SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画「あるいは裏切りという名の犬」 ~ あまりにも洒落た・・・・

2007年01月31日 | 映画(ア行)
 あまりにも洒落たタイトルなので原題を直訳したものだろうと思っていたら、原題は「オルフェーブル河岸36番地」というパリ警察の住所である。

 その外壁の地番プレートがそのままタイトルになるけど、原題を知らない限り???だろう。さらにそれが何者かによってはがされ盗まれるオープニング。

 いわばパリ警視庁内部のライバル物語だが、それに犯罪が絡まりドロドロのかなり濃い物語展開となる。フランス映画お家芸のかつてのギャング物の香りはあるものの、ハリウッド化したド派手なドンパチと暴力が用意されている。音楽も情感たっぷりに謳い上げてくれる。(チョットやり過ぎ?)

 でも、面白い。ダニエル・オートゥイユとジェラール・ドパルデューという渋い配役だが、「ディパーテッド」とどっち?と言われたら、こっちかな。

 デ・ニーロ+クルーニーでリメイクするそうだが、これ以上どこをどうハリウッド化するの?

 原題の読みをそのままカタカナ・タイトルにしてしまう映画が多いが、何とかして欲しいものだ。
 英語圏以外の作品タイトルは意味がわからないので比較的邦題が別に用意されることが多いものの、「ル・ブレ」なんてフランス語を知らない限り意味不明の大傑作もあった。(「ディパーテッド」だって見るまで「死者」のことだなんて知りませんでしたけど。)

映画「ディパーテッド」 ~ 脱アイドルのレオ様

2007年01月30日 | 映画(タ行)
 香港映画「インファナルアフェア」のハリウッド・リメイク作品。

 「アビエイター」に続くマーティン・スコセッシ監督+レオナルド・ディカプリオのコンビ作。マット・デイモンはじめとする豪華共演陣に加え、制作にはブラッド・ピットも名前を連ねている。

 タイトル表示前のエピソードで本題に入る前の主役二人の状況説明が丁寧に描かれる。この部分が実に惚れ惚れするような出来栄え。これで間違いなくレオ様もアカデミー賞と思ったら、今年はまもなく公開される「ブラッド・ダイアモンド」の方でノミネートされている。

 もはやアイドルの域を脱した、実力派の演技を誇れる俳優といって良いだろう。

 リメイクとは言っても、あまり知られていないアイルランド系移民の差別問題をからめたり、マフィアのボスを演じるジャック・ニコルソンの圧倒的な存在感で香港作品とは違った味わいを出している。ハラハラ感は少し薄まったかなという感じ。

 ディカプリオの役どころは「アビエイター」のハワード・ヒューズ同様、神経症的で繊細な脆さを必死で現実に繋ぎとめているようなところを見せている。

 香港版は思わぬヒットで3部作となったが、そこまでのリメイクに付き合わず、スコセッシ監督には、別の境地を見せて欲しい。

映画「トランスアメリカ」 ~ ボカシなし

2007年01月26日 | 映画(タ行)
 性同一性障害の問題が真正面からとらえられ、心も容姿も女なのだけれど、体の一部だけがまだ男という主人公を女優フェリシティ・ハフマンが演じる。主人公に時々「男」の地の部分が出てくるのだが、女優が演じていると思うとその絶妙さに恐れ入る。

 劇中に昔ならボカシがかけられたに違いない場面がある。もしそこにボカシがあったら作品の肝にあたる最も重要な「部分」が欠ける事になる。日本において文化に対する理解が進んだことを感謝する。もっとも実際は女優だから本物ではないわけだが・・・・。

 血が繋がっているというだけでこんなにも寛容になれる家族の描写がなんとも温かく心地よい。

 タイトルの「トランス」はこの「父」と息子のアメリカ横断と「性転換」の意味をかけてあるが、同名の保険金融系企業があるようだ。

 現代アメリカの一断面がハートフルにスケッチされたロードムービーの傑作といえるだろう。

二宮和也 走る ~ 涙の「ペコちゃん焼」

2007年01月25日 | 日常生活・事件
 新春1月11日(木)からフジテレビ系で夜10時、待望の倉本ドラマ「拝啓、父上様」が始まった。

 「硫黄島からの手紙」の記憶も新しい「嵐」の二宮和也が今回は倉本聰の人情コメディに主演して、神楽坂を走り回っている。

 その舞台となる街を見にJR飯田橋駅から神楽坂に向かうと、まもなく右手に不二家がある。全国に800店舗近くあるといわれている不二家の中でも、ここ飯田橋の店舗だけ(日本でここだけ!!)で販売されているのが「ペコちゃん焼」だ。鯛焼きの外側がペコちゃんの顔になっている、と思えばよい。(中のあん、クリームは各種ある)

