SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「百万円と苦虫女」

2008年12月26日 | 映画(ハ行)

 蒼井優主演のロードムービー、と聞けば旅の映画かと思うが、目的のない、言わば煩わしさから逃れるための「移動」が描かれる。

 事情があって他人の荷物を捨てたことが一応刑事事件の範疇に入ることから、そうおおげさなものでもないだろうに、自ら「前科者」のレッテルを貼ってしまう。

 居づらくなった家を出ての生活が始まるが、「誰も自分を知らないところで職を得、百万円貯まったら他所へ行く」というルールを自分に課している。他者との関係がちょうど煩わしくなりかけるタイミングと百万円貯まる頃が、面白いことにリンクしてくる。

 最初、彼女と小学生の弟との関係が険悪なように見えるが、実は二人はとても良く似ており一体なのだ。映画全体がその二人の成長物語になっていることに気付く。外にいる彼女と弟をつなぐのは手紙によるコミュニケーションだ。

 ラストで、ねじれてしまった森山未來との恋愛が果たしてどういう結末を迎えるのか、余韻をもって観客の想像にゆだねられる。

映画 「同窓会」

2008年12月25日 | 映画(タ行)

 冒頭で「勘違いは 人生最高の悲劇であり 喜劇である」という格言?が字幕で披露される。

 そういう話だとインプットされるので、途中で、ああこれがその勘違いかと思いながら見ていると、とんでもない「勘違い」が出現してビックリ仰天。最初の勘違いはその後どんどんシリアスに進み、号泣寸前で、やっぱり勘違いだったとわかって誠にハッピーなエンディング。

 劇団主宰、TV脚本の経験を積んできたサタケミキオの、第1回監督作品だというが素晴らしい才能だ。

 回想の高校時代は胸キュンだし、島原の町は魅力的だし、コテコテの九州弁も面白い。永作博美の笑顔満開でうれしくなる映画だ。

「まぼろしの邪馬台国」と合わせて島原ご当地映画が並んだ。

映画 「天国はまだ遠く」

2008年12月19日 | 映画(タ行)

 自殺を決意した若い女性が再び人生を歩み始まるまでの癒し系作品。

 睡眠薬をあれだけ大量に飲んで、丸一日半ぐっすり眠ることが出来ただけというある種特異な、というかラッキーな体質であったがゆえにそこからドラマがスタートする。

 主演は加藤ローサと徳井義実。黙って画面に映っているだけで絵になる美しさだ。むしろ台詞をしゃべらない方が良いくらいだ。

 日本三景の一つ天橋立の景観を初めて見ることが出来た。山里の素朴な暮らしも、すぐ隣には利便性に満たされた町の生活がある。

 その自然に包まれた環境での中で徐々に心を癒されていくヒロインの物語だが、癒すものは癒される、という一方的でない相互の関係になっていることに気付かされる。

 そうなるといいな、と観客が想像する安易なハッピーエンドは用意されない。映画は終わるが彼女の人生は再び時を刻み始めたわけで、まだここから先のストーリーがあるのだから。 

映画 「252 生存者あり」 ~ フジテレビをぶっ壊せ

2008年12月17日 | 映画(ナ行)

 伊藤英明の陸上版「海猿」という趣だが、本人はある事情からレスキュー任務を封印している、という設定。

 スペクタクルは冒頭の台風による高潮(というか、まるで津波)が新橋・汐留地区に押し寄せるシーンのみ。日テレの製作だからか、お台場のフジテレビ社屋は見事に破壊されてしまう。
 地下鉄銀座線のトンネルが巨大な水路と化し、多くの人が飲み込まれるのだが、なぜか伊藤英明家の3人だけは全員生存者がわにいる。

 水が引いて地下に取り残された生存者を、近づく台風の脅威と戦いながら救出するというのが主筋だが、肝心の台風の猛威らしきものが伝わってこない。そのためか静と動のバランスが悪く、全体に緊迫感が無い。静かな地下空間での生存者のやり取り、特に山田孝之の悪態ぶりは見ていて腹が立つ。

 台風の目に入る18分が救出のチャンスで、もうちょっとテキパキすれば良いものを、助ける側と助けられる側の兄弟が現場で出会ってのんびりと話なんかし出すものだから、またまたピンチに陥ってしまう。

 ラストは伊藤英明の奇跡の生還だが、手負いのレスキュー隊員を背負っての生還シーンを他の隊員たちは黙って見てないで助けてやれよ、と言いたくなる。

 スタッフもキャストも誰もそんなこと気にならなかったのか?日テレ開局55周年記念大作としてはいかにもお粗末だ。

 だいたい正月から災害映画を見て憂鬱な気分になりたいか?

