

 キャストは若手が頑張っている。ただ2、3人以外は誰が誰なのか人の区別がつかない。現在のシーンを演じる仲代達也以外は渡哲也以下重鎮クラスの男優はほとんど見せ場がないが、回想の中の母や恋人を演じる女優陣は短い出番にもかかわらず皆とても良い。

 とにかく観客が多い。特に年配の男性の多さが他の作品にはない傾向であろう。
 必見の映画であるが正月に見るには少し重過ぎるか・・・・。

映画 「ヴェラ・ドレイク」 ~ 動機より事実優先

2005年12月27日 | 映画(ア行)
 マイク・リー監督独特の作劇術がリアリティある映像を紡いでいる。

 ハリウッド映画ならおよそ主人公にならないだろう地味な顔立ちのイギリス人俳優が地味な設定の中でまことに丹念なドラマを生み出している。
 脚本を演じるのではなく、ある状況下でどう振舞うかがワークショップのような形で作りこまれ、またある場面では伝えられていない出来事にその場でどう反応するかがドキュメンタリーのようにカメラに収められているという。

 家族のささやかな幸せの中に突然乱入してくる他者。
 そしてそちらの方が正義なのだという事実に観客は立ち会わされるが、いかに善意から出た行為でもその行為が法律に触れる以上、心を斟酌する余地はないという法社会の現実が静かに映し出されている。

憂鬱な「ブラウン・バニー」

2005年12月26日 | 映画(ハ行)
 ギャロのいじけた憂鬱に付き合わされる90分余。一体、主人公のここまでの憂鬱の原因は何なのか、見ている方はさっぱり分からないままアメリカのドライブ風景を延々と楽しむことになる。

 最後の最後にその憂鬱の正体が姿を現し、そこから全体を照射して映画の全貌が明らかになる、というすごい作品なのだが、問題はそこまで観客が待ててるかということとラスト近くにある強烈なラブシーンをどう評価するかということだ。

 この脚本を見せられて女優が出演をOKするには相当な覚悟がいるだろう。それに挑んだクロエ・セヴィニーがいなければ実現しなかっただろう作品だ。

映画「皇帝ペンギン」 ~ 彼らの生きる意味

2005年12月22日 | 映画(カ行)
 皇帝ペンギンの一年を追っている。原題は「皇帝の行進」。

 一年のある時期に、人間で言えば全成人男女が集合しての集団見合いがある。そのために彼らは目的地を目指して黙々と行進を行う。時には腹ばいになってソリのような前進方法もとっている。そして相手を見つけて求愛、産卵、孵化と続く。
 求愛の光景は官能的ですらある。

 メスは産卵後、自身の栄養補給と生まれる子供の餌のために海に捕獲に行く。そのためにまた往復の行進が続く。その間生まれた卵はオスが抱く。
 オスの方はその後メスとバトンタッチして捕食の行進に出かけるまで、合計4ヶ月飲まず食わずの絶食が続くそうだ。メスの帰りが遅いと生まれた子は飢えのために死ぬ。絶妙のタイミングが求められるわけだ。

 再会時にあれだけの群れから再びお互いの相手を見つけることができるのも不思議だ。我々の目にはどれも同じ顔で雌雄の区別さえつかないのに。

 動物の本能がいかに綿密にプログラミングされているかということが良く分かる。
 南極の過酷な自然の中で子供を産み育てる、ある意味ではそのためだけに生きている印象を受けるが本能とは本来そのようなものなのだろう。

 命の尊厳が輝く。

「ザスーラ」

2005年12月21日 | 映画(サ行)
 体験型すごろくゲームのお話でテーマはスペースアドベンチャー、という趣向の作品。

 「ジュマンジ」の続編だというが話そのものはまったく独立している。そして今回はややB級の味わいがある。
 ティム・ロビンスが出ているといってもほとんど本筋に絡んでこないので、前半、子供2人の喧嘩とゲームだけのやり取りではとてももたない。絵本の原作をリアルな映像にしようというのだから、よほど脚本の練りこみがないと難しいだろう。

