SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「マイレージ、マイライフ」

2010年03月30日 | 映画(マ行)

 ジョージ・クルーニー主演のアカデミー賞ノミネート作品。

 人物造形が素晴らしく決まっている。現代人の特徴的なあり方を象徴する主役3人がいずれもアカデミー賞候補となったのもうなずける。それを書き込んだ脚本も含めて。

 人と人との関係が疎ましく、それを希薄化した環境に身を置いているつもりの主人公が、逆に人間関係の大切さを説く立場となり、自身もそれを悟るに至るヒューマンな物語だ。

 孤独で幸福、はありえないということがしみじみ伝わってくる。

 原題「UP IN THE AIR」のとおり、空撮の地上景観が多く挿入される。人間の営みを静かに見つめる神の視点のようでもある。

映画 「シャーロック・ホームズ」

2010年03月29日 | 映画(サ行)
 古典的探偵がまったく新しい命を与えられた。ホームズもワトソンも現代的な人物像が魅力的だ。2人の関係もこれまでのイメージを一新した対等なパートナーといえる。

 ホームズの知性があらゆる面でいかに生かされていたかを映像で見せてくれる。
 決闘では相手を分析した上で、どう技を繰り出せばどう反応するか、をシミュレーションした上でそれを忠実に再現する、というのが彼の戦い方だ。
 ほんの一瞬の脳内のひらめきだろうが、思わず納得してしまう。

 テンポが速いので乗り遅れないように必死で付いて行ったが、面白かった。最近のファンタジーものに多いダークな色調の映画だ。19世紀末ロンドンの時代色には良く似合う。

 ただ、音響がものすごい。馬車の走る効果音だろうが劇中音楽だろうが大音響で鳴り響く。ボリュームを落とせないかと本気で思った映画はこれが初めてだ。

 サウンドトラックの音量は劇場では調整できないようになっているのだろうか?

映画 「ハート・ロッカー」

2010年03月26日 | 映画(ハ行)

 アカデミー作品賞受賞作。

 キャスリン・ビグロー監督作品はジャミー・リー・カーティス主演の「ブルー・スティール」からのお付合いで、これも骨太のアクション映画だったが、女性警官を主人公にしたところにまだフェミニンが感じられた。

 今回は実に男臭い映画で、よくまあこの作品を監督できたと恐れ入った。硬質の、戦争に関わる精神のありかを掘り下げた作品に仕上がっている。

 イラクの爆発物処理班の話だ。防御服を着用しても安全が確保されるわけではないことが冒頭のエピソードで示される。その後任として主人公がやってくる。いつも死と隣り合うことがもたらす感覚麻痺の世界だ。

 しかし、興行性からいえば地味だ。「アバター」の比ではない。おそらく今回の受賞がなければ足を向けない層も多いだろう。

 そういう意味で、これを作品賞に選べる米アカデミーはたいしたものだと思う。

 「ハート」は心(heart)ではなく傷・苦痛(hurt)の方であり、タイトルは軍の隠語で「苦痛の極限地帯」「棺桶」の意味だそうだ。

映画「リミッツ・オブ・コントロール」

2010年03月16日 | 映画(ラ行、ワ行)

 殺し屋のような風采の男がミッションを受けて殺しを実行する、という物語なのだが、サスペンスではない。犯罪映画ですらないかもしれない。

 音楽で言えばマイケル・ナイマンのミニマル・ミュージックを映像で見せられているような感覚だ。単純な反復が繰り返され、ほとんど展開はない。が、同じ反復でも微妙に変化しながら徐々に展開している。
 
 殺し屋が太極拳のようなエクササイズをし、2杯のエスプレッソを注文する。そこにメッセンジャーが現れ、指示書と報酬の入ったマッチ箱をお互いに交換すると男は読み終えた指示書を飲み込んでしまう、という光景が場所と相手を変えながら延々と繰り返されるのだ。

 何かが起きそうで起きない。おかげで前に座っていた叔父さんは途中で眠りに落ちてしまった。なかなか豪華な配役も見られるのだが。

 他のジム・ジャームッシュ作品では「コーヒー&シガレッツ」が感覚的にもっとも近い。コーヒーとタバコを基本アイテムに人生の諸相を見せる、こちらはなかなか味わい深いオムニバス作品になっていた。

映画 「人間失格」

2010年03月12日 | 映画(ナ行)

 生田斗真・主演、荒戸源次郎・監督で映画化された太宰文学。

 津軽の旧家の若者が東京に出てくる話しかと思うと、実家は東京にあるようだし、空間的な設定が良く分からない。すべては、酒場で酩酊した老いた男の頭をよぎる回想と幻想であるかのようだ。

 主人公がひたすら堕ちていく話だが、どこまで落ちても美しい。「嫌われ松子」の堕ち方とはそこが違う。貫かれた美学は太宰のものなのか、監督のものなのか?

