SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「帰ってきたヒトラー」

2016年07月26日 | 映画(カ行)
 公開後満席が続いているという話を聞いていた「帰ってきたヒトラー」を、ようやく鑑賞しました。本人がタイムスリップして現在のドイツに現れるという設定です。SFではないのでタイムスリップは単に話の背景を作るための道具立てにすぎません。
 周囲はソックリさんとしか見ておらず、それがいかにも本物のようにふるまうのを面白がって、テレビの人気者になってしまいます。明らかにコメディなのですが、昔のドイツでヒトラーがどのようにして受け入れられたのかが、よく分かります。彼は単に自分のビジョンと計画を示しただけで、大衆がそれを選択し、熱狂的に支持したにすぎません。どこにもモンスターはいなかった。選んだのも選ばれたのも普通の人で、それがある特殊な状況下で暴走することで出現してしまった世界の悲劇を、この映画は喜劇の体裁で語っています。
 その意味でまことに恐ろしい映画ではあります。未見の方はぜひご覧ください。選挙で誰を選ぶかはとても大事だと分かります。東京都知事選近し。

映画「渾身 KON-SHIN」

2012年12月18日 | 映画(カ行)

 しみじみとした家族愛と人間の絆が謳われた、すがすがしい作品。

 舞台は島根県隠岐の島。島に伝わる伝統相撲にかけた男の物語だが、それが女性の視点から描かれるので、汗臭さより爽やかさが香ってくる。

 子連れの再婚であるらしい男には、今まさに伝統相撲の取組の一番が迫っている、という幕開けである。

 そこに至るまでの過去と進行形の現在がカットバックで描かれる。結果が分かっている再婚までのじれったいまでの告白劇も好もしい。

 「ロッキー」張りの絶対勝てそうにない相手との取組も、どうなる?のミステリーで大いに引っ張ってくれる。

 「伝統」は、勝者が力を尽くして敗ぶれた者に対して見せる心の広さにある。そこで敵役には、憎々しげでありながらさすがに土俵に上がる者だけのことはある度量をバランスよく体現していることが求められる。主人公とのぶつかり合いは見ものである。

 負けたものが実は勝っていることがある、という日本の美徳を再認識できる。

映画 「桐島、部活やめるってよ」

2012年08月30日 | 映画(カ行)

 おいしいドーナツのような映画だ。タイトルロールの桐島は、そのドーナツの中心。主役は不在なのだ。彼をめぐる、その周りの友人たちが紡ぎ出す群像劇になっている。

 桐島が部活をやめる、というのは噂だ。その理由も、真偽も本当のところは誰も知らない。その話が拡げる波紋を描く形になっている。

 桐島に最も近いのが彼の親友とガールフレンドである。何でも知っている、分かりあっていると思っていたが、実は彼らすら何も知ってはいなかった、というところに現代の人間関係の希薄感が漂っている。

 関係性的には薄い映画部の友人たちの活動がもう一つの核になっており、彼らが撮ろうとしているゾンビ映画の撮影がクライマックスになっている。

 この夏、ヒーローもの洋画に負けない作品の一つになっているが、映画オタク、特にホラー・ファンは、さらに面白く見ることができるだろう。青春時代のある特別の熱気が見事に表現されている。

映画 「クリスマスのその夜に」

2011年12月19日 | 映画(カ行)

 北欧発の群像劇で、皆ハッピーになりましたというハリウッド流の陽気さはない。ジワッと来るしみじみ感の佳作だ。巧みな語り口で、ある町の聖夜の情景が綴られる。

 この作品に15歳以上の年齢制限が付いている。
 ある一つのエピソードの描写によるためだが、仮にそれがなくても、15歳未満の子供たちに、ドンパチのないこの静けさをしみじみと鑑賞できるかどうかは分からない。

 人生のあり方、命の連環が北欧の夜空に出現するオーロラで象徴され、すべてが浄化されていくようだ。ラストにクリスマスプレゼントのような、ちょっとした映像トリックが用意されている。

映画 「恋の罪」

2011年12月09日 | 映画(カ行)

 秋葉原のメイド喫茶が流行るのは非日常の世界を提供してくれるからだ。

 本作のヒロインは流行作家の妻で、日常世界がまるでメイド喫茶の世界なのだ。では、彼女は非日常の楽しみをどこに求めればよいのか?

