SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ザ・マジックアワー」

2008年07月29日 | 映画(サ行)

 三谷幸喜監督作品。第四作目にして最高の作品だと私は思います。

 書割のような、と言うかまさに映画のセットのような守加護(すかご)という町が舞台になっている。一応ギャング映画なのでシカゴを訛らせている。

 ボスのオフィスも、愛人が不倫を働くホテルも、その不倫相手の店も同じ街角で目と鼻の先にある。その狭い界隈で騙し合いが展開してバレナイはずないだろう、というリアリティ皆無さには目をつぶり、良質のコメディを大いに楽しんだ。

 舞台もそうだが映画も多くの裏方さんの職人的技術によって支えられており、その方達への監督のオマージュがしっかり描かれている。主要配役のみならずカメオ出演的な有名俳優の登場も楽しい。

 監督の映画愛が全開で、もうやめる訳にはいかないだろう。これからも舞台と映画の両輪態勢で観客を楽しませて欲しい。

映画 「アフタースクール」

2008年07月23日 | 映画(ア行)

 抜群の傑作「運命じゃない人」を監督した内田けんじの監督第2作。あまりに良くできた前作を超えるためのプレッシャーは相当なものであっただろうと想像できる。

 共に構成の妙に尽きる。観客が見ているものがいかに不確かであるかを突いてくる作劇だ。同じ絵でも無声で見るのと会話付きで見るのではまったく印象が異なってくる。

 大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人を軸に田畑智子、常盤貴子、伊武雅刀が絡む豪華キャストだ。ひたすら地味だった前作の出演者陣とは比較にならない。今回はとにかくこの配役を見て劇場に足を運んだ人も多いだろう。これもすべて第1作の好評が可能にした顔ぶれである。

 ただし筆さばきに関しては前作を超えられなかったという印象だ。前作はそう多くの人が見たとは思えないから、初めて内田作品を見る観客にはそれでも十分に面白く見ることはできるだろう。

 韓国映画「オールドボーイ」を見たとき、タイトルがOBのことだとは知らなかった。「卒業後」の物語は結構面白い話になるのだ。

映画 「休暇」

2008年07月22日 | 映画(カ行)
 「グリーンマイル」からサスペンスとエンターテインメント性を取り払ったような邦画作品。地味だが硬質な輝きがある。

 書道は「余白の美」でもあるが、この映画にはこれまでのどんな作品にもなかった長い「間」がある。下手な演出だと居たたまれなくなるのだが、この作品はこの「間」を描きたかったのだという事が分かる。

 死刑執行前と執行後の刑務官役・小林薫の「休暇」が平行して描かれる。重要なパートである西島秀俊の死刑囚は脚本のレベルで人物像に踏み込めていないため、行動の意味がよくつかめない不満が残る。

 それにしてもいったん死刑が宣告されると、その後の執行は本人はもちろん周りにも一切知らされず、ある日突然死刑台に連行されるのだということを初めて知った。心の準備も何もあったものではない。

 執行の前にはなぜか仏教ではなくキリスト教・教誨師の説教がある。2階の床が落ちて首が吊られるその床のしくみも、階下には支え役という役割の刑務官がいて落ちてくる死刑囚の末期のモガキを抱きとめることも、初めて得た知識だ。
 その「激務」ゆえに休暇が付与されることも・・・。

映画 [●REC]

2008年07月18日 | 映画(ラ行、ワ行)

 地元テレビ局の突撃レポート・ビデオを未編集のまま見せる趣向だ。というのは結局編集するに至らなかったからなのだが・・・。

 クルーと言ってもレポーターとカメラマンのみの小編成、彼らの遭遇する身の毛もよだつ惨劇が未編集ビデオのリアルさで増幅される。

 「消防署の一日」という感じの取材で、クルーはあるビルの救急事態に同行することになる。ホラー・ジャンルとしては感染系・ゾンビ系の話だ。

 普通の感染系は、ウィルスによって異常をきたした人間対正常な人間という構図になる。したがって「病人」はたとえば銃で撃たれると死んでしまう。本作も最初はそう思って見ていると、死んだ人間はゾンビ化して、死者として蘇ってしまうことがわかる。

 したがって政府保険機構によって封鎖されたビル内は、正常な生存者にとって脱出不可能、ただ襲撃の恐怖に怯えるのみしかない地獄図となる。

 ウィルス発生源となったビルの一室が偶然に見つかるが、そこが「羊たちの沈黙」のサイコキラーのアジトのような隠微な雰囲気で二重に怖い。

 夏になる前の小規模な公開であったが、下手なお化け屋敷よりはよほど怖い。それにしても、発端になる老女はどんな女優が演じているのだろう?よくオファーを受ける気になったなぁ。

映画 「イースタン・プロミス」

2008年07月16日 | 映画(ア行)
 今年のベストではないか、という作品にめぐり会ってしまった。デヴィッド・クローネンバーグ監督の作品。

 「異常な設定のホラーがかった作品」がクローネンバーグの持ち味だったが、前作の「ヒストリー・オブ・バイオレンス」あたりから変節がみられる。主演はどちらもヴィゴ・モーテンセン。

 ロシアン・マフィアが描かれており、「ゴッドファーザー」のような味わいの部分もあるが一族の興亡を描く大河風の作品ではない。

 見たところまったく善良なレストランの親父でしかないのに、その裏に秘められたマフィアのボスとしての本性の凄まじいこと。演じるアーミン・ミューラー=スタールとナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセルら充実した共演陣で濃密なドラマが進行する。

