SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「記憶の棘」

2008年02月27日 | 映画(カ行)
 予告の時点ではリインカーネーション(生まれ変わり)映画かと思っていた。ただ、ニコル・キッドマン主演でもあるし、「余裕があれば鑑賞」にランク付けしていた。

 結局劇場公開はパスしたがWOWOWで放映された。良い意味で見事に期待を裏切る作品だった。

 冒頭、長回しで公園をジョギングする男性をカメラが追っていく。パルスを刻んだような音楽も何か不思議な世界を予感させる。

 生まれかわりって本当にあるのか?ヒロインでなくともそんな気分になってくる。

 その物語の流れの中で、なぜこんなエピソードが、と違和感を感じさせた冒頭間もない場面が後になって重要な意味を持ってくるとは。

 登場する相手役の少年は、おそろしくナイーブで感受性が鋭く、かつスマートな頭の良さを併せ持つ役柄なのだ。
 悪意や作為はまったくなく、純粋な心に憑依したようにある思い込みが巣くう、そのことが巻き起こす波紋を描いた映画だ。まわりの大人たちの動揺はかなり深刻だ。

 そこに、最初の違和感ある場面に関わった、脇役に過ぎないと思っていたヒロインの知合いが重要な役割を帯びて再登場してくる。

 事件の真相は「汚れなき悪戯」だ。いや、おそらくは「悪戯」という意識さえそこには無かったのだろうと思われる。
 そういうとても難しい役柄を撮影当時11歳だったキャメロン・ブライト少年がこなしている。おそるべき才能だ。

映画 「スウィニー・トッド」 ~ 映画の後に何食べる?

2008年02月26日 | 映画(サ行)
 血と惨劇のミュージカル。

 予告編では歌のシーンがほとんど無く、途中でミュージカルなんだと分かるくらいだったが、本編はいきなり陰鬱な画面に歌がかぶさってくる。

 やっぱりミュージカルは楽しく夢のある話がいいな、と言うのが正直な感想。せいぜい「オペラ座の怪人」あたりが限界かなとは思うものの、でも名作と言われる「ウエストサイド物語」も「サウンド・オブ・ミュージック」も「屋根の上のバイオリン弾き」も路線としてはシリアスだ。

 ティム・バートンの怪奇路線は「シザーハンズ」にしろ「コープス・ブライド」にしろ、底辺に物悲しさが漂うところに支持を集める要因があったと思うのだが、本作の場合はひたすら一直線に復讐の鬼となった男の末路が描かれ、描写もショッキングだ。

 ジョニー・デップもヘレナ・ボナム・カーターも白塗りに隈取の骸骨メイクで死相が濃厚に漂っている。ヘレナ女史は「フランケンシュタイン」以来の怪演だ。

 ジョニー・デップが切り裂きジャックを追う危ない警部を演じた「フロム・ヘル」も同じような時代設定のようだ。こちらには「エレファントマン」も登場していた。
 まさに何でもありの世紀末ロンドン。バートン監督の色調にピッタリと一致する時代だ。

映画 「ジェシー・ジェームズの暗殺」

2008年02月22日 | 映画(サ行)
 西部劇というがその要素はゼロ。文学的な香気が漂う、かつてのアメリカの物語だ。

 タイトルロールのジェシー・ジェームズはブラッド・ピットが演じているが、主人公はむしろ彼を暗殺するロバート・フォード(演ずるケイシー・アフレックはアカデミー助演候補)で、その彼の方も暗殺されてしまうまでの映画、と言った方が良いかもしれない。

 ジェシー・ジェームズがアメリカでいかにポピュラーな存在かを知らないと、少し分かりにくい。

 ロバート・フォードはなぜジェシー・ジェームズにあこがれるのか?
 ロバートはジェシー・ジェームズの本を持っているが、なぜまだ生きている悪党が本になるのか?
 悪党を退治したはずの暗殺者の方がなぜ卑怯者と呼ばれ、自身が暗殺されるにいたるのか?

 これらの疑問はすべて、ジェシー・ジェームズに対する、当時のアメリカ大衆が抱いていたイメージを理解していないと解決しない。それを知らない日本の観客はこの作品を見て、ジェシー・ジェームズが単なる列車強盗のリーダーではないらしいと言うことが、それとなく分かってくるといった按配だ。

 随所に挿入される雄大に流れる雲の画像や、逆光に浮かぶ木立など心理劇を文学的なタッチで描いた映像は美しい。ただ少し長いのと、紹介も無く新たな人物が現れるので、どこで出てきた人だったかなと考え出すと映画の流れについていけずに、途方に暮れる。

 短期の上映でヒットもせずに姿を消すが、じっくり見直してみたい作品だ。

 制作にはブラッド・ピットのほかリドリー・スコットなども名前を連ねている。ジェシーの兄役の重鎮サム・シェパード、ロバートの兄役サム・ロックウェルもなかなか良い。

映画 「シルク」

2008年02月20日 | 映画(サ行)
 詩的な作品。

 絹を唯一の産業とするフランスのある町が日本から蚕の卵を調達する、当時としては命がけの旅が描かれる。

 旅の描写は簡潔ながら経由する各地のロケだけでもかなり手がかけられている事が分かる。主人公はその旅を3回もこなすのだが、船と動物と徒歩しか移動手段の無い時代に、天候の影響もあるだろうに良く無事で往復できたものだ。
 が、そこに主眼があるわけではないので、その苦労はほとんど語られない。 

 では、何がテーマかというと、主人公が日本で出会うミステリアスな女性に対する「思い」の映画なのだ。

 その思い焦がれる女の肌が「シルク」と重なるのだろう。「だろう」というのはそこのところがあまりうまく描かれていないからなのだ。

 日本のパートは良い役者を揃えながら、「ミステリアスな異国」の描写に留まる。悪いことには、それがミステリアスというよりは不可解極まりない描き方なのだ。そもそも、主人公が忘れられない日本女性がどういう立場の人間であるかも分からないのだ。

 日本人の目から見るからそうなので、外国人が見れば、例えば我々がジプシーの生活描写を見るのとそう変わらないような見方で見ることが出来るのか?