 タイム・パラドックス的なひねりがあったりで、ラストの1/3でようやく面白くなってくる。後味は悪くないので、お正月のゲーム遊びでもやるつもりで見るには良いかも知れない。

 でも一本だけ見るなら「キングコング」という人の方が多いだろうな。私は両方見ますが。

運命共同体

2005年12月20日 | 日常生活・事件

 地上にX軸、Y軸の座標軸を描いてみる。人間一人一人をドットで表現すると座標系の中を無数の点が動き回っている。

 数百の点が一つに固まっていくらか移動したかと思うと、そこで多くの点がばら撒かれ、かと思うと別の多くの点がそこに集合し、また少し移動しては同じ動きを繰り返す。朝の通勤ラッシュはこんな感じに見えるだろう。

 一つの点が二つに分裂する・・・・出産の光景。多くの点がその場で同時に消滅する・・・・事故、災害、戦争などで多くの人命が失われる光景。数百の点が集まり座表面からはやや浮き上がったような形でしばらく水平に移動したかと思うとそこで消滅してしまう・・・・史上最悪の航空機事故。

 多くのドットはそこでまとまったとたん、運命共同体になってしまう。

 朝の通勤電車の中で、携帯を打ったり、本を読んだり、運良く座れて大口を開けて眠りこけている人たちを眺めながら、そんなことを考えた。

「ヴェニスの商人」 ~ Happy or not ?

2005年12月16日 | 映画(ア行)
 有名なシェークスピア作品。

 四大悲劇は読んだがこれは未読、しかし肝心の部分だけは知っている。したがってドンデン返しに当たるその部分の劇的効果はないわけだが、逆にその部分しか知らないために周辺の状況描写が非常に興味深かった。

 ユダヤ人排斥の動きが当時からすでにあって、彼らはゲットーのようなコンセプトの街づくりの中で管理されていたことになる。そういう状況を見せられた中で観客として果たしてどちら側に組すべきか、その感情の移入先を決めかねる状況に追い込まれる。
 ハッピーエンドでも開放的な喜びに満たされないのは人種に対する差別感が作品の根底に潜んでいるためだ。

 アル・パチーノは居丈高で尊大な前半から、ねじ伏せられて消え入るような悲哀の底へ落ち込んでしまうラストまでその振幅の大きさで圧倒的な演技を見せてくれる。

痛くも痒くもない免許取消し ~ 姉歯問題解説

2005年12月14日 | Weblog
 建物は規模、用途により一級建築士でなければ設計できないものがある。

 その一級建築士資格は建築に関するオールマイティの資格なので、合格するためには構造の資質も問われる。しかしいったん資格を取ってしまうとデザイン専門、構造計算専門など職能が分離しているのが実情である。
 建築士事務所に構造計算ができるスタッフがいる場合はその事務所内で設計が完結するが、デザイン専門の事務所だと構造設計をやる協力事務所に下請けをお願いすることになる。

 一級建築士が設計した建物を審査機関に申請するときは建物の意匠デザインを行った建築士の名前で行うのが一般的だ。したがって構造を担当した人の名は申請図書には出てくることがない。構造担当者が一級建築士である必要はまったくないのだ。したがって姉歯氏が一級建築士免許を取り消されたとしても痛くも痒くもないわけだ。

 ただしここにいたって姉歯氏に構造設計を下請けに出す事務所があるとは思えないので、実際は痛くも痒くもあるわけだが。

映画「親切なクムジャさん」

2005年12月13日 | 映画(サ行)
 凄まじい復讐劇。単なる韓国映画ファン、韓流ファンは見ない方が良い。監督の前作「オールドボーイ」は多少笑える場面もあったが今回それはない。

 TV連続ドラマ「チャングムの誓い」の主演、イ・ヨンエが大胆なイメージ・チェンジに挑戦している。確かに女優としての幅を広げキャリア・アップにはなっただろうが、イメージ・アップにはならないのではないか。それを覚悟の挑戦であろう。

 とにかく凄惨の一語に尽きる。
 話の展開上やむを得ないのだろうが幼い子供をあるシチュエーションで泣かせているのがちょっと気になった。
 当然年齢制限つきの大人の映画。

 タイトルバックの美しさは特筆ものである。