 妥協のないリアリティで目を背けたくなる細部までしっかり見せているところに、これまでのクローネンバーグの蓄積が感じられる。

映画 「奇跡のシンフォニー」

2008年07月11日 | 映画(カ行)
 フレディ・ハイモア少年の全開モードで綴られるファンタジー。

 一種の神童の物語が「母を訪ねて三千里」ふうに描かれる。唯一悪役的に描かれるロビン・ウィリアムスが登場すると、「オリバー・ツィスト」を思わせる展開になってくる。

 それでも、幸せに溢れるラストに向かって、3人の登場人物のそれぞれの物語が進行し、最後の一点で見事に交わる「奇跡」は爽やかでうれしくなる。

 音に対する感性がテーマになっているので、音楽はもちろん、それにシンクロしたビジュアルも見ものである。冒頭の麦畑を渡る風を視覚化したシーンなど見事なものだ。

 楽譜の書き方も知らないのに突然書けてしまう不思議も、11年を隔てて再会するケリー・ラッセルとジョナサン・リース・マイヤーズ がまったく年をとらずに、美しくカッコ良いのも、「それがファンタジーの良さなんだよ」で納得しておけば良いのかもしれない。

映画 「歩いても 歩いても」

2008年07月08日 | 映画(ア行)
 お盆に家族が集まる、その一日を描いた映画。サラリとした日常の中に、いつまでも澱のように心の中に残っていたわだかまりがフッと浮き上がってくる。

 樹木希林の存在なしにはありえない作品に仕上がっており、その台詞回しの絶妙さは他の女優では考えられない。毎回フジフィルムのコマーシャルで見せるコミカルさに情念の凄さが加わっている。

 タイトルは穏やかな老いの日々を表現しているようでもあるが、実は劇中に出てくる歌謡曲の一節から採られており、樹木希林の母親にとっては一種の怨み節なのである。夫と二人の生活の中でこっそりとレコードを聞きこのフレーズを口ずさんでいるのかと思うと鳥肌ものである。

 どこにでもいる家族の何も起こらない一日にもドラマが潜んでいることが良く分かる。是枝監督の観察眼、よく練られた台詞、隙のないカメラの構図、独特の空気感、どこをとっても見事に作りこまれている。

 ラストをどこで切るかは画家が筆を置くタイミングと同じだが、他人がバッサリやった方が良いこともある。

映画 「ミリキタニの猫」

2008年07月07日 | 映画(マ行)

 日系人ストリート・アーティストの数奇な運命を描いたドキュメンタリー。

 原則はないのだろうが撮る人と撮られる人が関わりを持つことをどう解釈するか?という問題が提起されているようでもある。

 不幸な現実を撮影した写真やフィルムを見て、「カメラマンはこの事実を平然とカメラに収めて平気なのだろうか?」「手を差し伸べようと言う気にはならないのだろうか?」と思うことがある。手を貸した瞬間、物事はあるがままではなくなってしまう。しかし、そのことがドキュメンタリーとしての「純度」を損なうのだろうか?

 この映画の場合はスタンスが違う。監督がホームレス状態のミリキタニを見かねて、自宅に住まわせてしまうのだから。それが彼の転機でもあり、止まっていた人生の歯車が再び回り始める。人が人をどう変えたか、そのことまで含めてのドキュメンタリーであり、変えた方の人がたまたま監督であったわけだ。

 アメリカの政策に翻弄された日系人の物語だが、人生悪いことばかりではないなと感じられる。

映画 「ダイブ!!」

2008年07月04日 | 映画(タ行)
 飛び込みに打ち込むスポ根ものの青春映画。「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」同様に主人公たちは実際に技を訓練、マスターした上で撮影に臨んでいる。

 練習したからといって果たしてモノになるかどうかは分からないのに、危険を伴う種目をちゃんとモノにしているところが役者魂の鏡のようだ。

 芝居の演技部分はともかくとして、飛び込み技術に関しては主役3人が本当によく頑張ったと思う。それだけにもったいない。映画としての完成度がWBやSGほど高くないのだ。

 主役を演じる林遣都の家庭のエピソードや家族の配役にまったく魅力が無い。高校生役の溝端淳平にいたってはまるで所帯を持っているような描き方で家族や学校はどうなっているのか分からない。

 それでもラストの選考会は見所としてじっくり見せるのだが、結果があんなに理想的に、まるで世界に飛び込みをやっているのはあの3人しかいないように決着してしまって良いのだろうか?

 原作ものを原作どおりに撮るのか、原作は原作・映画は映画にするのか、製作者には悩みどころなのだろう。

映画 「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」

2008年07月02日 | 映画(ア行)
 19年ぶりのシリーズ第4作。ハリソン・フォードを「ジュニア」と呼んだ父ショーン・コネリーの姿はもはやなく、今度はハリソンの方がジュニアと呼ぶシャイア・ラブーフとコンビを組んでいる。そろそろ代替わりしそうな予感である。

 第1作で、あれだけ苦労して手に入れた聖櫃が巨大な墓場のような収蔵庫に納められ、もう2度と日の目を見ることはないだろうと思わせたが、今回はそこからスタートする。続いて原子爆弾が出てくるがちょっと安易な使い方で、画面上のインパクトはあるものの必然性は皆無、またその破壊力に対する理解を疑ってしまう。

 今回は「未知との遭遇」がインディアナ・ワールドにも絡んできて、まさにスピルバーグの世界だ。ひたすらのジェットコースター・ムービーであっという間のエンドマークである。

 ウマミとコクは薄いがアミューズメント・パークのような娯楽としては一級だ。