 しかし、ここも事件の余波で店を閉ざしている。表にお詫びのビラが置いてあったのでもらってきた。それによるとここはフランチャイズ店で、「ペコちゃん焼」は原材料の調達から製造販売まで、本社工場とは無縁に40年近く続けてきたものだとある。ここしかないのだから確かにそうだろうと納得できる。

 しかし、問題がないはずの「ペコちゃん焼」も販売を自粛せざるをえない状況になってきたのだ。神楽坂がせっかく注目を浴び始めたばかりに残念だ。

 ドラマにも出てくる毘沙門様にお参りして「ペコちゃん焼」再開を祈ることにしよう。

映画「ママが泣いた日」 ~ 不機嫌なママ

2007年01月25日 | 映画(マ行)
 ある誤解が原因で不機嫌になってしまったママ(ジョアン・アレン)の3年間の物語。したがってトーンとしては辛く、まったく楽しい話ではないのだ。

 その不機嫌に付き合わされる4人の娘たちはたまったものではない。彼女たちなりのささやかな反抗が日常スケッチ風に描かれる。

 その映画に大御所ケビン・コスナーが脇を固める。元大リーガーの選手、今地元ラジオ局のDJという役どころでママの家庭を温かく見守る隣人という設定。ジャック・ニコルソンやアル・パチーノなどの大物スターとは別の路線を歩んでいる感じだ。

 ・・・・とここまで書いてきても登場しない、ママの旦那はどうなっているんだというのがこの映画のキモに当たる。

 4姉妹が、(当然といえば当然ながら)まったく似ていないがそれぞれに美人で、「何か喪失感のある女たちだけのホームドラマ」を見せてくれる。

映画「薬指の標本」

2007年01月22日 | 映画(カ行)
 官能の気配が濃厚に漂う大人の映画。その「官能の気配」がただものではない。

 日本の作家・小川洋子の原作がフランスで映画化されている。ヒロインが住む港町のホテルの一室と勤務する標本室が主な舞台となり、それぞれの場所で男性との関係が生まれる。

 ホテルは同じ部屋を勤務時間帯の違う港湾作業員の男性とタイムシェアしており、気配を共有するものの顔を合わせることのない不思議な関係。

 標本室のほうはオーナーの男性がかつての女子寮を改造したもので、一部当時からの住人も住んでいるという不思議な場所。

 ヒロインは「通勤」しているので自由を拘束されたり、監禁されているという状況ではないのだが、けして脱いではいけないという美しい靴をオーナーからプレゼントされることで、次第に蜘蛛の巣に絡め取られたような虫のようにそこから離れられなくなってしまう。

 迷い込むようにしてやってきた木立の奥にある建物で、偶然、従業員募集の張り紙を見て雇われたのだが、どうもこれまでの女性たちも同じ様に・・・・?。

 彼女が「コレクター」の標本にされるのではないかという怪しい予感が霧のように立ち込める、まことに隠微な雰囲気の作品だが、舞台をフランスにしたことで、殺伐としたホラー系ミステリーに陥ることなく、港町の景観や色彩が文学的な香気を添えている。

映画「狩人と犬、最後の旅」

2007年01月18日 | 映画(カ行)
 一応ストーリーはあるものの、ほとんどドキュメンタリーと呼んでも良いくらい。

 「狩人」という、いまやマイナーな職業につく伝説的な実在の人物・ノーマン・ウィンターの日常を追って、ロッキーの壮大な景観と季節の移ろいが大画面に展開する。

 大規模な開発によって地球環境が変動する中で、狩人は優秀な種が保存され生態系が理想的に保たれるための番人のような存在なのだ。生態系の異常な部分が狩りの対象となり、それによって循環が保たれる。富のためではなく生活に必要なだけが狩られる。むしろ彼らの存在が生態系の一部になっているといって良いだろう。