映画 「D-WARS ディー・ウォーズ」

2008年12月12日 | 映画(タ行)

 東洋的な神話ストーリーが現代アメリカの近代都市で展開する。

 「300」+「ジュラシック・パーク」あるいはLAの「ロード・オブ・ザ・リング」とでもいった味わいだ。

 ストーリーの甘さについて、まあ神話なんですから・・・で厳しいことを言わなければ怪獣の都市破壊の凄まじさは中々の見ものだ。

 500年に一度出現するドラゴン・ストーリーで、現代ロサンゼルスの500年前の話が韓国を舞台に解説的に語られる。主人公達はその輪廻転生で、同じ運命を背負って再び500年後のアメリカに生を受けたことになる。

 あまり硬いことを言わずに怪獣軍団を楽しめる人にはもうけものの作品だ。何と韓国映画なのだ。ラストにはアリランの曲が流れる。

映画 「ブラインドネス」

2008年12月10日 | 映画(ハ行)

 価値観が崩壊した混沌の中でいかにして支配と被支配の関係が出現するかを描いた寓意的な作品。

 同じようなテイストの作品をあげると「蝿の王」「es エス」などがある。前者は南海の孤島への漂着によって、後者は実験のため刑務所内への拘束という手段によって隔離された集団が作り出される。

 本作の場合は、原因不明で突然失明するという事態に見舞われた人たちが感染を恐れた権力によって病院に隔離される。

 その中に一人異常のない人間が自らの意思で紛れ込んでいるところからドラマが発展する。さらに健康であったはずの外部もいつのまにか感染しており、内外の境界が消滅して舞台が一挙に拡がる。

 冒頭は信号のアップで始まる。カットごとにカメラが引いていきそれが信号であることが分かるのだが。
 道を整然と走り、また止まる車の秩序正しい動きはこの信号が支配している。そのシステムが崩壊したら・・・という「秩序なき世界」に希望はあるのか、を見せてくれる作品である。

映画 「秋深き」

2008年12月08日 | 映画(ア行)

 しみじみとした夫婦愛を八嶋智人+佐藤江梨子の顔合わせで綴る。境遇の差から来る嫉妬や疑惑、その裏側にある純情と純愛がテーマ・・・のはずだ。

 面白くなりそうな題材、キャスティングながら不発感が残った。書き込み不足感があって、人物像がクッキリしないし、エピソードもメリハリの効いた面白さが無い。

 佐藤江梨子の出番が少ないし、主役二人のシーンが単調である。唯一、佐藤浩一のみが光っているのだが、この作品で彼が光ってもどうなのかな、という印象が拭えない。
闖入者・赤井英和の役も面白くなる手前で止まってしまった。

 と、いかにも見なければ良かった風な記述だが、ふんわりと温かい、名残惜しいような秋の日差しを感じさせる小品である。

映画 「1408号室」

2008年12月04日 | 映画(サ行)

 スティーブン・キング原作のホラー作品。ジョン・キューザックが心霊スポット探訪記を得意とする作家役でほとんど一人舞台の主演。


 舞台は繁盛しているニューヨークのホテルのある一室。これまでに「邪悪な家」は映画になっているが、この場合、周囲はまったく普通のホテルでその中の限定された「邪悪な部屋」の話になっている。

 主人公は、1408号室に入るな!と一言書かれたハガキを受け取って興味を抱くが、誰がそれを書いたのか、またどういう理由でその部屋がそうなったのか何の説明も無い。

 サミュエル・L・ジャクソンが支配人役で、さすがの重厚な存在感を示すものの、ひたすら宿泊を拒否するのみで、何か重要な関わりがありそうでいながら最後までそれも描かれてはいない。

 部屋は結局、人の心の闇を暴き、精神の均衡を破ってくるらしいのだが、映画はその異常な精神を持ち始めた主人公の視点で描かれるので、時間の感覚も、空間の感覚も、意識も混濁してリアルなストーリーというよりは悪夢のような感覚を再現している。
 したがって冒頭に海で溺れかけた主人公の夢であったかのように思わせながら、それが覚めてもまだ部屋の仕掛けたトラップから抜け出てはいない。複雑な迷路の中の出口のない悪夢のようだ。

 ではすべては混濁した意識の中の妄想だったのかというと、そうではなかったことが分かるラストが怖い。

 テイストは「シャイニング」に近いかも知れない。

映画 「あかね空」

2008年12月01日 | 映画(ア行)

 山本一力による直木賞受賞作の人情劇。江戸深川を舞台にした豆腐職人の物語を内野聖陽と中谷美紀主演で綴る。

 冒頭に子供が行方知れずになってしまう夫婦のエピソードが描かれるので、この子が長じて親と子がどういう形でめぐり会うか、が描かれるという期待が観客の頭の中には出来上がってしまう。

 そこをどうはずしていくかが物語のテクニックで、その心地良い騙しが本作の核となる。内野聖陽の二役が効いており、そのうちの一人がもちろん主役なのだが、もう一方を主役に描いた作品ができるとユニークなサイドストーリーものになるだろう。