SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「彼が二度愛したS」

2008年11月26日 | 映画(カ行)

 ヒュー・ジャックマンとユアン・マクレガー主演のサスペンス。

 物語の核にセレブのみが会員の秘密クラブが存在し、官能の気配が漂う。邦題はその辺への目配りがあるものの原題「DECEPTION」は詐欺、ペテンを意味し、官能のかけらも無い。

 秘密クラブはオトリを詐欺へ誘い込むための「甘い罠」に過ぎない。主筋の方はコンピュータで口座を操作するネット犯罪の話になる。そのどちらも細部の詰めが甘く、面白くはあるものの唸るほどではない。

 今回脇役のシャ-ロット・ランプリングは60年代後半から息の長い名女優として活躍しているが、いまや60歳超。「ウォール街の美女」役で秘密クラブのメンバーとして迫られてもなぁ・・・。「愛の嵐」の頃ならともかく、本人にも気の毒なキャスティングだ。


映画 「敬愛なるベートーベン」

2008年11月25日 | 映画(カ行)

 エド・ハリス、ダイアン・クルーガー主演、アニエスカ・ホランド監督という魅惑的な顔ぶれなのに、邦題が興味をそぎ、公開から2年後の今まで見なかった。

 原題は「COPYING BEETHOVEN」。ベートーベンと作曲家をめざす女性の物語だ。彼女がベートーベンの楽譜の写譜師として作曲家のもとにやって来る。最後の交響曲「第九」の写譜だ。その初演に当たり作曲家自らが指揮台に立つわけだが、耳が不自由では指揮棒が振れない。

 そこで舞台上の楽団員に混じって彼女が座り、彼女の指揮を指揮台のベートーベンがコピーするという逆転した関係が原題には含ませてある。

 予告を見ていた限りではこれがクライマックスで映画は終わる、と思っていたのだがスタンディング・オベーションで初演の幕が下りても映画はまだまだ中盤、先があるのだ。

 作曲家になるということの意味、その奇跡のような才能を受け入れて創作に当たる人間の存在を目の当たりに見ることができる。才能に恵まれながらも、やがて歴史の中でその存在すら掻き消えてしまうヒロインの後姿が余韻を残す。

映画 「まぼろしの邪馬台国」

2008年11月20日 | 映画(マ行)

 良くも悪しくも吉永小百合の映画である。年齢のない女優だ。20年間に近い物語を63歳の彼女が何の違和感もなく演じるのだから。

 邪馬台国の場所を解明するミステリーとして作ることも出来ただろうが、労作を完成させるまでの夫婦二人の情愛に焦点を当てている。

 島原鉄道社主として観光重視、観光バスの発足などを企画するワンマン社長が竹中直人。すでに視力を失っているにもかかわらず、その精力的な行動力はすごい。

 半ば強制的な退任後、歴史に生涯をかける夫婦二人三脚の旅が始まる。調査地や発掘の現場は山道やだだっ広い野原のようなところが多く、せっかく九州が舞台なのに風光明媚な観光映画的要素は薄い。

 竹中はオーバーアクションが持ち味なので、そこからユーモアも生まれていることは確かだが、役所広司や渡辺謙がこの役をやったら、またまったく別の印象をもった作品になったであろう。

 脇役の窪塚洋介は現在「ICHI」も公開中だが良い役どころだ。

映画 「ブーリン家の姉妹」

2008年11月19日 | 映画(ハ行)

 宮廷を舞台にした重厚な歴史劇。ナタリーポートマンとスカーレット・ヨハンソン主演で、性格のまったく異なる2人の姉妹の愛憎が描かれる。

 イングランド王ヘンリー(エリック・バナ)の寵愛を得るための駆け引きは極めて現代的だし、主役姉妹2人もコスチュームをまとった現代劇のようで生き生きしている。

 「1000日のアン」という1969年の作品も同じ題材を扱っているが、こちらは純愛モノで断頭台に消えるアン・ブーリンの悲劇を描いていた。
 かわって、本作ではナタリー・ポートマンのアンがかなり積極的で、あの手この手の策略で王の愛を手に入れている。歴史の中で勢力を得ようとしたブーリン家の政略の道具になった姉妹とその行く末が描かれる。