 しかしいずれ老齢化は避けられず、では、そのあとを継ぐ人がいるのか?
 いなければそれは生態系の乱れにつながり、地球環境異変に拍車がかかることになるのだが・・・・。

 ネイティブ・アメリカンが町で商売を営み、白人の狩人が彼らに毛皮を売りに行く。どこかで何かがねじれた、奇妙な光景。

 「ココシリ」の激しさはないが同じテーマがここでは静かに語られる。

映画検定 ~ 1級合格

2007年01月17日 | 映画


 第2回の映画検定が昨年(2006)12月3日に実施され、合格通知が送付されてきた。  

 第1回は2~4級のみの実施、第2回では前回の2級合格者を対象として1級試験も実施された。これで全グレードの検定合格者が揃ったことになる。今回の1級受験対象者(前回の2級合格者)は最大460人である。

 難易度から言うと、前回の2級試験の方がどちらかといえば難しかったような気がする。今回の1級問題はまじめに予想問題集に取り組んでいればかなり素直に回答できるものだった。ありがたかったのだが、あまりに素直すぎ、という感じもした。

 もっとも問題集を発行しているところが試験も実施するのだから、勉強してもまったく役に立たないようではこちらが売れなくなってしまう。その辺が痛し痒しだろう。

 1級試験の特徴は記述式の問いが含まれることで、これは日本の監督や俳優を問われるとそれが漢字で正しく書けないことにはマイナスになってしまう。ただ極めてまっとうな知識を問うものだったのでマニア中のマニアしか知らないような難問、奇問は見当たらなかった。

 回を重ねるごとに出題のレパートリーも広がりをみせるだろうから1級に関する限り初回となる今回は落とすべからざる狙い目だったのだ。

 趣味で毎回受験し常に合格しつづければそれはそれで見事だが、一度合格証を手にすれば、私はそれで十分です。


 参考までに過去の記事から・・・・「1級受験必勝法」


映画「鉄コン筋クリート」

2007年01月16日 | 映画(タ行)
 原作は未読だったので、いきなり、ものすごい世界を見せられた気がする。

 レトロなのだが高層ビルも建っていて時代は不詳。ブレードランナー風かというともう少し泥臭く、空気は乾いている。大阪のようだがアジアン・テイストが濃いどこかの町=宝町。

 少なくとも「良い子」ではない二人の少年シロとクロ。身寄りのないホームレスなので、これが戦後の日本なら「ホタルの墓」のピカレスク(悪漢)版といった感じか。精神的に幼いシロをクロが保護しているように見えるが、お互いの足りないところを補い合っていることをシロ自身は自覚している。

 アニメとはいえ幼い子供には見せられない限りない暴力性をクロは秘めている。そのダークサイドからの強力な誘惑をかわし、かろうじて理性の岸に繋ぎとめているのがシロに対する「愛」のようなのだ。危機的な状況で二人の精神が共振し合いシンクロしているのが分かる。守っているつもりが守られている。

 南の澄んだ海と自由な飛翔こそが彼ら子供の居場所であり、大人たちが自分の都合で子供に与えるテーマパークなどではないのだ。

 外国人監督による全編日本語の作品ながら、「日本映画」であるところが「硫黄島からの手紙」とはちょっと違う。

 二宮和也、蒼井優の声がとても良い。

映画「キンキーブーツ」

2007年01月15日 | 映画(カ行)
 工場労働者を主人公に地味な感じの俳優陣がキャスティングされている、いかにも、な感じのイギリス映画。が、これがなかなか面白い。「ブラス」、「フルモンティ」、「リトル・ダンサー」などに連なる。

 中小の工場は大企業の二番煎じでは立ち行かない。むしろ大企業はけして手がけないニッチ(隙間)な部分に活路を見出していくべきだ、という現代マーケティング理論を、事実を元に映画化した、極めて経営学的な示唆に富んだ作品なのだ。

 そのニッチ商品がドラッグクイーンご着用の「キンキーブーツ」というわけだ。ド派手でキワ物的な印象から敬遠してはもったいない映画だ。
 随分ヒットしたようなので、逆にキワ物趣味で見に行った人も多いかもしれないのだが・・・・。

 もっとも手ごわいと思われた相手が実は最も頼れるなどの人生教訓、あわやというところでの形勢逆転など、脚本はそつなく書き込まれ、俳優のアンサンブルも見事、映画的な見せ場もきちんと踏まえた良質の楽しい作品になっている。