 詩的なと言ったが、物語のキーとなるのは作中に出てくるある手紙だ。一種のラブレターなのだが、実際ここまでまわりくどいやり方で思いを相手に届ける必要があったのだろうか、というのが見終わっての感想である。

 坂本龍一の音楽はさすがに美しく、文芸作品のムードを味わうには良いのだが・・・。

映画 「ウォーター・ホース」

2008年02月19日 | 映画(ア行)
 ネス湖のネッシーにケルト伝説を絡めたファンタジー。「日本昔話」のような老人の昔語り、という枠組みの物語だ。最近多いダーク系、光と闇のファンタジーではない。

 少年と特殊撮影によるモンスターが主役ながらよく物語を支えているし、脇も良い。母親役のエミリー・ワトソンは「ミス・ポター」に続く脇の演技で存在感を示す。

 登場人物がやや戯画化された感じがあるものの、イギリス映画らしい色彩と配役にケルト風味が加えられた佳作に仕上がっている。

 途中から、モンスターの存在を知った軍指揮官が、敵と思い誤砲する仲間からモンスターを守ろうと、主人公側にまわり奮闘することになる。
 結局バリアー突破、逃げおおせるが、軍のバリア施設は大破され人的被害さえあったかもしれない。主人公側が歓喜するのは分かるが指揮官まで大喜びしているのはちょっとまずいんじゃないだろうか?

 ヒット作とは呼べない客の入りだが、ファミリー向けの良い作品だ。

映画 「母べえ」

2008年02月06日 | 映画(カ行)
 黒澤明監督の「羅生門」にスクリプターとして参加して以来、黒澤組の常連である野上照代さんの原作。この自伝的映画の中では学校の美術教師になっている。その戸田恵子演じる「照べえ」の語りで少女時代の思い出が語られる。

 戦争に突入するその真っ只中から終戦にいたる話であるが、戦闘シーンは無く、吉永小百合の「母べえ」が住む家が主な舞台となる。暗い時代ながら、各登場人物の深いところで輝く人間性が美しく描かれている。俳優は豪華な布陣だ。一部はラストのクレジットで名前を見てもどこに出ていたか分からない、という贅沢な使い方である。

 「母べえ」の出身である広島の悲劇も直接的ではないが話に影を落としている。

 山田洋二監督はこのところ時代劇が続き、久々の現代もの、と言いたいところだがこの昭和20年代、今の眼から見るともう時代劇のジャンルなのかもしれない。

 警察に連行する時に縄を使っていたこととか、拘置所での面会に拘留者は編み笠をかぶせられて現れるとか、封書を開く時にはさみではなく木製の小さなヘラを使っていたこととか、もはや知らないことだらけだ。

 それらのディテールを丁寧に見せることに、時代劇以降の山田監督はかなりのこだわりを持っているように見える。

 吉永小百合の若さもすごいが、4歳年上の倍賞千恵子が吉永小百合の娘をやるというのもすごい。女優マジックだ。

映画 「アース」

2008年02月05日 | 映画(ア行)
 イギリスBBC制作TVシリーズの特別編集版劇場公開というスタイルは前作の「ディープ・ブルー」と同じ。

 日本ではNHKでも11回シリーズで放映された。緒方拳が案内役として登場し、オリジナルとは異なる日本バージョンの趣だ。なのでこちらはNHKも共同制作となっている。

 今回の映画版はBBCオリジナルの再編集で日本語吹替え版の声は渡辺謙。NHKは影も形も見えない。96分という上映時間から考えてもTV版の80%はカットされていることになる。映画は地球温暖化防止キャンペーンのような視点から編集されている。

 シリーズの持つ「圧倒的な生命の賛歌、生の多様性」という要素は薄められ、「地球の過酷な環境変動にさらされる生命」を綴っていく。
 そのためみずみずしい地球というより、このまま汚染が続いてよいのかというトーンになってしまい「圧倒的な生命」が見えてこない。

 温暖化で氷が減少する北極のクマ、渇水で砂漠化するアフリカの象などに重点が置かれる。冒頭のシロクマを追った映像を見ていると、これで96分に収まるのだろうかと不安になるくらいだ。また「アース(地球)」という限り海も無視できずクジラやサメも出てくるが、これは「ディープ・ブルー」にも登場していた。逆に昆虫や植物の描写は皆無に近くバランスが悪い。大画面で見る映像はさすがに迫力があるものの、TVシリーズの充実感は乏しい。

 英語版オリジナルのDVD5枚組は、ネットで探すと海外からの送料を入れても40ドルをきる価格で入手できる。ただしリージョン1のディスクが再生可能ならば、だ。