 断頭台に消えるアンは剣で、弟は斧で斬首される。男女でその差があったのか、あるいは何を使うか執行人の得手、不得手があったのか。
 いずれにしろ大勢の人がそれを見ている。昔の人は、ちょっとした事件で心理的影響を心配する現代とは比べ物にならない、強い精神力を持っていたと見える。

 本作ではアンが姉、メアリーが妹だが、逆に描かれている場合もある。英語圏ではあまりその区別をせずにsister、brotherを使っている事が多い。

映画 「その木戸を通って」

2008年11月18日 | 映画(サ行)
 故・市川崑監督の旧作にして劇場初公開作品。なぜ15年もの間公開されなかったのかが不思議なくらいの名作である。

 お部屋番と呼ばれるお城の経理事務職などに従事している下級武士の話だ。したがって刀は持っているものの殺陣シーンはない。お家のっとりや悪徳家老が出てくるわけでもない。中井喜一演じる主人公の嫁とりにまつわる顛末が描かれる。

 それが一種の怪奇・幻想譚のような衣をまといつつ、下級武士の使用人一家との日々の哀歓がユーモアの気配に彩られて、巨匠円熟の味わいを醸し出している。

 ハイビジョン撮影された作品をフィルムに焼き直しての上映だが、映像は隅々まで美しく、開幕シーンの、まるで舞台劇のようにスポットライトが当てられた庭の木立からズームバックして、舞台となる武家の屋敷がワンカットでとらえられ、一気に物語世界に引き込まれる。

 ストーリーは人間界と交わった異界の女性がまた去っていく「雪女」や「鶴の恩返し」のような趣向だ。かつて市川崑は吉永小百合主演の「つる-鶴- (1988)」を撮っている。

映画 「ICHI」 ~ 綾瀬はるかの女・座頭市

2008年11月12日 | 映画(ア行)

 子母沢寛原作の「座頭市」、勝新太郎版が本家とすれば北野武版、今回の綾瀬はるか版と分家も頑張っている。

 単なるアイドル主演作を上回る期待以上の娯楽作になっている。ワーナー配給で国外市場も視野に入れているらしい。「洋楽」の美しい旋律も違和感なく物語を盛り上げる。敵役・万鬼一党の衣装がいわゆる「かぶきもの」のそれで異彩を放ち、戦いシーンでの敵味方も分かりやすい。

 曽利文彦監督作品。「ピンポン」組の窪塚洋介、中村獅童も準主役で登場、あくの強さを見せる。

 女性の「市」は篠田正浩監督の「はなれ瞽女おりん」+「座頭市」を思わせる造形である。

 溜めに溜めたものが一気に解き放たれるカタルシスは娯楽映画の定石で、その見本のような作品だ。ただ「剣が抜けない」大沢たかおがちょっとオーバー過ぎやしないかという意見はあるかもしれない。

 ラストは西部劇「シェーン」の風情。

映画 「ゾンビーノ」

2008年11月11日 | 映画(サ行)

 50年代のアメリカンホーム・ドラマ+ゾンビの異色コメディ。思わぬ拾い物で面白かった。

 脅威のゾンビを去勢する装置を開発した企業が、ペット化(奴隷化?)したゾンビを各家庭用に売り出している社会。しかし囲われた世界の外にはペット化以前の凶暴なゾンビの世界が広がっている。

 いじめられっ子の少年の家庭にペットとしてゾンビが買われて来る。我が家だけにゾンビがいない体裁を気にした母親が購入したのだ。父親はかつて、ゾンビ化した自分の父を殺してしまったトラウマからゾンビ嫌い。