 ラストに幻想的な列車のシーンが用意されており、そこにすべての登場人物が乗り合わせている。主人公が関わる多くの女性は、まるでその車窓から見る景色のように、通り過ぎるだけの淡白な描写だ。

 女優陣が若手からベテランまで素晴らしい充実度で主役のデビューを支えている。

 冒頭の大木や線香花火や雪や花など、時折現れる心象風景が例えようもなく美しく撮られている。

 三島由紀夫の「春の雪」もこの監督で見たかったな、と思う。

映画 「(500)日のサマー」

2010年03月10日 | 映画(カ行)

 ボーイ・ミーツ・ガールのお話。ただし、ラブ・ストーリーではないと断ってあるし、冒頭ですでに男は女に対して暴言を吐いている。

 したがって結末の分かった男女の晴れたり曇ったりを、どういう話術で見せてくれるの、というところに興味は湧く。

 現在から過去の回想に入るのでもなく、時間を遡って逆回転させて行くわけでもなく、話は行ったり来たりする。そのためのタイムマシンのような役割を果たすのが画面上の日数カウンターだ。(1)から(500)でそれが示される。だから、のタイトルなのだ。

 日付カウントのバックに描かれたイラストが四季とともに二人の関係の「晴れたり曇ったり雨だったり」を見事に表現する。

 (500)まで来ると、またリセットされて(1)になる。そのとき季節はすでに秋になっているのだ。

 映画のようなハッピーエンドは現実にはそうあるもんじゃないよ、と教えてくれる映画だ。地味でどこにでもいそうな配役も好感が持てる一編。

第82回アカデミー賞 ~ アニメと実写の間

2010年03月09日 | 映画

 受賞式から一夜が明けた。

 作品賞、監督賞に輝いた「ハート・ロッカー」は日本では先週末に公開されたばかり。戦争映画だし、映画ファンでもなければ監督の名前は知らない、キャストもスター級はレイフ・ファインズ、ガイ・ピアースとやや地味。興行的には日本では未知数だが、受賞効果がじわじわと出てくるだろう。

 女性監督初、ハードな映画に似合わず本人は美人だ。しかもキャメロン監督の元妻でその「アバター」を破っての受賞、加えて事前の受賞活動によるスキャンダル、モデルとなった軍人からの批判など話題は豊富だ。

 とにかく世界的な大ヒット作「アバター」を上回る作品というわけだから、すでに「アバター」を見た人はそれだけでも見てみたい気分にはなるだろう。

 今回作品賞ノミネーションが10作に増えた。「カールじいさんの空飛ぶ家」は長編アニメーション賞を受賞しているが、作品賞の候補でもあった。
 日本アカデミー賞もアニメ部門を独立させ、圧倒的に強い宮崎アニメは本選で実写映画を脅かすことは無くなった。アメリカのアニメ事情はよく分からないが、ノミネーション枠拡大で結果的にアニメ作品も入った。

 「アバター」は実写「ハート・ロッカー」とアニメ「カールじいさんの空飛ぶ家」の中間領域にある作品だ。3作がともに作品賞候補になったことは象徴的だ。しかし、結果として実写が制した。「長編アニメーション」の定義が問われることになりそうだ。

映画 「渇き」

2010年03月08日 | 映画(カ行)

 韓国産のバンパイア映画だ。牙もなければ、十字架や銀の銃弾で倒せるのかどうかも分からないが、太陽に弱いところだけはヨーロッパ産バンパイアと共通だ。

 パク・チャヌク監督だから並みのバンパイア映画ではない。異様に高いテンションはジャンルの枠組みをも破壊し尽くす。時にコメディなのかとも思えてしまう。

 宗教映画のように始まり、ウィルスがらみのSFかと思わせたうえで、官能ラブストーリーを絡ませ、バンパイア・ホラーへ行き着く。まさに聖から俗まで、SからMまで、ホラーからコメディまで何でもありの凄まじいエネルギーだ。

 そこを面白いと思うか、その分裂気味に戸惑いを覚えるか、で評価は分かれるだろうが、異色のバンパイア・ムービーとしてカルトの道を歩むことだけは確かだ。

映画 「しあわせの隠れ場所」

2010年03月05日 | 映画(サ行)

 ある善意に満ちたアメリカの家族の物語。実話の映画化だ。

 家族崩壊劇ばかり見せられて、もうホームドラマは存在しないのかと思われたが、往年のアメリカン・ファミリーを髣髴とさせる、理想的な家族がまだ存在した。

 肝っ玉母さんをサンドラ・ブロックがいい感じで演じている。

 素性の知れない巨漢の黒人青年を同居させる、というだけで「アメリカの良識」は眉をひそめるが、この家族は、夫はもちろん娘も息子もまったく屈託が無い。お母さんがやると決めたことに家族は絶大な信頼を寄せているのだ。

 不幸な境遇ゆえに眠っていた才能が、思わぬ形で開花していく奇跡を観客も目にする。同時に、そうした幸運にめぐり会うことなく散っていった他の青春にもキチンと眼を向けている。

 アカデミー賞作品賞と主演女優賞のノミネートだが、開票結果が待たれる。

映画 「過速スキャンダル」

2010年03月04日 | 映画(カ行)

 韓国の泣けるコメディ。

 親子三代の物語だが、それぞれが10代で出来た子供なので兄弟でも通用する若さだ。

 人気下降気味の元歌手DJに突然降って沸いたような悲劇?娘とその子供(孫)が押しかける。

 芸能界を舞台にした現代性、それぞれ持っている意外な才能が開花するサクセスストーリー、親子の愛、と過不足ない味付けで文句なく楽しめる。

 可愛げのなかった娘も孫も、主人公の心が開くにつれて見る見る魅力満開になっていく。親しみの持てる配役だ。

 主演チャ・テヒョンは「猟奇的な彼女」が大ヒットしたので、同じ路線のタイトルが付いている。そのタイトルに惹かれる人も、逆の人もいるだろう。

 作品は過激というよりはホノボノ路線だ。