SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ポエトリー アグネスの詩」

2012年02月28日 | 映画(ハ行)

 韓国映画の秀作。

 楽しいこともない、どちらかというと重い日常が淡々と描写され、ハッピーなエンディングがあるわけでもないのに清清しい印象が残る。
 その理由はこの映画の語り口にあると思うのだが確信はない。

 ヒロインは中学生になる孫の男の子と二人暮らし。暮らしは楽とは言えず、ヘルパーの仕事をしている。物忘れも意識し始め、検査を勧められたりしている。そんな時に孫のグループがクラスメートの自殺事件に関わったことがわかり、示談に持ち込むためにヒロインも他の子供の父親に混じって奔走することとなる。

 これがストレートに描かれたら普通の映画だ。ところが、一方でヒロインはカルチャースクールの詩作教室に通い始める。修了までに一編の詩を書くという課題で、そこで自分の周囲の世界を改めて見る、その「視点」の映画でもあるのだ。

 老いた命と亡くなったクラスメートの命がいつの間にか重なり、死者の目で世界が捉えられたときの輝きで映画は語られていたことが分かる。ヒロインの作った詩の朗読とともに写されるラストの解釈は観客にゆだねられる。

 だからという訳ではなく、映画そのものが切なく美しい詩のようだ。

映画 「ヒミズ」

2012年02月10日 | 映画(ハ行)

 園子温監督の新作。

 主人公の彼女はある意味ではうっとうしいかも知れないが、その誠実な付きまとい方に主人公とともに観客も感謝したい気持ちになる。

 舞台は震災被災地に近い、ある水辺。主人公の家はその辺でボートハウスを営んでいる。とは言え、父も母も家を出て不在、という複雑な環境だ。震災で家をなくした人たちが吹き溜まりのように周囲に集まり、テント暮らしをしている。

 主人公とその彼女の肩には世界のあらゆる苦悩と悲惨がのしかかっているかのようだ。谷将太と二階堂ふみ、若い二人は健闘しており、ヴェネツィア映画祭の新人賞ダブル受賞は大いにうなずける。脇を園監督作品常連の不適な面々が固める。

 「うっとうしい彼女」のエールがズタズタになった主人公の精神を再生に向かわせる。そのエールは震災被災地へのエールのようにも聞こえてくる。

映画 「わが母の記」

2012年02月07日 | 映画(ラ行、ワ行)
 母が子を思う、その思いの深さに打たれた。

 作家・井上靖の自伝的作品からの映画化で、作家の家庭事情が豪華キャストで描かれる。作家の父親が死に、その後母親が他界するまでの10年余り、時代的には1960年代を中心にした「日本の家族」の物語である。

 映画の中の作家は強烈な個性の持ち主であり、それを寛容的に受け止める取り巻きは彼の妹たち、妻と三姉妹という布陣である。息子さんもおられた実際とは違うこの映画的変更は効いている。

 作劇の中心となるなる出来事は、「壊れた」と劇中でも表現される作家の母親の認知症である。介護が社会的制度化する以前、家族がそれとどう対処してきたか?きわめて現代的なテーマとして鑑賞することも可能だ。

 本作の母と息子の関係はやや屈折しており、それが物語全体の通奏低音として響いている。それは作家の生い立ち、幼少期に遡る出来事によるものだ。その事情は冒頭でコンパクトに提示されるが、井上靖の「しろばんば」を知っていればより深い味わいが増すことは確かだ。

 続編が制作される時、オリジナルの前日談に当たるビギニングが語られることが多くなってきた。
 本作にも登場する湯ヶ島、沼津は井上靖が幼少から中学時代までを過ごした地で、その時代の井上自身を主人公にした「しろばんば」「夏草冬濤」は1962年に「しろばんば」が映画化されたきりである。

 本作のクオリティで原田眞人監督次回作となれば、映画ファン、井上ファンとしてはこの上ない喜びとなるだろう。

 公開はゴールデンウィーク。しばし待たれよ!!