 隣近所も変におかしな屈折した住民だらけの、ブラックな笑いに満ちた設定。

 次第に家族と情を通わせるゾンビの哀愁に満ちた表情が切ない(笑)。あなたがそうなる前に出会いたかったと告白する母親役がなんと「マトリックス」のキャリー・アン・モスなのも笑える。

 カナダ映画。ゾンビ映画の傑作ではないだろうか。

映画 「たみおのしあわせ」

2008年11月10日 | 映画(タ行)

 予測不能の展開、というのはこういうホノボノ系映画には無いと思っていた。

 配役は豪華。オダギリジョーと原田芳雄の父子に小林薫の叔父。麻生久美子、大竹しのぶの主役系女優陣+石田えり、冨士眞奈美、携帯電話魔の変な男に忌野清志郎と賑やかでユニークでおかしな面々。

 奥手の息子の恋愛話かと思っていたら突然の江戸川乱歩系の怪奇風味が押し入ってくる。不倫話風の味付けを乗り越えてようやく挙式、と思ったら突然の「卒業」。男同士の式場脱走がラストの幻想シーンに突入して幕。

 劇場に明かりが灯ってようやく、これは細部のリアリティの可笑しさを追求した現実的映画の範疇にある作品ではなかったのだと気付く。その奇妙なファンタジーを楽しめれば面白い日本映画が誕生したと言えるだろう。

オバマ大統領誕生

2008年11月06日 | 政治
 アメリカ史上初の黒人大統領が誕生した。白人男性がすべてのスタンダードであることを誰も疑わなかった時代がかつてあったわけだが、ようやくの感である。

 民主党内の代表を選ぶ時点ですでに黒人か女性かという、どちらのマイナーが選ばれるかの戦いになっていたわけだから、オバマ氏が「CHANGE」をスローガンにしたごとく、変革の波は確実なのだ。

 フィクションの世界ではどうか?

 テレビドラマ「24 -TWENTY FOUR-」シーズン1では2002年3月、カリフォルニア州大統領予備選挙戦当日の24時間が描かれるが、デニス・ヘイスバート演じるデイビッド・パーマーが合衆国初の黒人大統領候補者として脚光を集めている。
 シーズン1から1年半後のある1日が物語の舞台となるシーズン2ではすでに合衆国初の黒人大統領になっており、1期4年をつとめる。またシーズン6ではその弟ウェイン・パーマーが兄の遺志を継ぎ、すでに2人目のアメリカ合衆国黒人大統領が誕生している。

 映画の世界では黒人俳優モーガン・フリーマンが「ディープ・インパクト」で大統領役を演じたのが1998年である。

 ようやく現実の方が追いついてきた。

映画 「イントゥ・ザ・ワイルド」

2008年11月05日 | 映画(ア行)

 アラスカの荒野を目指した青年の話。その土地から手に入るものだけで生きようという、文明に背を向けた生き方を青年は選ぶ。

 学歴も十分な知的な若者がなぜそのような選択をしたのか?
 残された家族はどう対応したのか?
 消息を絶った後、青年は誰と接触しどのように生きたのか?

 これらをじっくりと見せてくれる。これまでの生活を捨てて放浪の旅に出る経緯と、いよいよアラスカの荒野に分け入ってからの日々とが交互に描かれていく。

 アラスカの日々は偶然発見した廃バスをねぐらにすることになる。文明の残り滓だ。ラストは、あらゆる文明を捨てたのではなかったのか、という自然からの報復なのだろうか? Wild Trap(自然の仕掛けた罠)にかかったと主人公は言っている。

 一人の人間の考え方と生き方をここまで見せてくれた映画は、おそらく初めてではないかと思う。幸福とは何か、その最後の最後に悟ることとなる。人生を真正面から語った重量級の作品だ。

 ショーン・ペンの監督としての力量は素晴らしい。主演のエミール・ハーシュは少し前のディカプリオを思わせる顔立ち、「スピード・レーサー」にも主演していた。旅の途上で出会う人々もそれぞれ心に残る。