 そこに登場するのがある大学の助教授をやっている女性で、彼女がヒロインの性の指南役をつとめることになる。舞台となるのは渋谷円山町のラブホテル街にある廃墟のアパートだ。

 全体の構成はこの廃墟で起こった猟奇的な殺人事件を推理するミステリーの体裁になっており、水野美紀扮する女性刑事が事件を追う。

 実際に起こった東電OL殺人事件にインスパイアーされた作品であるが、三面記事ネタが文学的に昇華され、3人の女性が自分の欲望を解放する過程で事件が起こる様が描かれる。

 非日常が日常の向こう側にあるのではなく、両者は地続きであることがラストシーンで象徴される。

 今、日本で最もパワフルに作品を作っている園子温の監督作品。今年は「冷たい熱帯魚」に続いて本作が公開され、さらに「ヒミズ」が控えている。いずれも圧倒なパワーで迫ってくる。その世界に浸ると、日常的な常識や良識の存在があやふやになってくる。 

映画「コクリコ坂から」

2011年08月03日 | 映画(カ行)

 少女が父親を待ち続けるモチーフにフランス短編アニメの秀作「岸辺の二人」を思い出した。

 本作の場合は少女が他へ思いを繋げることが出来た幸福感が溢れる。

 予告編でストーリーに関わる重大な秘密がすでに明かされてしまい、あんまりだとおもっていたらさらにその先が用意されており、心配は無用であった。

 東京オリンピック前の海辺の町(湘南?)を舞台に、ストレートで胸キュンの青春ストーリーが語られ大人には懐かしさがかきたてられる。

 学校が舞台になるので登場人物は多いが、基本的に顔の造作が同じで、メガネや髪型で識別することになるのだが、ヒロインは髪形を変えるので別人かと思ったらヒロインだったりする。

 冒頭で挿入歌がやたらと大きく響き出し、画面の絵より前面に出てきて違和感があったが、次第に音も馴染んでいった。

映画 「黄色い星の子供たち」

2011年08月02日 | 映画(カ行)

 ホロコーストをテーマにした秀作。

 舞台は1942年のパリだ。ナチスの脅威を逃れて周辺各国からフランスへ移り住んでいる外国籍のユダヤ人が多数いる。

 パリがナチスの制圧下にあったとはいえ、フランス本国内に強制収容所があり、フランス政府がユダヤ人廃絶のためナチスに加担していた事実を初めて知り、衝撃を受けた。むしろ子供は対象外にしようというナチス側に対して、残された子供の面倒を見きれないという理由で反対するのはフランス政府なのだ。

 しかし一方で、対象となる23,000人のうち約10,000人をかくまったのはパリ市民の勇気であった。

 メラニー・ロランが演じる収容所に派遣された赤十字看護婦の視点で描かれる。同じ収容者ながら現場で医療行為に携わる医師役のジャン・レノも素晴らしい。

 考えたとおりに進行していく物語を止める事ができないもどかしさを感じながら、子供たちの姿に自分の家族をダブらせると涙が出た。

映画 「キック・アス」

2011年01月19日 | 映画(カ行)

 脳天気なヒーローオタクのコメディかと思っていたらさにあらず。

 ハードなバイオレンス描写に驚いてしまった。何しろヒーローになりきってさあこれから活躍、という初の登場シーンでヒーローは腹を刺され、挙句に車に跳ね飛ばされてしまうのには参った。

 その過激な世界に自分から足を踏み入れてしまった青年の純情を影でハードに支える仲間が現れ、ヒーローチームとして機能する。

 過激パートはニコラス・ケイジの出番だが、小学生くらいの娘がそれに劣らず平然と殺戮を実行してしまって・・・、オイオイそれでいいのかよ、の世界だ。

 あの娘は年齢制限付きの自分の出演映画を完成形で見ることが出来るのだろうか?

 子供には勧められないが、大人には面白い作品だ。抜群に。

映画 「クロッシング」

2010年12月01日 | 映画(カ行)

 リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルと豪華配役のポリス・ストーリー。3人が主役の3つのストーリーで構成される短編小説集の味わいだ。

 それぞれに、良く言えば重厚なタッチだが、ユーモアのかけらもなく息が詰まる。

 タイトルどおりの「交錯」を期待したが、オムニバス形式でまったく独立した3つの話にしてもそう印象は変わらないものになったと思う。同じ映画に出ているというだけで3人の競演らしい競演はない。

 3つのストーリーが、同じような時間に、同じ集合住宅周辺でそれぞれに決着をみる。優れた群像劇の思わずうなってしまう鮮やかな収束を経験していると、やや肩透かしを食う。各ストーリーもストレートで、捻りもなければ、いわゆるいい話でもない。

 刑事も辛い職業だな。

映画 「黒く濁る村」

2010年11月29日 | 映画(カ行)

 韓国発のミステリー大作。2時間40分の長尺だ。

 音信のなかった父の訃報を受け、その死の謎を息子が探ろうとする。父親は人の心を惹く魅力的な人柄の影に闇を抱えているようなのだが、その造形が曖昧な印象なので見終わってもスッキリしない。

 理想的なコミュニティを作り上げ、村長として君臨する元刑事と、そこの教祖のように納まっていた父親の二頭体制で村は機能していたらしい。が、村は周囲と孤立しているわけでもなくアクセス可能で、普通に人も住んでいるようだ。いったいどういう村なのか、その実態がよく分からない。

 事件を解決に導く息子と、その天敵のような検事が、その進展の中でなんとなく友情を育んでいくエピソードの方にむしろ味があるように感じた。

 しかし、細かいことを気にしなければ長さを感じさせず、面白く見ることができる。現在の韓国映画の力量だ。