SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ばかもの」

2010年12月22日 | 映画(ハ行)
 内田有紀と成宮寛貴が主演のラブストーリー。が、甘さは微塵もなくむしろ痛々しいくらいの不器用な愛だ。

 しかし、たどり着いた先は穏やかな幸福感に満たされる。

 今年が終わる頃になって、また邦画の秀作が出てきた。金子修介監督の代表作に数えられる一本になるだろう。芥川賞作家・絲山秋子の同名小説が原作。

 10年間の物語だが、ある決定的なこと以外には登場人物に歳は感じられない。途中で挿入される時事画像と川柳が時の流れを説明する。

 偶然出会ってイキナリの関係に陥り、その後、紆余曲折があって再び出会う、というパターンだが、相手をダメにしたという心の傷が再びお互いを引き寄せることになる。

 視点は成宮の側にあるので、途中、内田は姿を消す。その間の堕ちて行き方がまことにリアルに描かれるる。

 再会後、内田が不自由になった体で料理を作るシーンには驚いてしまった。今までどんな映画でも描かれたことのない部分を見せてもらった。

映画 「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1」

2010年12月17日 | 映画(ハ行)

 いよいよの「ハリー・ポッター」シリーズ、最終章の公開。前後編の前編にあたる。

 一挙公開5時間の大作では興業上もリスクが大きい。したがっての単独公開である。最終章は3Dと言われていたが、それもできなかった。(後編は可能性大)

 なかなか難しい位置づけだ。単なる2部作ならその前編で通るが、全7章の最終章前編なのだ。

 観に行くからといって、これまでの6作を復習して臨む人がどれだけいるだろうか。熱烈な原作ファンならともかく、一応見たもののすでに6作は霧の彼方だ。二部構成だから山場は全て後編、前編は単なる導入部、で終わらせるわけにも行かない。

 しかし、心配は無用であった。全く初めてではどうかとも思うが、過去作に親しんだ人は鮮明な記憶がなくても十分に楽しめる。後編への期待を抱かせつつ、見所満載で楽しませてくれる脚本、監督の手腕はさすがだ。

 しかし、全編を彩るあのダークな色調はどうだろう?並の芸術映画以上のアート感覚だ。

 これから観る人のために一言だけアドバイスするとすれば、「分霊箱」がいかなるものかくらいは知っておいた方が良いだろう。(全く忘れていても途中で分かっては来るが・・・。)

映画 「白いリボン」

2010年12月15日 | 映画(サ行)

 オーソドックスなモノクロ画面で、ドラマはあくまで静かに進行する。

 舞台は第一次大戦前のドイツの小さな村。悪意に満ちた不可解な大事件が次々に起こり始めるが、引いたカメラは客観的で、饒舌にならない。

 ある村で教師をやっていた若者の回想として事件を推理する語り口であるが、犯人が明らかになるわけではなく、起こった事実以外には何も明かされない。

 地主である男爵家といくつかの家族の、家族内の秘密が描かれる部分があるが、それが事件とどう関わるのかは観客の想像に任される。

 それらは若者の知りえない部分であるはずなのに、全体が回想というオブラートで包まれ、曖昧さは回想の霧の向こう側にあるからと錯覚させる知的な構成になっている。

映画 「桜田門外の変」

2010年12月09日 | 映画(サ行)

 日本の行く末を案じて井伊直弼暗殺を企てた水戸藩士たちがどういう結末を迎えたか、ハシゴをはずされて行き場を失った一人一人のその後が丁寧に描かれている。

 主な配役以外は個々のエピソードが乏しいために、名前を出されても、その人がどうなったといわれてもピンと来ない。途中で七名の藩士が評定を受けるシーンがあるが、名前を呼ばれて刑場へ連行されるまで、七回の繰り返しを延々と映している。長回しに意図があるとも思えず、芸のなさに退屈してしまう。

 冒頭に用意された暗殺シーンの、敵味方入り乱れての死闘は見応えがある。ただ、あの雪の降りしきる朝、隠れるでもなく大勢の侍がいるのを、井伊側の誰も不審に思わないものだろうか?事前に動きを知らせる書状が届いていたにもかかわらず・・・。

 街道沿いでもない皇居桜田門外のだだっ広い場所に茶店が一軒、雪にもかかわらず開いており、実行までの間、そこで藩士が時間をつぶしているのも不思議な光景だ。

 配役は豪華なのに、今年公開の時代劇の中ではやや見劣りする一本だった。

映画 「最後の忠臣蔵」

2010年12月03日 | 映画(サ行)

 忠臣蔵の後日談。討ち入り前夜に姿を消し義士を離脱した瀬尾孫左衛門の秘話が主筋となる。

 孫左自身が必死で隠そうとする離脱の理由が最大のミステリーであるわけだが、予告でもチラシでも、それは既知の情報として観客に与えられている。

 そんなに隠さないでも我々はもう知っているんだよ、という状況での鑑賞は観客にとって不幸ではないのか?と、映画のプロモーションに関して一言苦言は呈したいのだが、とても良く出来た映画で感心した。

 もっとも予告では、この先に本当の感動があると宣言されてはいる。

 メガホンを取ったのはテレビ「北の国から」の杉田成道監督で、手堅く揺ぎ無い。一画一画を疎かにせずきちんと描ききっている端正さが印象的だ。

 ヒロインを演じる桜庭ななみがとても美しく撮られており、役所広司、佐藤浩市のベテランの中で良く健闘したと思う。

 死のモチーフとして当時の流行もの人形浄瑠璃「曽根崎心中」がたびたび挿入される。心中と武士の忠義は多少イメージが違うのではないかと思ったが、実は赤穂浪士の吉良邸討ち入り(元禄15年12月14日)のわずか4ヵ月後に浄瑠璃の題材となったお初・徳兵衛の心中事件は起こっている。

 両者は当時世間をにぎわした2大事件であったのだ。

映画 「100歳の少年と12通の手紙」

2010年12月02日 | 映画(ハ行)

 悲しいファンタジーだが心が温かくなる。気遣いのあり方がテーマだ。

 難病の小児病棟が舞台となる。過酷な運命を子供たちは良く心得ている。周囲の気遣いも、だから良く分かっているのだが、それがうっとうしいのだ。

 少年が望んでいるのは、悪いことをしたらしかって欲しいということだ。両親ですら腫れ物に触るようにしか接してくれない。

 そこに現れた、事情を知らない自己中心のピザ屋のおばさんと少年の物語だ。

 けなげな少年も素晴らしいが、このピザ屋のローズおばさんの心情がなんともうれしい。自分をプロレスラーと紹介し、語って聞かせる数々の試合歴が物語のファンタジー性を彩って楽しい。

 医者役のマックス・フォン・シドーがフランス映画でフランス語をしゃべっているのにも驚いた。

映画 「クロッシング」

2010年12月01日 | 映画(カ行)

 リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルと豪華配役のポリス・ストーリー。3人が主役の3つのストーリーで構成される短編小説集の味わいだ。

 それぞれに、良く言えば重厚なタッチだが、ユーモアのかけらもなく息が詰まる。

 タイトルどおりの「交錯」を期待したが、オムニバス形式でまったく独立した3つの話にしてもそう印象は変わらないものになったと思う。同じ映画に出ているというだけで3人の競演らしい競演はない。

 3つのストーリーが、同じような時間に、同じ集合住宅周辺でそれぞれに決着をみる。優れた群像劇の思わずうなってしまう鮮やかな収束を経験していると、やや肩透かしを食う。各ストーリーもストレートで、捻りもなければ、いわゆるいい話でもない。

 刑事も辛い職業だな。